私はボイスロイドでありアンドロイド
結月ゆかり
何処か上の空であるこの人の生活補助を行う
この人の名前は泉宗介
元々マスターと呼称するべきなのだが
泉さんと呼ぶことになった
泉さんが頼んできたことは家事だった
毎日帰ってくる泉さんの食事をつくり
泉さんの服を洗濯して
家の掃除をして
彼の帰りを待つ
いつもおいしいと言ってくれる泉さんの為に私の義体をフル活用することが幸せだった
ある日唐突に食事について聞かれた
やはり泉さんは誰かと食事を摂る方が良いのだろうか
そして一週間も経たずして私たちは同じご飯をつついていた
私は新しい幸せを知った
泉さんはそれ以外にも様々な喜びを私に与えてくれた
服を買ってくれてベッドをくれて一緒にゲームをしてくれて一緒に外に行ってくれて一緒に歩いてくれて話してくれて…
数え切れない幸福を彼からもらっていた
彼はとても静かな人で声を荒げることもなく怒りに震えることもなく誠実に生きていた
だからなのだろう
泉さんは一般的な人間とは程遠かった
泉さんは普段なにがあっても負の感情を口にすることも喜びを発することもなかった
彼は果たして私が、結月ゆかりがいることで幸せなのだろうか
彼は私が嬉しいと思うことしかしていないのだから、もっと自分のために私を使って欲しい
私が私自身の感情を取得することで得た
疑問を彼に投げかける
「ところで泉さん」
「うん」
「あなたは幸せですか」
ガタリと音を立てて立ち上がったかと思うと、
数秒経つ間に泉さんの顔が薄いオレンジ色の照明の下で青白く染まっていく
トイレに駆け込んで行った泉さんの状態を頭の電子回路が最速で導き出す
それ以外の思考が生じるより早く、泉さんを追いかける
便器に激しくさっきまで皿の中に盛り付けられていたものを吐き出す泉さんの背中をさする
あくまで機械である私が酷く動揺していることに
私自身が驚いている
何か言っては行けないことだっだろうか
不安が募る
やがて吐き出す物すら無くなり、荒い息をつく彼を
落ち着かせようとだき抱えると、
彼の何かを伝えようとする目が見えた
私は彼のために動き、話す機械なのだからこれ以上
彼に負担をかける訳にはいかない
そう決心して歩きだそうとすると体全体を預けるようにして抱きしめられた
頭の中が喜びで満たされる
私は結局与えられてばかりだ。
こんな状況だというのに嬉しいと思っている
自分は彼のためにいるというのに
何も彼を助けられず与えることも出来ていない
それも今終わりにしよう
彼が囁く
ただ抱きしめた