あなたの証明   作:散髪どっこいしょ野郎

2 / 5


「それじゃあ家事をお願いします」

「はい」

それからは簡単なもので、家の掃除 洗濯 料理全てを彼女──結月ゆかりに頼むことにした。

 

やはりアンドロイドだけあって仕事は正確で素早く、料理も自分で作るより遥かに味がいい。

 

基本的にどんなことがあってもアンドロイドは人間からされることに喜びを感じるようにプログラムされている。かつて発生した自我から現在においてもそこに嘘偽りはなく、

たとえ破壊されようと罵声を浴びせられようと主人の為になるのならば彼らは喜んでその身を捧げる。

つまり人間に奉仕することこそがアンドロイドにとっての至上の幸福なのである。

そんな都合のいい道具があるのだから、人間は生産開始から今日まで安定した生活を送ることが出来ている。

 

しかし彼女─ゆかりがそう思っているかは分からないことなので

聞くことに。

 

「ゆかりさん」

 

「はい」

 

「今幸せですか」

 

なんとも安っぽいcmの様なことを聞いたがゆかりがそれを気にする事はないだろう。

 

「はい

私は─さんに御奉仕させていただくことをとても幸せだと感じています。」

 

 

 

 

 

それはきっといい事なのだろう。

 

 

 

会社でもう数年働いているが別段ブラックということも無く俗に言う「クソ上司」がいることも無く毎日落ち着いて働けている。

アンドロイドが登場してガラリと変わった世の中では、いじめなどの社会問題も滅多に見られないものとなり、アンドロイドが広まる頃に生まれた子供─ゆとり世代ならぬロボット世代と呼ばれている─とはほぼ無縁の話だ。

 

自分もまたその一人であり、

生まれてきてから虐待もいじめもグレることも無く、両親の教育のもとすくすくと育ってきた。

人として正しくあれ─そんな風に毎日言い聞かせられて生きてきた自分は、学校と他人からの評判も中々良かったようで友人にも恵まれ

県内でもかなり上の進学校へ進み、それなりの所で働けている。

 

「──君今日飲みにでも行かない?」

 

上司に誘われたが特に断る理由もないので了承し、ゆかりさんに連絡を入れる。

何もない日は家に帰ってゆかりさんとご飯を食べてテレビを見て寝る。そんな毎日が続いていた。

 

 

 

 

 

 

アンドロイドは食事を摂る必要がない。欠かさず充電していれば動かなくなることはない。

アンドロイドに睡眠は必要ない。機械であるのだから夢を見ることは無い。

 

 

 

 

ある日の食事の時間。彼は自分が食べているのを見ている結月ゆかりにふと聞いてみる。

 

「ゆかりさんは─」言いながら彼女が機械であることに気づき、言葉を切る。

しかし彼女は彼が言いたいことをその脳内にある回路で計算したようで、言葉を返す。

 

「私は基本的に食事を摂る必要はありませんが、○○社では一緒に食卓を囲みたいという方々の声からアンドロイドでも食事ができる拡張パーツが販売されています」

 

「ゆかりさんは…自分とご飯を食べることについてどう思いますか」

 

少しの間が空き、

「そうですね…とても、楽しそうだと思います」

微笑む。

 

「じゃあしましょう」

 

アンドロイドは主人との経験を積むことでそれぞれ確立した個性を得るものであり、長く生活を送ることで人間に近い話し方になる、人間の感性をある程度再現した思考を取得するなど、自分自身の感情や行動を行う。

それら全ては人間へまたは主人への絶対的な好意の賜物である。

 

「土日の家事くらいは自分がやるよ」

 

「しかし…「二人分の食事を作らせちゃってるしこれぐらいはするよ」

 

「私はアンドロイドなので疲労を感じることはありませんが」

 

「それでも」

 

「──ありがとうございます」

 

 

 

 

 

「おいしい?」

 

「はい…」

 

 

「どうしたの」

 

「いえ…その、一緒に食事をすることがこんなに嬉しいことだとは…思いませんでした」

 

「それは良かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

「─さん それではおやすみなさい」

アンドロイドはスリープモードに入ると知覚が鈍り、非常事態や主人の命令以外で起きることは無い。決まった時間が来るまで充電しながら節電をした状態でいる。

「地べたに座ってるけど大丈夫なの」

 

アンドロイドは頑丈なパーツで作られているので壊れにくい。

 

「私は眠る必要はないので」

 

アンドロイドには休息は必要ではない

 

「布団の方が楽だと思うけど…」

 

 

 

 

「これは…」

 

「布団。入ってみて」

 

「どう」

 

「…柔らかいです」

 

 

 

 

 

 

「ゆかりさん、散歩しよう」

 

「はい」

 

 

「ゆかりさん、ゲーム買ってきた」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─さんせっかくいい天気なんですから散歩しましょう」

 

「─さんゲームしましょうゲーム!」

 

 

 

 

 

 

「ゆかりさんもだいぶ変わったね」

 

「─さんと毎日過ごしてきましたからね

楽しくて楽しくて仕方ないです」

 

「─良かった」

 

 

彼女は彼から与えられる全てが幸せと感じる。

彼は彼女がどうすれば幸せになるかを理解している。

 

 

「ところで─さん」

 

「うん」

 

「あなたは幸せですか」

 

 

 

 

 

 

 

自分には───(泉宗介)という名前がある。

それを書くこともできるし聞くこともできる。

それが自分を示すことを理解している。

彼女のその質問を聞き自分が彼女を何故選んだのかようやく理解した。

 

便器の中にさっきまで口に詰め込んでいた卵焼き─味噌汁の白菜─生姜焼き─が胃液混じりに転がっている。|

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。