深淵で飯を食す者アトナテス   作:青き男

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エピソード2 ワーラット デーモンワーム

 アシッドスライムの膜をガムのように噛み、飢えをごまかしながら魔界を彷徨っていると、気が付くことがある。

 魔界ってのは草木一本も生えない不毛な土地。と思ったが、一応は植物は生えるようだ。

 戦っている最中には、気が付けなかった。冷静になって観察したら、見えてくるものがあるって事だな。

 どれ、香草の一つでもないかと探してみるが、期待外れだった。

 一応適当な草を千切って口に含んでみたが、食感が悪いそして苦い。生で食うのは無理だな。

 

 むむっ。

 

 草を吟味していると、何やら敵意を感じ、俺は斧槍を握り。敵意の方へ視線を向ける。

 

 赤い目と、毛。そして細い尻尾。

 チューチューと鳴くそれはネズミだった。

 やけに体がデカいことを除けば。

 

 「ワーラット!肉だ!」

 

 俺は斧槍でワーラットの脳天を突く。

 ワーラットは強力な疫病を持ち、近づくだけで体力が減る厄介な相手だが、その肉体は大型個体を除けば強靭ではない。アシッドスライムの方がタフなくらいだ。一撃でワーラットは絶命し。どういう理屈かは知らないが、体力を減らす疫病もまた死滅した。

 さて、食べてみるか。

 

 俺はワーラットの毛を毟り、皮を剥ぐ。ネズミにしては大きいから一苦労だ。

 内臓を取り除き、火。もとい魔法に耐性のある黒いアシッドスライムの膜に、アクアエレメンタル印の水を張って温め。

 その中に放り込んで、湯煎をする。

 

 そして、処理を終えたワーラットを斧槍で串刺しにする。

 当然。肉は生で食べない。トゥアンでも肉には火を通す。

 

 「強火フレア!」

 

 相棒の口から出でし黒き炎で、ワーラットをあぶり焼きにする。

 不思議なもんだ。物質界にいた時には、ネズミを食う習慣なんてものはなく、普段なら食おうとは思わないが。

 肉の焼ける匂いだけで、食欲が湧いてくる。最近食べたものが原因だろう。

 満遍なく焼き終えた、ワーラットに俺はかぶりつく。

 

 「おぉ、いけるいける」

 

 久方ぶりに食べる肉の味に、俺は感動した。

 味は豚肉に似た?あるいは鶏肉?どうにも、美味いと素直に褒められるような美味さではないが、問題なく食べられる肉の味だ。相棒も同じ感想なようで、アシッドスライム膜とは比較にならない勢いで食べている。筋が気になるが、膜よりはマシだ。

 あとは、塩でもあれば話は変わっただろうが。香草と同じく。魔界にあるかは不明だ。しかし、今後の食生活の為にも探してみることにするか。

 

 そんな風に呑気に考えていたせいか、俺は地中より接近してくる敵に対して反応が遅れた。

 

 「ガウ!」

 「うぉ!?」

 

 敵の正体は、デーモンワームだ。

 普段は地中に潜って接敵した時にのみ姿を現し噛みつきを行う。アーチャー含む大体の遠距離攻撃を主体とする奴らには、攻撃させてくれない厄介な魔物だ。

 反応が遅れた俺の代わりに、相棒が尾を鞭のように振るい、デーモンワームを叩く。

 その衝撃に怯んだデーモンワームに、俺は斧槍に刺さったワーラットを取り外して口に含み。斧槍でデーモンワームの根本を一閃する。

 決まったな。

 デーモンワームは倒れ伏した。

 さて、食べてみるか。

 

 俺も相棒もまだまだ成長期のお兄さまだ。いかにワーラットが大きいとはいえ、一匹程度じゃ腹は膨れはしない。

 一先ず、俺はデーモンワームを引っこ抜いてみる。案外苦戦せず、するりと抜けた。

 ワーム。と言われてるだけあってデーモンワームの全体図は、蛇のように尻尾になるにつれて、極端に先細りすることはなく。頭を除けば太さはどこも同じだった。そして、想像以上に全長は長くないようだ。よく見かける地上に顔出す部位。そこだけで全長の4割ほど出しているみたいだ。不安定な足場が多い魔界で生きる為に、短くなったのだろうか。可食部が減るのは残念だ。

 

 デーモンワームの殻を毟り。ねとりとした体液を滴らせる、白い身の匂いを嗅ぐ。本能が訴えるような、危険そうな臭いはしない。いけそうだ。

 再び相棒の強火フレアで、身を炙り、少し焦げ目のついたデーモンワームの身を齧る。

 あの紫の殻の裏にある身は柔らかく。俺の歯を容易く受け入れた。

 

 「……まぁ美味い」

 

 虫食の習慣が無い為か、ワーラット程の感動はないが、淡白な味が良い。

 今のところ、食べやすさという意味では一番だ。

 相棒はというと、殻ごと食ってやがる。さすがの俺でも殻ごとは無理だな。

 

 俺と相棒は満足行くまでワーラットとデーモンワームを食べ終えると、相棒がのしのしとデーモンワームが来た方角へ歩き出した。何か見つけたのだろう。俺は相棒の後を追い。黒い岩を見つける。

 何だこれは。相棒に視線を送ると、相棒は舌で岩を舐める振りをしていた。舐めてみろということだろう。

 相棒が舐めろというならば仕方ない。俺は黒い岩を舐め、舌先に走るしょっぱい味に目を見開く。

 

 「塩か!でかした相棒!」

 

 デーモンワームの通りに道に、岩塩があり。たまたま殻に岩塩が付着したのだろう。

 なんにせよ、こうして俺は魔界の塩を手に入れた。俺達の食糧事情が少し改善された。

 

 

 

 ――――――――――

 アトナテスメモ

 

 ※ワーラット

 「毛と皮と内臓を取り除けば丸焼きにして食える。小骨が多いのと筋っぽいのが気になるが問題じゃないな。美味しく食べるなら香草や塩で、しっかり味付けした物を丸焼きにするといい。

 後日談だが、ワーラットの疫病。これを無害化する術を見つけ、気性を抑えることが出来れば、家畜化出来る可能性が出た。牛豚よりも成長が早くどいつもこいつも、図体はやたらデカくなるという特性を持つので。今や物質界一の軍を持つ王国の、来るべき食糧問題に対する解決策の一つとしてどうだと、王子に提案してみたが。食ってる物の正体を知られたら、もう一度王都脱出するはめになると。却下された。そっかぁ」

 

 

 

 ※デーモンワーム

 「身は生で食える。殻は塩茹でか油で揚げて食べると、カリカリとした食感を楽しめるが、どうにも魔界に適応してない奴らが食べると腹を下す傾向がある。憶測だが、魔界の瘴気を糧にしているデーモンだからだろう。

 それと、魔界彷徨っている間に見つけた事だが、魔界を行軍する上で重要事項の一つとして書き記す。

 デーモンワームの通った道は、紫竜の騎士。この、英傑アトナテスの名において宣言してもいい。絶対に安全だ。物質界と違って舗装されてない。そもそもどういう理屈で浮いてるか分からねぇ土地が多い魔界において、デーモンワームはそんな地中を移動する魔物だ。崩れない道ってのを奴らは知っているし、同族の為にか、道を潰さねぇ移動をしている。だから奴らが通った道は安全だ。最も歩けるという意味で安全なだけで、デーモンワームが襲い掛かってくることには変わらねぇけどな」

 

 

 

 相棒メモ

 「ギャァオオ!」

 『ワーラットは危険だ。奴らはステータスこそ低いが、スリップダメージがその脅威度を増している。遠距離職に近づく所もまたいやらしい。遠距離攻撃で近づかれる前に倒す。が出来ればいいが、不可能な場合は、ワーラットのスリップダメージ圏外にヒーラーを配置し、隔離するようにブロックするといいだろう。いっそのこと倒せればラッキー感覚で撤退時コストを回収できるワルキューレ等で一時ブロックするのも手だ。まぁ私のデスフレアの前では、ただのネズミだがな。

 そして……デーモンワームだが、こいつは嫌いだ。ブロックをせねば遠距離攻撃が出来ない。遠距離職ばかり配置してうっかり拠点まで到達されることのないようにしよう。こいつばかりはアトナテスに任せるしかない』

 

 

 

 竜騎士R氏の雑談

 「魔界の奴隷地区に住んでた時に、先住者が口を酸っぱくして言ってたな。魔界じゃ道らしい道がねぇ。崩れ落ちたら命の保証が出来んから気をつけろ。ワーラットはどこにでも湧くから、見つけたらあぶねぇから逃げろってな。一部の腹空かした奴らはワーラットを食べたらしいが、ワーラットの危険さを嫌というほど知ってるアタシらからしたら、アレを食べようなんて奴はよっぽど勇敢かアホだな」

 

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