長めでもキリいいところまで
オリ主の視力は3.0ある
『私無理なんて…』
『こーら
喋らない』
『どれだけ大きくてなっても四葉は妹なんだから
お姉ちゃんを頼ってくれないかな』
『…私
部活辞めちゃダメかな…』
『辞めてもいいんだよ』
『や、やっぱだめだよ!
みんなに迷惑かけちゃう』
『勉強とも両立できてるんだ
一花がお姉さんぶるから変なこと言っちゃった
同い年なのに』
『あはは
こんなパンツ穿いてるうちはまだまだお子様だよ』
『わーっ!
しまっといて!
上杉さんたちが来た時は見せないでね!』
『はーい』
『ちゃんと聞こえてた?』
「お子様パンツ」
『よかった』
風太郎の電話越しに一連の四葉と一花のやりとりを聞く
少々強引だが四葉から本心を聞き出すためにこんな手段をとった
何故か俺の家で
なので五月もそばで聞き耳を立てている
『明日、陸上部のとこに行こうと思う
君たちはどうする?』
「行くに決まってる」
だろうな
ここまで来たら当然俺もなんとかしてやりたい
「四葉を解放してやるぞ」
翌日の早朝
駅前のロータリーで陸上部の一団を陸橋の上から見下ろしている
てっきりまた突撃するもんかと思ったが
「え?どうしたの三玖
助けてほしい?」
一花のスマホに着信
二乃のところへ向かったらしい三玖からみたいだが何やら不穏な雰囲気
「何やってんだ…
陸上部の奴らがもうすぐ合宿に出発しちまう
ったく
試験前だってのにとことん勉強を疎かにしやがって…」
忌々しげに言う風太郎
「それでどうする?
ただ直接言うだけじゃ昨日の二の舞だぞ?」
「いい作戦を思いついた
丁度いい
一花、そのまま三玖を連れてきてくれ」
思案顔をしたと思ったら一花へそう告げる
わずかばかり訝しんだが一花は待っててと告げ走り去る
五月の方は何が何やらわかってない様子だが
「四葉が断れないならお前たちがやればいい」
「……お前、まさか」
「入れ替わり
得意技だろ」
なんて悪い顔
そんなことだろうなとは思ったが本人納得してない中それでいいのか?
「わ、私は少し苦手です…
前に一花の真似をした時も心臓バクバクで…」
「だから三玖を呼んだんだ
到着したらお前の着てるジャージを着てもらおう」
そうは言うけど肝心の四葉をどうやって陸上部から引き離すんだ?
…って
「ヤバイ!
あいつら出発しやがった!」
もたもたしてるうちに陸上部の一団が歩き出していた
駅に着くまでにどうにかしないとまずいが、とてもじゃないが三玖が来るのを待ってられんぞ
どうするつもりかと思っていたら風太郎は五月に向き直る
おい…まさか
「一身上の都合により、退部を希望します」
「違う
もっとアホっぽく」
何やってんだか…
四葉のトレードマーク、うさ耳リボンをつけた五月に対し風太郎が演技指導?を行なっている
さっきの言葉通りどうも他の姉妹のふりをするのは苦手らしい五月は数回の練習で悲鳴のような泣き言をあげてる
風太郎、本人マジで辞めたがってるからそれに対して喜ぶなや
「五月、今のお前は四葉だ!
少なくとも見た目は完璧だ!」
「いや、ちょい待て風太郎」
「作戦はこうだ」
「聞けや」
俺の横槍も聞いてくれない
こいつも大概暴走癖あるの忘れてたわ…
で、作戦ってのが
・四葉を陸上部から引き剥がす
・その後何食わぬ顔で五月が集団に戻り退部をする
「引き剥がすって言ってもどうする気だ?」
「……優希、これを着けろ」
なにこれ?
って、林間学校の時の眼帯マスクじゃん
五月はトラウマにでもなってるのか小さく悲鳴をあげてる
まあ着けるけどもこれでどうするつも
「痴漢だー!
痴漢が出たぞー!!」
ーーーあぁなるほど
だがこれだと痴漢ってより変質者じゃね?
「そこの人とまりなさーい!」
「中野さん!?」
そんで正義感の強い四葉なら捕まえようと追っかけてくると
って俺が引きつけろってことかよ!?
(頼むぜ!相棒!)
(お前後で覚えてろよ!)
物陰からサムズアップする幼馴染を一睨みして追ってくる四葉から逃げるべく走り出す
しゃーねぇが時間稼ぐ目的ならテキトーに走って
ーーって、この子めちゃくちゃ足速え!?
風太郎テメェマジで覚えてろよ!!
「お騒がせしました」
騒ぎを聞きつけてきた警察の人に頭を下げる
いやーまさか本当に痴漢が現れるなんて思わなかったわ
流石にほっとくわけにもいかず追っかけたらやたらと必死に逃げるので手こずった
そんで警察の人に引き渡したわけだけと、何故か俺も変質者扱いで連れていかれそうになったとこで眼帯マスクを着けっぱなしなことを思い出した
そりゃこんなマスク着けてる奴に追っかけられたら必死に逃げますわ…
「しかし、四葉さんいなかったらやばかったわ
弁解手伝ってくれてありがとな」
「いえいえ
下川さんが逮捕なんてみんな悲しみますし」
四葉といっしょに必死に弁解することでなんとか事なきを得た
林間学校での仮装って気づいてくれなかったらマジでアウトだったわ
朝っぱらからこんな妙なことに巻き込まれるなんて日頃の行いが悪いのかねやっぱ
「そういえば下川さんはあんな格好で何をしてたんですか?」
………当初の目的をすっかり忘れてたわ
流石に借りができた以上誤魔化すわけにもいかんので事情を説明
それを聞いた四葉は当然慌てて陸上部のところへ戻ろうとする
「私、へっちゃらですから!」
なんて言い残し走り去ろうとするがそれは見過ごせんかな
肩に手を置いて四葉を止める
「頼まれて応えたいってのはわかるけど
それって本当に四葉さんのやりたいこと?」
「…っ!」
俺の手を振り払おうとした四葉の動きが止まる
流石に思うところはあるらしい
「私は四葉ですよー
このリボンを見てください」
「うん
似てるけど違うよ」
ん?
気付いたら元のロータリーに戻ってきてたようだ
その下では陸上部の面々に必死にアピールしてる五月がいるが
「だって
髪の長さが違うもん」
あっさりバレてる
っていうか当たり前でしょうが
風太郎も五月も忠告くらいせめてさせてくれ
「あんなにやる気のあった中野さんがそんなこと言うはずないもん
中野さんは五つ子って聞いたよ」
五月に対する追及がどんどん厳しくなってくる流石にこれ以上は可哀想になってくるな
「私のためにありがとうございます
でもすみません、行きます!」
「……ちょい待った」
「お待たせしました
みなさんご迷惑をおかけしました」
四葉の姿を確認した陸上部の面々が安堵の表情になる
ちょっとしたジョークでと誤魔化してるし
「なんだ、冗談だったんだね
でも、笑えないからやめてよ
中野さんの才能を放っておくなんてできない
私と一緒に高校陸上の頂点を目指そう」
何というか…
さっきの発言といい、なかなかあの部長さんも視野が狭いというか、物事の上っ面しか見えてないというか
決めつけ、思い込みが過ぎないか?
「まあ
私が辞めたいのは本当ですけど」
にこやかに言い放った言葉にその場の全員が固まった
「な、中野さん?なんで…」
「なんでって
調子のいいこと言って、私のこと考えてくれないじゃないですか
そもそも前日に合宿を決めるなんてありえません」
「マジありえないから」
「はい…ごめんなさい」
圧がすごい…
さっきまで敵対心持ってた部長さんに少し同情すらするわ
「つ、ついに出た…」
で、隣からその様子を見下ろしていた四葉は違う意味で戦慄してる
「ドッペルゲンガーだー!
死にたくありませーん!」
相変わらずそれ信じちゃうのね…
遠目ではあったが髪の長さはともかくあのネイルとペディキュアからあれの正体はおそらく
「ふぅ
間に合ったみたいだね」
一花が三玖を連れて戻ってきていた
その後ろから風太郎は五月と四葉の格好の彼女とともに歩いてきたが、まだ状況が飲み込めてないようだ
「五…四…一…三…
まさか…」
「私がホテルに着いた時
ハサミを持って三玖が立ち尽くしてたの」
「詳しくはわからないけど、きっと
何か気持ちの変化があったんだね」
「二乃」
陸上部へ啖呵を切った彼女はいつもの二つリボンを付け直していた
なんとも、随分バッサリといったな
一花とかは失恋がどうとかでキャーキャー言ってるが
「言っとくけどアンタじゃないから!」
風太郎へ詰め寄り言い放つ
言われた本人はタジタジだが、何かしらあったんだろうな
もしかして林間学校の件絡みだったりすんのかね
「四葉
私は言われた通りやったけどこれでいいの?」
二乃が今度は四葉に向かい合い言う
「こんな手段取らなくても、本音で話し合えば彼女たちもわかってくれるわ」
「あんたも変わりなさい
辛いけどいいこともきっとあるわ」
その言葉を聞き四葉の方も決心はついたらしい
付いて行こうかと心配する一花に一人で大丈夫と残し、陸上部の一団へ向かって行った
あの様子ならあの子はもう大丈夫だろう
さて、次は…
気まずげにお互い目を合わさない二乃と五月
「あー…
次女、こいつは」
「ほーら、ユーキ君
私たちはこっちだよ」
キッカケでも作ろうかと思ったら一花に遮られた
風太郎の方も三玖に腕を引かれ二人から引き離される
二人の方が気にはなるが…
こいつらが大丈夫って判断したなら大丈夫なんだろ
これ以上口突っ込むのは野暮か
口には出さず、五月に頑張れよとエールを送りその場を離れる
風太郎の方も、これ以上二人について言及することなく、試験の対策がーなんて話してる
ようやくこれで元通りか
少しばかり雰囲気は変わったけど、たぶん悪い変化じゃないはずだ
「この度はご迷惑をおかけしまして…」
見事な土下座で四葉が言う
気持ちはわかるけど何も部屋の外でやらんでも
「朝から大変だったねー」
「早朝だったのでご飯を食べ損ねてしまいました…」
「全ては私の不徳の致すところでして…」
「帰りに買ってこればよかったかなー」
「でも今日はシェフがいる」
「誰がシェフよ」
「大変申し訳なく…」
「その前に」
「おかえり」
「「ただいま」」
二乃と五月が気恥ずかしそうに言う
何故か玄関に入る入らないでまた揉めてるが
「久々に賑やか」
「うん
よーし、じゃあこのまま…」
「試験勉強だな
忘れてないだろうな
明後日から期末試験だ
文句ある奴いるか?」
「も、もちろんそう言おうとしたよねぇ」
…………いやいい加減可愛そうになってきたから
誰か四葉に反応してあげて
「もー、みんな聞いて…」
「あ?
いつまでそんなこと気にしてんだ
早く入れ」
風太郎がいつものようにぶっきらぼうに言う
そばに立つ一花と三玖も四葉を見る表情は柔らかい
結局、四葉が朝食当番でということでこの件に関してはこれ以上誰も何も話さないと決まる
さて、ようやく中野たちの家族の問題は解決したし、後は風太郎の言う通り試験に備えるだけだ
健闘を祈ってるわ
あとは頑張ってー
「……あの
試験勉強なら俺なしの方が捗るでしょ?」
何故か全員揃って止めに来た
肩やら腕やらがっちり抑えられてて身動きとれん
いやいや、ノコノコ部屋の前まで来といてってのはあるかもだけど、いつぞやの二乃の言う通りこれ以上無関係な俺がいても邪魔なだけなのでは!?
「あーもう!
悪かったわよ!
いつまでも細かいこと拘ってんじゃないわよ!
男でしょ!」
キレるか謝るかはっきりしてくんない?
「ほら
二乃もこう言ってますし」
「そうそう
気にせずあがってあがって」
いや、なんでさ…
「とりあえずまずは朝飯だな」
風太郎は少しは遠慮したほうがいいのでは?
「それで、陸上部とはどうなったの?」
「あの後ちゃんとお話しして、大会だけ協力してお別れすることになりました」
食卓に置かれたおにぎりをつまみながら談笑する中野たち
ええ、逃げられませんでしたよ
隣で遠慮なくおにぎり頬張ってる幼馴染は俺のジト目もどこ吹く風で、その会話に茶々入れたりしてる
あの部長さんは諦め悪そうだし、二乃もまた何か言われたら今度こそ教育してやると言ってはいるが、四葉の方は一人でなんとかするとのこと
そんで、本題
期末試験対策についてだが
「とりあえず問題集は全員終わらせてるみたいだけど」
「私たちちゃんとレベルアップできてるのかな?」
まあ、元が元だけに不安材料のが多いわな
加えてここ数日のドタバタもあって、当初の予定の問題集の見直しには時間が足りなそう
「秘策があるって言ってたよね」
そういえば帰ってくる直前にそんなようなこと言ってたな
何やら悪いこと考えてる顔になってるけどどうするつもりだ?
「これは村人レベルのお前らでもボスを倒すことのできるチートアイテム…
カンニングペーパーだ!」
えぇ…
普段ゲームなんてしないお前かららしくない例えが出たとか、相変わらず突発的にアホなこと言うこととかツッコミどころが多過ぎて目眩してくるんだが
当然、中野たちも困惑してる
「じゃあもっと勉強するんだな!
こんなもの使わなくてもいいように、最後の二日間でみっちり叩き込む!
覚悟しろ!」
ま、そういうことだな
いくらなんでもマジであんなことさせるわけにいかんし
「……というように進めさせていただきますが…
いかがでしょうか?」
風太郎があからさまに二乃の顔色を伺いながら言うが
「何それ
今まで散々好き勝手やってきたくせに」
言葉こそいつものように攻撃的だが声色に今までのような棘はない
「やるわよ
よろしく」
そうして、五人で机に向かう
思えば、ここまで来るのに随分とかかったもんだ
まさか巻き込まれただけの厄介事にここまで深入りすることになるなんてな
「あの、下川君
この問題なのですが」
「あ!
次、私も教えて欲しいところあるから」
まあ、最後まで付き合うとしようか
週末はなかなか濃密な時間を過ごした
中野たちは全員、慣れないながらも多くの時間を勉強に費やした
風太郎の方も、熱の入った指導でそれに応えた
初めて会った時からは考えられないくらい、中野たちの学力は向上したはずだ
「ええ
五人とも頑張ってますよ
これは本当です」
そして当日
わざわざ五月を適当に誤魔化してまで借りたスマホで電話をかける風太郎
電話の相手は雇い主でもある中野たちの父親
「そこで勝手ですがお願いがありまして…」
ここ、屋上に来る直前に聞かされたが決心は変わらないらしい
「今日をもって家庭教師を退任します」
俺に口を挟む権利なんてないので黙って聞く
「あいつらは頑張りました
この土日なんてほとんど机の前にいたと思います
しかしまだ赤点は避けられないでしょう」
そうだろうな
向上した、とはいえ今回の試験で結果を出すには無理があるだろう
「本来は回避できるはずだったんです
それをこんな結果にしてしまったのは自分の力不足に他なりません」
「ただ勉強を教えるだけじゃだめだったんだ
あいつらの気持ちも考えてやれる家庭教師の方がいい
俺にはそれができませんでした」
試験の結果よりも今回の騒動を引き起こしてしまったことに対しての負い目か…
「一度ご自身で教えてみてはどうでしょう?
家庭教師では限度がある
父親にしかできないこともあるはずです」
「最近家に帰ったりとかは…
知ってますか?
二乃と五月が喧嘩して家を出て行ったことを」
「それだけですか?
なぜ喧嘩したのか気になりませんか?
あいつらが何を考え、何に悩んどるのか知ろうとしないんですか?」
「って、すみません
雇い主に向かって生意気言って…
あ、もう辞めるんだった」
「少しは父親らしいことしろよ!
馬鹿野郎が!!」
すげえ啖呵
他人のためにこんだけ熱くなる風太郎なんて随分ぶりだな
「……割のいいバイトなら紹介しようか?」
「……ああ、頼む」
今月の給料は怪しいからな、なんて苦笑する風太郎と共に空を仰ぐ
「お前らが五人揃えば無敵だ
頑張れ」
それから
試験は終わり、俺たちの日常は夏までのものに戻った
風太郎が家庭教師を辞めたことは父親から伝えられたんだろう
聞けば、あの家への出入り自体を俺ともども禁止されたとか
まあ、無関係な俺があの家に出入りできてたのがそもそも異常なわけだから当然か
もともと風太郎も俺も同じクラスの中野たちと積極的に話すことなんてない
それにしても黙って辞めたことに対しての追求が全く無いってのは少し不思議ではあるが
日々は巡る
もともと美人五姉妹って事で黙ってても目立つし、陸上部の活躍もあり中野たちのあれからは嫌でも耳に入ってくる
しかし、それも俺たちの日常に影響があるわけでない
冬休みにも入るし、いよいよ関わることも無くなるだろう
「おう
繁盛してるな」
「……そっちは随分早いあがりじゃねえか」
「おかげさんで閑古鳥だよ」
クリスマスって事だから、サンタの衣装を着て客の呼び込みをしている幼馴染に声をかける
紆余曲折あり、風太郎は俺がバイトをしているパン屋の向かいにあるケーキ屋でバイトをすることになった
いつもは朝食やランチ目的の客で賑わう我がバイト先も、今日ばっかはケーキ屋には敵わないって事で早々にバイト終了となったわけで
「すみません」
「はい!」
おっと
忙しいなか無駄口にこれ以上付き合わせたら悪いか
退散するとしようと、踵を返したところで
「一ホールください」
風太郎に声をかけた女性の姿に思わず足を止めてしまった
「わー、本当に働いてる!」
「クリスマスイブだってのに偉いねー」
「というか寂しい」
「ケーキも遅いわ」
言いたい放題だなおい
風太郎の方もお客相手って事でイラッとしても我慢して対応してるし
……ってか
「俺帰るとこだったんだけど?」
「すみません
ケーキの配達ってできますか?
やっぱり家に届けて欲しいのですが?」
聞けや
中野たちの姿を確認して足を止めてしまったが、特にこっちから話すことなんてないので、そのまま立ち去ろうとしたところでまたも全員がかりで止められた
そのまま注文したケーキを待つ間同席させられたが理由の説明もなければ、俺が不機嫌全開でもどこ吹く風
そしてさらにさっきの無茶ぶり…
「配達なんてやってないけど」
「雪降ってるし」
「落としちゃうかも」
「すぐそこなので」
「か弱い乙女に持たせるつもり?」
「店長ー!!
やばい客がいまーす!!」
頭痛くなってくる…
何考えてんだこいつら
「もう店も閉める
こっちはもういいから最後に行ってあげなよ」
「はぁ!?」
無常にも店長は助け舟を出してくれないらしい
何故かサムズアップ+ウィンクで送り出されることになった
「四葉
雪の上は危ないよー」
「お子様なんだから滑っても知らないわよ」
雪の道を中野たちから少し離れて歩く辛気臭い顔した男二人
さっきはすぐ近くなんて言ってたが、あいつらの家までは結構な距離だろ…
この程度の雪ならいつぞやのリムジンで送迎してもらってくれよ
しかも
「おい、お前らの家はこの道じゃないだろ」
「違うよー」
「こっちこっち」
わざと遠回りでもしてんのか
見たこともない道を進んでいく
「あのさ…
黙って辞めたことは悪かった
だかもう俺は家庭教師には戻れねえ」
川沿いの道に差し掛かったところで風太郎が中野たちに声をかける
「見てください
この人が新しい家庭教師です」
ようやく足を止めたと思ったら、履歴書を差し出してくる
そうか
意外と早く決まったもんだな
見れば東京の大学出身で元教師らしい
日焼けした肌に金髪ロン毛なのはどうかと思うが、人は見かけによらないもんなのか…
「優秀そうな人で良かったじゃないか
見た目は怪しいがな
この人ならお前たちを赤点回避まで導いてくれるだろう」
そう言う風太郎の表情は複雑そうだ
割り切ったつもりでもこうハッキリと終わりを突きつけられるのは堪えるだろ
「……何?
当て付けのためだけにわざわざバイトの邪魔しに来たわけ?」
敵意をこめて睨む
自分たちに相談なしに決めたことが気に食わないのは分かる
だがこいつだって考えた末の決断だ
こいつらの為だったなんて恩着せがましいことを言うつもり風太郎にはないだろうが、ここまでやられる筋合いはないだろ
「いい、優希」
「風太郎…」
「全部俺の身勝手だ
こいつらに何言われても」
「そうね
あんたはずっと身勝手だったわ」
割り込んできた声は二乃
だが
「したくもない勉強させられて
必死に暗記して公式覚えて
でも問題解けたら嬉しくなっちゃって」
「ここまでこれたのは全部あんたのせい
最後まで身勝手でいなさいよ!
謙虚なあんたなんて気持ち悪いわ!」
そんなふうに言う声は咎めるようにも説得するようにも聞こえた
「……悪い
でも、もう戻れないんだ」
それでも風太郎の決意は揺らがない
さっきの二乃の言葉で、こいつらがあんな方法を使ってでも風太郎を引き留めたいのはなんとなく分かった
さっき早とちりして敵意を向けてしまった俺にはもう口を挟む権利もない
「俺は辞めた
お前らの家に入るのさえ禁止されてる」
「それが理由?」
「ああ
早く行こうぜ」
「もういいよ」
一花が風太郎の手からケーキの箱を受け取り
「ケーキ配達ご苦労様」
「いやまだ…」
「ここだよ」
「ここが私たちの新しい家」
どこにでもある二階建てのアパートを見上げそんなことを言うのだった
「え?」
おい…まさか
いくらなんでもそんな
「借りたの
私だってそれなりに稼いでるんだから」
「といっても未成年だし
契約は別の人だけど
事後報告だけどお父さんにももう言ったから」
「今日から私たちはここで暮らす」
「これで障害は無くなったね」
とんでもないことを告げてくる中野たちの表情に迷いはない
が、こっちはまだ思考が追いつかん
「嘘だろ…
たったそれだけのために?」
風太郎が絞り出すような声で言う
「言いましたよね
大切なのはどこにいるかではなく」
四葉が何かを取り出して
「五人でいることなんです」
それを川に向かって放った
ってそれは!?
「マンションのカードキー!?」
「やりやがった…!」
風太郎が思わず投げられたそれに手を伸ばすが
「あ」
足滑らせやがった!?
当然川に向かって真っ逆さま
「っかやろ!」
追って衝動的に飛び込む
水中で風太郎の服を掴んだところで
「ーーっ!」
飛び込んできた中野たちの姿に目を疑った
「お前ら…!」
「フータロー
ユーキ
大丈夫!?」
「全員で飛び込んでどうするんですか!?」
水中から頭を出した俺たちに中野たちが寄ってくる
「たった二回で諦めないでほしい…
今度こそ私たちはできる
フータローたちとならできるよ」
「成功は失敗の先にある
でしょ?」
三玖の声は出会った時からは考えられないくらい力がこもっていた
「二乃どうしたの!?」
「冷たくて体が…」
「二乃っ!」
一瞬、何かに手を伸ばしかけた風太郎は二乃の元へ近づき体を支える
こっちも近くにいた他の姉妹を岸へ上げていく
「無茶苦茶だ…
お前ら…後先考えて行動しやがれ…」
全員を岸に上げ、忌々しげに風太郎が言う
「これだから馬鹿は困る
なんだか…お前らに配慮するのも馬鹿らしくなってきた」
足元にはさっきの新しい家庭教師の履歴書
それを拾い
「俺も…
俺たちもやりたいようにやらせてもらう」
破り捨てて力強く言う
「身勝手に付き合えよ
最後までな」
当然のように俺まで巻き込んでくるか
だがまあ、馬鹿げたことに付き合わせるのはお互い様か
「さよならだ
零奈」
小さく何かを呟いたような気がしたがよく聞き取れなかった
風太郎の表情は吹っ切れたようだし、こいつの中でも何か決着をつけたことがあったんだろう
「フータロー
ユーキ
早く」
「ケーキ食べちゃいますよ」
「おう」
「いいのか?
俺たちが入ったら…
五等分できないぜ?」
風太郎の言葉にも中野たちは楽しそうに笑っていた
そうだ
俺も確かに楽しいと感じていた
自分がどんなやつかを忘れるくらいに
新しい年が始まり
母さんは亡くなった
オリ主の書類上の血縁は両親のみ