メルクストーリア 【動物の国another ~牛睡の冀望と偶想のおねえちゃん~】 作:ひょうたんふくろう
牛族の朝は早い。
日の出とほぼ変わらない時間には目覚め、各々の家で朝の支度が始まる。炊事、洗濯はもちろん……生活に欠かすことのできない、水汲みがその最たるものだ。
「ねーちゃんは一人暮らしだからな。だから、水汲みはオレが手伝ってるんだ」
「へえ。ゾランはえらいな」
子供が持つにはあまりにも大きな水甕を、ゾランは何でもないとばかりに持ち上げる。井戸から汲んだ水が満杯近くまで入っているというのに、ちっとも重そうな様子を見せない。自分だったら、持ち上げることはおろか押し動かすことも無理だろうなと、ユウはゾランの上腕を眺めながら思った。
朝の水汲みが終われば、大体どこの家でも朝食の時間となる。そのわずかな時間に、ゾランとユウは村外れの修練場……的当てのための的、剣の試し切りに使うのであろう痛んだ牧草を適当に束ねたカカシが無造作に置かれているだだっ広い広場へと赴いた。
「おはよう、ゾランにユウくん。よく眠れたかしら?」
「ええ、おかげさまで」
「ん、んふ、んふふ……」
「……ユディさんは寝足りないみたいですね」
「寝不足じゃなくて、この子はいつもこうなのよお……えいっ!」
「ひゃいっ!」
ぱん、とフィネットがユディの尻を叩く。びくっと肩を揺らして慌てたように、ユディは背筋を伸ばした。
「それじゃ……今日もケガに気を付けて、頑張っていきましょう」
「「おー!」」
修練場にきてやることと言ったら、修練しかない。邪魔にならないように端の方に避難しながら、ユウは三人が各々武器を用いて修練に勤しむ姿をぼんやりと眺めた。
まずはフィネット。弓にしては少しリーチが短い……その分取り回しの良さそうな、長弓と短弓の中間くらいの大きさの弓を用いている。木製の、弓の端にリボン付きの鈴をあしらった、おそらくお手製のものと思われる弓だ。
弦を引き絞り、真剣に狙いを定める彼女からは、普段の小悪魔な感じは一切しない。冷静に研ぎ澄まされた、狩人のそれによく似た気迫を感じる。
「──ふッ!」
びぃん、と弦が揺れる音と、矢が風を切る音はほぼ同時。ほんの少し遅れて、ストっと小気味の良い音が遠くから聞こえてくる。目で確認するまでもなく、遠く離れた的を見事に射抜いた証拠であった。
「いーち! にーい!」
そこから少し離れたところで、ゾランが剣を振っている。
ただし、ただの剣ではない。いくらゾランがまだ子供とは言え……その身の丈ほどもある大きさの大剣だ。もちろんそれは見掛け倒しではなく、幅も広くて分厚い重量級のもの。並の人間なら持ち上げることすら出来ないようなものを、しかしゾランは少々ぎこちない動きながらも、軽々と振り回している。
剣筋を見るに、斬るというよりも叩き潰すための剣なのだろう。戦いにおいては素人同然のユウが見てもわかるくらいにその動きはパワフルで、ゾランが動物の国の人間であることを差し引いても、とても子供ができる動きだとは思えなかった。
「う、うう~!」
バシュ、とどこか機械じみた音が聞こえ、そして気づけば的に一つ矢が増えていた。最初に突き刺さっていたものに比べて、それは半分くらいの長さしかない。遠目からでもそれがわかるのだから、実際はもっと短い可能性もある。
もしユウの眼がもっと良ければ、長さだけでなくその太さも普通の矢のそれと違うことがわかっただろう。太く短いこの矢は、いわゆるボルトと呼称されるものである。
「ふふふ、ユディもなかなかやるじゃない」
「そ、そうかなあ。まだフィー姉に比べたら、狙いを定めるのに時間がかかるし……」
ユディの獲物は、
弓を引き絞る必要が無いために狙いを定めやすくて取り扱いやすいが、その分弓に比べてリーチと威力、連射性に劣る場合が多く、本当の意味で使いこなすのは難しい武器だ……と、ユウはかつての仲間である弓士の女性に聞いたことがあった。
「それでもちゃんと、当てているじゃない? ……いろんな護衛を見てきたユウくん視点では、どうかしら?」
「ユディさんも、フィネットさんに負けないくらいの実力があると思いますよ……素人の俺が言うのも、変な話かもしれないですが」
いきなり振られていた会話に、ユウは思ったままを答える。それみなさいと、フィネットはユディの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ふう。朝はこんなものかしら。……ゾラン、そろそろ上がりましょう」
「えーっ! ねーちゃん、もうちょっとだけ!」
「だーめ。……立派な村守になりたいのなら、引き際を見極めるのも大事よ」
フィネットは村守だ。そして意外なことに、ユディも村守だ。そんな二人の朝の修練にゾランが混じっているのは、ゾランが村守見習いとして鍛え上げてほしい……と、頼み込んだからである。
矢を主な得物とする二人にとって、大剣を得物にするゾランに教えられることはほとんどなかった。しかしあまりのゾランの熱意と、「基礎練習だけならなんとかなるだろう」、「本格的なのは体が出来上がってからでも遅くない」……と判断したことにより、こうして毎朝の修練を共にすることになったのである。
「はい、ちゃんと水分補給はしっかりね? ……よかったら、ユウくんもどう?」
「ありがとうございます」
フィネットから手渡された瓶。そこには、この牛族の村の特産だというミルクがなみなみと注がれている。いつの間にか息をのんで三人の修練に見入っていたユウの喉はそれ相応にカラカラで、このお誘いは願っても無いことであった。
「ふぅーっ! やっぱり修練の後の一杯は最高だ!」
「本当だ……! すごく、美味しい……!」
程よく冷えた一杯のミルク。甘味が強めでびっくりするほど味が濃いのに、乳臭さはほとんど感じられない。口当たりがよいのか、一気にごくごくと飲み干すことができる。
「ふふふ、気に入ってくれて嬉しいわあ。このミルクは、この村の自慢だもの!」
牛族の村であればだいたいどこもミルクは名物なのだという。しかしそれを差し引いても、この村のミルクはそんじょそこらのそれとは一味も二味も違うのだ……とフィネットは語る。
「うーん……この一杯のためだけに生きているって感じがする~!」
「もう、ユディったら……でも、わたしもこのミルク、だーいすき!」
「……」
「……どしたの、ユウにーちゃん」
「いや……なんでみんな、腰に手を当てて飲んでるのかなって……」
ゾランも、ユディも、フィネットでさえ。
それが正しい作法であるかと言うように、腰に手を当ててミルクを飲んでいる。育ち盛りの男の子であるゾランはもちろん、妙齢の女性であるユディもフィネットも、見ているほうが惚れ惚れとするほどの見事な飲みっぷりだった。
「なんでって……ミルクを飲むときは、普通こうだろ?」
「小さいときに、ミルクを飲むときはそうするのが作法だって教わったの~!」
ゾランもユディも、それがどうしたと言わんばかりに胸を張る。この場ではユウの方が異端分子であることは、誰の目にも明らかだ。
「またまたそんな……ははあ、さてはフィネットさん、また俺をからかって……」
「えっ……これが普通じゃないの……?」
「今度は本気だった!?」
大きな大きな胸を張り、白くて細い指を腰に添えて。絵にすればそのまま商業都市で一番の広告塔になりそうなほどに見事なポーズを決めたフィネットは、戸惑いながらもそう断言した。
──ローフィまでもが「それがミルクの飲み方の作法でしょ」と断言したことにより、それは牛族にだけ伝わる作法だということが判明したのは、後の話であった。
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「にーちゃん、いくぞーっ!」
「ひ、ひぃ……!」
知らない大人に構ってもらえるのが嬉しくて嬉しくてたまらないのだろう。無邪気さと元気……そして体力に溢れる男の子が、子供特有の遠慮のなさを伴ってユウの体に全力で当たりに行く。
「ぐふっ」
「ああ……ユウさんがなんとも情けなく吹っ飛ばされたのですよ~!」
「ユウにーちゃん、弱いな……」
「前からそうだとは思ってたけど、まさか五つの子供にも負けるなんて……」
子供たちの憩いの広場──通称、お昼寝広場。そこに長いロープをぐるりと置くことで作られた即席の土俵の上で、ユウを吹っ飛ばした男の子が誇らしげに右腕を掲げている。
「ま、まだだ……! 俺だって一端の癒術師だ……! これまでの旅には、こんな試練はいくらでも……!」
「にーちゃん、もういっかいやってくれるの!?」
「ハンデ有りでお願いします。具体的には錘付きジャケットの着用などを提案します」
「ユウさん……あなたって人は……」
「ふふふ、相変わらず面白いのね、ユウくんは」
──朝の仕事が終われば、日々の生活を営むための仕事に移ることになる。農耕、牧畜……最初にユウが予想した通り、この村の人間の多くはそういった仕事に付いているらしい。
ただし、今日にいたっては最低限の人間を残して、男手の大半が橋の修理のために川に赴いている。近隣のモンスターはほとんど癒されているとはいえ、それでも万が一に備えてユディもそれに同行していた。
さて、そうなると残されるのは彼らの子供……村の子供たちである。
この子供たちの面倒を見るというのが、フィネットのもう一つの仕事であった。
「よっしゃ! じゃあ今度はオレが相手だ!」
「ゾランにーちゃん! よーし、負けないぞ!」
すでにすっかり戦意を喪失していたユウに変わり、ゾランが土俵の上へと躍り出る。子供とは言え全力のタックルをどっしりと受け止め、がっぷりと組み合った。
「んぐ、ぐぐ、ぐぎぎ……!」
「どうしたどうした! お前の力はこんなものかあ!?」
いとも簡単に吹っ飛ばされたユウとは違い、ゾランの踵はピクリとも動いていない。相手の体をがっしりと抑え込んでいる。さらに言えば、その姿は力と力の拮抗……などという手に汗握るようなものではなく、文字通り、大人が子供を抑え込むかのように余裕のあるものであった。
「やっぱりゾランさんは強いのですよ~!」
「ふふふ、そうねえ。あの子も年少組だけど、それでもその中では一番のお兄ちゃんだから」
牛族の村では、村の子供は全員同じ家族として扱われるらしい。だから、年下はみんな弟妹扱いだし、年上はみんな兄姉扱いだ。年上は年下の面倒を見るものだというのはもはや当たり前のことであり、そのことに疑いを持つものなんて一人たりともいない。
ゾランも年少組とはいえ、その中では一番の年上だ。フィネット達大人組から見ればまだまだ子供だが、年少組と言うコミュニティの中では一番上の長兄として、その役割を果たしているのである。
だから、フィネットの仕事──子守を手伝うというのも、【手伝い】というよりかは自分が行う当たり前の仕事として認識している。もしフィネットがゾランに声をかけなかったとしても、きっとゾランは自分からそれを行っていたことだろう。
ちなみに、本来子守の役割なんてないはずのユウまでこの場にいるのは、非力ゆえに橋の修理の手伝いに参加できなかったためである。何もしないのはさすがに憚られる……と悶々としていたところ、「じゃあ、一緒に子守をしてくれる?」とフィネットに誘われたのだ。
「ああやって率先して子供たちの面倒を見てくれるし……最近はもう、
「みゅ? そうなのですよ?」
メルクの問いかけに、フィネットはどこか寂しそうにも見える表情で答えた。
「体力、ってやつかしらね……。お姉さん、走るの遅いしすぐバテちゃって……。ちょこまか動く子供たちを捕まえるの、結構苦手なんだあ。でも、代わりにゾランが捕まえてくれるから、とっても助かってるの!」
すでに単純な脚の速さだけならゾランの方が上だとフィネットは語る。すばしっこさや身の軽さ……そういった基礎的な能力においては、牛族の男としての特徴が徐々に表れ始めているとのことだった。
「みゅ……でも、どうしてフィネットさんはその……ちょっと寂しそうなのですよ?」
「……やっぱり、そう見える?」
「うん……私にも、そういう風に見える」
ローフィちゃんにまで見破られちゃったか、とフィネットはお道化るように笑った。
「その、大したことじゃないんだけどね」
「みゅみゅ! 大体の人はそういうのですよ。ここはひとつ、全部吐いてすっきりしたほうがいいのです!」
「そうそう。こんな私でも……悩みを聞くくらいならできるから。それがフィネットさんの助けになるなら嬉しいな!」
「……ありがとね、二人とも」
柔らかく微笑んでから、フィネットは語りだした。
「お姉さん……最近、
「「……えっ!?」」
それは、あまりにも意外過ぎる告白であった。
「最近のゾランは、なんていうかこう……生き急いでいるって言うとおかしいけれど、大人になろうと必死なの。本来ならあの子だって年少組で、大人に頼っていい年齢なのに、一人でチビちゃんたちの面倒を見ようとしたり……」
「ふ、ふむふむ?」
「だから、たまにはお兄ちゃんをお休みしましょ、久しぶりにお姉ちゃんとお昼寝しましょう……って誘っても、断られちゃったり……」
「……」
「お姉ちゃんとして、いろいろ気にかけているつもりなんだけど……どうも、それが気に食わないのかなあ。あの子は優しいから、決して言葉には出さないんだけど、態度がちょっとよそよそしくて……」
「「……」」
「……信じられない、って顔しているわね? ……いいわ、見せたほうが早いでしょう」
ちら、とフィネットはゾランの方を見た。
「さぁ、次なる挑戦者はどいつだ!? オレは逃げも隠れもしないぞ!」
男の子を二人、女の子を三人、そしてさりげなくリベンジに挑んだユウを土俵の外へと押し出していたゾランは、次なる挑戦者を迎え撃つべく土俵の真ん中で威張ったポーズをとっている。絶対的な勝者の余裕と言う奴なのだろう、前後左右、どこからでもかかってくるといい──と、土俵周りで悔しさに闘志を燃やす子供たちに向かって、挑発的な笑みを浮かべていた。
「ふふふ──言うようになったねえ、ゾラン? 久しぶりに、お姉ちゃんが相手してあげるわあ」
そんなゾランを打倒すべく、フィネットがゆっくりと土俵入りする。臆するでも虚勢を張るでもない、実に堂々とした足取りだ。ゆっくりとした動きだが、そこには獲物を狙う狩人のような、強者のみが持つ迫力があった。
「うおおお! 久しぶりのフィー姉の本気だ!」
「あのフィー姉の本気……! まともにぶつかりあって無事だった人はいないという、あの!」
「こ、子供たちのテンションがすごいことになっているのですよ……!?」
「ふぃ、フィネットさんどれだけ強いの……!?」
大盛り上がりの中、フィネットはゾランの前に対峙する。挑戦者はフィネットのはずなのに、実力を見てやろうとでも言わんばかりに胸元を大きく開き、敵を受け止める体勢はばっちりだ。
あとは、ゾランがここに全力で突っ込めば、今この場にいる誰もが望む熱い勝負が始まる。
──だと、いうのに。
「う……、や、止めだ止めだ! オレなんかがねーちゃんに叶うわけないだろ! いくらなんでも相手が悪すぎるって!」
「……そっかあ。ごめんね、ゾラン。お姉ちゃん、水を差すような真似をしちゃって」
「あ……」
悲しそうに下がった眉。口元だけは何とか笑みを作れているが、フィネットの今の気持ちがどんなものなのかは、誰が見ても明らかだろう。
意外なほどあっさりと引き下がり、すごすごと土俵を降りていくフィネットの背中に、ゾランは思わずといったように腕を伸ばす。
しかし、それが届くことはなかった。
「……ね?」
それみたことかと、フィネットが自虐的な笑みを浮かべた。
「みゅ……。ローフィさん、この美少女名探偵メルクの推理によると、ゾランさんがフィネットさんを避けているのは」
「……うん。
フィネットはゾランを弟扱いしている。それそのものは全くもって問題ない。
ただ、一緒にお昼寝したり、あろうことかほかの子供たちと同じ感覚で相撲をしたりするとなったら話は別だ。例えばさっきのだって、胸を大きく開いたフィネットに対し……そこにゾランが頭から突っ込むことなど、できるけどできないだろう。
「フィネットさん……ゾランは、その、おっ……女の子と相撲を取るのに、照れているだけだと思うよ」
「ふふふ、慰めてくれるの? ありがとね……って言いたいけれど、あの子、お姉さん以外の女の子とは普通に相撲取ってるんだあ」
「「……」」
フィネットの言う他の子とは、年少組の女の子である。そうでなかったとしても、フィネットは疑いようがなく、この村の中では……いいや、メルクが今まであちこちを旅してきた中でも、一番と言っていいくらいのものを持っていた。
「──ゾラン! ねえ、今度は私が相手になるよ!」
「ローフィ? ……おう、いいぜ! 女の子だからって、オレは手加減しないからな!」
大きな声で名乗りを上げるローフィ。その声に、ゾランは爽やかな笑みを浮かべて了承の意を告げた。フィネットの時とは違い、戸惑う様子も無ければ躊躇う様子もない。他の子供たちと接するように、「ケガには十分気をつけてな」……と、ローフィを気遣う様子すら見せている。
「ふーん……ゾランにとって、私は
「ろ、ローフィさん……!? お、お顔がとっても怖いのですよ……!?」」
「……なんだろう、ゾランは悪くないけど、すっごくイラってきたの」
ローフィ、十二歳。ゾランよりオトナである自分ならば、フィネットの勘違いを正せるのではないかと使命感に駆られて名乗りを上げた少女は、今はもう全くもって別の理由によりその土俵へと一歩を踏み込んだ。
「見合って、見合って──はっきよい!」
「おらぁ!」
合図の瞬間、ゾランは大地を蹴った。相手がローフィと言う、女の子とはいえ年少組の子供たちよりかはぶつかりがいのある相手だからだろうか、先ほどまでとは比べ物にならない勢いである。もしかしたら、弟妹達が見ている前で、万が一にも他所の村から来た女の子に負けるわけにはいかない……なんて、思いもあったのかもしれない。
「へえ。やっぱり、私相手なら躊躇いも無くつっこんで、組み合うこともできるんだね」
ローフィが暗く笑う。
ぞくり、とゾランの背筋に悪寒が走った時には……もう、遅かった。
「でぇぇぇい!」
「んな!?」
片足を引き、半身になる様に構えて。ゾランの勢いをそのまま受け入れ、彼の右腕を掴んですれ違うようにして引き寄せる。同時に空いている方の手で勢いの乗った膝をひっくり返すようにして掬い上げれば。
バランスを見事に崩されたゾランの体は、結構な勢いで──具体的には空中で一回転するほどの勢いですっころび、お昼寝広場にドシン、と大きな音が響き渡った。
「……ふう」
どうしてオレは、寝転んで空を見上げているんだろう──と、何が何だかわからずぼんやりと思うゾラン。しん、と静まり返るお昼寝広場。審判さえもあまりに鮮やかなその決着に言葉を忘れている中、ローフィは右腕を掲げながら叫んだ。
「こちとら伊達に牛族の村で育ってないからねっ! 力で勝る相手に勝つやり方くらい、当然身に着けてるよ!」
ざわり、と子供たちの間でどよめきが伝播していく。
「あ……あのゾランにーちゃんを、こんなにもあっさりと……!」
「お、女の子なのにあんな派手に投げ飛ばすなんて……!」
「しかも、キングであるゾランにーちゃんが負けたってことは、つまり……!」
子供たちの中で、それは絶対の事実として結論付けられた。
「「新たなる
「……え?」
「「
「その、私そんなつもりじゃ……」
「「
お昼寝広場に響き渡る
「ふふふ、なあんだ。ローフィちゃんも体を動かしたかったのね。あんなにきれいに技を決めるなんて……お姉さん、なんだかちょっぴり血が湧いてきたかも」
「みゅ~……そういうつもりではなかったのでしょうが、フィネットさんが少しでも元気になったのなら、ローフィさんも報われたと思うのですよ」
良く晴れたお昼寝広場。響き渡る子供たちの大歓声。久しぶりに参戦しようかしら……と、フィネットが土俵入りし、子供たちのテンションはますます上がっていく。
「さあ! 誰からでも、どこからでもかかってきなさい! お姉ちゃんが相手になるわあ!」
「うぉぉ! 負けるもんかーっ!」
「きゃーっ!」
胸元に勢いよく飛び込んでくる子供たちと楽しそうに戯れるフィネット。フィネットの技術が優れているのか、それともひどく物理的なとある理由からか、子供たちは全力で頭から突っ込んでいるというのに、体を痛めた様子は全くない。
土俵外でその様子を見ているローフィ達には、その理由が嫌でも目に入ってしまった。
「……うん、フィネットさんが元気になったのなら、それでいいんだけど」
「……」
「なんなのかなあ!? この、嬉しいのに釈然としない気持ちは!?」
「ローフィさん……! きっと、まだまだ可能性はあるのですよ……!」