「……何でそんなになるまで外にいたんだ?」
「……頭冷やしたくてな」
冷えてんのは全身だなんてツッコミは無視する
何があったかなんて口が裂けても言えん
修学旅行二日目は突然の雨に全員がホテルで待機になった
前田は雨男雨女がいるななんてぶつぶつ言ってる
「んじゃ、俺は他の班の点呼行ってくるから」
風太郎は学級長の仕事で部屋を出る
三十分後に二階の大広間に集合らしいが
「疲れた寝る」
「はあ?」
一人くらいいなくても問題ないだろ
うまい具合に誤魔化しといて
「雨に打たれて風邪でも引いたのかい?」
武田が心配そうに声をかけてくるが、この程度で風邪が引けるんならあと小一時間外にいたい
「相変わらずめんどくさいやつだな!
何もないなら起きろコラ!」
「うるせー!みんなのところになんて行けるか!
俺は部屋で寝てる!」
「変なフラグ立てんじゃねえ!」
その後、戻ってきた風太郎も加わったので抵抗虚しく布団から叩き出された
そうしてホテルの廊下を発見された宇宙人の如く両腕を掴まれて引き摺られてるわけで
「お前
一花と一体何があったんだよ?」
「…………黙秘権を行使する」
「何かあったって白状してるようなもんじゃねえか」
気付いたならほっとけ触れるな
時間が経つにつれて一花からされたこともそうだが、俺自身の言ったこともかなりくさかったんじゃないかって相乗効果が起こってんだよ
なんだかんだ追求してくる前田に適当に返しつつ大広間へ
俺の抵抗のせいで時間ギリギリになったため既に大広間にはうちの生徒たちが多くいる
パッと見て中野たちはいないみたいだが
「あれ?一花さん眼鏡なんて珍しいね」
後ろから聞こえてきた会話、というか名前に思わず体が跳ねる
前田の顎が肩にヒットして悶絶したようだが今は無視
「あー、うん
昨夜寝不足で目腫れぼったくてさ」
「ふーん」
どうも去年まで同じクラスだった友達と話しているようだ
気づかれる前にさっさと人集りに紛れようとして
「あら、あんたたちも今きたのね」
二乃てめぇっ!?
俺に何か恨みでもあるのか!?
思い当たる節はあるけども!
「おう
ちゃんと間に合ったな」
幸いにも風太郎との会話に意識がいってるようなので今のうちに…
「あ!下川さん!
一花のことありがとうございました!」
四葉ぁぁぁ!!
なんで今に限って俺の方に来る!?
いつもみたいに風太郎の方に行ってくれ!
「イイヨ気ニシナイデ」
「どうしたのそんな変な喋り方で」
よりによって真っ先に近寄ってくるのがこいつか
いつの間にか友達との会話を切り上げてたらしい一花
油の切れた人形みたいに動きで振り返る
「ん?」
小首を傾げてこちらの顔を覗き込む一花
眼鏡以外はすっかりいつもの調子みたいだが
くそ…俺だけ妙に意識してるみたいでだんだん癪になってきた
「ところで下川さん
あちらを見て下さい」
ん?
こちらの葛藤なんてつゆ知らずか四葉は
まあ、この雰囲気が途切れるので内心感謝しつつ促された方を見れば
「…………あ」
どんよりとした雰囲気を纏った三玖
これはまさか…
修学旅行ももう二日目が終わる
で、俺が原因のあの騒ぎのせいでおそらく三玖はあのパンを渡せていない
あれだけ準備に力を入れてたのにここまでうまくいかないとなればそりゃ凹む
俺にも経験ありますわ
「……正直すまんかった」
「……いいの
ユーキの朴念仁がここまでの事態を起こすことが予想できなかった私が悪いの」
「ぐ…」
卑屈ついでに即死級の当て擦りはやめてくれ
その話題は俺に効く
一花も四葉も苦笑いしてないでどうにかして
「まあ、そういうわけだからさ
少し協力してくれない?」
三玖から少し距離をとったところで一花が耳打ち
協力って…
そりゃあ俺に断るなんて選択肢あるわけないんだが
何するつもり?
「それはまぁ…
ごにょごにょ」
「…………マジ?」
それ本当に大丈夫なのか?
昨日の雨とは打って変わって晴天
降水確率も一日ゼロ
修学旅行最終日は無事に行程をこなせそうだ
「Eコースはこっちよ
出発するわよ」
引率の先生の声に動き出す一団
その中で
「「あ」」
風太郎と三玖が顔を合わせる
とりあえずここまでは一花と四葉の計画通りか
昨夜聞かされた計画
三玖と風太郎を二人にするために手を回すってことだった
元々そのつもりだった四葉はともかく何かしら風太郎にアクションを起こそうとしている二乃と五月はそれ納得すんのか?
「その辺りは私がうまくやるからさ
ユーキ君はフータロー君の方をお願いね」
そうか
果てしなく不安だがまあ俺に断れる権利はない
修学旅行最終日はコース別体験学習
五つのメニューから一つ選んで各地に赴くカリキュラム
なので、口裏を合わせて同じコースを選択してお膳立てをすることに
うまい具合に風太郎を目的のEコースに誘導はできたが
「この後お昼過ぎまで見て回れるらしいね」
「どこ行くんだコラ」
前田と武田もいっしょだ
最終日は班行動の縛りが無いから好きなコースを選べるわけだが、班員と同じコース選ぶ自由もあるわな
さて、武田が言った通り団体で回るところは一旦終了して自由に回れるようにはなったんだが
「あ、中野さん
また会ったね」
「!」
三玖は俺たちに気づくと逃げてしまう
周りに他の姉妹の姿は無いので一花たちは上手くやっているようだが肝心の本人がこれじゃあな…
「!
三玖!止まっ…」
「あっ」
通行人にぶつかり尻餅をついてしまう三玖
……って手ぬぐいで顔を隠してるつもりなんだろうが一花じゃねえか
三玖の方は風太郎が駆け寄ってて心配なさそうなので一花の方を目で追えば、さりげなく物陰へ
別のコースにみんなを誘導する手筈じゃなかったか?
「じゃ、じゃあね」
「あ、おい!」
って、三玖はまた逃げようとしてんの?
いくら協力っていっても本人がこれじゃあ
「「戦国武将の着付け体験いかがですかー?」」
呼び込みの声に三玖の足が止まる
どうやら着付け体験に惹かれるものがあるらしい
というか、今の声まさか
……バッチリ目が合った
植え込みの影にさっき駆け込んだ一花ともう一人
二乃まで三玖を手伝うなんてどういう風の吹き回しだ?
いや、あいつは元々姉妹には甘いやつだった
「着付け体験だとよ
コスプレとか恥じぃだろ…」
「いいじゃないか
郷に入っては郷に従え」
っと
こっちはこっちで話が進んでた
三玖は着付け体験に惹かれてるようだが、風太郎の方は微妙な反応
「せっかくだし行こうぜ」
「はあ?
お前まで何言い出すんだよ」
「ほら、三玖も
こいつが変なの選ばないように一緒に選んでやってくれ」
「おい」
多少強引かもだがそういう流れに持って行かせてもらおう
ちらっと一花たちの隠れている方を見れば、見慣れたアホ毛とうさぎリボンも追加されていた
結局全員集合か
まあ、この方があいつららしいしこれでいいのかもな
「何ニヤついてんだ?」
「……ニヤついてない気のせいだ」
「照れ隠しで拳振り回すのやめろコラぁ!」
着付けも終わり、俺は前田たちを引き離して風太郎と三玖を二人きりにさせてやるかと思ったんだが
「誘導成功」
「なあ、俺あっちで良かったんじゃないか?」
一仕事終えた風に手を叩く二乃に連れられお化け屋敷を後にする
後ろから前田と武田の悲鳴が聞こえてくるので、二人はまだ中
何故か待ち構えていた二乃の誘導でここまで来たわけだが、いつの間にか分断されて連れ出された
「いいから
あんたもきっちり手伝いなさい」
「はいはい…」
取り付く島もなし
今回に関してはもともと口答えできる立場に無いから大人しく従うけどさ
「っと
いたな、風太郎たち」
少し歩いたところで風太郎と三玖を発見
新撰組の羽織姿とお姫様風の着物姿が意外と合ってるように見える
「ふーん…
お似合いじゃない」
二乃…
そう言い聞かせるような言葉と表情はとても合ってるように思えなくて
「わっ
フータロー写真撮って!
引っ込んじゃう!」
「ったく、しゃーねーな」
楽しげに話す風太郎たちに向かって走り出した二乃を止められなかった
そのまま背を向けたままの風太郎に駆け寄り
「うおっ!」
「あ」
「あ…」
…………抱きついた勢い余って三玖が池に
二乃はさっさとその場を離れたみたいで風太郎たちにバレることはなさそうだ
三玖の方も怪我とかは無さそうだし
「何やってんのさ」
「……うっさいわね
こっち見んな」
二乃に追いつき声をかければこの返答
やっぱ衝動任せの行動だったか
顔は見えないがどんな表情になってるかなんて想像はつく
とはいえ、下手な慰めなんて逆効果だろうし
「ーっ!
よし、行くわよ」
「お、おう」
どうしたもんかと考えてたら二乃が自分で両頬を叩いて再起動
多分まだ気持ちの整理なんてついてないだろうに強がってみせるあたりこいつらしいといえばらしい
「で、どうする?
三玖と風太郎は多分着替えに戻ってるだろうけど」
「そうね…
一旦、一花たちと合流するわよ」
…………そういえば他の姉妹たちも集まってたな
一花の名前に自分でも微妙な表情になってるのがわかる
「あんた…マジで何があったわけ?」
「……ナニモナカッタ」
「何かあったって白状してるもんじゃないの」
うるせえ
なんで昨日と同じやりとりを繰り返さないといかんのか
追求を逃れるために歩くペースを上げる
二乃が後ろで抗議の声を上げてるが無視
さて、他の姉妹はどこにいるのやら
「これでよし」
…………よりによって最初に合流するのが一花って
日頃の行いが相当に悪いとみなされているのか
「ユーキ君に二乃」
「……おう」
「ごめん遅れたわ
今どうなってる?」
関係者以外立ち入り禁止の看板を路地の入り口に設置してるあたり
「多分いい感じだよ」
二人きりにするのはうまくいっているようだ
「三玖のパン、ホテルに忘れてきちゃった!」
「ええっ!?
パ、パン!?」
何事?
一花に連れられて風太郎と三玖の様子を確認できる場所に来てみればなにやらまたトラブルか?
ってか、パンってことはもしかして
「大丈夫だよ」
ん?
一花が紙袋を持ってるようだが
「これを三玖に渡せば良いんだね?」
やっぱりか
一花はそのまま建物の陰から座っている三玖の元へ
気づかれることなく紙袋を置いて来れたようだ
「なんで私のパンがこんな所に…」
「へぇお前が作って来たのか」
三玖の方もパンに気付いたようで何よりだ
「あのパンって三玖が作ったんでしょ」
「うん…
修学旅行初日に上杉さんのために
私と下川さんも味見役をやってて…」
そうだな
三玖の頑張りを見てたからそれが報われてほしくて
それでも二乃や五月にだって思い通りに修学旅行を楽しんでもらいたかった
その結果がこうなってしまったのは
「ごめんな」
思わず口をついてでた言葉にみんなが目を丸くする
「下川君?」
「余計なことばっかでせっかくの修学旅行めちゃくちゃにしちまった」
何でもかんでも一人でどうにかしようなんてうまくいくはずない
そんなこともっと前からわかってたはずだった
「まったくよ」
そういう二乃の表情は今まで見たこのないくらい優しいもので
「あんたっていつも独りよがり」
「でも」
「私だって偉そうなこと言えなかった」
「さっきは三玖の邪魔しちゃったし
一花を焚き付けたりなんかしちゃったからあんなことになって」
「だからごめん」
そんなこと…お前は何も悪くなんて
「わ、私も…」
「私…全員が幸せになってほしくて
いつも消極的になってる子を応援してたのかも…」
「だから、一花や二乃の気持ちに気づいてあげられなかった」
四葉まで
「私だって今回は自分のことばかりで空回りでした…」
「ですから
きっと、誰かのせいなんかじゃないんです」
五月の言葉に何も返せずに目を逸らす
家庭教師なんて役割もらっているのに、こいつらには教えられてばかりだ
「私のことも全部知ってほしい」
窓の外では三玖がそんなことを告げていて
「好き」
覗き込んでいる姉妹とは少し離れていたがハッキリと聞き取れた
「私…情けないよね」
「一花…?」
「お姉ちゃんでしっかりしなきゃいけなかったのに失敗ばっかりで」
「みんなが変わっていこうとしてて、置いていかれるのが怖かったんだ」
それは多分俺も感じていたことで
「大丈夫よ、きっと」
「うん」
「変わらないものもきっとあるんです」
静かに涙を流す姉妹たちの姿に、もう心配なんてないんだろうなと思い少し安心した
「ああ
知ってるぞ」
窓の外では風太郎が三玖の告白に答えている
「…だが」
「うん」
「やっぱり私は家族のみんなが好き」
「え」
「ええっ!?」
「えええ!?」
「あ」
な、なんだ?
どうなった??
「お前ら…優希まで」
すごすごと出ていくみんなについていけば風太郎の困惑顔
「三玖気付いてたの?」
「いったいいつから…」
「やっぱり…
一花と二乃の声が聞こえた時からおかしいと思ってた」
それってもう最初からじゃん
「待て待て整理しよう」
「ということは…
今の「好き」ってのは…」
「そこに隠れてた皆を指してだけど」
「ん?もしかして…」
「自意識過剰くん」
「〜〜〜〜っ!
ば、馬鹿にしやがって!
行くぞ!優希!」
「お、おう」
歩き出す風太郎の後を追って中野たちから離れる
こんなんで良かったのか?
せっかく気持ちを伝えれるってチャンスだったのに
「お前まで一緒になって何やってたんだよ」
「………まあ、成り行きでな」
当然の疑問だが余計なお世話をしてたことは伏せておこう
俺としては大したこともできなかったしな
しかしまあ、風太郎の顔の赤さは揶揄われた怒りだけじゃなさそうだし
「………何ニヤついてんだよ」
「いや、別に」
きっとこれから先、こいつやあいつらはどんどん変わっていく
不思議と今度はそれに追いつくための日々を楽しみに感じていた
「これ
渡しておいてくれ」
「え?何これ」
「誕生日のお返し」
波乱ばかりの修学旅行も終えた翌日
公園で零奈を呼び出した風太郎を少し離れたところから見る
俺や前田たちへの風太郎からの頼み事
中野たちへの誕生日プレゼントとして旅の思い出のアルバムを作りたいってことだった
こっそり用意したいという風太郎からの要望もあって、写真を撮るのもコソコソやっていたから盗撮騒動になりかけたが
「そういえば…
色んなことがあって
五人で写真撮ってなかったかも…」
零奈も渡されたアルバムに目を細めていて、気に入ってもらえたようだ
「てっきりお前も京都で何か仕掛けて来ると思ったんだが…」
「あ、あはは
少し考えることがあって…」
まあ、あんな騒動もあれば思った通りにいかないよな
かなり申し訳なく思う
「零奈
お前には感謝してる」
「あの日、お前に出会わなければ俺は変われなかった
お前のおかげで今の俺がある」
「六年ぶりの京都…
あっという間に終わっちまったが
将来的には良い思い出になると信じてこのアルバムを作ったんだ」
「ありがとな」
風太郎はあの思い出をちゃんと糧にしていた
縛られるのでも捨てるのでもなく、自分の中で確かなものとして
おかしな話かもだが、あいつをここまで強くしてくれたことに
きっかけを与えてくれたあの子には俺からも感謝をしたかった
だからこそ
何故あの子が自分から正体を打ち明けないかを知りたかった
「五月」
風太郎が去った後
零奈、写真の子に扮した五月へ声がかけられる
「勝手な真似してごめんなさい
ですが…打ち明けるべきです」
五月の一連の動きは風太郎に気付いてもらうことが目的だった
「六年前、本当に会った子はあなただったと」
本当の写真の子の正体に
いっしょにさっきのやりとりを見ていた子、四葉の表情は
「ううん」
「これでいいんだよ」
普段からは考えられないほど寂し気なものだった
アニメ二期分まで駆け抜けました
ご意見は甘んじて受け止めます(直すとは言っていない)
次回は少し番外編で箸休めでもしようかと思います
オリ主は映画村で市松模様の羽織を猛プッシュされました
額に火傷の跡があるからシカタナイネ