5Sぷらす2 【本編完結】   作:しろすけ

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オリ主の円は半径5メートル(つーかこれが限界)


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いよいよ修学旅行出発当日

風太郎を含めた周りの連中もみんな浮かれ気分のようだ

だが、俺はどうにも気分が重い

というのもあの日、買い物中のあの出来事の後のことだ

 

 

「ーっ!

 下川君」

「ん

 お疲れ、五月」

 

買い物を終えて店から出た五月が俺に気付く

流石に下着屋の前で堂々と待ってるのはキツいので適当なとこに立ってたんだが、うまい具合に合流できてよかった

 

「ま、待っていてくれたんですね

 ありがとうございます

 さ、四葉たちのところに戻りましょう」

 

そう言ってそそくさと歩き出そうとする五月だが

 

「あれは一体何のつもり?」

「っ!」

 

悪いけど事情は聞いておきたい

案の定バツの悪そうな顔になって五月は黙り込んでしまう

さっきの風太郎とのやりとり

多分だが写真の女の子という体で風太郎と話をしていたんだろうと予想はつく

風太郎にとってそれがどれだけ大切な思い出なのかも聞いているはずだ

それでもなおこんな真似をしているのなら、それなりの理由を聞かないと俺も見逃せない

 

俯いた五月の表情は見えない

が、悲痛そうな雰囲気は伝わってくるわけで、追求すると決意したばっかだが早くも揺らぎそうだ

 

「…………あいつを傷つけるつもりはないんだよな?」

「…っ!

 それは…それだけは誓って」

 

ようやくこっちを見て口を開いてはくれたけど、これはこれ以上話してはくれなさそうだ

 

「わかった

 これ以上は聞かない」

「…すみませ」

「ただし」

「?」

「協力もしてやれない」

 

むしろ五月の思惑を妨害することになるかもしれん

悪いけどこれが妥協できるギリギリのラインだ

修学旅行の行き先は奇しくも京都

6年前、風太郎が写真の女の子と出会った場所

始まる前から厄介なことが起こる予感しかしないな…

 

 

そんなわけなので不本意ではあるが五月の動きを警戒しなければならない

早速出発前に一緒に行動しようと提案してきて風太郎はおろか姉たちにも困惑されてたし

 

「で、トランプっても何すんだ?こら」

「七並べ…は難しいな

 ポーカーでもするか」

 

渦中の自覚がない幼馴染は能天気にトランプを取り出している

流石に俺から零奈、五月のことを話すのも何か違う気がするし

三玖や二乃も風太郎と一緒に行動しようと何か動くかもしれない

さらに、出発直前に風太郎の方からも班員の俺たちに頼み事が追加された

 

…………うん、もう考えるのめんどくセー

こうなったら出たとこ勝負だ

多少強引になろうとも、風太郎たちも中野たちにも楽しい修学旅行だったと言わせてやろうじゃねえか

というわけで着くまでは寝る

 

「あ?

 下川はやんねーのか?」

 

寝る体制に入った俺に前田が気付いたようだ

 

「なんだ優希

 負けるのが怖いか?」

「……そういうことにしといて

 着く前に起こしたらブチコロがすからな」

「お、お前

 マジで大丈夫なのか?

 熱でもあるんじゃ…」

 

いつもの挑発に乗るのも億劫で適当に返したら割とマジで心配してきたが今は無視

ポーカーを始めた風太郎たちに背を向けて目を瞑る

これで起きたら何事もなく修学旅行終わったりしてないかなぁ

無理?そんなー

 

 

そんなわけで着いたな京都

6年ぶりか

風太郎みたいにドラマチックな出会いなんてなく、能天気に遊び回ってた記憶しかないから特に感慨はわかんな

 

「で、どっから回るんだ?コラ」

「まずはここからだな」

 

先生からの諸注意も終わり、とりあえずこれからの動きについて確認中

生返事を返しながら念のためあたり、というか中野たちの方をそれとなく見てみるが

……うん、全員でこっちの様子みてたわ

目が合う前に逸らしたがいつも以上に熱がすごい

当の対象である風太郎は武田たちとの会話に集中してるのかまるで気付いてないみたいだが

 

「優希

 何ぼーっとしてんだ?

 行くぞ」

 

いつの間にか確認は終わってたらしく、歩き出す風太郎たち

人の気も知らないで呑気なもんだ

いや、こいつらが何事もなく楽しんでれば俺の望み通りではあるんだが

 

そして一箇所目

男四人並んで二礼二拍手

 

「なんだここ…」

「学問の神様が祀られている神社さ

 前田君、君の成績は見るに堪えないんだから深ーく祈りたまえ」

 

武田と前田のやりとりの通りまずは神社

というか、全国模試一位と八位がこれ以上何を祈るというのやら

そういえばこういうのって他人のことも祈っていいんだっけ?

だったら最近また頑張ってくれてるあいつらが報われてほしいもんなわけで

 

「……君はそこまで祈らなくてもいいんじゃないかい?」

 

武田が隣で呆れたような声を出してる

それはさっき俺がお前らに思ったことだよ

 

「五人分だから少し念入りにな」

 

よし

まあこんなもんだろ

……なんだお前らその顔は

 

「いや、変われば変わるもんだなと」

 

そりゃあ、今は正式に雇われてるわけだし

生徒の成功祈るのは普通なのでは?

 

「お前、けっこうめんどくさいやつだな」

 

なんでさ

 

「そんな取ってつけたような理由を取り繕わなくてもいいんじゃないかい?」

 

「…………次行くぞ次」

 

「逃げたな」

 

風太郎うっさい

 

 

次の目的地、といってもすぐ隣なんだが

有名な千本鳥居を歩く

6年前も来たがやっぱ圧倒されるな

前田の方は野郎だけで歩くこのシチュエーションに嘆いているが

 

「つか腹減ったな」

「そうだね

 この辺りで昼食にするかい?」

 

気づけばいい時間になってたな

初日は自由に昼食とっていいことになってたしどっか手頃な場所……って

 

「な、なあ!

 折角だしもう少し先に進んでみないか?

 上の方に美味い店があるとかないとか」

「は?」

 

危ねぇ…三玖の件忘れかけてた

なんでも今日の早朝に風太郎に食べてもらうためとバイト先のパン屋を使わせてもらったそうで

出来については聞いてないが、今までの様子ならそっちは心配ないだろう

そういう事情を知ってる以上わざわざ機会を潰すのは忍びない

しかも、風太郎のことだからここで昼食べてしまったら三玖からパンを渡されたとしても「さっき食べた」とかで断りかねん

 

「それならもう少し進んでみるか」

「腹減ってんだけどなぁ…」

 

ぶつぶつ言いながらも提案には乗ってくれるようで助かるよ

山頂までのルートは二つあるみたいだが、人の流れが多い正規ルートっぽい方を選択

それにしても、中野たちはちゃんと付いて来てるんだろうな?

出発前の五月に限らず目的が風太郎である以上付いてくる筈なんだが

絶妙に気配のわかるギリギリのとこでウロウロされてる気がする

 

「ところでお前ら

 中野さんたちとはどうなんだよ?コラ」

 

黙々と山道を歩くのに堪えかねたのか口を開いたのは前田

 

「…………どうも何も家庭教師の方は順調だが」

「なんだよその間は」

 

答えに詰まるあたりどういう意図の質問かは理解してるようで

 

「四葉さんとはどうなんだよ

 学級長同士で仲良さげじゃねえか」

「お前まであんな噂鵜呑みにしてんじゃねえよ」

 

そうは言うけど前田は意外とそういう噂には目敏いぞ

 

「僕は今学業に手一杯でね

 そういったことに現を抜かしている暇はないのさ」

 

うん、武田については別に聞いてないしある意味予想通りですわ

 

「で

 そういう下川の方はどうなんだよ?」

「は?

 なんで俺?」

 

俺のその手の噂は何度も否定してきたじゃんよ

 

「いや、噂がどうこうじゃなくてお前が中野さんたちどう思ってんのかってことなんだが」

「…………家庭教師と生徒」

「だからそういうのはいいつってんだろうが!コラ!」

「じゃあ友達」

 

そう返してやると前田は不満気で何故か武田や風太郎まで呆れたような顔をしている

 

「でもよ

 仮にあの中の誰かが告白とかしてきたらどうすんだよ?」

 

しつこいなこいつ

どうして俺とあいつらでそういうことになるのやら

 

「風太郎ならともかく、俺がそういう対象にはならんだろ」

 

っと、なんだかんだ気付けばもう山頂か

どうやって風太郎を三玖の方へ誘導しようか

 

「いや何でだよ

 散々人のこと鈍感扱いしといてお前の方が酷いじゃねえか」

 

風太郎まで言うか

 

「一花さんとかどうなんだよ?」

「……何でよりによって一花?」

 

そういうスキャンダル的なのはあいつにもよろしくないでしょうに

 

「どう見ても一花さんは下川のこと好きだろうが!」

 

そこまで熱弁するほどか?

去年から同じクラスって以外で学校での関わりなんてほぼなかった筈だが

 

しかし…一花ね

 

「あり得ねえわ」

 

頂上に足を踏み入れるとほぼ同時に自嘲気味な声がこぼれる

そして

 

「ーーっ!」

 

地面に缶が落ちる音にそちらを見る

そこに

 

「い、一花さん!?

 まさか、今の聞いて…」

 

何故か凍りついた表情の一花がいた

 

「あ、あはは…

 ごめんね…邪魔、しちゃったみたい…で」

 

自分で落としたであろう缶を拾いながら一花は言うが

 

「お前、何泣いて」

「一花!違うぞ!今のは」

 

立ち上がった一花の目には涙が

前田だけでなく風太郎や武田まで慌て出した

こっちはこいつのこんな弱々しい姿見るの初めてで困惑の方が勝ってる

 

「ほんとごめんね

 それじゃ」

「あ!おい、一花!」

 

あからさまな作り笑いとともに振り返って走り出す一花

風太郎の静止にも聞く耳を持たない

 

「一花!?」

 

向かう先の階段から登ってきた五月と二乃の横も止まることなく駆け降りて行ってしまう

 

「ーーっ!

 下川、あんた」

 

それを確認した二乃は怒りを込めた声を上げて、俺に詰め寄ってくる

 

「一体何言ったのよ!」

 

全くの手加減なく胸ぐらを掴まれた

 

「……正直何が悪かったのかわかってない」

「はあ!?

 ふざけないでよ!

 あの子があんな顔するなんてあんたが酷いこと言ったに決まってるじゃない!」

 

胸ぐらの手に一層力が入る

二乃は怒りの表情は変わらないが目尻に涙まで浮かべている

 

「二乃

 気持ちはわかるが少し落ち着け」

 

風太郎が見かねて仲裁に入ってくる

いつもは味方なはずの幼馴染も今回ばかりは俺に対して呆れた様子

二乃はそれを聞き、突き飛ばすように俺を解放し

 

「さっさと追いかけなさい」

 

一花が降りて行った階段を指さした

 

「……泣かせた俺が追いかけたところで」

「つべこべ言うな!

 一花のこと少しでも心配ならすぐに行く!

 ダッシュで!」

 

それを言われたら黙って行くしかない

正直まだ困惑してるし、何が原因か心当たりなんてない

だが、あんな顔した一花を放っておくなんてことも出来ないわけで

いつの間にかこの騒ぎに集まりかけた人をかき分けて階段を降りる

五月の姿も気付いたらない

一花を追いかけたんだろうか

 

何もかもうまくいくなんて思ってはいなかったが、いきなりこれか…

みんな笑ってこの旅行を楽しんでほしいって目論見を早くも瓦解させてしまった

とにかく追いついて謝ろう

しかし原因がしっかりわかってない中で謝ることに意味なんてあるのか…

階段を駆け降りる足はいつになく重く感じた

 

 

結局、日が暮れるまでに一花を見つけることはできなかった

近くを駆けずり回ったが、日が暮れそうになった頃に風太郎から電話をもらい、一花は五月とホテルに戻っていたと告げられた

最初から携帯で呼び出せばよかったじゃねえか俺のアホ

出てくれるとは限らんけど

色んな意味で重い足取りでホテルに戻ったところで

 

「どういう意図だったか一応聞くわ」

 

怒りのおさまらない二乃に捕まった

他のクラスのやつの前とかでないのはマシだが、風太郎に五月もこの場にいる

三玖と四葉は一花のそばにいるのだろうか

 

「……どの言葉に対してだよ」

 

風太郎もこの場にいる以上前後のやりとりも聞いてるんだろう

未だに何が一花をそこまで傷つける言葉だったのか分かってない以上どう答えればいい

 

「あり得ないってのはどういう意味だったってことよ!」

 

それか

そんなの

 

「一花が俺のことを好きなんてあり得ない」

 

俺としてはそれ以外の意図なんてまるでなかったの

だが、あの一花の様子から別の意図で受け止めてしまったのはなんとなくわかる

 

「……あんた、肝心なとこが何にも変わってないじゃない」

 

気付けば二乃は俯いてしまっている

表情は見えないが声は先程の怒りと打って変わって悲痛さが伝わってくる

 

「ずっとそう

 あんた、どこまでいっても自分に返ってくるものが何も無いって思い込んでるんでしょ?」

 

「あんたは周りさえ良ければそれでいいかもしれないけどね

 そんなの見せつけられる私たちがどう感じるかなんて考えたことあんの?」

 

面と向かって言われないと自覚すらなかった

そうか

この修学旅行が始まる時にした決意も、下手すればもっと前

こいつらの力になると決めた時ですら

それで俺がどうなるかなんて考えもしてなかったのか

あれだけ親父さんやこいつらのお爺さんからも指摘されていながら、俺が俺自身をどうしたいかが欠落していたのか

 

「優希」

 

風太郎までそんな顔することないだろ

 

「今すぐ変われなんて言えねえよ

 俺もそんな簡単じゃなかった」

 

それはよくわかってるつもりだ

近くでずっと見てきたから

 

「お前が誰かのために生きることを否定はしない

 けど

 誰かを救う前に、お前自身が救われてほしい」

 

そう言い残して、風太郎は二乃と五月を引き連れてクラスのみんなの元へ戻って行く

五月は最後まで言葉を発っさなかったが、二乃同様悲痛な顔だった

 

俺がどうなりたいか、どう思われたいか

 

……一花と話をしよう

答えなんてまとまってないけどそれでも話さねえと

正直、俺自身どうなりたいか自問するのも、一花の本心を受け止められるのかも不安しかないが

それでも傷付けた以上やれるだけのことはやろう

決意して俺も風太郎たちの後を追う

情けないけど今の俺に一花と話す場を作れる自信がない

悪いけど手貸してくれ

 

 

「…………自分で言っといてなんだけど、あんたからのマジのお願い違和感すごいわ」

「台無しだよ」




完全に原作から逸脱!
オリ主色んな人の思惑を無自覚にぶち壊す(万死値)
次回は原作で割とあっさりめだった二日目を書くのでさらに時間がかかるかも…

オリ主は乗り物での移動中は基本寝てる

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