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「悪いな
呼び出して」
「……何を今更
改まってどうした?」
試験の祝賀会から数日たった放課後
風太郎に呼び出された
こいつにしては真剣な顔で相談があるとのこと
まず間違いなくあのことなんだろうが…
当の風太郎は珍しく歯切れが悪くうんうん唸ってなかなか本題に入らない
事情を知らなかったらイライラする場面なんだがさすがに同情が湧いてくる
しゃあない
軽蔑されるかもだがここはこっちから切り出すか
「先に謝っとくわ
すまん」
「は?何のことだよ」
そりゃ相談持ちかけた相手に突然謝られりゃそうなるよな
「この間ケーキ屋の厨房」
「ーーっ!
聞いてたのかよ…」
「結果的に立ち聞きしちまった
すまん」
素直に頭を下げる
「いや、そこまで謝らなくても
…………相談ってのはそのことだし」
思ったより怒ってないようでよかった
頭を上げて風太郎を見る
なんとも複雑そうな表情をしてる
「しかし
まさか二乃がなぁ」
「全くだ…
何でこんなことに」
頭を抱える風太郎
しかしこんだけ悩んでるってのは、相手のことを無碍にできないからってことの表れで
半年前は恋愛なんて不要なんて公言してたこいつが、年頃っぽい反応をしてるのは良いことなんだと思うが
「それでどうするのさ?」
「…返事はいらないとは言われてるが」
それは聞いてたが
「二乃じゃなくて
風太郎はどうしたいんだよ?」
そう問いかければ黙り込んでしまった
どうしたらいいかわからなくての相談なんだろうが、軽はずみに付き合う付き合わないの答えを出すのもなんか違うだろ
「まあ、どういう答え出すにしろ、告白ってけっこうな覚悟いることだし
真剣に考えて答え出してやりな」
そういうわけだから、こいつには悩みぬいて答えを出してもらおう
どんな答えだろうと、今までの関係ではいられなくなるわけだしな
「三玖も言ってたが…
やっぱ告白ってそういうもんなんだな」
「…………おい
まさか三玖にも同じ相談した?」
「ん?ああ
知り合いの相談ってことにはしたが痛ってええぇ!」
いくらなんでもデリカシー無さすぎだろーが
って、こいつ二月にチョコ貰っといて大したリアクション返してないやつだ
三玖の気持ち知らないで相談持ちかけたな
……よりタチ悪いじゃねえか
額を抑えて悶絶する幼馴染を冷ややかに見下ろす
「何で俺はデコ弾かれたんだ?」
「……自分で考えろ」
結果的にこの数日悶々としてきたのはいらない心配だったんだ
しかも余計な心配の種になりそうなことまでやらかしてくれてるわけだからこっからは自分で答えを出してもらおう
決して腹いせではない…はずだ
しかし、これでまさかの中野姉妹3/5が風太郎のことを
ここまで来たらパーフェクト目指してもらうかなはっはっはっ
…………あいつまで風太郎を好きになるって考えたら何故かもやっとしたが気のせいだろう
それからさらに数日
気づけばもう春休み
風太郎や中野たちはどちらも家族旅行に行くらしい
風太郎の方はなんでも買い物に行ったスーパーの懸賞でペアチケットを当てたそうだ
それでもう二人分出して家族旅行にってことで俺も誘われた
が、ちょうど同じ日程で泊まり込みのバイトを頼まれてしまったのだ
バイト先の店長の友人が勤めてる温泉旅館で春休み中に人手が足りなくなるらしい
熱心にお願いされたし、春休みで断る理由もないので引き受けることにした
らいはも親父さんも残念がってたが、こっちの方が先約だからって事で納得させた
温泉旅館ってことは観光地だろうしお土産でも買って行ってご機嫌取ろう
そんなわけで、電車にフェリーに揺られること数時間
バイト先となる温泉旅館に到着
虎岩温泉と看板が掲げられた年季の入った建物
「失礼しまーす」
正面の入り口から旅館に入る
入ってすぐの受付のカウンターに旅館の名前入りの法被を来たお爺さんの姿があるが返答が無い…
「あ、君がバイト君?」
仲居さんだろうか
和服を着た女性が声をかけてくれた
「ごめんね
この人声ちっさいから
オーナー!
バイト君奥で着替えてもらうからね!」
このお爺さん、オーナーなのか
てか、耳元で結構な声量で叫んでるけど大丈夫なのか?
受付の前を通る時に会釈はしたが微動だにしない
しかし結構な歳みたいだが、なんというか姿勢に芯が通ってる
強いなこの人
奥で作業用の和服に着替える
とりあえずは雑用全般がメインで、場合によっては厨房のヘルプもお願いしたいとのこと
そして、予約の御一行が到着したらしい
ロビーを通りかかったところでその一団と鉢合わせて
「いらっしゃいまー…せ」
その面々を見てフリーズした
「下川君!?」
「どうしたんですかその格好?」
「嘘…」
ここ最近はあまり顔を合わせる機会が少なかったから五人揃ってるのは久しぶりに見るな
加えて
「やあ、下川君
元気そうで何よりだ」
相変わらず感情がこもってなさそうな声と表情の中野先生
温泉旅行に行くとは聞いてたがまさか家族旅行で俺のバイト先とかどんな偶然だよ…
「泊まり込みのバイトと聞いてましたがまさかここだったなんて」
「まったくだよ…
まさかお前らも懸賞当たったとか?」
「うん
おじいちゃんの旅館のチケットとは思わなかったけど」
うん??
おじいちゃん??
「おじいちゃん!久しぶりー」
受付のお爺さんに声をかけている
あのお爺さんかよ!?
ここまでくると、偶然じゃなくて誰かが何か仕組んでるんじゃないか…?
それと、いい加減突っ込んでもいいだろうか
「……何でみんな五月の格好?」
そう
中野たちは全員癖っ毛に星形のヘアピン
ウィッグまで付けてるので、パッと見だと流石に誰が誰か分からん
「これはですね」
「さて、部屋に行くよ
こんなところで立ち止まっては他のお客さんの迷惑になる」
話し方から多分四葉だろうか、答えてくれようとしたところで中野先生がそう告げて姉妹を促して歩き出す
うーん
気のせいじゃないけどやっぱ俺この人に避けられてる?
こいつらがマンション飛び出すことになった一因が風太郎と俺が出入り禁止になったことだし、やはり快くは思われてないのか
とはいえ、恩人で尊敬してる人からこういう態度取られるのはけっこうくる…
「あの」
考え込んでたら声をかけられる
ここまで近づかれてじっくり見させてもらえば流石に何となくわかる
「五月…だよな?」
流石に100%自信があるわけでないから内心ビビりながら聞くと頷いてくれた
「後でお話があります
上杉君といっしょに中庭まで来てください」
話ね
真剣な雰囲気ではあるが、正直何の件かは想像できん
ここで聞いときたいが他の姉妹がいるところで話しづらい内容なんだろう
大人しく話してくれる機会を待つしかないか
…………ちょっと待て
「風太郎といっしょってまさか……」
「はい
上杉君たちも家族旅行だそうですよ」
いやいやいや
いくらなんでもこんなことある?
ここまでくると偶然通り越してなんらかの呪いのような気がしてきた…
色々とありすぎて混乱しそうだが、バイトで来ている以上手は抜けない
最初のうちは他のスタッフの方に色々教えてもらいながら
やるべきことを把握してきたら、少しずつ仕事のペースを上げていく
こうして働いてる時は余計なこと考えなくて済むんだけどな…
途中、五月に聞いていた通り風太郎たちも旅館に着き、俺の姿を見て当然驚いてた
風太郎は頭を抱え、親父さんは奇遇だななんて豪快に笑い、らいはには和服姿をベタ褒めされた
で、しばらく仕事をこなしていたんだが
「お客様
他のお客様が怯えているのですが?」
「…………五月が出てくるのを待ってるだけだ」
弁解のつもりだろうが聞き様によっては十分アウトである
何故女子トイレの前で仁王立ちしてるんだ我が幼馴染は…
「話があるってのは俺も言われたけど中庭にって話だぞ?」
自分で言っておいて今更肝心なこと聞いてないのに気付いた
後でって言われたが具体的にいつだ?
「なあ、風太郎
五月っていつ」
「ええっ!?」
なんだ急に
突然驚いたような声をあげて窓の外を見ている
俺も釣られて振り返ると
「……五月だな」
「なんだと…気がつかなかった…」
愕然としてる
そういやこいつは何で全員で五月の格好してるのか聞いてるのか?
「なあ、風太郎
あいつら何で」
「くそっ!次こそ!」
「っておい!聞け!」
なんか久しぶりだなこの暴走も
仕事中の俺を巻き込んでくれなかったのは助かるが
はあ…仕事戻ろ
そっからの仕事は特にトラブルなく進んだ
酔って暴れだした客を仲居さんが制圧したり、料理をろくに食べず残した客を板前さんが血祭りにあげたりなんてことは見なかったことにした
何故俺のバイト先の人たちは武闘派ばっかなんだ…
結局、五月と話す機会は作れなかった
こっちは仕事中だし、向こうは家族といっしょだからしょうがない
そんなわけだから中庭にってのも何時に行けばいいのかわからない
まさか携帯持ってないことがここで響くとは…
春休み中に今度こそ買いに行こう
「……集中切れた」
従業員用の休憩スペースとかでいいとこっちは言ったのだが、わざわざ客室を用意してもらっていた
それであてがわれた部屋で春休みの課題を片付けようとしてたんだが
考え事が多すぎて全然捗らん
時刻はもうすぐ日付が変わりそうなくらい
「外の空気でも吸うか…」
寝る前だが少しリフレッシュしよう
と思いロビーに差し掛かったところで
「この関係に終止符を打ちましょう」
「は?」
んん??
風太郎と、この声は…誰だ?
ロビーにはやはり五月の格好をした姉妹の誰か
というか風太郎と話してるなら、呼び出した五月本人か?
中庭って聞いてたはずだがそこに向かう途中で鉢合わせたってところだろ
って、風太郎が五月の肩を結構乱暴めに掴んだ
気持ちはわかるけど少し落ち着こうな
と近づいて仲裁しようとしたところで
「何故今そんなことを…言ゆん」
風太郎は見事に床に転がった
受付から出てきた爺さんが風太郎を投げ飛ばしたのか
あまりに自然すぎる動きに止める間もなかった
「爺さん…死んでたはずじゃ…」
風太郎…いくらなんでもそれは失礼
「おら
立てるか?」
「ああ
すまん」
風太郎の手を掴み起こしてやる
「…………」
爺さんが近づいてきて何やら口にしてるが聞こえん
「え!?なんですか!?はぁ!?」
風太郎は構わず爺さんの言葉を聞き取ろうとして詰め寄って
「わしの孫に手を出すな
殺すぞ」
今度はやけにハッキリと聞こえたな…
風太郎も五月も固まってる
あーうん…
これ今日は話聞くの無理なやつやな
こいつらと一緒って時点で何かあるのではって覚悟はしてたが
初日からこれは先が思いやられる
いつも冷やかしで絡んでくる奴がよそよそしいからオリ主が中野家に絡みづらい…
ここ越えれば吹っ切れてくれると信じて
オリ主の最近の悩みは自宅に中野たちの私物が増えてきたこと