一花の恋愛に関するスタンスはこの物語独自の解釈ですので注意
勤労感謝の日
国民の祝日の今日は当然ながら学校は休み
つまりは飲食店や商店はいつも以上に人が訪れる書き入れ時なわけで、本来ならガッツリ稼がせてもらうはずの日だったんだが…
何故か棚卸しやら改装やらでことごとくバイトがキャンセルに
せっかくの休日なのに時間を持て余してしまった
この際日雇の飛び込みでいいからどっかないものかとフリーペーパーを捲っていたところに着信音
これはもしかしたらやっぱバイト先でヘルプが必要になったか?と意気揚々と受話器を取ったら
『あ!
もしもし?
私私、私だけど』
そっと受話器を置く
着信なんてなかった、イイね?
あ、ハイとはいくわけもなく再度鳴り響く着信音
「……もしもし」
『無言で切るのは酷すぎないかなー?』
挨拶がわりに古い詐欺の常套句をかますのは酷くないというのか
「何の用?」
『せっかくの休日だし一緒に出掛けない?』
どうしてそうなる…
何とか断る理由を考えなければ
『あ
おはようございまーす』
『あらあら下川君のガールフレンド?』
……おい
お前今どこにいる?
何で近所のばあちゃんの声がお前の電話から聞こえてくる
『ふふふ
さあ私はどこにいるでしょう』
もう嫌な予感しかしないが受話器を置き玄関の戸を開ける
「やっほー
おはよー」
スマホ片手にやたらイイ笑顔の一花が玄関先に立っていた
「いやー
絶好のお出かけ日和だねー」
前を歩く一花はご機嫌そうだ
結局、これは出かけるの断れば玄関先に居座られる未来が目に見えたためやむなくついていく事にした
というか、これで俺がバイトで不在だった場合どうするつもりだったんだ?
さらに言えば
「次女と三玖さんもいるんなら俺別にいなくていいじゃん」
俺の後ろには二乃と三玖の姿もある
二乃は次女呼びが気に入らないのか無言で脛を蹴ってきた
「痛いんだけど?」
「ーーっ!痛いのは私の方よ!
あんたの脚何で出来てるわけ!?」
自分から蹴ってきてこの言い分である
一花はうんうん痛いよね〜なんて遠い目をしてる
ちゃんと心配してあげてる三玖を見習え
「そもそも勤労感謝の日なんだし風太郎に日頃の感謝でもしたら?」
……ってあれ?
風太郎の名前を出した途端、三玖の雰囲気が
なんというか、どんよりとしてる
「あーユーキ君やっちゃったねー」
「デリカシー無しサイテー」
一花は苦笑いで二乃は軽蔑の目線
なぜにwhy?
なんでも、勇気を出して二人で出かけようと誘ったところ休日だから断ると返事があったそうな
いや休日だから誘ってんでしょうが
なんかうちの馬鹿がゴメンね
「ってか、それなら余計俺誘う必要ないでしょうが」
姉妹仲良くお出かけでもいいじゃん?
二乃なんて合流してからずっと不機嫌そうだし
「……一花は二人で出かけるのを直前に躊躇って」
「あー!三玖!フータロー君にプレゼントしたいって前言ってたよね?せっかくだし買いに行こー」
三玖が何か言いかけたのを突然一花が遮る
何をそんなに慌ててんの?
「へたれ」
「うぐ…」
「あんたにしては趣味悪いわね」
「うぐぐ…」
姉妹に言い負かされる一花とかかなりレアな光景
こいつがお姉さんぶってる割に肝心なとこでヘタれるなんて元からだぞ
何に対してヘタれなのか今回は分からんが
「と、とにかく!
買い物行こう!買い物!」
「はぁ…
ま、そうね
せっかく荷物持ちもいるわけだし」
聞くまでもないけど俺のことでしょうね
本当にありがたくない
せっかくの休日がどうしてこうなった…
女性の買い物ってなんでこんなに長いんだろーね
結局午前中いっぱいを買い物に費やしひと段落ということでランチとなった
しかし
「どーしたの?
そんな顔して」
「いや
思ったより普通のとこに来るんだなと」
てっきり庶民の懐に優しくないような店に連れてかれるのではと勘繰っていたが、来たのは至って普通のファミレス
「ファミレスくらい普通に入るわよ
ってか、テストの後にも来たでしょ」
ごもっともです
あん時はバイト先のファミレスに行って、店長他スタッフの人たちが友達を連れて来たことに感動してたな
あんたらは親戚のおじさんおばさんか…
しかし、ファミレスってのは案外コイツらに合ってるかもしれん
一花は中華、二乃は洋食、三玖は和食と頼むものはてんでバラバラ
未だ会ったことはないがコイツらの父親も全員を満足させる食事にはさぞ苦心したんだろうな
「あんた
それだけで足りるの?」
二乃が俺の前に置かれた皿を見て一言
この店のメニューで一番安いのがコレなので今日はパスタだ
「お前だって似たような量じゃん?」
「女の子と同じ量じゃ少ないでしょうが」
たしかに一般論
とはいえ、贅沢できるような懐事情でないのでほっといてほしい
「しょうがないなー
はい、あ〜ん」
一花が自分の皿から唐揚げを一つ差し出して来る
お、マジで?
いただきまーす
「ーーっ!?」
久しぶりの動物性タンパク質美味し
パスタに刻んだベーコンは入ってるけどやっぱ満足感が違う
なんだ一花その顔は
マジで食われると思ってなかったか?
残念だが俺は貰えるものは病気以外なんでも貰うぞ
「唐変木」
「あんたはこうなること少しは想定しときなさい」
三玖が俺に、二乃が一花へそれぞれ言う
何のことだ?
その後、三玖の方からもおかずを分けてもらったので結果的にいつもよりかなり豪華なランチになった
三玖が俺の皿の端に分けてくれたおかずを置くのを見て一花が『その手があったか…』と苦い顔してたのは何なんだ?
「さて、午前中はあんたたちの買い物に付き合ったわけだから、午後からは私の買い物に付き合ってもらうわよ」
ファミレスを出た二乃の宣言
確かに午前中は一花、三玖の要望で本屋や、小物屋を巡っていた
それでも今俺が持たされてる荷物の中で比率が多いのは二乃が買ったものだが、ここでこれを指摘するのは流石に野暮だろう
「一応聞くけど
何買いに行くの?」
「そりゃあ新しい服っしょ」
さすが中野家ファッションリーダーである
というわけで服屋へ
当然のように俺が普段買うような服と一桁以上多い…
流石にレディースのコーナーは居心地悪いのでメンズものの方に自然と足が向かうのだが
「これとかフータロー君にどうかな?」
一花と三玖が男物の帽子を物色していた
話ぶりから風太郎へのプレゼントを考えてるらしい
「ユーキ」
こちらに気付いたのか三玖が声をかけてくる
「ハットとキャップ、フータローどっちがいいかな?」
無表情ながらなんとなく楽しそう
風太郎にはもっとこの子を大事にしてもらいたいものである
「帽子はあんま被らなかったと思うけど
キャップなら色々組み合わせれるしいいんじゃない?」
風太郎がハット被ってるとことかあんま想像出来んしな
なんならお揃いで買ったら?なんて言ってやれば顔を真っ赤にして悶えだした
なんとも初々しい反応だ
誰かさんにはこの純粋さを見習って欲しいものである
「何故か謂れのない誹謗中傷を受けた気がしたんだけど?」
一花にジト目で睨まれた
安心しろ
気のせいじゃない
無言で脇腹を殴るな
痛いぞ
「あんたはいちいち当て擦りみたいな話し方しかできないわけ?」
いつのまにか近くに来ていた二乃が呆れた様子で言う
結構な数の服抱えてるけどそれ全部買う気?
「試着よまずは
ほら、持ちなさい」
有無を言わさず持たされた
一花と三玖もそれぞれ試着したいものがあるらしく試着室前まで行くと
「あれ?四葉じゃない」
「あ」
試着室から顔だけ出した四葉に遭遇した
なんでそんなしまったって顔してんの?
試着室を使いたい二乃たちに何故か向こうに面白い服があって、などと遠ざけようとする
なんか隠し事でもしてんの?
「それなら私が着るよ」
「…今の声」
「わ、私の声!
代わりに私が着るから!」
…………OK察した
裏声使おうと16年いっしょにいるやつの声を聞き間違えるはずがない
ってかあいつ三玖の誘い断ったのはこれが原因だった?
いつの間にか二人はそんな関係だった?
俺が一人勘ぐってるうちに結局四葉が試着することに何故か落ち着いたようだ
そして、二着ほど試着した時点で悟った
あ、これ終わらんやつや
最初は不審がってた二乃たちも客観的に服を着た姿が見えるのが便利と感じたのかノリノリで四葉を着せ替え人形にしようとしてる
このままだと試着室の中の風太郎が見つかるかもしれないし、何より二人のデートの時間を奪ってしまうことになる
……仕方ないか
あんまこの手は使いたくなかったが
「次女はもう少し落ち着いた色合いのコレとかいいんじゃない?」
「「「「は?」」」」
突然口を挟んだ俺に当然だけどこんな反応
我ながらキャラじゃないこと言ってる自覚はある
とにかく、オススメの服とかなんとかでさっさと買うものを決めさせて店から退散しよう
「三玖さんは落ち着いた服もいいけど、こうワンポイント入ったのもたまにはいいと思うけど」
「そ、そうかな」
「中野はたまにはスカートもいいんじゃないか?
こう暖色系のアウターと合わせてみるとか」
「へ、へ〜
いいかもね…」
とまあこんな感じで買うものをさっさと決定させた
バイト先のパーマメガネ先輩ありがとう
でも口に合わないもの食うたびに馬糞みたいとかいうのだけはやめてください
会計でレジに向かう視界の端で四葉と風太郎が店からそそくさと出ていくのを確認して一安心
余計な苦労とキャラじゃないことをやらせたからには後日しっかり説明してもらうからな
「あー!優希君」
「下川君?それに一花たちまで」
店を出てまたブラついていたら今度はらいはと五月に出会った
最初に聞いてた話だといっしょに来なかった四葉と五月は別の用事ってことだったけど、五月の用事はらいはとの約束だったのか
「い、一花たちは下川君とお出かけだったんですか?」
「う、うん
そんな感じ、かな?」
「ずるいですー!」
「あんた妹ちゃんと約束ってさっさと出かけちゃったでしょうが!」
何故か抗議の声を上げる五月とそれを宥める一花たち
一体何事?
「そういえばさっきお兄ちゃんたち」
「らいは!お腹空かないか?
あっちに美味しそうなクレープ売ってたし食べに行こう!」
危ねぇ…
既に風太郎たちと遭遇済だったか
らいはは何で俺が焦ってるのか不思議がってたがいつもの礼にご馳走すると言ったら乗り気になってくれた
当然のように便乗してきた一花たちにも奢る羽目になったが…
風太郎マジでちゃんと説明してもらうからな!?
「つ、疲れた…」
「あはは
お疲れー」
あの後、まあわざわざ別々で遊びに行くこともないだろうということで更にらいはと五月も同行することに
二乃の宣言通り荷物を結構な量持たされてるが、それに関してはいい
何度か風太郎たちと鉢合わせかけてそのたびに誤魔化すのに神経使いまくった
当然事情を説明するわけにもいかず一人でアタフタする姿に多少なりとも怪しまれてたが気付かれていないと信じたい
目の前には楽しげに談笑するらいはと中野たち
こっちの苦労も知らないで、と少しは思ったが楽しそうだから良しとしよう
「でもよかったー
優希君がお休みの日に遊びに行く友達できて」
なんてらいはの言葉
「だってお兄ちゃんはほっとけば勉強星人で遊びになんかいかないし、優希君はバイトバイトって遊んでるところ見たことなかったから」
まあ、実際今日もこいつらに引っ張り回されなければ日雇いのバイト探してたわけだし…
「五月さん、一花さん、二乃さん、三玖さん
これからも優希君のことよろしくね」
そんなことを言い笑顔を見せるらいはに心配させてしまって申し訳ないなと少しは思ったり
当のらいはは五月たちにもみくちゃにされてるが楽しそうだからいいか
「少しは息抜きになった?」
「……少しはな」
首を傾げてこっちの顔を覗き込んできた一花から顔を背けて答える
らいはがあんなこと言うから少し気恥ずかしい
「こんな風にみんなで楽しくいられたらいいね」
「それは風太郎と四葉さんもいる時に言ってやって」
そうだね、なんて笑う一花の顔は楽しそうで
まあ、たまにはこんな騒がしい休日もあっていいかなんて柄にもないことを考えてしまった
後日事情を説明した風太郎はオリ主に無言の腹パン(手加減)を食らいました
「妹に言われんとお礼のひとつもできんのか」
「お前だってお礼とか考えてなかっただろうが!?」
なんてやりとりがあったとかなかったとか
オリ主の私服は基本ジーパンにTシャツ