3-1, 滅びの気配
〈一〉
猛火の
やがて浮かび上がる景色。はびこり蠢く
その地獄絵図の奥地へと、変わらぬ景色の中を突き進む。すると見えてくる。怪火にまみれて幽閉されし一体の影。
不動を貫いていた影が、にわかにそのをかっぴらき、嘆き声を響かせる――…。
〈二〉
アルマル宅横の草原。流れる汗もそのままに、アイデンに向っていくエクス。アルスが作った聖剣ハエタタキを肩からかけている。
殴打に
アイデンはそれらの動きをただ見つめ、流水の如く避ける。いなす。端から見ればエクスが遊ばれているよう。
跳び蹴りをかますエクス。
アイデンは受け止め、瞬く間にその勢いを利用してエクスを投げ飛ばす。
エクスは転倒するも、踏ん張って体勢を立て直す。
息を切らしながら、アイデンに狙いを定める。
エクスに対峙し、
エクスは再びアイデンに向っていく。
それをはじめとし、日々が移り変わっていく。
アルマル宅前で腕立て伏せをするエクス。歯を食いしばり、腕を振るわせて体をあげている。その横の花壇では、
小難しい表情のアルス。
すると、蕾が確かに微笑みだす。
表情が晴れ渡り、アイデンの方を見上げるアルス。
アルスの頭に手を添え、微笑み頷くアイデン。アイデンはエクスの方にも顔を向け、なにやら声をかける。
仰向けでへばっているエクスは、跳ね起きてランニングを開始する。
とにかく筋トレ。ハエタタキで素振り。アイデンと並び、構えの演練。エクスは己を鍛え上げる。
アイデンと共に台所に立ち、お料理練習中のアルス。大小様々に切り刻んだ食材を、首をかしげながら鍋に突っ込むアイデンを不安げに見上げる。
村の女の子達はアルスの手を引き、背中を押して、共に進む。
ちょっぴり驚いて、はにかむアルス。
村人達と立ち話をしていたアイデンは、その様子に気づき、アルスを見守る。
木剣や六尺棒を用いて、武器術の稽古をするエクスとアイデン。
棒術、槍術、剣術、回数を重ねるごとにエクスの所作が冴えていく。
稽古途中、アイデンは咳き込んで
本を展開するアルス。風がそよぎ、幾つかの木片が宙を舞う。
木片は、構えをとって静止するエクスの周囲を飛び交う。
寸胴状の丸太に腰掛け、その様子を見守るアイデン。どこか頬は
木片が一つ、方向を変え、エクスに向って加速する。
それを見向きもせずに討ち取るエクス。
続けて第二波、第三波と、木片がエクスにぶつかっていく。
エクスはそれらを的確に避け、防ぎつつ、一つまた一つと
地面に全ての木片が散らばる。
息を
目を
興奮気味にアイデンを見やるエクス。
アイデンの口角が高ぶる。
〈三〉
アルマル宅横の草原。鉄製のジョッキが四、五個かち合う。
木のテーブルの中心に置かれたランタンの灯が、テーブルを囲んで談笑する男達の
間隔を開けて無造作に並べられた、ランタン付きのテーブル席。各テーブルには大体三、四人が席を囲んでおり、それぞれテーブルに置かれた料理だのお菓子だの酒だのをたまに口に運んでは、話しに花を咲かせている。その中を縫うように走り回る子供も見える。中には、第一章より村の外から訪れた者達もおり、村の雰囲気に馴染んだその姿は他の村人達と遜色ない。
掘り返して草を取り除いた場所に
それを囲んで村の演奏隊が楽器を奏でている。更にその周りでは、旋律と歌にあわせ舞踊を披露したり、それを観覧したりする村人達。
……それとはまた別の場所で、一つのテーブルを中心に人が集まっている。若年層が多い。
エクス「くっぐぐぐ!!」
青年「んぬぁあああ!!」
エクスと、エクスよりも明かに年が上であろう青年が、テーブルの上で接戦の腕相撲を繰り広げている。踏ん張る両者の顔は紅潮し、組んだ腕は
エクス「ぐぐ、ぐ、がぁああああ!」
気合いを入れ直すエクス。
組んだ腕が傾きを見せる。エクス優勢だ。
場がどっと盛り上がる。その中にはパウロやハエタタキを持ったアルスの姿も。
青年「う、おおおお!」
気合いを入れ直す青年。体を自分優勢側へともっていく。しかし、エクスの優勢は変わらない。
パウロが手拍子を始める。まもなく周りもつられて、最後には全員が手拍子を打つ。
両者額に青筋が立ち、汗がにじみ出る。青年の手の甲は、牛歩ながらではあるがテーブル面に近づいていく。
青年「おお!?うっそだろおいいい!!」
エクスの勝ちまであともう一押し。
手拍子が早まり、場の熱気が高まる。
エクス「うぉぁらっ!!」
手の甲とテーブルの衝突音が響く。
歓声が湧く。
意気消沈する青年と一息つくエクス。周りには、エクスの勝利に興奮を隠せないギャラリーが大半と、青年を励ます人達が少数。
パウロ「お前やっべえな!」
エクスを称賛するパウロ。
青年「ち、ちくしょう…」
村男1「エクスの奴、魔法使い様にどんなしごかれ方されてんだ」
青年を励ましている側の村男1がそう言う。
そんな中、エクスは、浮かない顔で自分の手の平を見つめる。
パウロ「どうしたんだよ?」
エクス「…全力でやって、やっと勝てた」
パウロ「すげぇじゃん」
エクス「……」
パウロ「だから、どうしたんだよ?」
エクス「いや…もっと強くなんなきゃダメだなって」
パウロ「はあ!?」
パウロは呆れて笑う。
その
パウロ「お前、そんなに強くなってどうすんだよ?」
エクス「いや、わかんない…」
パウロ「??」
エクス「わかんないけど、」
握り拳を作るエクス。
エクス「いつか世界を見に行きたい…。その為には、多分もっと強くならなきゃダメな気がする」
パウロ「ふーん」
そんなエクスを、アルスは見つめる。
エクスは席を立つ。その背丈は聖剣を少し越すほどに成長している。
エクス「師匠。ありがとうございます」
アルス「あ、うん」
エクスは、アルスからハエタタキを返してもらう。
演奏隊が、軽快なメロディーを奏でだす。
はしゃぐ村娘達。
女の子「ヘルエッカだー!」
エクスらのテーブルから娘達が演奏隊の方に向っていく。
女の子「アルスちゃんも踊りに行こー?」
アルスの手を引く女の子。
アルス「え、でも、僕踊れない…」
女の子「教えてあげるー!」
子供女「簡単だよ!」
アルス「うぇ、あ、ちょ!」
女の子達に連行されていくアルス。
エクスはその姿を可笑しそうに見届ける。
「おおい!」
声の方に顔を向けるエクス。
村男2がやってくる。
村男2「カリオスさん告白するってよ!!」
青年「マジかよ!!ラウラに!?」
村男2「ラウラに!」
村男2を先頭に、賑わう方へと我先に向う青年達。
エクスやパウロは特にそれを追う様子もなく傍観する。
彼らが向う先では、一人の村娘と、花束を携えた剣士がギャラリーを集めている。熱っぽい雰囲気。
パウロ「まだまだだなぁカリオスさん」
エクス「そうなの?」
パウロ「プレゼントはでっっけえ猪肉が一番なんだぜ?とーちゃんはそれでかーちゃんと結婚できたって言ってたからな」
村男1「お前んちと一緒にすんな」
パウロ「はあ?なんでだよ!」
村男1「あんな?女ってのは基本的に花が好きな生き物なんだよ!お前の母ちゃんは特別!」
パウロ「ふーん…」
エクス「……」
パウロ「……」
村男1「……」
パウロ「ホイさんは行かないの?」
指さすパウロ。
村男1「…行かない」
エクス「なんで?」
村男1「……」
村男1は血涙を流す。
村男1「ずぎな女どられるとこなんざ見だがねえ」
そう言って賑わう方をガン見している。
パウロ「あ、そ、そう…」
花を捧げる剣士。村娘は頬を染めてそれを受け取り、周りからは祝福の声が上がる。
エクスはふと手に持ったハエタタキに目を向ける。
アルマル宅真横のテーブル席。テーブルに並べられた料理を小皿に移す女性の手。
小皿を隣に座るエクス父に渡すエクス母。
エクス母「魔法使い様、食後のお菓子でもいりますか?」
反対隣に腰掛けているアイデンに話しかける。
アイデン「いえ、結構です。この頃は特に、すぐお腹も満たされるもので」
答えるアイデン。頬はすっかり痩け、小皺が目立ち、その瞳はすっかり
エクス母「そうですか…」
表情に不安がよぎるエクス母。
アイデン「それよりもシフルさん、“魔法使い様”はもうおやめください」
エクス母「あ…」
と、口に手を添える。
エクス母「アハハ、ごめんなさい、なかなか取れなくて、息子がお世話になってると思うとなおさら…」
エクス父「しかしもう、随分経ちましたなあ…。日に日にたくましくなって家に帰ってくるもんだから…なんと言えばいいか…頼もしさってのを感じますよ。本当に、息子のわがままを聞いてくれてありがとうございます」
アイデンに会釈するエクス父。
アイデン「とんでもございません。私の方こそ、彼の成長は見ていて面白い」
エクス父「ならいいんですが…」
茶の入ったカップを口に運ぶアイデン。
エクス父「どうです?あいつ、結構やりますか?」
ふと手が止まるアイデン。
アイデン「…気になりますか?」
そう言った後に、茶を一口喉に通す。
エクス父「そりゃあもちろん」
アイデンはカップを戻し、一息間を置いて喋り出す。
アイデン「結構、なんてもんじゃありませんよ。めちゃくちゃです」
エクス父「めちゃくちゃ?」
アイデン「はい。純粋な力比べとなればともかく、こと闘技においては、もはやこの村で彼の右に出るものはいないでしょう」
きょとんとするエクス父。
エクス父「ハ…ハッハッハ!そいつぁ我が子ながら恐ろしいですなぁ!」
アイデンはその霞んだ瞳をエクス父に合わせる。
アイデン「ええ…」
表情は至極真面目に。
アイデン「まったくです」
それを見て、エクス父も何かを察する。
エクス父「…マジなんですかい?」
アイデンの口角が
村長「おお、アルマル殿!」
近くのテーブル席に座っていた村長が、演奏隊の方を指して、アイデンに声をかける。
村長「娘さんが踊っておられますぞ。ハハハ」
その方向を見るアイデン。瞼を閉じる。
その様子に気づくエクス母。
エクス母「?」
演奏隊の横で、たき火を囲んで踊る村娘達。
その中でアルスも、
アイデンは瞼を開ける。
アイデン「本当だ」
そう言って目を細くする。
村長は席を立ち、アイデンの元に近づく。
村長「アルマル殿…お体の調子はいかがですかな?」
アイデン「…今は安定していますよ」
頷く村長。
村長「どうか、ご無理はなさらず」
アイデン「ありがとうございます」
アルスの方を見つめるアイデン…
アイデン「村長殿、それにお二人も」
村長とエクスの両親はアイデンに顔を向ける。
村長「なんですかな?」
アイデン「一つ、お頼みしたいことが……」
踊りに慣れてくるアルス。笑顔を友達に向ける。
〈四〉
森林の終わり。獣の
結界に捕らわれ、電撃をくらっている怪物。そのまま地面に倒れ落ち、
それにたじろぎ、結界から距離を置く他の怪物達。
結界はフェードアウトし、再び視認できなくなる。
威嚇するのみの怪物達。
その背後の地面。地中から暗赤の怪火が
その地面に生えていた草花は、干からびて崩壊していく。
隆起した先端部分がうねり、そのまま大蛇の如く、結界のもとへと体を伸ばしていく「それ」。
「それ」に道を空ける怪物達。
結界が姿を現し、近づく「それ」を待ち構える。
「それ」が加速する。結界に衝突する。散る火花、電撃。
「それ」は文字通り身を削らされながらではあるが、結界に詰め寄っていく。
村の広場。祭壇の上に佇む聖剣が、その身から淡い光を放つ。
結界の電撃が激しさを増す。もろにくらい、押し返されていく「それ」。執拗に粘るも、体が電撃に破壊されていく。
傍観していた怪物達が、「それ」の体に飛びつく。怪物達は怪火となり、「それ」の内部へと吸収されていく。
拮抗しだす「それ」と結界。
強まる聖剣の光。
しかし、「それ」は再び結界に詰め寄りだす。
聖剣は光を弱めない。
電撃を浴びる中、「それ」の先端部分が裂け、口と呼べるものができる。
口から放たれた金切り声。結界の表面に、ごく僅か、亀裂が――
〈五〉
アイデン「――!」
アルマル宅真横のテーブル席。宴の最中。反応を示すアイデン。
アイデンは自身の席の後方、森林の方に顔を向ける。
黙ったままの木々達。
目を凝らすアイデン。森林の更に奥へと、視線を向ける。
アルス「何見てるの?」
我に返るアイデン。自分の横で、お肉を頬張りながら一緒に森林を見つめているアルス。
アイデン「いや…」
アイデンは視線を外す。
アイデン「なんでもないよ」
アルスの頭を撫でる。
〈六〉
森林の終わり。割れた窓ガラスのような、大穴の開いた結界。徐々にではあるが、自然修復を進めている。
結界の内側の地面。干からびきった草花が、風にそよがれ崩壊していく――…。