最後までお付き合いください
『私たち
五つ子の姉妹です』
「…っ!」
夢…か?
未だにあの時のことが夢に出てくるとか
枕元の目覚まし時計を覗く
セットした時間まで後数分
「行くか」
寝直すわけにもいかんしさっさと準備をして行こう
今日で最後だしな
思えば、一番初めに始めたバイトだったな
丸6年以上か
高校出て就職してしまえば当然続けられないのは決まってたが思ったより早く辞めることになったか
大学へ進学することも奇妙な交友関係が出来ることも、少し前からは想像もつかなかったな
「おう」
「ん」
いつもより少し遅めの通学
というのに道中で風太郎と合流
珍しいな、寝坊か?
「そんなとこだ
……お前は?」
「わかってて聞いてんだろ?」
両手の手土産を持ち上げて苦笑い
こっちの都合、受験勉強の時間確保のためなんて勝手な理由で辞めるというのに販売店総出で何故か盛大に送別された
中には「立派になって…」なんて泣き出す人までいて、朝からもらい泣きしそうになったのは内緒だ
そんなわけでバイト終わりに少し時間がかかったわけで
「お前の環境はずいぶん変わったな」
「お互い様だろ
そーいうお前は…
「あ、ユーキ君にフータロー君」
会話を遮ってくるこれまた聴き慣れた声
そこに見慣れた五つの顔
「おっはー
今日は寝坊かな?」
「下見て歩くと危ないよ」
「上杉さんに下川さん
おはようございまーす」
「あんたはいつまでその言葉遣い続けんのよ」
朝から賑やかな
こうして見ると、今朝方夢を見た時との対比がな
「あ、もうこんな時間」
「五月
一花が行っちゃうよ」
「が、頑張ってください!」
四葉の声にようやくこっちを向く五月
「……ちゃんと寝てる?」
「……下川君にだけは言われたくありませんが」
それはそう
バイトの数を整理したとしても家庭教師の方はやりきりたいから自分の勉強との両立しんどいんだよね
「五月もユーキもまた徹夜?」
「大丈夫?」
「あんた少しくらい休みなさいよ」
「ここまで来たら最後までやり抜きます!
下川君、放課後はよろしくお願いします!」
やれやれ
どうにか質を上げて休み時間が確保できる方向に舵を切ってやりたいが
根が真面目な五月に気分転換させるには何かないもんか…
「じと〜」
「……何?」
一花、それ口に出しちゃうのアホっぽいから辞めような
つか、家庭教師としてやらんといかんことってことくらい理解してくれ
「はいはい
ーーー五月ちゃんのことよろしくね」
言って改札を通過して手を振る一花
それを見送りみんなで学校へ
風太郎が言う、前とはずいぶん変わった日常へ
「だ」
「か」
「ら!」
「ここはもう百回は教えたはずだ!
何回間違えれば気がすむんだ馬鹿!」
「ごめんなさーい」
呆れるほど普段通りの光景
思った通り理解しない四葉のリボンを風太郎が引っ掴む
それこそこいつらと出会った一年前と全く変わらない
よくよく考えれば風太郎にリボンを整えられてる四葉の表情はその時からあんな感じではあったが
「下川君
ここの問題の考え方なんですが…」
「ん?
ああ、ここは…」
五月の方がつまずいた問題を見る
こっちは一年前と違って少しばかり考え方の方向性を示してやれば問題を解いていってくれるので非常に助かる
「……あんたたちの方もつまんなくなるくらいいつも通りね」
二乃の呆れた声
こんなことに面白味を求めんなよ…
「で、三玖は何辛気臭い顔してるわけ?」
ん?
確かに三玖だけ何やら居心地悪そうというかなんというか
「なんか…私もう受験しない立場なのに
ここにいていいのかなって…」
そういうことか
確かに一人だけ受験がないから机にノートを広げていることはない
だが
「そんなこと気にする必要あるか?」
っと
言いたいことは風太郎が言ってくれるらしい
「家庭教師はもう終盤だ
たとえ教師と生徒の関係が終わったとしても」
「明日、同じように会うだろうな」
そういうことだ
今更誰かが欠けるなんて嫌だしな
「三玖がいてくれた方が心強いしね」
「そうです
教えて欲しい日本史の問題があったんです」
四葉や五月もそれに続く
「どんな目標もきっと一人では持ち続けられませんでした
何より…」
「こうして皆で机を並べられた日々がとても楽しかったです」
放課後の帰り道
前を歩く中野たちと少し後ろを歩く俺と風太郎
これまたいつもの光景
「見て
一花から連絡来てる」
「これって前言ってたドラマの役ですか?」
「凄ーい!
合格できたんだ!」
「全く
あの子は私たちの何歩も先を行ってるわね」
相変わらず騒がしい奴ら
しかし、この間聞いたドラマの配役
本人は珍しく弱音を吐いてたりもしてたが、なんだかんだどうにかしてしまうあたり大したやつなんだと
っと、俺にも着信?
『やったー!
ドラマの主演ゲットだぜ☆
あ!エッチなやつじゃないから安心してね(はーと)』
……あれだけぐずぐず言ってたくせにこれか
本当に大したやつだよ
「……何ニヤニヤしてんだ?」
「気のせいだ…」
風太郎の指摘に顔を逸らす
つか、お前の方もここ数日何か言いたげな感じあったが?
「む…ぐ」
こっちのその問いかけに少し口籠ったあと
「お前たちに言っておかなくちゃいけないことがあるんだ」
前を歩く中野たちへ声をかけた
振り返るその顔に一瞬怯んだかのようだが
「俺が受ける大学…
ずっと言えなかったが…」
「とっ
東京なんだ!」
…………えぇー
「卒業したら俺は上京する
そしたらもうお前たちと今までのようには…」
「え?
そんなこと知ってるけど」
「は?」
何を深刻にいうかと思えば…
「あえて聞くことはしませんでしたが…」
「フー君ならそうだろうと思ってたわ」
「だよね
私たちは全然気にしてない」
みるみる顔が赤くなっていく風太郎
まあ、こいつのこういう変化もまあ悪くはないか
「あっ…そう
へー…
俺だけ一人で盛り上がってたのか…
恥ず…」
聞いたことない掠れた声と共に顔を抑える風太郎
こっちは笑いを堪えるのに必死だよ
「あはは
一生のお別れじゃないんですから」
「どこにいても上杉さんを応援してます
上杉さんがそうしてくれたように」
四葉の言葉に
二乃たちも頷く
風太郎もそれを見て柔らかく笑い
「ありがとな
お前たちと会えてよかった」
「またな」
「はい
また明日」
言って別れる
俺の方も軽く手を振って風太郎の後を追う
さっきは吹っ切れたように笑ってはいたが
「……泣くなよ」
「泣いてねぇよ!」
いつもの強がりが出るようなら安心だ
しかし、そうか
あと数ヶ月でお前とも少し離れ離れか
「なんだ?
お前の方こそ寂しそうじゃねえか」
「は?誰が」
いつも通りのやりとり
それこそ生まれた時から当たり前にそばにいて、何度繰り返したかわからないようなやりとり
それもあと何回かで一区切りか
まぁ
「寂しけりゃすっ飛んで駆けつけてやるよ」
地球の上だったらどこだってな
しかも六人がかりだ
「……ほっといたらどっかで野垂れ死にそうなのはお前の方だろうが」
酷え言い分
だというのにお互い笑い合う
色々変わったとしても、多分一生変わることのない
そんな関係なんだろう
俺も
あいつらとも
「夢とか目標とか…
私もあんたたちみたいになれるのかしら」
「二乃ならできるよ
私たちなら…できる」
「…ふん」
「もう少しだけあんたに付き合ってあげるわよ」
「そっか
よろしく」
「一花
時間だ」
「うん
行ってくるね」
「お母さん…
私…やったよ…」
「本当に無理してない?」
「あはは一花は心配性だなぁ」
「離れていたって平気だよ」
「だって私たちは皆…」
「らしくもなく緊張してるのかい?」
「かもな
だが俺は一人じゃねぇ」
「じゃ
父さん、母さん
行ってくる」
オリ主の高校時代の思い出は騒がしくなった自宅のリビング