メルクストーリア 【動物の国another ~牛睡の冀望と偶想のおねえちゃん~】   作:ひょうたんふくろう

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第5話 みんなでおひるね:寝物語

 相撲大会が終わり、そしてお昼ごはんが終われば……お昼寝の時間が到来する。どこの村の子供たちも大抵似たようなものだろうが、しかし牛族の村の場合はちょっとだけ事情が違った。

 

「はーい、みんないるわね?」

 

 お昼寝広場。自身は大樹に寄りかかり、そしてフィネットはふわりと笑いながらきゃあきゃあとはしゃぐ子供たちを引き寄せていく。子供たちの方もそれを受け入れているようで、なんだかんだと動き回りながらも、自然と流れるようにしてフィネットの元へと集っていた。

 

「おお……なんか、すごく平和な光景……!」

 

「え……そうかな? 牛族の村は、みんなこんな感じだけど」

 

 ユウのつぶやきに、律儀に堪えたのはローフィだ。

 

「牛族は村のみんなを家族として扱うからね。お昼寝の時間の時は、年上が子供たちを集めて面倒を見るんだ」

 

「へえ……!」

 

「みゅ~! なんともステキな習慣なのですよ~!」

 

 左横を占拠するもの、右横を確保するもの、そして魅惑の膝元を独占するもの……などなど、フィネットがまるで上等なクッションであるかのように子供たちは場所を取り合っていた。説明をしていたローフィもソワソワしながらそれを伺っており、どことなく落ち着かない様子である。

 

「ローフィちゃんも、良かったら一緒にどう?」

 

「え……いいんですか!?」

 

「ふふふ、もちろん。お姉さんも、そっちの方が嬉しいわあ」

 

「……うんっ!」

 

 とたた、とローフィがフィネットの方へと駆け寄っていく。よいしょ、と子供の一人を抱きかかえて、極々自然な動きでフィネットの横へと収まった。一方で子供たちの方も特に慌てることなくローフィを受け入れ、まるで長年連れ添った家族であるかのように……彼女の腕を抱きしめたり、空いてる手をぎゅっと握って体を預けている。

 

「なんという自然体な動き……! これはもはやプロレベルなのですよ……!」

 

「あえて突っ込むけど、いったい何のプロなんだ?」

 

「……あら? ユウくんたちもそんなところにいないでこっちにいらっしゃい。……ユウくんも、お姉さんの膝枕はいかが?」

 

「ひっ……な、なんてこと言ってるんですか! ダメに決まっているでしょう!?」

 

「あら、残念。お姉さん、またしてもフラれちゃったあ。ぐすん」

 

「さすがにもうそれには引っ掛かりませんよ?」

 

「ちぇ。つまんなーい」

 

「まったくもう……ん?」

 

 いたずらっぽく笑うフィネット。膝枕はともかくとして、自分も子守役として昼寝に混じるのも悪くない……とそこに進み寄ったユウは、大樹の反対側──ちょうど、フィネットが寄りかかっている裏のところで一人ポツンと佇むゾランに気づいた。

 

「ゾラン? どうしたんだよ、こんなところで。こっちに混ざらないのか?」

 

「ん……オレはいいや。そっちはねーちゃんが見ててくれるし、万が一のために誰かがこっちを見てないとダメだろ」

 

「いや……」

 

 村の中だし、反対方向を見張る意味は無いんじゃないか。いくら子供達でも、あえてフィネットから離れて反対のこちらにふらふらやってくることは無いんじゃないか。仮にそうだとしたら、なおさら子供たちの近くにいたほうがいいんじゃないか。

 

 そんな考えが、ふっとユウの頭の中にわいてくる。

 

「それに、声だけならここでも聞こえるし。たまにはオレもゆっくり体を伸ばしたいの!」

 

「……そっか」

 

 ユウはすとん、とゾランより体二つ分離れたところ……ちょうど、右手にフィネット、左手にゾランが見えるところで腰を落とし、同じように大樹に寄りかかる。右腕には、フィネットに群がる子供集団の端の方……大きく寝そべってフィネットの左手を握っている女の子の尾っぽが、時折フリフリと動いて当たっていた。

 

「どしたの、にーちゃん。そんな中途半端なところじゃなくて、もっとチビたちの真ん中にいってやってくれよ。そのほうがチビたちも喜ぶ」

 

「俺はここがいいんだよ。それに、ここならみんなの声が良く聞こえる」

 

「……そっかぁ」

 

 それだけ呟いて、ゾランは静かに目を閉じる。自分にも同じように背伸びした時期があったな──と、ユウはなんとなく懐かしい気持ちになった。

 

「うーん、今日は何のお話をしようかなあ」

 

「……ん?」

 

 ふと気づけば、フィネットがそんな声を上げている。

 

「お話、ですか? 子守唄とかそういうのではなく?」

 

「うん。鳥族ならともかく、牛族では……少なくともこの村ではあまりそういうのはないかなあ。お昼寝の時はいっつもお話を聞かせてあげてるの」

 

「ほほぉ……。ちなみに、どんなお話を?」

 

 お互い顔が見えない、声だけで行われるやり取り。なんとなく、のどかでのんびりとした雰囲気で満ちていた。

 

「普通の子供向けのお話よ。どっちかって言うと……訓話とか、そういうのかなあ」

 

「訓話……ですか?」

 

「そう。ちょっぴり怖い、お話を通して自然の恐ろしさを教えたり、生き抜く知恵を語るような。例えば……霧吹き山にはこわーいモンスターが封印されているから、決して一人で行くな……とかね?」

 

「……」

 

 ホントは、子供が一人で山に入ることの危険性を説いているものなんだろうけれど……と、フィネットは続けた。

 

 ユウ自身、今までの旅で山に入ることの恐ろしさは何度も経験してきたし、ましてやあの霧吹き山となれば、物語と言う形でその恐ろしさを伝えようとする考えはよくわかる。

 

 その引き合いにモンスターを出されてしまうのは癒術師としては悲しい限りだが、はるか昔においてモンスターが危険極まり無い存在であったのも事実だし、訓話そのものの目的を考えれば、これほど利用しやすい存在はない。それもまた、十分に理解できてしまう。

 

 だからこそ、いつの日か……訓話から悪役としてのモンスターがいなくなることを願わずにいられない。否、自分たち癒術師こそが、そういう世の中を作っていかなくてはならないと、改めて思えてしまう。

 

「……そういえば、動物の国では村ごとに細々とそういう話が伝わってるって聞いたことが」

 

「細々としか伝わっていないのが、また問題なんだけどね」

 

「……つまり?」

 

 ユウの質問に答えたのは、フィネットに寄り添う子供たちの方であった。

 

「「飽きたの!」」

 

「ええー……」

 

 細々としか伝わっていない、すなわち語られる物語も数少ないということである。たまに聞くくらいであればまだ我慢できるが、毎日のお昼寝にそう何度も何度も同じ話を聞かされては、自ずと飽きが来るのも頷ける。いくら子供とは言え、そんな単純な子供だましが通用するはずもない。

 

「しかも面白くないしー」

 

「セッキョー臭いしー」

 

「ソーカイカンとか、ミリョクに欠けるよねー」

 

「ああ……まあ、訓話だからなあ……」

 

 そして、内容が内容だ。ある意味では子守唄代わりにぴったりなのかもしれないが、物語として期待されている役割を果たしているとはとても言い難い。

 

「牛族には、そういう意味での子供向けのお話ってあまり伝わっていなくって……」

 

 だから、毎回この時間は地味に頭を悩ませることになるのだとフィネットは言う。最近はもう、何を話そうか考えているうちに、午後の麗らかな陽気に誘われて眠ってしまう子供も少なくないのだとか。

 

「そうだ! ねえユウくん、良かったらお姉さんの代わりに何かお話ししてくれないかしら? なんでもいいの、旅のお話でも、異国の物語でも……この子たちにとって新しく思えるのなら」

 

「ええ!? そ、そんないきなり言われても……!」

 

「今ならお姉さんの添い寝付きだよ?」

 

「ははっ、からかわれ過ぎて逆に耐性ができてきたぞ」

 

「もう、つまんなーい」

 

「「つまんなーい!」」

 

 ぷくっと膨れるフィネットを真似して、子供たちもぷくーっと頬を膨らます。その様子が堪らなく愛しいのか、フィネットはころころ笑いながら子供たちの丸くて柔らかいほっぺをむにむにと触った。

 

「あっ! 待って、それならちょうどいいのが……!」

 

「ローフィ?」

 

 ちょっとよろしく、とローフィは抱いていた子供をユウに預け、ぴゅーっとお昼寝広場から走り去っていく。

 

 ややあってから、戻ってきた彼女が持ってきたものは。

 

「これは……」

 

「うん! 精霊さんたちのお家に届ける予定だった本! ちょうど、絵本もあったのを思い出したの!」

 

 いそいそと元のポジションへと戻り、ローフィは持ってきた──少しばかり木の枝や葉っぱで汚れてしまっている二冊の本を得意げに掲げる。

 

 一冊は絵本にしては珍しい、革装のそれであった。重厚な雰囲気を放っており、どちらかと言うと冒険家の日記や図書館の奥に眠っている古い資料のような印象を受ける。サイズと薄さだけがそれが絵本と思える唯一の要素で、表紙には【荒野に咲くバラ 西部珍道中】と記されている。

 

 もう一方の方も、皮革の装丁であることは間違いないらしい。間違いないらしいのだが、それにしては妙に表面がツヤツヤテカテカしていて、どことなく人工的な印象を受ける。いっそ違和感を覚えるほどに丁寧な造りをしており、安く仕入れることができた……ほぼ価値が無いはずのものにしては、一度もページを開かれた形跡も見えず、新品同様の装いであった。

 

 その表紙には、【たたかえ! ノンちゃん博士!】と記されていた。

 

「……」

 

「……」

 

「……どうしよう、開く前から読むのが怖い」

 

「それでも読むのが、オトナとしての役割なのですよ」

 

 ともあれユウは、おそるおそるその本を開き、子供たちに見せるようにして膝の上に広げた。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

『──悪の科学者、ノットット博士に親友であるキィちゃん博士を誘拐されてしまったノンちゃん博士。「彼女を開放してほしければ、研究成果をすべて手渡せ」というノットット博士に対抗すべく、キィちゃん博士は自身の発明品と共に、ノンちゃん博士を助けるべく孤独な戦いに身を投じる……』

 

『──いでよ我が愛機(あいぼう)、グランドフラスコ!』

 

『助けに来たわ、キィちゃん博士!』

 

『待ってたよノンちゃん博士! 実はここにひっそり開発したエクセレントハイパースピア號が!』

 

『すごいわキィちゃん博士! これがあれば……!』

 

『ええ、ついに念願の……!』

 

『『──合体だぁ!』』

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

「開始数ページですさまじい展開なのですよ……!?」

 

「な、なんだこの誰かの夢を適当に書きなぐったかのような話は……!? というか、なんでもうキィちゃん博士出てきてるの? それクライマックスじゃないの?」

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

『うふふ……私はもう駄目よ、キィちゃん博士……』

 

『そ、そんな……! しっかりしてくれ、ノンちゃん博士……!』

 

『うふふ……もう、そんな顔しないで……。私がいなくなっても、あなたは一人で戦っていけるもの……』

 

 ──その時奇跡が起こった! ノンちゃん博士とキィちゃん博士の友情の力が開発者さえ知らない秘めたシステムのアクティベートを成功させ、失われた第三の友情合体を覚醒(めざめ)させるッ!!

 

『これは……!? この力は……!?』

 

『なんかよくわからないけど、ノットット博士のゴールデンバレットまで合体出来たぞ! つまり……!

 

『ええ、これさえあれば……!』

 

『──フルスロットルだぁ!!』

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

「わーぉ、すごく見覚えがあるぞこのノリ」

 

「ユウさん、ここ」

 

「うん?」

 

「※この物語はフィクションです。実際の人物、組織、及び団体とは関係ありません」

 

「※この物語はフィクションです。実際の人物、組織、及び団体とは関係ありません」

 

「なのですよ」

 

「ならしょうがないな」

 

 新品同様なのに安く売られていた理由を、ユウはなんとなく察してしまった。いくら何でも話が無茶苦茶で、整合性もなにもあったものじゃない。挿絵は美しく、色使いも鮮やかであるだけに実にもったいない。絵とストーリーのギャップが大きいだけに、余計にそれが歪に感じられてしまう。

 

 が。

 

「うぉぉ……! かっけぇぇぇ……!」

 

「ノンちゃん博士……! ステキ……!」

 

「「えっ」」

 

 子供たちにとっては、そうではなかったらしい。

 

「なにしてんだよにーちゃん! 早く、早く次のページ!」

 

「あーん、早すぎるって! もっとノンちゃん博士が白衣を翻す決意のシーンを……!」

 

「そんなことより友情のフレンズブラスターのところ、もういっかい!」

 

「え……えーと、『燃えろ友情! 煌めけ愛情! 順調快調絶好調ぉぉぉぉ……!』

 

「「──フルスロットルだぁ!!」」

 

「お、大うけなのですよ……!?」

 

 ユウの拙い語りと合わせて、子供たちが大きく声を上げて天に拳を振り上げる。気づけばユウはたくさんの子供に囲まれていて、腕も足も脇腹も……子供たちに触れていない部分を探すほうが難しいくらいの状態だ。みんなが絵本を覗き込もうとぎゅうぎゅうと詰め寄ってくるものだから、このままだと遠くないうちに押しつぶされてしまうだろう。

 

「ぞ、ゾラン……! 助けてぇ……あっ」

 

「かっけぇ……!」

 

「……いつの間にかゾランさんも夢中になってるのですよ」

 

「一人やけにデカくて重いのにのしかかられていると思ったら、ゾランだったか」

 

「……」

 

「……」

 

「──フルスロットル、なのですよ!」

 

 ぱちこーん、と器用にもウィンクしたメルクにはもう頼れそうにない。ここは一つ、年長組として、オトナの威厳を持ってるお姉さんに頼るしかない……と、ユウはもみくちゃにされながらもフィネットの方へと頭を向けた。

 

「──女保安官ブリッタは、奇妙な悪縁を持つ謎のお尋ね者三人組……ジャック、ヤチェ、アララアと、敵味方を超えた見事なコンビネーションで、悪の保安官にしてアララアの悪の心そのもの、ダークアララアを倒すことができたのです」

 

「──「ずいぶん酷い姿だな、ブリッタ」。砂嵐が去った後、ニヤリと笑ってジャックは倒れるブリッタに向かって手を差し出します。「んふふ、あんたもね。せっかくのスカーフもボロボロだ」。ブリッタもにやりと笑ってジャックの手をしっかりとつかみました」

 

「──お尋ね者と保安官。そんな二人の奇妙な友情。……いいえ、これは本当に友情なのでしょうか。その本当の気持ちは、きっとまだ二人も知らないことでしょう。大事なのは、今の二人はただのブリッタとジャックとしてここにいるということであり、そんな二人を邪魔することは、荒野の狼にだってできないということです」

 

「──それはそれとして。「……おい、ブリッタ? どうして手を離さないんだ? さすがにちょっと照れるぜ?」。嫌な予感がしたジャックは、ついつい軽口を叩きます。「んふふ、女保安官たるもの、大事なチャンスは逃さない……そうだろう?」。にこりと笑ったブリッタは、懐から手錠を取り出しました」

 

「──「ひぇ~! やっぱりおっかない女だ!」、「待ちなさい、ジャックぅ!」。二人の逃避行は、まだまだ、いつまでも続きます……おしまい、と」

 

 ぱたん、とフィネットが本を閉じると、子供たちの大歓声があがった。男の子も女の子も大興奮で、さっそくアンコールの声を上げている。「ジャックぅ! ジャックぅ!」と謎のコールも聞こえるが、ユウはそれを聞こえなかったことにした。

 

「あっちは少しはまともっぽそうだったのですよ」

 

「でも、逃げる三人組にも追う保安官にもすごく心当たりが」

 

「ユウさん、ここ」

 

「うん?」

 

「※この物語はフィクションです。実際の人物、組織、及び団体とは関係ありません」

 

「※この物語はフィクションです。実際の人物、組織、及び団体とは関係ありません」

 

「なのですよ」

 

「ならしょうがないな」

 

 眠るまでの繋ぎとして語られるはずの物語は、思った以上の盛り上がりを見せた。ユウもフィネットも、何度も何度もアンコールを迫られ、ようやく終わったと思ったら交換して読んでくれてとせがまれて。

 

「み、水……! の、喉が限界……!」

 

「お、お姉ちゃんも、ちょーっと疲れたな、なあんて……」

 

「「はい!」」

 

 ──キラキラした顔で差し出されたミルクが、あれほど怖いと思ったのは後にも先にもあれっきりかなあ。

 

 後にフィネットは、そう語ったという。

 

 結局、子供たちが満足してウトウトしだしたのは、お昼寝の時間が終わるころだったそうな。

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