「一旦休憩にしよう」
「あーつかれたー」
放課後の図書館での勉強会
模試に向けての勉強も佳境
学年末試験の時と違って風太郎と俺の成績の方も重要なため正直負担は大きい
それでも風太郎は弱音を見せずに頑張ってるわけだが、流石に疲労感が隠せなくなってきたな
「…悪い
少し外の空気吸ってくる」
そう告げて席を立つ風太郎
三玖は心配なのか程なくしてその後を追って席を立つ
残されたのは俺と一花に四葉
「で、二乃と五月は?」
そう、図書館にはその二人がいない
なんだか、風太郎が家庭教師を始めた最初の頃に戻ってしまったみたいだが、今更あいつらが逃げるなんて思いたくない
「二人とも用事があるそうですが…」
「大丈夫だって
遅れてるだけですぐ来るよ」
四葉の言い分からだと詳しくは分からないらしい
一花の方は楽観的、というか最近ずっとだがやけに機嫌がいい
「そうだ
疲れてない?飲み物とか買ってこようか?」
「……ここ図書館だから
飲食禁止」
気を遣ってくれてるのか、それともご機嫌取りか…
言っとくけどそんなんで課題の量減らしたりしないからな
「別にそんなつもりないんだけどな〜」
「あはは…
下川さんも相変わらずですね」
二人して苦笑いしてくるし
「……ところで四葉は何始めたの?」
「これはですね…って、わっ!!」
ん?
説明してくれるかと思ったら図書館の入り口に人影が見えた途端慌ててそれを隠す
しかし、入ってきたのが二乃と三玖であるのを確認すると安心した様子
「あはは、びっくりした
上杉さんが帰ってきたのかと思ったよ」
「四葉、何よそれ」
二乃が机を覗き込む
入ってきた時に何やら三玖との間でバチバチ火花散らしてたように見えたが錯覚だろうか
「千羽鶴!
休憩時間中に上杉さんたちの試験合格を願って作ろうかと思うんだ」
なんか前にも同じようなことがあったような気がする
「病気の人にあげるやつじゃなかったっけ?」
「まあ…幸運の効果はあるって聞くし…」
一花と二乃は指摘するが、四葉は楽しそうなのでいいんじゃないか?
「はっ!
内緒で用意してビックリさせるはずだったのに!
下川さん!今のは聞かなかったことに!」
今更言われてもなぁ…
わざわざ俺の分まで用意しなくてもいいのでその分勉強に当てるかしっかり休んで欲しいものである
「でもプレゼント中止って…」
「あ」
ん?プレゼント中止?
もしかして明後日の風太郎の誕生日とか?
「ごめーん!
そんなつもりじゃなかったんだー!」
おいおい
急に泣き出す四葉に一花たちも慌てている
ってか、図書館だから静かにしような
「自分で自分が許せないよ〜」
「これじゃあ私だけズルしてたみたいだもん!」
「約束を破るなんて人として最低だー!」
一向に泣き止む様子のない四葉
何故か二乃と三玖の顔が引き攣っていくんだが
「とりあえず四葉は落ち着こうな」
「ぐすっ…
ごめんなさい〜」
で、聞いてみれば誕生日当日のプレゼントは模試の勉強の邪魔になるんじゃないかということでやめにしないかと相談していたとのこと
なるほどね
しかし、こいつらと出会ったばかりの頃はともかく、今のあいつがそれくらいで迷惑がるとは思わないが
「じゃあこうしよう
やっぱり模試前に渡すのは勉強の妨げになっちゃうから
この模試をフータロー君が、無事乗り越えたらみんなで渡そ」
結局、一花がこうしてまとめてこの場は収めることに
「ちょ、ちょっと!」
二乃は何やら不満なのか一花を引っ張り少し机から離れる
「何勝手に決めてんのよ」
「自信あるんでしょ?
全員で一斉に渡しても大丈夫だって」
聞くつもりはなかったが聞こえてしまった…
まあ、さっきの反応から二乃、おそらく三玖もだが自分のプレゼントは用意してたんだとは察しがついたが
一花の煽りで二乃も当然!と鼻息荒く離れる
流石に長女だけあって妹の扱いに慣れてる
「じゃあ当日は何もなしか…」
「うーん…そうだ!
こんなのはどうかな!」
四月十五日、風太郎の誕生日当日
結局、中野たちが今日何をするのかは教えてもらえなかった
手伝おうかという俺の申し出はやんわり断られたし
まあ、あいつらなりに風太郎のこと考えてやってるのでこれ以上どうこう言う権利ない
気にはなってるがいつも通りの日常、バイトと模試の勉強を終わらせて上杉家へ
せっかくの誕生日に家族の団欒に水を差すのもどうかと思ったがバイト先に根回ししてまで招待されてしまったのでこうして向かっている
「五月?」
「バイトお疲れ様です
下川君」
その途中、五月が道端に立っていた
一昨日の図書館での騒動の時は用事とかで不在だったが今日もそれだったか?
「これから帰って勉強ですか?」
「そうだな
風太郎のとこ少し寄ってからだけど」
五月の問いに手に持った袋を掲げながら答える
流石に手ぶらはないだろうということで安物だけど差し入れを少し
「そういう五月は?
アパートとは逆方向だろこっち」
「……上杉君には先程報告してきたのですが」
なんでも塾講師をしている知り合いの人のところで手伝いをさせてもらっているらしい
つまりそれは
「教師になるって夢のため?」
「はい
教える立場の現場を見ておきたくて」
そう言う五月の表情はなんとも晴れやかで
しっかりと将来を見据えてるようだ
一花といい、五月といい
どんどん先に進んでいく姿を見せてくれるのは素直に嬉しい
嬉しい筈なんだが…
「それと…
これを」
「ん?」
渡された紙袋に思考は中断した
随分軽いが何が入ってんだ
「あと少しです
がんばりましょうね」
そう言って五月は去っていく
そこまで遅くはないが夜道なので送ろうかと、聞いてみたがやんわりと断られた
しかし、何を渡してきたんだ?
袋の中を覗き込んでみれば
「折り鶴?」
それも五羽
五羽鶴ってこと?
にしても随分大きい
何の紙使ってんだ
「答案用紙って…」
一羽を解いてみれば現れたのはテストの答案用紙
氏名欄には「中野五月」とある
この間、家庭教師の時に出してた数学のやつか
他の四羽も解いてみればやっぱり名前の欄には他の姉妹たち
点数は
「はは」
つい笑みが溢れる
はっきり言ってしまえば良くも悪くもない点数
だが、こいつらと知り合った頃に比べれば格段に良くなった結果には感情的にもなる
「一人じゃないか…」
なんとなくそう言われてる気がした
みんな頑張ってる
俺ももう一踏ん張りするとしよう
「おはよ
みんな目の隈すごいけど大丈夫?」
「……お前にだけは言われたくねぇ」
テスト当日
教室に揃って入ってきた風太郎と中野姉妹に声をかける
先の言葉の通り全員目の隈すごい
昨日も遅くまで頑張ってたようだ
「っていうかアンタは随分早いじゃない」
「ああ
テスト当日に遅刻なんてしたら洒落にならんからな」
「ユーキがそれ言っちゃうんだ」
二学期の中間のこと思い出してんだろうな
あんなイレギュラーは二度とごめん被りたいのでこうしてバイトから直接登校しているわけで
「君には!身の程というものを存分に思い知ってもらおう!」
何で武田は一人で盛り上がってんの?
突然目の前に立たれてそんな宣言されてもどうリアクション取ればいいかわからんぞ
「さっき玄関前で絡まれたのよ」
なんとなく納得
いつかこいつらのアパートに来た時みたいに風太郎に突っかかっていったわけね
しかしなあ
「風太郎と仲良くしたいなら素直にそう言えばいいのに」
「な、ななな何を言うんだい!?
僕と彼はライバル!ライバルだから!」
あからさまに動揺しながらそそくさと去って行った
「あの人、フータローと仲良くしたいの?」
「ん?多分だけど
勉強できるもん同士ってのもあるけど
根は真面目ってとこも同じだし気は合うんじゃない」
あくまで観察してての予想だけど
俺を敵視してんのもまあそう言う理由なんだろうなと
「にしてもアンタ容赦ないわね」
「恋愛がらみの暴露でもないから別に隠すことでもないだろ」
流石にそっち方面のことを第三者として暴露するのは悪趣味すぎる
ってか、二乃も三玖もまだ時間はあるから少しでも模試対策しておこうな
そう告げれば素直にテキストを取り出す二人
少しでもいい点とって風太郎を安心させて欲しいもんである
模試開始まであと数十分
俺も最後まで頑張ろう
午前中の科目は順調に終了
流石にあれだけ気合い入れて勉強した甲斐はあり、俺としては今までにないほどの手応えを感じてる
だが、風太郎の様子が何やらおかしい
どんどん顔色が悪くなってる気がする
そして昼休みに入ったらとうとうトイレから出て来なくなったので心配して様子見に来てみれば
「これはね…
この模試の答えだ
ここに全て書いてある」
なにやら不穏な雰囲気の会話が聞こえて、トイレの前で立ち止まる
「なんでそんなものが…
つーかそれさえあれば…」
「そう
確実に勝てる
君の成績がどれほど良くてもね」
中には風太郎と武田しかいないみたいだが
めちゃくちゃ不正じゃねーか…
理事長の息子とは聞いていたけどここまでやるか
いくらなんでも聞いてしまった以上見過ごせんので中に踏み入ろうとして
紙を破り捨てるような音に踏みとどまった
「安心してくれ
前半の科目でもあの封筒は開けていない…」
「お前…」
武田が自分で模範解答の用紙を破り捨てたのか
「上杉君、僕はね…
宇宙飛行士になりたいんだ」
……はい?
中から武田が何やら夢について熱く語り出したが完全に置いてけぼりだ
だが、地球上で一握りの人間しか行けない宇宙に行くためってのは聞き取れた
「だから僕はこんな小さな国の小さな学校で負けるわけにはいかない
夢があるから」
「実力で君を倒す!
不正して得た結果なんてなんの意味も持たない!」
なんとも真っ直ぐなやつだったらしい
何か秘めてる感はあったが裏表自体はないタイプだったか
風太郎の方はうめき声の後にまた個室にこもってしまったみたいだが…
「ははは!何を今更!
当たり前さ
僕らは永遠のライバルなのだからね!
ーーっ!!?」
トイレの出口のところでバッタリ
うん
これは恥ずかしいよな
まあ、俺は事情ある程度理解できるので、他のやつに聞かれなかっただけ安心してくれ
「君も!」
ん?俺?
「君も上杉君の隣に立つと言うのなら!
相応しい実力を見せるんだね!」
照れ隠しなのか勢いなのか、一方的にそう言って去っていく武田
言われるまでないさ
いつもなら特に気にもしないが、こっちも事情が事情だ
悪いけど負けてやる気はない
さて
「おう
生きてるか?」
「優希か?」
埋まってる個室は一つだけなので分かりやすかったな
「ほれ」
「あ?なんだよこれ」
ドアの上から袋を投げ入れてやる
無事受け取ってくれたようで良かった
「胃薬と水
なんでこんな大事な日に腹壊すんだよ」
「……すまん」
これで気休め程度にはなるだろ
最初にぶち上げた全国一位は中野たちの猛抗議で全国十位以内に引き下げられたとはいえ消せる不安要素は消しておけ
「お前の方はどうなんだよ?」
「今んとこは手応えあるよ
風太郎は自分の心配だけしてな」
そう告げてトイレを出る
思わぬ展開だったがより気合いは入った
残り半分頑張ってみようか
「見事
と言う他ないね」
昼下がりの公園
ブランコを揺らしながら話す武田と風太郎
「君が十位以内に入ったとしても勝つつもりで臨んだ全国統一模試
八位というのは僕にとっても願ってもない順位だ」
「まさか宣言通りの一位とは」
あれから一週間ほど
すでに五月には入っており、例の模試の結果は出ている
武田が言うように風太郎はしっかり当初の目標を達成したのだった
あの体調でよくやりきったもんだ
終わった途端ぶっ倒れて救急車を呼ぶ寸前までの騒動はあったがそれはそれ
「……なぜ俺はこんな昼間からお前とブランコを漕いでるんだ」
「ははっ
昨日の敵は今日の友
これが青春なのかもしれないね」
「帰る」
武田の言葉に不機嫌そうに返してブランコから飛ぶ風太郎
昔からこれだけは得意なんだよなこいつ
「忘れたのかい?
僕らは呼び出されたんだ
ほらご到着だ」
武田の視線の先にはこの公園には似つかわしくないリムジン
そこから降りてくるのは
「待たせてすまないね」
相変わらず無表情の中野先生
武田が言うように今日は三人揃って呼び出された
そうして、話をするために近くのベンチに腰掛ける
「……君も座ったらどうだい?」
「お構いなく
慣れてるので」
武田からの申し出はやんわり断り一人ベンチ近くに立つ
三人で座るには若干手狭なベンチだし、中野先生の隣に座るのはなんか気まずい
「まずは武田君
全国八位おめでとう」
肝心の中野先生はお構いなしに話を始める
「医師を目指していると聞いた
どうだろうか
君のような優秀な人材ならば僕の病院に…」
「申し訳ございません」
中野先生からの言葉、それに武田は真剣な表情で頭を下げる
「大変光栄なお話ではありますが
僕の進路についてはもう少し考えたいと思っています」
模試の時に聞いていた夢ってのはやっぱり本物らしい
そういうのがあるってのは素直に羨ましいもんだ
「上杉君、そして下川君」
「はい」
「君たちに家庭教師の仕事を再度頼みたい」
「えっ」
どう切り出そうかと考えてたらまさか向こうからとは
そう
風太郎ほどでないが俺もしっかり宣言した目標は達成できた
ギリギリとはいえ武田に勝ったわけだからこれでなんの負い目もないはず…なのだが
「あの、俺はもともと正式に雇われてたわけじゃないんですが…」
「本来ならばプロでさえ手に余る仕事だが」
無視ですかそうですか
俺の横槍を気にせず中野先生は続ける
「君たちにしかできないらしい
やるかい?」
……答えなんて決まっている
「勿論!
言われなくてもやるつもりだったんだ
給料が貰えるのなら願ったり叶ったりですよ!」
そういうことだ
俺たちの肚はとっくに決まってる
けど風太郎、暑苦しいから肩まで組まんでいい
「それは良かった
では当初の予定通り卒業まで…」
「あ、そのことで一つお伝えしたいことがあります」
風太郎が言うにはすでに中野たちは卒業出来るだけの力は身に付けている
だが
「次の道を見つけてこその卒業
俺はあいつらの夢を見つけてやりたい」
あれだけ他人と関わることを避けてきていた風太郎からこんな言葉が出るとは
気づけば随分とこいつは先を走っているらしい
「どのような方針を取ろうが自由だ
間違っているとも思わないしね」
「だが忘れないでほしい
君たちはあくまで家庭教師
娘たちには紳士的に接してくれると信じているよ」
「も、勿論一線を引いてます!
俺は!俺はね!」
中野先生からの圧が急にすごい…
ってか風太郎、何しれっとお前だけ言い逃れようとしてんだ
一応、この人なりにあいつらのことは心配してるらしいがすでにこの男に三人ほど絆されてんだよなぁ…
まあ、そっちの苦労は今までのに比べたら大したことないだろ
せいぜい頑張ってほしいもんである
「……君もそういう点では気をつけた方がいいんじゃないかい?」
「なんで?」
「いや、気づいていないならいいさ…」
何故か武田に呆れられた
俺の方はそんな気配無いでしょうが
そう言ってやれば何故か三人揃ってため息をつかれた
中野先生にまで…
マジでなんなんだ?
「えっ!?」
あの後、中野先生の用事のついででリムジンで姉妹のアパートへ
車を降りたところで横から五月の驚いた声
「し、下川君に上杉君
今乗ってきたのはお父さんの車じゃ…」
「えーっと…な…
家庭教師、復帰できることになった
ついでにこいつも正式に雇われることになった」
風太郎のぶっきらぼうな言葉に五月の顔が輝く
「功績が認められたのですね!
おめでとうござい…
って、あれっ!?」
五月の横をそそくさと通り過ぎる風太郎
さてはさっき中野先生に言われたこと早速気にしてるな
どうせ距離感を考え直すべきだ、なんて考えてんだろうけど
二乃も三玖も最近ぐいぐい来てるから難しいと思うけどなぁ
「下川君」
ん?
「よかったです
本当に…!」
五月が感無量と言った様子で俺の手を取って言う
若干涙ぐんでまでいる
「大袈裟だって…
大体礼を言うならこっちの方だし」
そもそも始まりは風太郎一人でも十分なところをわざわざ俺まで雇ってもらったからだし
まさか、こんな形で公認されることになるなんて想像してなかったが
「上杉君もですが、下川君の頑張りがあってのことですよ」
「これで一緒にいられますね」
そう言って笑う五月の笑顔が随分眩しく見えて
「ユーキ君!聞いたよ」
正式に家庭教師お願いされたんだって!」
階段上から一花が駆け降りてくる
手を握っているのが妙に気恥ずかしく感じ思わず五月から離れる
五月も同様だったようで二人してそっぽを向く奇妙な状態に
「どーしたの?二人とも」
「な、なんでもありませんよ!?
ね?下川君」
相変わらず誤魔化すのが下手な子である
とはいえ俺も気恥ずかしいので適当に誤魔化す
「ところで、玄関前妙に物多いけど何してんの?」
「ん?生活も落ち着いてきたからちょっと大掃除」
そういうことね
五人分の私物整理ってなると大変そうだ
「邪魔しないうちに今日は帰るわ
またおちついたらな」
中野先生から言われたからではないが俺も少しは距離感を考えよう
思わず手伝おうかと口に出しかけたがどうもさっきの五月とのやりとりを思い出すと妙に気恥ずかしい
「少しくらいゆっくりしていったら?」
「そうですよ、折角ですし」
気持ちだけ受け取っとくよ
風太郎も同じ考えらしく二階から降りてくる
一花と五月にまたなと声をかけ二人でアパートを後にする
「しかし、これで一学期最大のイベントも終わったし
あとは定期テストまで平和な日が続くな」
「いやいや学級長
一学期最大のイベントはこれからでしょうが」
修学旅行まであと少し
オリ主の介護ムーブにより全国一位をとった風太郎の運命やいかに!?(特に今後の展開に影響はありません)
オリ主が本を読むなら求人のフリーペーパー