メルクストーリア 【動物の国another ~牛睡の冀望と偶想のおねえちゃん~】   作:ひょうたんふくろう

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 #メルストでコレが読みたい ……フィネットさんのエピソードを読みたいけれど運営さんもご多忙なようなので待ちきれず、自分で書くことにしました。イラストもファンアートも描けない自分ができる、ささやかなメルスト7周年お祝いであると当時に、動物の国、牛族の村のフィネットさんの進化応援も兼ねています。何卒どうぞ、フィネットさんの追加シナリオ、顔差分をよろしくお願いいたします……!

 全体的に可能な限り原作に近づけるようにしましたが、癒術師の皆さんはご存知の通り、フィネットさんは麗しの嫋やかな小悪魔故に無自覚で周囲を魅了してしまうキケンなオトナの魅力があるからか、7周年を経た今でも原作ではセリフは三つ、進化後のユニット説明のセリフを含めても131文字しかセリフがありません。「我々の心には、我々だけのフィネットさんがいる」ことを念頭に、少しでもお楽しみいただけますと幸いです。


牛族の村
第1話 回想:はじまりのまどろい


 ──この穏やかな木漏れ日を受けて、最近ふと、思うことがある。

 

 何かが少し、物足りない。

 

 今も、昔も、この心地よい微睡みは好きだ。起きているのに眠っている、この感じが好きだ。

 

 誰も知らないお花の咲いている場所や、あの子の隠したへそくりまで見つけられるような気分。夢みたいな空想が現実となって、怖いものも悲しいことも何もない、そんな幸せな微睡み。

 

 微睡んでいる私は、何をしているのだろう? 私の手をぎゅっと握っているこの子は笑っているのかな? このサラサラで柔らかい手触りの頭を、もっとずっと撫でていたい。ゆっくり上下するおなかと、とくとくと静かに伝わる心臓の鼓動……それが堪らなく愛おしい。

 

 夢でも、現実でもない。この微睡みが──私は好きだ。

 

 それなのに。

 

 どうして、いつのまにか──あの安心感が、消えてしまったのだろう。

 

 私は──この子たちと同じ寝顔をしているのだろうか。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

「ぐっ……!」

 

 山の麓の小道を進む行商隊。荷物がたくさん積まれた幌付きの馬車の荷台には、紫色のバンダナと赤色の貫頭衣が特徴的な少年が、窮屈そうに腰掛けていた。

 

 通行するには問題ないとはいえ、決して丁寧に整備されているとは言えない小道。好意的に捉えるならば、少年はそんなデコボコ道がもたらす振動を最小限に抑えるべく荷物を押さえている……ように見えるが、実際は自分が座るスペースを確保するために荷物を押し込んでいるだけに過ぎない。

 

「~♪」

 

「ご機嫌だな、メルク……!」

 

「みゅふふ。こんなにいい天気なのですもの。自然と鼻歌だって歌っちゃうのですよ!」

 

 少年は、自身の膝の間に挟んでいる瓶に向かって声をかける。透明な瓶──中には可愛い指輪がいくつも入っている──の中から上半身だけを出した彼女は、結果的にクッション代わりになってくれている少年を見上げ、にこりと笑った。

 

「そういうユウさんこそ、あんまりお顔が優れないのですよ?」

 

「見てわかるよねえ!? 俺、自分の居場所を確保するためにすっごい必死なんだよ!? すっごくプルプル震えてるの、伝わってるよねえ!?」

 

「ちょーっと荷物を押さえているだけなのに、大袈裟なのですよ……」

 

「ほかの人ならそうかもだけど、俺は癒術師なの! 癒術師にできるのは癒術であって、体は資本じゃないの!」

 

「……ユウさんの場合、それにしたって貧弱な……い、いえ! なんでもないのですよ」

 

「ごめん、本気で気遣われるとちょっと傷つく」

 

 わざとらしく顔を背けた瓶詰めの彼女と、真顔になって本音をつぶやいたバンダナの彼。しかし、言葉の割には二人の間に流れる空気は穏やかなもので、そこには確かな親しみが感じられた。こういったやり取りは二度や三度ではないのだろう……と、そう実感させられるような、ともすれば長年連れ添った家族のような雰囲気が、そこには確かにある。

 

 癒術師のユウと、瓶詰少女のメルク。それが、荷物に押しつぶされそうになりながら自分の居場所を確保しようとしている彼と、その膝の上──膝の間にある瓶の中でにこにこ微笑む彼女たちの名前だった。

 

 ──このメフテルハーネでは、人とモンスターが共存している。例えば遠く離れた土地に荷物や人を運ぶモンスター便や、その特殊なコミュニケーション方法を使って連絡手段となっているもの……珍しいところで言えばファッションショーでモデルとして活躍するものなど、単純に人の生活に協力しているケースもあれば、愛すべき隣人として共に生きているものもいる。

 

 しかし、モンスターとの共存が始まったのは意外と最近の話である。それまではモンスターは凶暴で、人との対話なんて望めるはずもない存在だった。人とモンスターは互いの命を懸けて、自然の一部としてそれぞれの生活を脅かす関係にあったと言っていい。

 

 そんな彼らの懸け橋となったのが、癒術師と言う存在だった。

 

 癒術とは、端的に言えば猛ったモンスターの心を落ち着けさせる……そんな技術らしい。らしい、と言うのはまだその技術そのものに不思議なことが多く、詳細なことは判明していないからだ。

 

 わかっているのは、癒術師は癒術を通してモンスターの心を癒し、お互いの声が通じるようにすることができるというだけ。癒術を使っている癒術師本人たちでさえ、どうやってそれをやっているのか、それがいったい何なのかを説明することはできない。本人の感覚に因るものが大きすぎて、科学の国の学者や魔法の国の研究者たちが満足するような答えを出すことができないのだ。

 

 ともあれ、そんな癒術師の存在により世界中のモンスターが癒されていった結果、今のメフテルハーネがある。もちろん、癒術はあくまで【対話ができるようにする】技術であるため、それでなお人と対立するモンスターがいたり、国や地域によってはまだまだモンスターに対する確執が残っているが、それでも少しずつ、モンスターとの戦いの歴史よりも、モンスターとの共存の記憶の方が増えているのが現状だ。

 

 ちなみに瓶詰少女であるメルクは、【瓶詰めの水が形を成した少女】であること以外一切が不明な、文字通り謎の存在だ。自身も自身に対する記憶が無いため、この広大で不思議なメフテルハーネの中でもとりわけ奇妙な存在であった。 

 

「うう……泣きそうなくらいにお尻が痛い……そして荷物に押しつぶされそう……!」

 

「……こういう時だけは、この瓶詰のキュートでスレンダーなコンパクトボディでよかったと思うのですよ」

 

「そうだ」

 

「なんです?」

 

「俺自身が依頼人となって俺を発送したら、俺も荷物扱いで丁寧に運んでもらえるかな?」

 

「ユウさん、現実逃避はダメなのですよ」

 

 そんな二人のとりとめもない会話が聞こえたのだろうか。馬車の前の方──御者台から、ちょっと変わった訛りが特徴的な、男の声が聞こえてきた。

 

「ほっほっほ。今日の夕方には補給のための村に寄れる予定じゃも。それまでは辛抱するじゃも」

 

「ジャモさん」

 

 行商人、ジャモ。この行商隊の一番偉い人であり、そしてユウを──旅の道中の護衛として癒術師を雇った商人だ。シルクハットと口元のダンディなカイゼル髭が特徴的なナイスミドルである。お金が絡むと少々(・・)がめつくなること以外は、行動力とセンスが光る、頼りになる大人だ……というのが、ユウのジャモに対する印象であった。

 

「前方に大きな山が見えるじゃも? あれは霧吹き山と言って、ここらでは一番高い山じゃも。件の村は、霧吹き山の向こうじゃもな」

 

「え……馬車で山を登れるんですか?」

 

「ほっほっほ。心配しなくとも、山肌に沿った迂回ルートを見つけているじゃも。そこを使えば山登りなんてする必要ないじゃも」

 

「迂回ルートも、デコボコ道なのは変わらないけどね」

 

 無邪気な顔でユウの希望を打ち砕いたのは、てくてくと馬車と並んで歩いていた少女──ローフィだった。この程度の坂道で足の限界を迎え荷台に乗らざるを得なかったユウとは対照的に、息切れ一つすることも無く、しっかりと地面を踏みしめて歩いている。

 

 しかも、ローフィは若干十二歳の女の子だ。背だってあまり高いほうではない。牛柄の子供服──民族衣装の一種だ──を着た、むしろ荷台に乗せてもらえるような風貌の子供である。

 

 そんなローフィが、貧弱とはいえ男であるユウよりも余裕綽々でこの坂道を歩いていられるその理由。

 

「動物の国の人は、基本的にみんな体力あるからね。これくらいのデコボコ道だったら誰も気にしないの」

 

 彼女の耳は獣のように少し尖っていて、そして額の上には片手で握るとしっくりきそうなくらいの長さの角が二本あった。

 

 ──動物の国。それが今、ユウたちが行商で訪れている国の名前であり、そしてローフィの出身の国だ。

 

 メフテルハーネは基本的に国ごとに大きく文化が異なっている。それはもちろん動物の国も例外ではないが、メフテルハーネの中でも飛びぬけて珍しいことに、動物の国は文化だけでなく人種そのものも明確に異なっている。

 

 その最たる特徴が、体の一部に獣の特徴を宿していることであった。例えば鳥、例えば犬、例えば猫など……耳や手などにその特徴が表れていることが多いほか、生活習慣や成長の仕方まで動物のそれの影響を受けているらしい。そのためか、動物の国の人間はユウたち王国の人間よりも全体的に身体能力が強い傾向があった。

 

「むっふっふ。たとえデコボコ道であろうと、安全に通れればそれでいいじゃも。こんな秘密のルートを教えてくれたローフィちゃんには感謝しかないじゃも」

 

「別に秘密にしていたってわけじゃないんだけどね。こっちのほうまで旅人さんが訪れることって全然ないし、国外の人と交流がある村でも……ううん、国外の人を知っているからこそ、あの道はおすすめしてなかったってだけみたいだから」

 

 それに、とローフィは続ける。

 

「私の方も……どうやってこれを運べばいいか、悩んでいたから。ジャモさん、本当にありがとう!」

 

 これ、とローフィが示したもの。それは今まさに、ユウを押しつぶそうとしている大きく重い荷物であった。

 

「たしかに、ローフィと再会した時はびっくりしたよな……。こんなにかさばるものを目の前に、道の真ん中で右往左往していたっけ」

 

「泣きそうになっていて、それでも自分で何とかしようとして……物陰で、集会所のおねえさんがはらはらしながら見ていたのですよ……!」

 

「そ、それは言わない約束でしょっ!」

 

 真っ赤になって、ローフィは叫んだ。

 

「私だって……本がこんなに重いだなんて、知らなかったんだから!」

 

 ガタゴトとゆっくり進む幌付き馬車。その振動でユウが抑えていた荷物の箱がガタリとズレる。その隙間からは、ぎっしり詰め込まれた様々な種類の本の背表紙が覗いていた。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 時はほんの少しさかのぼる。

 

 それは、王国のとある宿場町──行商人や旅人で賑わう大きな町での出来事だった。

 

 大きな商談が一区切りつき、空になった荷馬車と豊かになった懐でホクホク顔のジャモとともに今晩の宿……出来れば上等なご飯も付いているところを探していたユウたちは、紹介所の前で途方に暮れている少女を発見した。

 

 その少女の前には、大きな大きな木箱が四つもあった。その一つを持ち上げようとした少女は、見ているこちらが気の毒になるほど力を振り絞るものの、木箱はわずかに動くばかりで、とても持ち上げられそうにない。

 

 絶望の表情を浮かべる少女に妙なシンパシーを感じて見入ってしまったのは、ユウにとってはもはやしょうがないことだろう。

 

 その木箱は、少女の荷物であるらしかった。少女は少々不似合いながらも長旅の恰好をしており、そして周りに保護者は見当たらない。ユウと同じく、ハラハラしながら見守っている大人はたくさんいたが、そのいずれもいつ声をかけるべきがタイミングをうかがっているようであった。

 

 その少女がローフィ……かつて、とある事件で知り合った友人であることに気づいたのは、意外と冷静に周りを見ていたメルクだった。

 

「あの時は本当にホッとしたなあ……。もうどうしようって泣きそうになっていたところで、友達に会えたんだもん……」

 

「私もまさか、ローフィさんが……あんなにもたくさんの本を抱えているとは思わなかったのですよ……」

 

 慌てて声をかけたメルクたち。積もる話をする前に、まずはこの木箱をやっつけてしまおう……と、意気込んだユウの背中と細腕に尋常じゃない衝撃が走る。

 

 その木箱の中には、本がぎっしりと詰まっていた。それも、四つ全てである。

 

「重いはずだよな、そりゃ。あの大きな箱全部が本だなんて」

 

「むしろ、よくあの大通りまで運べたのですよ……」

 

 ローフィは母親と共に王国へと旅行に来ていたらしい。その帰り道となるあの宿場町で、下手を打った商人がいたのか、はたまた在庫処分でもしようとしたのか……普通ではありえないくらいに安い値段で、大量の本が売られているのを発見した。

 

 それを見て、旅の途中であることを忘れ、ついついお小遣いの全てを叩いて買ってしまったのがローフィの失敗であった。

 

「でもでも、どうしてあんなにたくさんの本を買おうと思ったのです? そんなに面白そうな本があったのですか?」

 

「ううん、そうじゃなくて……精霊さんとお師匠さまのお土産にぴったりかなって思って」

 

「ああ、なるほど……」

 

「うん。あのお家……たくさんの本があるけれど、異国の本は珍しいから。二人ともきっと気に入ってくれると思って……」

 

 【精霊さん】と、その【お師匠さま】。ユウたちとローフィが知り合うこととなったとある事件に関係する人物。迷いの森の奥に住み、迷子の子供たちを保護して様々な物語を聞かせるという、おとぎ話が本当になったかのような二人。

 

 動物の国のあらゆる物語に詳しい二人なら、きっと異国の物語にも興味があるだろう。あれだけたくさんの本を持っているのだから、きっと異国の本にだって興味があるに違いない。

 

 その二人を恩人のように慕っているローフィが、そう思って大量の本を購入したのも、ある意味では至極当然の話であった。

 

「内緒でこっそり、精霊さんとお師匠様のお家に置いてくるの。……びっくりさせてやるんだから!」

 

「そもそも持ち上げられない点については?」

 

「うっ……」

 

「気持ちはとても立派だと思うのですが、さすがに量が……」

 

「だってぇ……! 精霊さんは軽々運んでいたんだもの……!」

 

 ローフィの誤算は、それがあまりにも重すぎたというその一点に尽きる。ローフィとて本に触ったことが無いわけではないが、しかし大量に持ち運んだ経験はない。精霊さんが家で部屋の整理をしていた際に軽々運んでいたのを思い出し、あれくらいなら楽勝だろう……と楽観視したのが間違いであった。

 

 なお、ローフィの言う精霊さん──ヴォルガルは、動物の国の中でもとりわけ屈強なことで名高い獅子族の青年であった。

 

「ローフィちゃんには悪いじゃもが、こっちとしては新たな商機と出会えてうれしかったじゃも」

 

「抜け目ないというか、たくましいというか……」

 

「ふふん。どんなことにでもゴルドへの嗅覚を研ぎ澄ませておくのが、良い商人の条件じゃも」

 

 大量に買ってしまった本。あまりに重くて、自分で動物の国へ持ち帰ることはできない。本来なら、行商人や目的地を同じとする馬車に頼んで届けてもらうしかないのだが、旅先故に伝手なんてあるはずもないローフィでは無理で、ましてや依頼するお金も無い。

 

 しかし、ローフィにとって運が良かったのは、助けてくれたユウとメルクがその行商隊の一員であり、その主であるジャモがローフィの話にゴルドの匂いを嗅ぎ取ったことだ。

 

「くっふっふ……! このルートが確立されれば、さらなる商機が舞い込むじゃも……! 都合の良い紹介者兼案内人に、大きな大きな恩を売れて、前哨戦としてはこれ以上に無い高条件じゃも……!」

 

「…………」

 

「た、大変なのですよ! ローフィちゃんが、子供がしちゃいけないお顔に……!」

 

「いや、決して悪いことや間違っていることをしているわけじゃないんだけど……!」

 

 ちょうどジャモは、近々動物の国へとその商売の手を伸ばそうとしていた。しかし、他の商人と同じようなルートを用いていては、はっきり言ってわざわざそちらに手を広げるほどの旨味はない。如何にジャモが敏腕商人とは言え、後から参入する以上、他にはない強みが欲しかった。

 

 その強みと言うのが、まだ国外の人間には知られていない──動物の国の中でもその地域近隣に住む人間しか知らない、霧吹き山沿いを通るルートである。

 

 何とか助けになってくれないか……と、メルクとユウの必死の頼み込みにより話だけでも聞いてあげたジャモは、ローフィの旅行日程を聞いただけで、その存在を確信したのである。尤も、ローフィもその母親も、別に隠そうと思っていたわけでも何でもないので、いずれ知られること自体は間違いなかっただろう。

 

 そこからの流れは、あっという間だった。

 

 まずジャモは、その宿場町で動物の国のある村……ローフィの出身である牛族の村とその近隣の村に売りつけるための商品の手配を行った。その荷物の一部として、ローフィが買った大量の本を取り扱うこともものすごい笑顔で約束した。

 

 そして、荷物を無事に届ける代わりとして……ローフィ自身に、案内人と顔つなぎ役を頼んだのである。『善意で荷物を運んであげた、優しい商人であることを強調してほしいじゃも』……そんな、言葉を添えて。

 

 こうして、ユウとメルク、そしてローフィの動物の国へと至る旅は始まったのであった。

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