28
「お家賃を五人で五等分することにしたの」
今日から新学期
いつものコーヒーチェーン店の前で合流した一花との世間話
他の姉妹たちがバイトを始めた経緯を聞いてみた
「そういうことか
まあ、今までお前一人に負担かけてたわけだし」
「あはは
それもあるんだけど」
ん?他にも何かあるの?
「今日までは家賃のために確実な仕事しかしてこなかったけど」
「そろそろ私もやりたいことに挑戦してみよっかなって」
そういうことか
こいつの女優業については他の姉妹たち、特に三玖から順調であるとは聞いていた
やってみたい役柄とか出たい映画とかがあるんだろう
「四葉も清掃のバイト無事受かったみたい
元々、私の部屋を掃除してくれてたしお手の物だよね」
「いや、少しは反省してる?」
中野姉妹の私物、特にお前の物が俺ん家の一角占拠しつつあるんだけど
「五月ちゃんはまだ踏み出せずにいるみたいだけどきっと大丈夫」
春休みにそんな話題となった時は心配になるくらい悩んでたっぽいが、こいつが言うなら大丈夫なのか
「バイトと両立しながら成績キープか…
なかなか骨が折れそうだ」
「あはは
ここまで来たら卒業したいよね」
一花は少し前に出て振り返る
「頼りにしてるよ
せーんせっ」
……家庭教師を引き受けてもう三ヶ月は経つが未だにこんな風に呼ばれるのは慣れない
ので、顔を逸らしたらニヤニヤ笑いながら一花はこっちの顔を覗き込んでくる
確信犯かよこいつ
「でもさ
私が言い出したことなんだけど、少し寂しくもあるんだ」
ん?
また少し前を歩き出した一花がそんなことを言う
「みんなそれぞれ忙しくなる
きっと全員が揃うことも少なくなるよね」
それはついこの間、風太郎たちも含めて全員で遊んだ帰りに俺も感じたこと
「私たち、このまま大人になっていってバラバラになっていくのかな」
いつまでも変わらずにいるなんて出来っこない
それはこいつ自身よくわかってるはずで
それでも
「帰ってくる場所はみんな同じだろ
家族なんだからさ」
変わらない物だってあるはずだ
我ながら上手く伝えられてるか自信は無いが
「だねっ」
一花の方は楽しげに笑ってくれたので良しとするか
結論から言えば、一花のこの不安は杞憂に終わる
こいつら五人が持つ強い絆はどうやら俺と風太郎の想像を遥かに超えているらしい
「お前と同じクラスなんて何年ぶりだ?」
「小学校の最初らへん以来だから…
10年か」
「そんなにか
中学の一時期お前が荒れてた時以外いつもつるんでたから、あんまバラバラだった気はしないんだけどな」
「ははは全くだその話他のやつに言ったらコロすから」
「はははコロされるくらいなら出来る限り拡散してから散ってやるぜ」
「……」
「……」
「そろそろ現実見ないとダメか」
「ダメでしょうよ」
観念して少し後ろの教室の一角を見れば、髪型や身につけてる物の違いはあれど同じ顔が五つ
新学年のクラス割
俺は会話の通り10年ぶりに風太郎と同じクラスに
そして、中野たち五つ子も全員同じクラスに配属となった
帰ってくる場所は同じとは言ったがこういう意味ではない…
「五つ子だぞ…!ありえねぇ…」
「全くだ…同じなのは顔だけにしてくれ」
偶然にしてはいくらなんでも出来過ぎだろ
まさか中野先生が裏でなんかしてたりしてな
……何故か悪巧みしてそうな中野先生が妙にしっくりきてしまったので強制的にその思考は排除する
「……その割には風太郎嬉しそうだな」
「はぁーっ!?別に嬉しくねーし!
お前こそニヤついてんじゃねーか!」
「はぁ?ニヤついてねーけど」
高校最後の一年は随分と騒がしいものになりそうだ
始業式も終わり休み時間
教室の一角には人だかり
その中心にいるのは
「中野さんが五つ子ってのは知ってたけど」
「実際揃ってる所を見ると凄ぇな」
「やっぱりそっくりなんだねー」
ただでさえ美少女転校生で去年から話題になってた上に、それが五人とも勢揃いとなればみんな興味津々らしい
名前で呼んでいいかとか、普段顔が隠れがちな三玖にもっと良く見せてとかまではまあ普通な話題に思えるが同じカード当ててってのはどうなんだ
二乃が否定してるようにテレパシーなんて無いし、むしろ好きなカード選べって言ったら見事にバラバラなの選ぶぞこいつらは
しかしまあみんな少しエキサイトしすぎか?
五月が落ち着いて下さいって悲鳴あげてるし
「退いてくれ」
そんな一団に向かって風太郎が割り込む
クラスのやつは上杉君も中野さんたちのこと気になるの?と声をかけてくれてるが
「トイレだ
邪魔だから退いてくれ」
もう少し言葉を選べよ
当然、クラスのやつからは感じ悪いと反感
相変わらずの幼馴染の様子にため息が出る
二乃も声をかけるが無視してそそくさと教室の外へ
「あはは…私たちは無視…」
「上杉君は二年の時からあんな感じです
クラスではあえて人と関わらないようにしているというか」
「そういえば林間学校の係も一人でやろうとしてた!」
「根はいい子ってみんなに知ってもらえたらいいんだけど」
中野たちの心配はごもっとも
しかし、こいつらの家庭教師をきっかけにあいつは大分変わってきてるとは思うので、俺としてはあんま心配してない
こいつらのフォローもあるだろうから案外クラスに溶け込むのも早いかもなーなんて楽観
「おう
今年も同じクラスだなコラ」
聞き様によっては威嚇してるような話し方
前田がいつの間にかそばに立っていた
「一花ならあっちだぞ」
「はあ?何で一花さん?」
「ん?
あいつに用じゃないの?」
「いや、何でだよ
別に一花さんに取り次いでもらうためだけにお前に話しかけてる訳じゃねぇから」
「そうか
じゃあわざわざ俺に何の用?」
「いや、ダチに話しかけんのにいちいち理由とかねえわ」
あー…うん
そういやこいつ見た目と話し方に反して割といい奴だったな
友達と思っててくれてるのは悪い気はしないがストレートにそう言われるのは少し恥ずい
「あ、あの!
下川君」
ん?
また別の人が声をかけてくる
確か一年の時だけ同じクラスだった田中
「今朝はありがとう
助かりました」
「ん
気にしないで」
短いやりとりで離れていく田中
何でか顔赤かったけど体調とか大丈夫?
…って、何だ前田その顔は
「お、お前今のは!?」
「……朝先生に言われた雑用手伝っただけだから」
勝手に割り込んだだけだが迷惑でなくてよかった
そして前田は何を勘違いしている
「くっそー!
一花さんという人がいるくせになんでお前だけモテるんだ!」
「だから一花とはそういうんじゃない
ってか、俺のそっち方面の噂なんて最悪だった気がしたが?」
嘆く前田を松井が凄え顔で睨んでるからこいつも近くにいい人がいるのに早く気づいて欲しいもんだ
「お前…自分の噂なのに中身知らねえのかよ…」
そりゃわざわざ悪評の中身なんて知りたくないわ
最後に聞いた時は彼女と中野姉妹で六股とかだったな
で、前田曰く
・バイトは病気の母親のためだった
・その母親が亡くなって荒んでいた俺を中野たちが立ち直らせた
・俺は中野たちに恩を返すため行いを改めた
・問題児を更生させた中野姉妹マジ天使
どうしてこうなった
だいたい真実な分タチ悪いが、俺は別に不良してたつもりはない
あいつら天使は天使でも、とんだ堕天使だぞ
しかし思い返してみれば、二年の三学期あたりはクラスのやつから割と気遣われてた気がする
期末試験対策で頭いっぱいでおざなりな対応しかしてなかったのは悪かったが
それにしても
「別にモテる要素無えじゃねえか」
「バッカ!お前!
もともと雑用やらトラブルの解決でお前に助けられてたクラスのやつは多いからお前が思ってるほどみんなお前のこと嫌ってねえよ
その上で悪い噂は全部デマで髪切ったら意外と顔が良いし雰囲気変わって話しかけやすくなったとかフザっけんな!」
説明するかキレるかどっちかにしろや
しかし、そうか
意外とクラスのやつからは疎まれてなかったのか
どんだけ自分の殻に篭ってたんだ少し前の俺…
「やっぱり顔か…男は所詮顔なのか」
「こんな傷物好きになる悪趣味はいない」
今度は勝手に凹む前田に左のデコを親指で叩きながら言ってやる
三ヶ月も経てばまた前髪は伸びるだろうと思ってたが伸びかけた所をまたもバッサリやられた
ので、火傷の跡は嫌でも目につく
風太郎にはクラゲ頭がウニ頭になったななんて笑われたし
「席につけー
オリエンテーションを始めるぞ」
気付けばそんな時間か
前田の方は今度女の子紹介しろよな!なんて一方的に言って自席に戻っていった
後で松井にしばかれてどーぞ
中野たちの騒ぎは武田が野次馬の騒ぎを収めたらしい
学級長もやってたザ・優等生だがこんな騒ぎを収めることが出来るとは恐れ入った
「武田さん!
なんて親切な人なんでしょう!」
「そう?胡散臭いわ」
「コラコラ」
中野姉妹からの反応は両極端のようだが…
「今日からお前たちは三年生だ」
担任の先生がのお決まりの言葉でオリエンテーションが始まる
始まるのだが
「…なんだ?」
何故開始と同時にその場に立って手を上げてるのだろうあの四女様は
「このクラスの学級長に立候補します!」
ええー…
まだ何も始まってないうちに何言い出してんのこの子
先生も当然そんな反応だが
「そこをなんとか!
やらせてください!」
「反対もしてないけど…」
結局、他にやりたいやつがいないならってことで、めでたく四葉は学級長に
「皆さん
困ったら私になんでも言ってくださいね!」
現在進行形でお前の姉妹たちが恥ずかしくて困ってるようですがそれは
そのままついでに男子の方も決めてしまうことに
「お前やれよ」
「いや、男子の学級長なんて決まってんだろ」
「武田しかいねーよ
そのうち誰か推薦するだろ」
周りの男子連中の会話の通り俺も武田になると勝手に思ってる
二年の時もそうだったし本人も乗り気みたいだし
「先生
私、学級長にピッタリな人を知っています!」
んん??
このタイミングで四葉から切り出す
……この後の展開が読めてしまった
「上杉風太郎さんです!」
「はぁ!?」
やっぱかー
オリエンテーションなんて無視して自主勉かましてた風太郎は当然抗議
四葉のやつ最初からこのつもりで立候補したな
クラスのみんなは武田を差し置いて、などでざわついている
「よし
次の係も決めるか」
「先生!
俺はやるとは言ってません!」
観念しとけ風太郎
「くそっ…
四葉の野郎余計なことを…」
「女の子相手に野郎はやめてやれ」
休み時間の男子トイレで風太郎が苦々しげに言う
結局、他の立候補者も現れることなくめでたく風太郎は学級長に就任することとなった
「これを機にクラスのやつと打ち解けてくれ」
「お前にだけは言われたくねぇ…」
ブーメラン発言だったか…
だが俺にはわざわざクラスのやつと話す口実は無い残念だったな
「駄目だコイツ早くなんとかしないと…」
何故劇画調になってつぶやく
「……なんだよ」
そしていい加減逆側に立つ人物に声をかける
さっきから風太郎の横に立っているのは武田
何でコイツの周りこんなキラキラしてんの?
「上杉君
君は随分彼女たちに信頼されてるみたいだ
ね?」
「だからなんだ?
学級長だなんて勉強の足枷でしかねぇ」
「ふふふ
昔から変わらないね君も
流石は僕のライバルだ」
武田はそう告げるとトイレを出ていく
「お前、武田となんかあった?」
「いや知らん
初めて話したくらいだ」
それはそれでどうなんだよ
武田は風太郎に次いでずっと成績学年二位だったから名前くらい覚えとけよ
期末では逆転されてたんだし
「あー!見つけた!
こんな所にいたんだ、四葉ちゃん」
「先生が呼んでたよ」
トイレを出てみれば中野の誰かがクラスの女子二人に引っ張ってかれそうになっている
言ってる通り四葉に用事なんだろうが
「そいつは四葉じゃないぞ
三女の三玖だ」
おっと
まさか風太郎の方から切り出すとは
「えっ、そうなの!?」
「ごめんねー
まだ覚えきれなくって」
「問題ない
慣れてる」
間違えられた当の三玖はそれほど気にしてなさそうでよかった
「あ
今度こそ四葉ちゃんだ」
ん?近くにいたのか…って
「ニアピンで外してくる!」
今度は五月か
というか、風太郎の方も最初は間違えて不満がられてたから偉そうなこと言えないのでは
「いいか!?
面倒なら身に着けてるアイテムだけで覚えろ!
このセンスの欠片もないヘアピンが五女の五月だ!」
「いきなり失礼な話ですね…」
そりゃ五月も怒るよ
一発くらい殴られてどーぞ
「四葉はあの悪目立ちリボンだ!
それだけ覚えておけば間違いない」
またも失礼極まりない
いちいち当て擦りせんといかん呪いでも持ってんのかコイツは
「上杉君すごいね!
ありがと!」
だが話しかけてきた二人は純粋に中野たちを見分けてることに感心したようだ
「意外でびっくりしちゃった!
ちゃんと中野さんたちのこと見てたんだ!」
「いや…そうじゃなくて…」
「さすが学級長だね!」
慣れない反応に風太郎は恥ずかしげに前髪をいじる
「五人のこともっと教えて!」
「は?」
「ほら付いてきて
向こうにもう一人いたんだ」
「おーい、四葉ちゃん」
「いや、あれ二乃!」
そのまま二人に引っ張られて行ってしまった
前田のやつにモテるってのはこういうのだぞと見せてやりたい
「あの女生徒…
フータローにベタベタと…」
「どうどう」
珍しく三玖が燃えている
風太郎が関わると途端にわかりやすくなるなこの子は
「いいじゃないですか
きっと彼も変わってきてるんですよ」
そういうことだな
不満かもしれんが悪い変化でないはずなのでこれくらいは大目に見てやってほしい
「でも少し、妬けてしまうのもわかります」
「!」
「と、友達としてですよ!」
怖い怖い!
目がマジじゃねえか!
この子が感情表に出してきてくれることもいいことのはずだけど少し自重して!
「あ!えっと…四葉ちゃん
ちょっと手ぇ貸してー!」
またかよ
呼ばれた方を向けばクラスの女子、確か北原、が何やら抱えている
配布するプリントか何かか?
「あの、私たちは」
「こっちが三玖で、こっちは五月ね
四葉はリボンにボブカットな」
「あれ?そうなの
ごめんね二人とも」
風太郎もそうだけど俺もしばらくこんな対応しないといかんのかねこれは…
「じゃあ下川でいいや
これクラスまで運んでだってさ」
「はいはい」
そこそこの量はありそうだから手伝わないってのは酷いだろ
「私も手伝います!」
「ん?
いや、俺だけでじゅうぶ」
「手伝います!!」
五月さん!?なんか怖いよ!?
結局、苦笑いしながらの三玖も手伝ってくれたので四人がかりでパッパと終わらせた
北原が噂について聞いてきたが、何故か五月が怒りながら否定
北原は気圧されて平謝りしてたけど、二人から見えないところで
「愛されてるねぇ」
なんてニヤニヤしてたので反省してないなコイツ…
五月の機嫌直すの案外骨が折れるので責任持ってコイツにも手伝わせたいもんだ
「上杉学級長
三玖ちゃんに話があるんだけど」
「下川
一花ちゃんにこれ渡しといて」
「二乃ちゃんに」
「五月ちゃんに」
「四葉ちゃんに」
「「あ"ー!面倒くせー!!」」
原作にいないキャラは喋らないと言ったなアレは嘘だ
実は二年の時点で少なくとも同じクラスの人たちからのオリ主の評判は悪くありませんでした
オリ主が中学時代荒れていたため、この近辺の町では「額に火傷の跡があるガキには関わるな」という不文律ができました
意図せず前髪で隠せなくなったため町の怖いお兄さんは大体敬語で挨拶してきます
アンケート結果を受けた「三玖ルート導入」はこちらから
https://syosetu.org/novel/263109/