夢を見ていた
君と出会ったあの日
あの夢のような日の夢を
昼の食堂
いつもより少し遅れてしまったが、いつものように
「焼き肉定食焼き肉抜き」を食べているであろう友人のもとへ向かう
偏屈なやつで座る場所はいつも同じなので迷わずそちらに足を進めれば
「あの!」
友人、上杉風太郎は見覚えのない女生徒に絡まれていた
「私の方が先でした
隣の席が空いてるので移ってください」
女生徒、星形の髪飾りが特徴的なその子は風太郎に対し物怖じなく言い放つ
「ここは毎日俺とツレが座ってる席だ
あんたが移れ」
「関係ありません
早い者勝ちです」
初対面にそこまで強気に出る風太郎もだが引かない彼女もすごいな…
「大体あなた今1人じゃないですか!」
「少ししたら来るんだよ!
………あ!おい優希!」
口論の末あたりを見渡した風太郎が俺の姿を見付けて大声で呼ぶ
やめろ…俺まで悪目立ちする
とは言え友人を無視するわけにもいかず、いつもより若干重い足取りで近づいていく
「そういうわけだ!残念だったな!」
「〜〜〜〜!!」
フハハハハと悪役よろしく勝ち誇ったうえで席に座る風太郎と顔を赤くしてプルプル震えてる女生徒
どーしよーもねーな我が幼馴染は…
「あ!?おい優希何してんだよ!?」
「どこ座ろうが別にいいでしょうが」
隣の席に座る俺に対して声を荒げる風太郎にため息と共にそう返してやる
「ほら、風太郎もこっち移れば?」
「ぬぐぐぐ…!ふん!」
結局唸るだけ唸っていつもの定位置へ
そして何故か
「おい…」
「椅子は空いてました!
それに午前中にこの高校を見て回ったせいで足が限界なんです」
風太郎の目の前に座る女生徒
なるほど、制服からして他校の人だろうとは思ったが転校生なわけか
周りからは風太郎が女子と飯食ってることに対して多少なりともざわつきが起こる
それが聞こえたのであろう彼女は顔を赤くして俯く
どう考えても無理してるな…
「……勝手にすれば?」
風太郎も流石に察したのかぶっきらぼうに許可を出せば彼女はほっと胸を撫で下ろし食事を開始する
こちらも食事を始めながら横を見れば彼女のお盆にはうどんに天ぷら、デザートのプリンと向かいに座るご飯、味噌汁、お新香のみの風太郎の食事との落差が悲しくなってくるな
「行儀が悪いですよ」
食事をとりながらテストの復習を始めた風太郎を見て彼女は眉を顰めている
俺からしたらいつものことだが喋り方といい真面目なタイプらしい
「何?ながら見してた二宮金二郎は称えられてるのに俺は怒られるの?」
「状況が違います!」
「テストの復習してるんだ
ほっといてくれ」
「食事中に勉強なんて…
よほど追い込まれているんですね
何点だったんですか?」
「あ!おい!」
女生徒は風太郎の手から答案を取り上げる
「ええー…上杉風太郎くん
得点は…100点!?」
「あーめっちゃ恥ずかしい!」
いい性格してるよ全く
女生徒は顔を赤くして風太郎を睨む
「わざと見せましたね!?」
「何のことだか」
「うう…悔しいですが勉強は得意でないので羨ましいです…
そうです!」
ぱんと顔の横で手を叩きいいことを思いついたという顔の女生徒
「私、良いことおもいつきました
せっかく相席になったんです
勉強教えてくださいよ」
おぉ…風太郎にモテ期が来たのか!?
「ごちそうさまでした」
って即座に立ち去るのかよ
「ええ!?食べるの早っ…
お昼ご飯それっぽっちでいいのですか?
私の分少し分けましょうか?」
「満腹だね
むしろあんたが頼みすぎなんだよ
太るぞ」
うっそだろお前…それ思っても言っちゃう?
「ふとっ…!?
あなたみたいな無神経な人は初めてです!
もう何もあげません!」
怒ってそっぽを向く女生徒を尻目に風太郎は食堂から出て行った
携帯が鳴ってたあたりらいはちゃんか親父さんから連絡でも入ったんだろう
さて…
「悪いな
あいつは勉強できるからって他人を見下しがちで偏屈で攻撃的で陰険なんだ」
「あ、いえ…あなたが謝ることでは…
と言うかそこまで言わなくても…お友達ですよね?」
フォローではないが流石に女性にあれは言い過ぎだろ…
女生徒は話しかけられたのが意外だったのか目を丸くしている
「ガキの頃から一緒だから」
親同士が仲良いからマジで生まれた時から一緒ってやつ
向こうも俺の目の前で平然と根暗前髪呼ばわりしてくるから今更罵倒し合いなんて挨拶みたいなもんだ
「幼馴染なんですね
あの、あなたは行かないんですか?」
「ああ、あいつがさっさと飯食って戻るのはいつものことだし」
というか多分家族と電話中だろうから行ったところで特に何もないしな
「さっきので気分悪くさせたんなら別の席に行くけど」
「い、いえ!そんな気を遣っていただかなくても」
「そうか
なら遠慮なく」
真面目だねぇ
今から別の席を探すのは正直面倒だから助かる
食事を再開したが隣の席から視線を感じる…
「あの…食事、それだけですか?」
「…ああ、いつもこれだから気にしないで」
まあ、普通に食堂のランチを食べてる人からすれば異質だろうな…
袋詰めのパンの耳をもさもさ齧ってるのは
「……栄養が偏りますよ?」
「気遣いどうも
ただこっちにも懐事情があってね」
バイト先の廃棄品を好意で分けてもらっているから昼の食費は0円
風太郎の焼き肉抜き定食を上回るコスパ
まあ、食堂のメニューではないんだが
「………あの…よかったらこれをどうぞ」
女生徒はそんな声と共に天ぷらを一つ差し出してくる
しかし…
「いや、そんな苦渋の決断みたいな顔で差し出されたものはもらえん」
「〜〜〜!!」
指摘されたのがよほど恥ずかしかったのか顔を真っ赤にして俯いてしまう
なんというか庇護欲とか加虐心をくすぐってくる仕草だが天然でこれやってんのか?
「勉強」
「え?」
とは言えこの話の流れは切りたいし、ふと先程の風太郎とのやりとりを思い出しそう切り出す
「あいつほどじゃないがそこそこ教えられるとは思うけど」
「いいんですか?」
「ああ
ただお互い飯は食ってからな」
「はい!お願いしますね」
思ったより食いついてくれたな
話の流れ変えたいだけだったから断られるかとも思ったが
まあどうせ飯食った後にやることなんて特にないしたまには良いだろ
「そういえば、自己紹介がまだでしたね
私は中野五月といいます
今日からこの学校に転校してきました」
やっぱ転校生か
こんな時期に珍しいな
しかし名乗られた以上こっちも名乗らないわけにはいかんしな
「中野ね
下川優希(しもかわゆうき)
よろしく」
「はい!よろしくお願いします
下川くん」
初対面だってのに随分と良い笑顔だこと
これで俺が教えるまでもない優秀なやつだったらとんだ道化になるが大丈夫なのかね…
なんて考えていたことがまさか予想の斜め下をいく結果となることをこの時の俺は知るよしもなかったのだった
午後の授業が始まる前の教室
周りは午後から来る転校生の話題でソワソワとしているが既にその人物と出会ってしまってるであろう俺としては心配事のほうが多い
昼休みの食後、あのまま食堂で中野と勉強、課題のわからないところの質問を受けたのだが正直困惑した
生真面目な態度とは裏腹に課題の出来は良くない
ぶっちゃけ落第レベル
彼女も自覚はあったものの面と向かって指摘されたのは流石に応えたらしく
食事中の元気の良さを無くしたまま別れてしまった
『し、下川くんは悪くないんですよ?
私が不甲斐ないだけですから』
別れ際までこちらに気を遣ってくるのでかえって申し訳なく思ってしまった
こんな時期の転校といいかなり訳ありなんだろう
まあ、頼られれば力になるくらいはしよう
と、考え事をしてるうちに担任が転校生が来る旨を伝え隣に立つその子に自己紹介を促していた
「中野一花です
よろしくお願いします」
ん???
てっきり昼に会った女生徒、中野五月が転校生だとばかり思っていたが、今自己紹介をしたのは背格好や顔立ちはそっくりな、いや瓜二つと言って良い顔の別の女生徒だった
違いと言えば昼休みの中野は胸元までの長い髪だったが、転校生は耳が隠れるほどのショートカットだ
姉妹か?じゃあ昼の中野は先輩か後輩だったわけで…
「………?」
おっと…さすがにガン見しすぎた
俺とは教室の反対側の席へ向かう中野を目で追ってしまった
一瞬目があったような気はしたが、まあすぐ逸らしたし
ただ周りのヒソヒソ話は、転校生中野への好奇心と、問題児の俺がその転校生にガン付けていたなどと話題を二分することとなった
年頃の学生ってのは噂話が好きなことで…
まあ、わざわざ聞きにいく必要性もないし
今頃同じように転入するクラスで新しい級友に囲まれる中野の幸運を祈って授業に集中することにした
「うちの借金が返せるかもしれん!」
放課後の下校時間、別のクラスの幼馴染は合流した途端鼻息荒くこう告げてきた
「……そうか
人間の腎臓ってひとつくらいとっても平気らしいからな」
「お前までらいはみたいな事言ってんじゃねぇ!」
ふむ
あの借金を返すあてなんて聞いたらまともな仕事でないと思ったがどうも違うらしい
なんでも
・最近引っ越してきた金持ちの娘の家庭教師
・アットホームで楽しい職場!
・相場の5倍のお給料!
………うん
「売り飛ばされるならその前に助け呼べよ」
「だからそれはもう良い!
でだ!その金持ちの娘ってのが昼に会ったあの女生徒でうちのクラスに転校してきたんだよ」
んん??
「お前のクラス?中野五月さんが?」
「そうだよ
そんで何故か俺はあいつに避けられている」
「お前勉強できるのにたまにバカだよなー」
なんだと!?と激昂する
この学年一位の頭脳の持ち主は今日の昼の出来事をすでに忘れてるというのか
「ぐ…確かに俺の言い方に若干、わずかばかり、ほんの少し非があったかもしれん…」
「あーはいはい」
「だが!それで諦めるわけにはいかん!
どうにかしてご機嫌をとって高額バイトを掴み取る」
「………具体的には?」
「ふっ
完璧なプランがある」
自信満々でそのプランとやらを話す風太郎
………うん
「お前バカだなー」
「なんでだよ!?」
そのプランとやらが完璧だと思ってるところがだよ
とはいえこいつが言い出したら聞かないのは昔から変わらないし
やれやれ、できる限るフォローするこちらの身にもなってほしいもんだ
翌日の昼休み
今日はどうやら俺の方が早く食堂に着いたようで風太郎の姿はまだ無い
さて、頼まれたわけでは無いがフォローのために中野を探す
放っておくと確実に風太郎は立場を悪くするであろうからせめて話し合いの場くらい整えたいが
「あ!下川くん」
後ろから声をかけられる
振り返れば昨日この食堂で出会った女生徒、中野五月の姿があった
「昨日はありがとうございました」
「いや、大したことはできてないし気にしないで」
やっぱり律儀なやつだな
「は!昨日の彼は!?」
突如警戒をあらわにして辺りを見回す中野
昨日の彼って聞くまでもないけど風太郎だよなー
この警戒とくのは一筋縄ではいかんぞこれ
「お待たせしました」
「も〜おそいよ〜」
なんて考えてたらいつのまにか中野は待ち合わせをしていたのであろう他の女生徒と同じテーブルに着く
ってこの5人まさか…
「友達と食べてる!!」
おっと風太郎ようやく来たか
見ての通り昨日話していた『さりげなく隣に座り運命だのなんだのと囁いて勉強を教える』という完璧な作戦は不発に終わったぞ
「すみません
席は埋まっていますよ」
さわやかな笑顔でトゲのある発言
女ってこえー
「ほれ、風太郎仕切り直すぞ」
「ぐぬぬぬ…!」
憎々しげに唸る風太郎を促しいつもの席へ向かおうとする
「あれ?行っちゃうの?」
まさか向こうから声をかけてきたか
不思議そうな声をあげたのはうちのクラスに転入してきた中野一花
「席探してたんでしょ?
私たちと一緒に食べていけばいいよ」
「食えるか!」
「…風太郎
そこは乗っておけば中野の機嫌取る機会にもなるだろうに」
ここまできて日和るなよ…
せっかくチャンスを向こうから提供してきたんだからのっとけ
「ふーん
五月ちゃんが狙いでしょ?」
一花は風太郎の顔を下から覗き込みながらん?と小首を傾げた
「狙ってるわけじゃ…」
「えっ!?本当に五月ちゃんなんだ!」
「………」
結局不機嫌そうに風太郎は歩き出す
が、
「ずばり決め手は何だったんですか〜?
真面目なとこ?
好きそうだもんね」
何故かついてきて質問攻めをしてくる一花
「あそうだ
私が呼んできてあげるよ」
「待て」
元の席に戻り五月を呼びにいくつもりだったのだろう彼女の手を掴み風太郎は言う
「余計なことはするな
自分のことは自分で何とかする」
「ふーん」
相変わらず男気の出し方がずれてる…
だが、その答えが何故か気に入ったのか一花は少し微笑み
「ガリ勉くんのくせに男らしいこと言うじゃん!」
「うっ!」
楽しげに風太郎の背中を引っ叩いた
いい音したなー痛そう
「あ、でも
困ったことがあったらこの一花お姉さんに相談するんだぞ
なんか面白そうだし」
なんて楽しそうに言い残し去ってい…
「君」
…くことはせず何故か今度は俺の顔を覗き込んでくる
「同じクラスだよね?
名前は確か…下田くん!」
「………ドーモ下田デス」
「いや誰だよ…訂正しろよ」
同じクラスとはいえ今まで話す機会なんて無かったからなー
それに正直風太郎の家庭教師の件がなければ関わりたくない類の人だと直感したから対応なんて適当で良いんだよ
「うんうん
君が五月ちゃんの言ってた子だったんだね」
「ナンノコトヤラ」
「なんでさっきからカタコトなんだ…」
風太郎…察しろ
最小限のやり取りでさっさと会話終わらせたいんだよ
「よし!
じゃあ君はちょっとこっち来ようか」
「「は!?」」
風太郎と同時に声を上げれば気付けば手首を掴まれズンズン引っ張られる
風太郎のポカン顔が遠ざかってくのを他人事のように感じていたら
「おっ待たせ〜」
「はあ!?何よそいつ!?」
「し、下川くん!?」
気づけば先程の席
蝶のような髪留めをした女生徒が声を荒げ、唯一顔見知りの五月も声を上げる
しかし…
「同じ顔が5人…」
そう、この席に着く女生徒5人髪型や身に付けているものの違いはあれど同じ顔つき
まさに瓜二つ…いや瓜五つ…
そんな言葉は存在しないだろと現実逃避に走ろうとする思考を繋ぎ止め
「まさかとは思うけどあんたたちは…」
「ん?多分そのまさかだよ」
悪戯っぽく笑う一花
「私たち五つ子の姉妹なんです」
補足するように五月は答えた
………相場の五倍ってそう言うことかー
幼馴染のこれからの受難を考えて眩暈がした
オリ主はFG◯のバーソ◯ミューが発狂する程度のほぼ両目隠れです