5Sぷらす2 【本編完結】   作:しろすけ

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短編?番外編?はやっぱ本編一通り書いてからかなあと判断
時系列に並べるのは諦めたので原作と同じ流れで


最後の祭りが一花の場合
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「これ被ってろ」

「!」

 

目の前の女子に咄嗟に上着を渡し、追ってきた人たちの前へ

 

「あれっ

 二乃先輩は…」

「広場の方に」

「ありがとうございます!」

 

単純な後輩たちで非常に助かる

言われた通り中庭へ向かっていく姿が見えなくなったところで

 

「また間が悪い変装だったな」

「ユーキ君

 ありがと」

 

上着の影から顔を出す一花は苦笑い

いつもより少し長い髪のウィッグに蝶のようなふたつリボン

大方、ここ最近CMなんかで知名度も上がってるから騒ぎにならないための変装ってとこだろう

 

「二乃ってば私がいない間にどうしちゃったの?」

「あー…多分五月とかがムービー撮ってるから見せてもらうといいよ」

 

今度はこっちが苦笑い

あれはちょっと説明しづらいし、実物見てもらう方がわかりやすいだろ

 

「……ところで、フータロー君からのメール」

「ああ、あれな

 流石に学祭中に勉強会開きたいわけじゃないだろうけど」

 

久しぶりにみんなで集まりたいだけかもしれないし別に変に勘繰る必要もないだろ

 

「ん〜…意外と大事な話があるのかもよ?」

「…………そうかもな」

 

正直その可能性を真っ先に考えた

あいつが答えを出そうとしてるのは喜ぶべきことだ

ことなんだが…

 

「先延ばしにすればするほど酷だからね」

「……そうだな」

 

俺の方はまだどうしたいのか答えを出せてない

だからこれは多分焦りなんだろうか

今みたいな関係が一番楽しいと感じることと、先に進むために変わらなければならないというジレンマ

本当にままならない

 

「じゃあ、俺風太郎の様子見に行くから

 ……一花?」

「あの子どうしたんだろ」

 

 

普段と違い人でごった返す学内

その中を子供の手を引いて歩く

 

「ショー君のお母さーん」

「迷子の子のお母さんを捜してまーす」

 

一花と俺に両手を引かれている子供、ショー君

一人中庭にうずくまっていたところに声をかければ案の定迷子

本部まで行けば学内放送で呼び出しをしてもらえるので、そこへ向かう道すがら声を張って親を探していた

 

「うっ

 うぐっ」

「泣くな坊主

 放送部に呼出してもらうから」

 

我ながらもっと上手いこと言えんもんかと内心自嘲

せめて安心させてやりたいが…

 

「ねぇショー君

 一緒にいたのはお母さんだけ?

 お父さんや兄弟はいないのかな?」

 

一花が目線を合わせるようしゃがみ込んで言う

それに安心したのかショー君はポツポツと話をしてくれる

 

「パパは仕事…

 妹は…もうすぐ生まれる…」

「そっか

 じゃあお兄ちゃんだ

 大変なお母さんや赤ちゃんのためにショー君は強くならないとね」

 

「お兄ちゃんできる?」

「う、うん

 僕強くなる!」

「よし

 偉いぞ」

 

なんというか、さすがだな

長女だけあって下の子の扱いが上手い

 

「助かる」

「いやいや

 ところであれは少し不味くない?」

 

一花が指差す方では何やら女生徒二人の言い争いのようで

やれやれ…子供もいるんだから少しは考えてほしいもんだ

 

 

「お兄ちゃん不良なのか?」

「……そんなつもりはない」

 

ケンカの仲裁に入ってみれば顔を見るだけで悲鳴を上げられた

威圧したつもりもないのに半泣きで逃げていかれて呆然としてる俺を一花は爆笑してたが

 

「でもさっきも柄悪そうな子に挨拶されてたよね?

 かなり怖がってたけど君昔何やったの?」

「……ナニモシテナイ」

 

目を逸らして言うが隣の一花からはあーはいはいと言わんばかりの気配

説明したくないって察してくれ

と、どうしたショー君

一花の方をじっと見て

 

「お姉ちゃん見たことある」

 

あー、さすがにテレビでの活躍も増えてきただけある

こんな小さい子でも知られてるとは

 

「この前キスしてた人だ」

 

…………ほう

 

「へぇー

 あのドラマ遅い時間帯なのによく知ってるねー」

「うん

 お母さんが見てるんだ」

 

そ、そうか

子供と一緒に見るには刺激が強すぎるんじゃないか?

 

「ユーキ君

 そっち逆方向だけど?」

「……すまん」

 

いかんいかん

何を考えてる俺は

今はとりあえずこの子のお母さんをだな

 

「私がキスしてたのショック?」

「………………別にっ」

 

声裏返った

恥ずい

 

「へーふーんそっかー」

 

めちゃくちゃ楽しそうだなお前!

勘弁しろよ今は

子供の前だぞ!

 

「お兄ちゃん尻に敷かれてるのか?」

「どこでそんな言葉覚えて来るんだ…」

「ドラマで言ってた」

「ドラマ好きすぎだろ」

 

マジでお母さん見る番組考えてください

つか尻に敷かれるも何も別にこいつとそんな関係じゃねえし

 

「ショー!」

「あ、ママ!」

 

ん?

見ればショー君とそっくりな顔の女性

呼び出すまでもなく向こうから見つけてくれたわけか

 

「ありがとうございます」

「お兄ちゃんたちありがとー」

 

駆け寄るショー君と頭を下げるお母さん

よかったねと声をかけてその場を離れようとするが

 

「うそっ

 一花ちゃん!?」

 

あー…

そういえばこいつの出てるドラマ見てるって話だったな

 

「え、マジ?」

「本物じゃん」

 

周りにも気づかれたか

お母さんの方は思ったより騒ぎが大きくなってしまったことに申し訳なさそう

 

「えっと…」

 

当然、一花も困惑中

どうするかな

マネージャー面してプライベートなのでって押し通すか

強制的に排除とかはしたくないが

 

「ユーキ君、後はたの

「行くぞ」

「え!?」

 

野次馬が集まり切る前に逃げてしまおう

一花が何やら言いたげだが構わず手を掴み走る

普段と違う賑わいとは言え、慣れ親しんだ学校内だからあっという間に捲くことに成功

そのまま人気の少ない校舎の影へ

 

「ふう

 ここで少しほとぼり冷めるまで待って…

 どうした?」

「どう…したも…こうしたも…

 普通に…走るの…速すぎ…だから…!」

 

振り返ってみれば息も絶え絶えな様子の一花

夏休みとかで演技のレッスンとかも見てたから一花が走れるギリギリのスピードまで抑えてたつもりだったんだんだが

 

「いや…限界…ギリギリ…だから…

 強制…的に…全力…なんて…出させられたから…」

 

それは悪かったな

でもあの状況で騒ぎを大きくする前に収められたんだ

少しは堪えてくれ

 

「じゃあ俺行くわ」

「え?

 この状況で置いていく気?」

 

だんだん息も整ってきた一花にジト目で睨まれる

ジャングルの真ん中に置き去りにするならいざ知らず、慣れ親しんだ学校内だから特に心配ないでしょ

そろそろ屋台の様子見に戻らないとだし、風太郎たちも仕事はどうしてるか気になる

 

「むぅ…」

 

むくれる一花

理解はできるけど納得はできないってか

やれやれ

 

「なんかあったら呼べ

 すっ飛んで駆けつける」

 

電話のジェスチャーをして背を向ける

さて、思ったより時間食ったな

屋台はどうなってるやら

 

「ずるいなぁ…」

 

一花が何やらつぶやいたみたいだが喧騒の中で届かない

さて、風太郎の指定した時間までに色々片をつけたいもんだ

 

 

もう日が傾いて周りは赤く染まり始めている

大通りで手配したタクシーを待つ

もちろん乗るのは俺じゃなくて

 

「まさかフータロー君のあんな告白が聞けるなんてね

 みんな好きだなんてまるで浮気男のセリフだよ」

 

隣の一花はさっきの教室でのやりとりを思い出してかニヤニヤ

言い方はあれだったかもだが、あいつなりに真剣に考えての言葉だからあんま茶化してやんな

 

「わかってるよ

 うん

 フータロー君もとうとう答えを出すんだね」

「……そうだな」

 

勉強以外は不要なんて凝り固まってたあいつがここまで変われるとは

それじゃあ俺は…

 

「ユーキ君は答え出せそう?」

 

何に対してなんて聞くまでもないだろう

とはいえ、この間のやりとりもあるから問題は二つなわけだが

 

 

 

「大学行かないって…

 その…なんで?」

 

一花のロケ地のホテル

勉強会の合間に投げかけられたなんて事のない質問

俺の受験の話になったから答えてみればやはり予想通り、困惑した様子

 

「なんでもなにも、目的がないからな」

 

五月は前から宣言してる通り教師になるため

三玖は料理の専門学校に行きたいらしいし

二乃もなんだかんだ経営とかに興味があるみたいでそちらの専攻ができる大学へ

四葉にはスポーツ系の大学から声がかかってるって聞いたし

みんなそれぞれ大学に行くだけでなく、その先まで見据えて

 

「俺は本来だったら高校も行かずに働くつもりだったからな

 風太郎の親父さんからの猛反対とかあったから、顔潰すわけにも行かずにこうして高校には行かせてもらってるけど」

 

親父さんどころか風太郎に小学生だったらいはまで首を突っ込んでくる大騒ぎだったがそれは話す必要ないだろ

 

「18になれば色々制約も減るしな

 さんざん周りに迷惑かけてきた分、負債を返していくさ」

 

思わぬ形とはいえ、高校で一生物の思い出はできた

それだけで感謝しきれないくらい恩義はある

だから早めに返しにいかねぇとな

一花は俯いてしまって表情は伺えない

状況は全く違うとはいえ、同じく高卒で働くって身である以上少しは理解してくれるもんかと期待してたんだが

 

「ユーキ君は本当にそれでいいの?」

「なんだよ…

 お前まで勿体ねぇとか言う気?」

 

一部先生とかクラスのやつにさんざん言われたからうんざりなんだが…

 

「そうじゃないよ」

 

「ユーキ君

 君のやりたいことって何?」

 

一瞬、その問いに頭が真っ白になる

 

「今はお前たち全員を笑顔で卒業させることが

「それは本当に君が君自身のためにやりたいこと?」

 

……痛いところをついて来るな

というかまさに心臓を掴むような一言

これは俺が言い出した目標じゃない

風太郎がこいつらのために掲げた物

こいつらはそれに応えて次のステージへ進もうとしている

俺はそれにぶら下がってるだけだ

 

「君が本当にやりたいことのために大学に行かない選択肢を取るなら、私は応援するよ」

 

「もともと私なんかがユーキ君は大学に行くべきなんていえる立場じゃないしね」

 

「でも、ユーキ君には

 君が君であるための何かを見つけてほしい」

 

 

 

仮にも生徒にここまで心配させるとは

我ながら情けない家庭教師だな

あの時は結局何も言い返せない仕舞いだったが

 

「答え…ね」

 

一花は微笑んだまま特に急かす様子もなくこちらを見ている

 

「俺は

「あ、タクシー来たね」

 

……おい

自分から振っといてここで流れ切るか!?

 

「真剣に考えてくれてるみたいで安心したよ

 大変かもしれないけど頑張って」

 

こちらに振り返りながらそんな風に言うもんだから毒気を抜かれる

こいつなりに気は使ってくれてるみたいだが

 

「明後日はまたオフだったろ?」

「え?うんそうだけど…」

 

焦ってるわけじゃない

捨て鉢になるわけでもないがそれでも

 

「俺も最終日には答え出す」

 

少し踏み出してみようと思う

俺自身のことも、こいつらへの思いに対しても

 

「ん

 そっか」

 

じゃあねと軽く手を振りタクシーに乗り込んでいく一花

それを見送りながら少し考える

多分みんながみんな納得する答えなんてどこにもないんだろうけど

それでも俺は

 

 

 

「一花ちゃん大変だ!」

 

「さっき電話があって…

 今日って学園祭の二日目だったよね

 彼が病院に搬送されたそうなんだ」




思ったより長くなったのでここまで
それぞれこの最終節はヒロインごと1話にまとめるつもりだったけど分割した方が良さそうですかね?

オリ主は両利き(普段は右)

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