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「む」
「げ」
あれ?なんかデジャヴ
顔を合わせるだけで相変わらずのこんな反応をしてくるのは
「中野次女」
「その記号みたいな呼び方いい加減やめなさいよ」
二乃がうんざりした様子で睨んでくる
だってお前、名前で呼んだら馴れ馴れしいとかキレそうじゃん?
「それくらいでキレないわよ!」
ツッコミのキレは抜群なんだけどな
「やかましいわ!」
うん
こいつとの会話はテンポが良くて楽しい
だが
「次女
ここ病院だから静かにな」
時と場は弁えよう
二乃はまだ何か言いたげだったが流石に静かになった
ものすごい顔で睨んではきているが
「それにしても、どっか悪いの?
学校では元気そうだったけど」
「別にそういうわけじゃ…
あ!やば」
ふむ
一花から風邪でももらったかと思ったがそうでもないらしい
そんで何で待ち合いの椅子の影に隠れてんの?
「いい?
私のことは黙ってなさい」
なんのこっちゃ…
というか俺にも用事あるんだけど
「わお!下川さん」
またもデジャヴ
声の方を向けば特徴的なウサ耳リボンの四葉
だけでなく
「やっほー
さっきぶり」
「こんにちは
ユーキ」
一花と三玖の姿もあった
そういえば今日の放課後は勉強会無しにしてたっけか
そして言葉通り、一花とはさっき教室で別れたばかりだ
あれから、林間学校から数日経っているが一花は休学や退学の話を保留にしていた
理由について聞いてみたが適当にはぐらかされてしまった
『誰かさんは私がいないと寂しいらしいからね〜』なんてニヤニヤ顔されたのは流石にイラっときたが…
「全員お揃いで…じゃなさそうだな」
「ええそうなんです
二乃と五月を見かけませんでしたか?」
そこの椅子の影にいるよーなんて言ってやりたいが後で来る報復が怖いし…
「ミカケテナイナー」
「何でカタコト?」
誤魔化そうと思ったが一花が苦笑い
どうせ俺は演技とかヘタクソだよ…
「ん?
二乃の匂いがします」
四葉が鼻をヒクヒクさせながら言う
ついでに何故か頭のリボンもぴーんと伸びた
どうなってんのそれ?
「あ!二乃いた!」
「あんた犬か!」
そんであっさり確保される二乃
いくら二乃だけ香水付けてるとはいえ、病院の独特の匂いの中で嗅ぎ分けたのはマジで犬並なのでは?
「もしかしてユーキも予防接種?」
なるほど
元気そうな割に病院に用って言ったらまあこんなとこだろうな
二乃と五月は怖がって逃げているとか
子供か…
「いや
お見舞い」
予防接種もただじゃないから出費は避けたいのよね
てか少しとはいえ花持ってる時点でお察しくださいだったんだが
「?何よ入院してる知り合いとかいる」
「あー!
そろそろ時間だね
ほら、五月ちゃんも探さないといけないし行こう行こう!」
「ちょっ!?一花?」
二乃の言葉を遮って一花が姉妹たちを促して歩き出す
俺の事情を知ってるから気を遣ってくれたのか?
正直、説明するのはめんどくさいから助かるが
中野たちから各々また今度と声をかけられ別れる
また話す内容が増えたななんて思うと珍しく病室に向かう足取りが軽く感じた
「中野?」
「し、下川君!」
見舞いも終え病室を出たところで今度は柱の影に隠れてる五月を発見
それほど病室にいた時間は長くなかったがまだ病院内でこんなコソコソしてるってことは
「まだ逃げ回ってたの?」
「な、何のことでしょう」
ギクリって擬音が頭の上に浮かんでるんですがそれは
「ところで下川君は何故病院に?」
ここで、俺も予防接種だから一緒に受けようぜ!とか言ったらどんな反応するんだろうと一瞬思い浮かんだが流石にやめておこう
と言うか別に理由隠す必要もないか
「お見舞い
母さんの」
「……そうなんですね」
誰のってとこまでは言う必要なかったかな
五月は何か思うところがあるのか顔を曇らせてるし
そういえば、俺もこいつらの両親については詳しく聞いたことなかったな
父親は風太郎の雇い主なわけだから何度か話の中で出てくることはあったが
「あの…下川君のお母さんは何故入院を」
「あ!五月いた!」
五月が何か話しかけてこようとしたところで四葉の声
当然だが他の三人も一緒だ
「や
もうお見舞いは終わった?」
「ああ
おかげさまで」
一花は別に何もしてないよと苦笑してたが俺が勝手に感謝してるだけなので
「五人揃ったから今度こそ行くよ」
「ぐぬぬ…」
三玖が二乃へ言えばうめき声が帰ってくる
しかし、注射でこんだけ怖がってたらピアス開けるなんていつまで経ってもできないのでは?
「五月!
私は覚悟決めたわ!
あんたも道連れよ!」
「ま、待ってください!」
結局五月をズサーと引きずりながら二乃は離れていく
五月はまだ何か言いたげにこちらを見ていたが抵抗しても無駄のようだ
他の姉妹もそれに続いて行った
いつものお見舞いだったはずなのになんでこんな騒がしいことになってたのか…
「やあ、下川君」
後ろからかけられる落ち着いた男性の声
振り返ればこの5年ですっかり顔馴染みとなった俺と母さんの主治医の先生
「こんにちは
お疲れ様です」
恩人相手だから礼儀はちゃんとしないとな
先生は時間があるのか母さんの経過や俺の火傷の具合についての質問など雑談混じりで簡単に話した後で
「さっきの彼女たちは?」
唐突にそんなことを聞かれる
さっきのやりとり見られてたのか
騒がしくしてすみません
「あー…
学校の友達です」
「……そうかい」
何か変な間があったような気がするが相変わらず無表情なので何考えてるかわからない…
そこに、先生の後ろから別の医師の人が声をかけてくる
もう次の診察の時間らしい
「引き止めて悪かったね」
「いえこちらこそ」
忙しい身でこっちの心配をしてくれるだけありがたいんだけどな
俺もまだバイトまで時間はあるとはいえ特に病院にこれ以上用はない
退散するとしよう
「下川君」
まだなにか?
「これからも励みたまえよ」
「?はあ…
またよろしくお願いします
中野先生」
そういやこの人も中野だったな
まさか親戚とかだったりして
流石にそこまで世間は狭くないか
「ふふふ
オートロックも使いこなしてきたぜ」
何故か自慢げに風太郎が言いドアを開ける
当然のように、バイトまで時間があるだろ?と言いくるめられて引っ張ってこられてる俺…
まさかこないだの一件でシフト把握されたのか?
「…と
靴紐が」
「いや、どうせ脱ぐんだから後でいいじゃん…」
何故か靴を脱ぐ直前に紐を結び直し始める風太郎
さっきチャイムも鳴らしたしわざわざ玄関突っ立ってるのもアレなので、お邪魔しまーすと告げながらリビングへ入ると
「ーー!」
うーん
こうやって髪形が分からなくて普段身に付けてるものとかも無いとマジで同じ顔なんだな
「変態!」
言葉とともに投げつけられる紙袋で現実逃避は強制終了
そりゃ自宅だから風呂上がりにバスタオル姿で出歩くとかするよねー
でもチャイム鳴らしたじゃん?
今日この時間から家庭教師って予定あったじゃん?
そそくさと一旦玄関に引き返す
「な、何だどうした?優希」
「こういうのはお前の役だろうに…」
さすがに玄関まであの声は聞こえてたらしい
溜息混じりに思わずこぼした言葉に風太郎は?顔
「で、それ何だよ?」
「いや、なんか投げつけられたんだが…」
投げつけられた紙袋を思わず回収してた
なんとなしに中身を見てみると
「こ、これは!?」
風太郎はそれを見て絶句
いや、これは…マジでか…
「急にどうしたの?」
「同じ髪型にしろって」
「今日は家庭教師の日じゃなかったの?」
リビングに並ぶ中野たち
その髪型は全員ポニーテールに揃っている
流石に髪の長さが違うから厳密には同じ髪型でないんだが
風太郎は中野たちをじーっと見つめて
「一花!二乃!四葉!三玖!五月!」
「二乃!三玖!五月!四葉!一花よ!
髪を見ればわかるでしょ!」
ギラっと目を光らせて自信満々に答えてこのざまである
流石に二乃の言う通り髪の長さとかである程度絞り込めるでしょう…
四葉に至っては何故か自己主張の強い『428』パーカーだし…
「…と、このようになんのヒントもなければ誰が誰かもわからない
最近のアイドルのようにな」
「それはフータロー君が無関心なだけでしょ」
というか、直接見たのは俺だけだからお前が言い当ててもどうにもならないのでは?
紙袋の中身、奇跡の全教科0点のテストの答案の持ち主探しのため(名前はご丁寧に破られていた)こんなことを始めたわけだ
犯人の人は当然自分から名乗りでようとはしない
さて…
「そろそろ俺足崩していい?」
ってか、これは見方によってはかなりハードなイジメなのでは?
「いいわけないでしょ!この変態!」
二乃にバッサリ一刀両断
床に正座させられた上で『私は覗き魔です』と非常に不本意な内容のプレートが首からかけられている
何故か中野家に来る度に正座させられてる気がする…
あと、このプレートどっから出てきたの?
「どうだ優希
さっき犯人から変態って言われてたよな?
こんな感じだったか?」
「こんなんでわかってたまるか…」
流石に罵倒のされ方で誰かわかるとか特殊すぎる能力は当然持ってない
「それにしても、下川さんでも見分けがつかないなんてことあるんですね」
「そりゃあるよ
林間学校の時とかも五月さんの変装見破れなかったし」
咄嗟だった上に髪も見えなきゃそりゃ分からんわ
凝視したらさらに罪状増えてたし…
「あの五月はマスクさえなければ私たちもわかったんだけど」
「!
なんでお前らは顔だけで判別つくんだ?」
二乃の呟きに風太郎が疑問を投げかける
二乃は三玖と顔を見合わせた後
「こんな薄い顔、三玖しかいないわ」
「こんなうるさい顔、二乃しかいない」
なんて言うのだった
言われてみれば目元、というか目付きが微妙に…いや、やっぱ分からん
その後、愛があれば自然とわかるだの、ほくろで見分けるだの、実は隠された六人目の姉妹がいるだの絶妙にためにならない情報しか出てこない
というか、最後に至ってはただの悪ふざけ…
姉妹なら隠してやんなや可哀想だろ
「最終手段だ
これはそのテストの問題を集めた問題集
これが解けなかったやつが犯人だ」
なんとも強引、というか無茶苦茶な理論で犯人を決めてしまうらしい
しかも最下位の奴を犯人認定すると宣告のうえ開始の合図
あわててテストに取り掛かる中野たち
マジでこんな形で犯人決めんの?
……ってそうか
こいつのことだから筆跡とか書き方の癖とかで見分けられるのか
強引に思ったが割と考えられてる
というか俺も一歩引いて見てるからかさっきのバスタオルの正体はなんとなく当たりがついた
多分あいつは
「ふむ
お前が犯人か」
「あれっ」
犯人、一花が風太郎からも看破されたようだ
「あー、やっぱソイツなのか」
「ゆ、ユーキ君も!何で!?」
シャワー直後なのに全員髪は乾いてたからな
四葉も姉妹の中では短い方ではあるがこの短時間で完全に髪を乾かせるのは一花の髪の長さだけだろう
風太郎の方はアルファベットのbを一人だけ筆記体で書く癖を覚えていたとのこと
文字だけなら嫌というほど見てるからなぁ
やられた、と崩れ落ちる一花
それを見て高笑いする風太郎は完全に悪役のそれ…
「あのー
一応、私たちも終わりました」
「ご苦労
ひとまず採点を…ん?」
テストの答案を見た風太郎の顔がどんどん険しくなってくる
「みんな犯人と同じ…お前ら…
一人ずつ0点の犯人じゃねーか!」
風太郎の咆哮に他の姉妹も全員気まずそうに視線を逸らした
5教科分揃ってるからってまさかそういうオチかよ…
「林間学校後だからって少し休みを与えたらこれか…
やっぱりお前ら…」
頭を抱える風太郎
そりゃこれは堪えるな…
次のテストに向けて先が思いやられる
「上杉君
今日あなたが顔の判別にこだわったのは
昨日話してくれた5年前の女の子と関係あるのでしょう?」
五月が風太郎に向けて密かに話す
位置の関係上俺にもバッチリ聞こえてしまってはいるんだが
しかし、風太郎があの子のことを他人に話すとは
…………よりによって五月、ってか中野姉妹の誰かに話したの!?
「私たちの中の誰かだったと思ってるんですね」
「……そうだ…」
と思ったら少なくともこの二人はそういう推測に辿り着いてるらしい
こ、これはまさかの急展開…
今の今まで忘れてたから特になんの対策も考えてないぞ?
いや、考えによってはこれで色々ケリがつくかもしれん
今後の展開に一人ハラハラしていたら
「この中で昔俺に会ったことあるよって人ー?」
直接聞いちゃう!?
「し、下川君?
大丈夫ですか?」
「ああ…
足痺れただけだから…」
我ながら古いリアクションをしてしまったがそういうことにしておこう
「そりゃそうだ
そんなに都合よく近くにいるわけがねぇ」
ん??
全く誰もリアクション無しってことか?
普段のあの子のことだから多少なりとも反応があるもんだと思っていたが…
「お前らみたいな馬鹿があの子のはずねーわ」
「ば…馬鹿とはなんですか!」
まあ、当の本人がこんな具合…
過度に干渉するつもりがないって俺のスタンスは変わらずのつもりだが、あの子の面の皮が想像以上に厚いことが分かってしまったのは、こっちの心労が増える要素な気が…
どうにか落とし所が見つかると良いんだがな
「ところで下川さんが一花だと分かったのはやっぱり一度見ていたからですか?」
まさかのブッコミである
この子の地雷踏んだこと実は根にもたれてる?
いや、あの顔はマジでなんも考えてなさそう…
「あんた、それどういうこと」
地鳴りのような声とともに二乃が睨んでくる
不特定多数がいる食堂もやばいけど、よりによって姉妹を害されると無条件でキルモードに入りかねないこいつの前ではマジで勘弁して欲しかった…
一花、赤くなってないで適当に誤魔化して
マジでこんなポンコツになるくらいなら最初からその手の挑発とかしないでください
結局、もろもろ言い訳やら弁解でまともに家庭教師が進められず帰り道に風太郎から恨言をぶつけられる羽目に
これに懲りたら俺を巻き込むことのリスクを理解して欲しいものである
中野先生は内科医だって?
ぶっちゃけその辺は適当
オリ主のよく見るテレビ番組は特に無し
テレビは有りますがもう何年もまともにつけてません