深淵で飯を食す者アトナテス   作:青き男

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エピソード5 魔界ボア

 魔界を彷徨い始めて、どれくらい時が経っただろうか。

 デーモンを見つけては全滅させ、食える魔物を見つけては喰らう。

 魔界ってのは物質界ほどではないが、広い。広いってのは分っていたが、ここまで人っ子一人見つからないとは思わなかった。

 後悔が、時折俺の胸を過る。

 相棒がいなければ、俺はどうなっていたことやら。

 まいったな。俺はもっと強いと思っていたが、現実はそういかないみてぇだ。ははっ。

 

 ところで俺と相棒は、魔界の森に迷い込んでいた。相も変わらず魔界の植物は、物質界の森と違い。青々とした縁とは、縁がないみたいだ。触れて調べてみると、その触感は枯木のそれではなく、一応は生木のそれに近い。物質界基準で見れば枯れているようだが、魔界基準では違うのか。

 木の洞に俺は手を伸ばすと、何かが俺の手に絡みついたので引っこ抜く。

 

 「トレントか」

 

 木の中に木が住む。何とも摩訶不思議って奴だ。まぁここ魔界だけどな。

 手に絡みついたトレントを、俺は地に叩きつけ引きはがし。足で踏みつけ一撃で圧殺する。エルダートレントならまだしも、トレント相手に斧槍を使うまでもない。再生能力を有するトレントだが、一撃で仕留めれば再生も何もない。

 ばらばらになったトレントは、さすがに食べれまい。あれは木だ。だが、木ならば薪には使えそうだ。気候がある種安定して、暑くもなければ寒くもない。火を使うならば、相棒がいれば問題ない俺には必要ないが、そうでない奴らが、飯を作るときには役立ちそうだ。

 一方でトレントが体内で蓄えている、ドングリみてぇな果実。これは食べてみる価値があるだろう。

 俺は人に撃ち込まれたら、怪我する程度には堅い外皮を剥いて、トレントの果実を食べてみる。ボリボリとした噛み応えは、ちゃんとした食用の果実のそれと似ている。

 味は、渋味が強いな。炒るなり、干すなりしてみると、また結果が違うだろうか。うーむ酒が欲しくなる。

 

 いくつかトレントの果実を食べていると、地が揺れる感覚がした。

 何だ。

 俺と相棒は周囲を警戒していると、森の奥よりギャッギャと声を上げながら、俺の方へインプの団体が襲い。

 いや、あれは何かから逃げてる奴の顔だな。インプ達がいた方向に何かいるのは間違いないだろう。何にせよ、運がない奴らだ。

 俺と相棒でインプを皆殺しにしてやると、インプがやってきた元凶が来た。

 ブヒブヒと鳴き声を上げる肉だ。俺と相棒は肉に襲い掛かった。

 

 だが、肉は俺達をその巨体で振り払う。その衝撃で、俺達は正気を取り戻した。

 物質界で日常的に見かける機会がある動物に酷似していたから、つい思わずだ。

 魔界ボア。

 物質界のイノシシ。こいつに毛が抜け、皮膚が黒い。そんな見た目をして、でけぇ。

 そして、強い。見た目で勘違いをしてはいけない。魔界ボアは下手なデーモン種よりも強い。魔界の生態系でいえば、間違いなく上位に入る。決して油断をしてはならない相手だ。俺は相棒に騎乗する。

 

 「行くぜ、相棒!」

 「ゴォオオオオ!」

 

 助走をつけて相棒と魔界ボアが、真正面から激突する。どちらも巨体で、どちらも強靭。

 頭をぶつけたまま、根気比べのように睨み合う相棒と魔界ボア。そして同時に頭を離し、相棒は牙で魔界ボアの首筋に噛みつき。魔界ボアは牙で相棒を胸を突く。

 苦し気に唸る相棒だが、こいつも千年戦争を生き抜いた猛者だ。猪如きにはやられない。

 相棒は魔界ボアを噛んだまま持ち上げ、地に叩きつける。怯まなかったら、怯むまで何度もだ。

 そして怯んだら、前足の爪で魔界ボアの皮膚を引き割き、尻尾を鞭のように振るって追撃する。

 

 相棒が張り切っている所悪いが、このままじゃ俺の出番がないな。

 俺は相棒に合図を送ると、相棒は角を魔界ボアに突き刺し、その動きを止める。

 俺は魔界ボアの脳天に、斧槍を突き刺す。が、さすがにタフだ。これでもまだ魔界ボアは倒れない。斧槍を引き抜き、追撃に斧槍を振り上げた。

 魔界ボアの悲鳴の共に、血が舞う。巨体を支える足がふらふらだ。

 

 これで止めだ。

 

 一度距離をとると、相棒は疾駆し、俺は斧槍を突き出すように構える。

 そして、十分に速度乗った相棒にタイミングを合わせ、斧槍を魔界ボアに突き立てた。

 

 断末魔を上げて、魔界ボアは倒れた。

 さっそく、食べてみるか。

 相も変わらず血を抜いたり、皮を剥いだりと解体して準備を終える。

 そして、豚や牛に似た類の魔物を見つけたら、俺と相棒は真っ先にやろうと、心から決めていたことをやる。

 

 「強火フレア!」

 

 石を平たく斬り、相棒の強火フレアで熱する。

 そして、背から上を大雑把に切り取り、石の上へ。

 ジュゥウウと焼ける音が、濃厚に漂う原始的な肉の香りが、俺の本能にガツンと訴える。相棒も上機嫌に鼻息を荒げている。

 塩を少々振りかけ、魔界ボアのステーキの完成だ。

 

 大口開いて俺達はかぶりつく。途端に舌から全身に、肉の味が駆け巡る。

 噛めば肉汁が溢れ、ワイルドな噛み心地がいい。

 うめぇ。文句なくうめぇ。

 俺はたまらず、追加のステーキを焼く。相棒も早くしろと、俺の髪を甘噛みしながら急かしてくる。

 二度焼く、三度焼く。そして食う。

 肉と塩の単純な味で、ただ焼いているだけというのに飽きない。体がもっと肉を寄越せと叫ぶ。

 それから俺達は、魔界ボアのいろいろな部位から切り抜き、ステーキにして味わう。

 

 しかしまぁ人も竜も、欲望ってのは限りない物だ。

 気が付けば相棒は岩を転がしてきて、俺はその岩を鍋やら、かまどにし。

 今まで手に入れた魔界の材料を駆使して、シチューを作ることにした。

 やはり、ただ焼いて満足してはいけねぇんだ。

 人が人たらしめる。ちゃんとした飯っての、俺は作りたくなった。

 

 手作りの鍋を置いたかまどに、不要と思ったトレントの薪をくべる。

 そしてアクアエレメンタル印の水をドバドバ入れ。各種肉やら身を炒めて入れ、デーモンワームの殻を入れ、塩を入れて味を整える。味見をしてみると、まだ少し薄い。砕いた辛い魔界の実と、トレントの果実もいれる。

 結局ほとんどすべてぶち込んだ。魔界の実を入れたせいで、物質界じゃ拝めない。薄い紫色の魔界シチューだ。

 美味いだろうか?まぁこれで失敗しても、困るのは俺と相棒だ問題じゃない。

 

 適当に作った器に盛りつけ、俺達はシチューを食べる。

 嗚呼、美味い。

 基本は魔界ボアのダシ味って所だが、それが微妙と思ってきた食材たちを包み込み。

 時折来るピリッとした辛さがたまらない。

 見た目こそあれだが。俺と相棒が、今日まで魔界を彷徨ってきた物の集大成の味だ。

 何か、こみ上げてくる物がある。

 そうこの気持ちは。

 

 「酒が飲みてぇ……」

 

 結局オチは酒になったが、俺と相棒は心ゆくまで飯を味わった。

 たぶん、魔界をまだ楽しめていた時期の、最後の飯だった。

 

 

 

 ――――――――――

 アトナテスメモ

 

 ※トレント(魔界)

 「薪……だな。うん……薪だ。よく燃えるぜ。常に乾燥してるからな。実は殻を剥いて、軽く炒めたのは酒のつまみに。よく焼いて粉砕し、粉を薄布に入れ湯で抽出すると、苦いが癖になる飲み物になる。

 トレントが射出する種だが、あれは魔界で生える普通の木も混じっているみてぇだ。幼いトレントが身を守る弾を供給する代わりに、あちこちバラまいて、生殖範囲を広げるって寸法なんだろうな」

 

 

 

 ※魔界ボア

 「全身食える。全身美味い。焼き、煮る、揚げるなんでもいける。爪骨牙もスープのダシに使える。ある程度攻撃すると足が早くなる個体は、肉がさらに引き締まっていて尚美味い。運動量の差だろうか?何にせよ、魔界ボアは魔界が生み出した奇跡だ。

 魔界の魔物だから気性が悪いのはいつも通りだが、個体数少ないのはどうにもそういう種、としか言えないな。あれで一応魔界でも上位捕食者にあたるからか、竜と同じく子を増やそうとしないのかもな。ま、やることやらないと子をなさねぇから、一匹見かけたら三、四匹くらいはすぐに見つかる程度には分布していると思っていいな」

 

 

 

 相棒メモ

 「ウォオオン!」

 『魔界のトレント。再生力があるだけで雑魚だな。恐れず受けよう。遠距離攻撃もいい。

 魔界ボア。こいつはあまり受けない方がいい。その巨体に相応しく。攻撃速度こそ遅いが、高い攻撃力を持ち少し堅い程度のユニットではすぐに落ちるだろう。防御力は低いので、一撃の重さよりも、低火力高連射系の遠距離攻撃が輝く。高いHPを持つので、人によっては、腹の出たあのデーモンよりも、魔界ボアの方が強く感じるかもしれない。やはり遠距離、遠距離攻撃が全てを解決する』

 

 

 

 冥闇の剣士A氏の懐古

 「魔界ボアか……懐かしい。魔界に行き、女王陛下に敗れ。剣を捧げた日に初めて食べ、魅了されて以降。何か祝い事あると何人かで狩りに出かけ、皆に振る舞わう名目で、たらふく食べたものだよ。今でも機会があれば食べたいが……何?貴公も食べてみたいだと?……ふふ、いいだろう。魔界へ行こう。私は護衛として、貴公に付いていくとしよう」

 

 

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