深淵で飯を食す者アトナテス   作:青き男

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エピソード1 アクアエレメンタル アシッドスライム

 物質界と魔界を無理やり繋ぐ、ガリウスが切り裂いた空間の亀裂を俺は閉じ。

 殺到する魔王軍の残党共を、俺と相棒(紫竜)は斬り払い、焼き払い。何日も戦い続け、魔物共を殲滅した。

 魔界のゲートをすべて閉じるのは不可能だが、どれだけゲートが開いていようが。侵入してくる魔物がいなければ、あってないようなものだ。これで物質界は大丈夫だ。

 あとは(英雄王)と、仲間達(英傑)が荒廃した物質界、王国を立て直し、軍を整え。いずれ復活するだろう魔王を討伐するだろう。

 俺もその戦列に並ぶ為にも、物質界へ帰る手を探さねばならないが。何にせよ、だ。

 

 「み……水……」

 

 酷使した体が、とにかく水を欲していた。竜である相棒も水を欲していた。

 

 なんてこったい。

 騎士として、魔物と戦い戦死するのは覚悟していたが、干乾びて死にかけると思ってはいなかった。

 だが、俺はまだ死ぬ訳にはいかない。

 震える体に気合を入れ、俺は水を求めて魔界を彷徨う。

 

 「み……水……」

 

 そして、ぼやける視界の中、俺は浮かぶ水を見つけた。

 いや訂正しよう、あれはアクアエレメンタルだ。

 

 世に存在する、水エネルギーを具象化した存在だとかなんとか、アンブローズが言っていたが。

 とにかくだ。

 あれは、水だ。誰が何と言おうが、水なのだ。例え友が水ではないと言おうが、今の俺と相棒にはあれは水であり、それが真理だった。

 

 「がぁああああ!」

 「グォオオオオ!」

 

 俺と相棒はほぼ同時に、水に噛みつかん勢いで飲む。

 するとびくりと水が震え。慌てて距離を取りながら、猛烈な水弾を俺の体へ撃つが、構うものか。

 ごくりごくり。

 水の一部を飲むと、水が俺の頭を冷やしたのか、先ほどのアンブローズの会話の内容を思い出させた。

 

 「火、水といった、様々な属性を持ったエネルギーを具象化した存在をエレメンタルと呼ぶのですぅ。そして、そのエレメンタルの意思を汲み取り、使役するの人達をエレメンタラーと呼ぶんですよぉ」

 

 意思を汲み取り。つまり、水もといアクアエレメンタルはある種の生物だ。

 そんな生物が生きたまま、咀嚼されず飲み込まれたらどうなるか。当然暴れるさ。

 

 「うごごごご!」

 

 飲み込んだアクアエレメンタルの一部が喉辺りで暴れ、俺は慌てて吐き出そうとするが、アクアエレメンタルは留まる。

 このままでは、陸上で溺れてしまう。死んでしまう。意識が薄れていく。

 

 冗談ではない。

 

 俺は神々より加護を授かった斧槍を握り、アクアエレメンタルへと迫る。

 そして、エレメンタルがエレメンタルであり続ける為に必須となるコア。それに狙いを定め斧槍を振るう。

 

 パシャ、とコアを失ったアクアエレメンタルは、形が保てなくなり。水として地に飛散した。

 俺は肺に侵入していた水を吐き出し、ぜぇぜぇと荒い息をする。

 

 「大丈夫か相棒?」

 

 グルゥと苦し気な声を上げた相棒だが、吐き出さずに水を飲み込めたようだ。人と竜の体の違いって奴だろう。

 ひとまず地に飛散した元アクアエレメンタルを啜って俺は喉を潤すが、まだ体が水を欲していた。

 

 俺はもう一体。アクアエレメンタルを見つけると、斧槍で斬り捨てる。

 パシャっとアクアエレメンタルが、ただの水に変わると同時に。地に落ちる前に、口を大きく開いて待ち構えて、水を飲む。

 ごくりごくり。

 今度はただの水だ。普通に飲める。

 ただ、これでは効率って奴が非常に悪い。一口水飲む為に、アクアエレメンタルを探して殺すをしているようじゃ。この先苦労するのが目に見える。さてどうするかと、悩んでいるとぷるぷるぐねぐねと蠢く集団が現れる。

 

 「アクアエレメンタルと、あれはアシッドスライムか」

 

 さらに多くの水エネルギーを得て、でかくなったアクアエレメンタルと。人を溶かし食う青、緑、黒のアシッドスライム。

 全部で10体そこそこだ。俺は相棒に騎乗し、駆け。数分と経たず全てを殺す。

 

 「こんなもんか」

 

 斧槍で斬り辛いアシッドスライムもいたが、相棒の黒き炎。デスフレアにはどんな守りを持とうが関係ない。

 力尽きたアシッドスライムの前に、俺は再び悩み始める。

 

 

 「こいつら、どうやって食おう」

 

 

 頭でも打ったのですかおじさま。顔を青くしたユージェンの幻影が、ツッコミをいれてきそうではあるが。俺はいたって冷静だ。

 

 物質界に帰る手はない。

 飯も水もない。

 食わなきゃ生きていけない。

 魔物だろうが食うしかない。

 至って単純な答えだ。忌避感があるかないかと言われたら、そりゃあるさ。だが、背に腹は変えられねぇ。

 食うしかない。

 俺は斧槍を構えた。

 

 アシッドスライム。

 アクアエレメンタルのようにコアらしきものはなく、奴らにとって体を構成する粘液そのものが頭であり、内臓であり、それらの粘液を包む膜が手であり足だ。

 だから斧槍で突いたり、斬れば。膜が破れ、粘液を流し奴らは死ぬ。人で言えば出血死みたいなものだろう。

 

 俺は斧槍でアシッドスライムの死体を串刺しにして、持ち上げた。

 でろでろと流れ出る粘液には、注意を払う。死んでいようが、アシッドスライムの粘液が危険な物には違いない。そしてこれは飲めないし恐らく食べない方がいい。俺もそこまで無謀じゃない。

 そして、串刺しにしたまましばらく放置する。やってることは血抜き、いや酸抜きだな。

 

 しばらくしてアシッドスライムの粘液が抜け、ぶよぶよしたアシッドスライムの膜を手にする。

 これが、俺がアシッドスライムと戦っているおりに見出した可食部だ。

 

 どれ、食べる前に嗅いでみるとするか。

 うーむ。ゴムに似た臭いと、酸の臭いが合わさった。まさにぐっど★すめるだ。

 

 「…………」

 

 念のため、生きたアクアエレメンタルを見つけ、俺はそいつにアシッドスライムの膜をぶち込み、丁寧に洗浄する。臭いは落ちなかった。はぁ。

 

 「さて食うか、相棒」

 

 相棒はマジかよとでも言いたげにグルゥと喉を鳴らすが、これが飯だ。

 嫌だどうこう言っている場合じゃない。俺も腹がぶっ倒れそうだが、それ以上に差し迫っているのは相棒だ。

 その巨体を支える為のエネルギーが、連戦に次ぐ連戦で限界に近いはずだ。

 この先どうなるかは、分からない。相棒を失うわけにはいかない。

 俺は膜に齧る。相棒に食わせるんだ。率先して食うのが道理だ。

 噛み、飲み込む。

 

 「うえぇ」

 

 はっきり言って、アシッドスライムは食えたもんじゃなかった。噛み切るにも苦労し、噛み砕くにも苦労し。

 膜に染み込んだ酸味が猛烈だ。きつい。

 だが、食べる。飲み込む。

 

 そんな俺の姿見た相棒も、覚悟を決めたのかアシッドスライムの膜に噛みついた。

 へへ。容易く膜を噛み切るとは、さすがだぜ相棒。

 俺は相棒の暖かな顎下に触れ。

 

 「次はもっとマシな飯を食おうな」

 

 同意するかのように唸る相棒に、俺は笑うしかなかった。

 

 

 

 ――――――――――

 アトナテスメモ

 

 ※アクアエレメンタル

 「アクアエレメンタルは無害化したら、腹を下さねぇただの水だ。王国の水とは違う味がしたのは、まぁ魔界味って事だろう。飲料水として、魔界では一番世話になった。尊敬するエレメンタルは何かと尋ねられたら、俺はアクアエレメンタルって言うね」

 

 

 

 ※アシッドスライム

 「魔界にいたときは、結局旨く食う方法が見つからなかったな。食ってて気が付いたのはせいぜい、青よりも緑、緑よりも黒のアシッドスライムの酸味が強くなっていることぐらいだな。後日談だが、アシッドスライムの膜は、酸抜きしたあと、水でよく洗い。天日干しにした物を、細く切り。東の国の汁物に混ぜてみたら、酸味を気にすることなく食べることが出来た。

 アシッドスライムの膜は、弾性に富み断水性も良く。食糧よりも、道具の素材として使い道が多かったな。傷付いたアシッドスライムを、アクアエレメンタルが水を注いで癒す所を見て、膜を水筒代わりする発想がなけりゃ。水を一口飲むたびに、アクアエレメンタルを倒すことになっていた。

 弱いアクアエレメンタルをアシッドスライムが守り、傷付いたアシッドスライムをアクアエレメンタルが癒す。この辺の共生関係ってのは魔界でもあるようだ。」

 

 

 

 相棒メモ

 

 「ゴルァアア!」

 『アクアエレメンタルは魔法攻撃属性とはいえ、ステータスが低く。脅威にはならないが。

 アシッドスライムはそのタフさに苦しめられることになるだろう。特に黒色には要注意だ。物理攻撃と魔法攻撃。弱点とする攻撃がアシッドスライムの色事に違うので、使い分けて戦おう。もっとも私のデスフレアの前では無意味ではあるがな!』

 

 

 

 水霊使いS氏の独白

 

 「王国にはたくさんの強い人がいますけど……特に英傑と謳われるアトナテスさんは凄いですね。彼が近づいてくると、アクアエレメンタルが彼の……オーラ?に怯え始めるんですよ。

 何度かどうして?ってわたしが聞いてみても、誰も答えてくれないですよ。不思議ですね。アトナテスさん。よくわたしに凄い凄いって褒めてくれて、お菓子をくれる優しい人なのに……」

 

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