「一花が女優だって?」
風太郎の呆気に取られた声
三玖も五月も同じ様子だ
そんな俺たちを尻目に一花はいつのまにかおっさんの隣にいる
「行こう、一花ちゃん」
おっさんと共にこちらを見ず立ち去ろうとする一花を見て
「おい、お前本気で」
「ごめん」
家族に何の説明も無しに行くのか?と聞こうとして遮られる
「止めないでくれ」
次いでおっさんのほうも割り込んでくる
なんでもこれから大事なオーディションがあるとかで急いでいるとのこと
それはわかった
このまま事情に詳しくない俺たちが粘ったところで他の大勢の人にも迷惑をかけるんだろう
だが
「中野、お前本当に何も言わずに行く気かよ?」
さっきの路地裏でのやりとり
この場には二人しかいないがせめて他の姉妹には説明をしろと
一花の方を睨みながら告げたが
「みんなによろしくね」
いつもの、どうにもイライラさせられる笑顔でそう告げ一花たちは去っていった
「優希!
いったいどういうことだ!?」
まだ困惑したままの様子の風太郎に肩を掴まれる
その後ろの三玖と五月も不安げな表情だ
「……正直、俺も全部が全部事情を聞いたわけじゃない」
五人全員で花火を見る、そんな家族の思い出よりも優先されるくらいの大事な用事ってのは伝わった
ただそれなのに何であの時…
「ユーキ」
三玖の声、この子も困惑が収まったわけではないであろう表情
「一花をお願い」
だけどたしかに頼まれた
何で俺が?なんて少し前なら突き放していただろうか
だが今は成り行きとはいえこいつらと一花の事情を知った上に俺自身も言いたいことがある
「風太郎、悪い
まだあいつに色々言い足りないから少し行ってくる」
風太郎にそう告げると、少しだけ驚いた表情になった後
「任せたからな」
至極真面目な顔で言う
「私からもお願いします」
五月もそれに続いて言ってくれた
数少ない友達にまでお願いされたら仕方ない
腹は決まった
どんな結果になろうと一花のことをあいつ自身から聞かねぇと
しかし、花火が終わるまでもう時間がない…
万が一、一花が戻ってきたとしても家族全員で花火は絶望的だ
そっちの方のフォローはどうするべきか…
「お困りのようですね」
「お、お前は…!」
バレバレエエ〜!!
なんて擬音が何故か聞こえた気がした
「中野」
花火大会の会場から少し離れたバスのロータリー
一花はそこに一人でいた
「さっきのおっさんは?」
「車取りに行ってるとこ」
そうか、また横槍を入れられないなら少しは話しやすいか
「本気で何も言わずに行く気?」
そう問いかけても一花の方は余裕そうな笑みのまま
「ユーキくん、もう一度聞くね」
逆に問い返してきた
「君には何の関係もない問題なのになんでそこまでお節介焼いてくれるの?
しかも、君、私のこと苦手でしょ?」
おっと
流石に気づかれてたか
まあ、隠してるつもりもなかったから他のやつにも気づかれてるかもだが…
「そうだな
長女だからって俺や風太郎にまで何故か姉ぶってくるし」
「うんうん」
「こっちのこと見透かしたような態度とるとことか」
「うんうん」
「挑発しといていざとなったらヘタれるとことか」
「それは忘れよう今すぐに」
流石にあれは思い出したくないらしい
苦々しい表情で赤面するというなかなかレアな状態だ
「で、何より余裕ぶって作り笑いで誤魔化すところが一番気にくわねぇ」
「ーーっ!」
結局、一花のことが苦手な理由はそこに尽きるのだ
お姉さんぶって余裕のあるフリをしながら
「何であの時震えてた」
あの路地裏で触れた肩はたしかに震えていた
「……半年前に社長にスカウトされてこの仕事に就くことができたんだ」
一花はこちらから顔を背け話す
ちょくちょく名前のない役をやらせてもらったこと
結構大きな映画の代役オーディションが飛び込んできたのがついさっきのこと
「この仕事を始めてやっと、長女として胸を張れるようになれると思ったの
一人前になるまであの子達には言わないって決めてたから
花火の約束あるのに最後まで言えずに黙って来ちゃった」
遠くの花火を眺めながら一花は言う
花火の方はクライマックスのようで一際たくさんの光が空に上がっている
「これでオーディション落ちたら…みんなに合わす顔がないよ」
結局、不安なんだろう
だかまあ、それも真剣にやってるからこそのものなわけで
「もう花火大会終わっちゃうね」
表情は見えないが寂しげな声からやっぱり姉妹に対しての後ろめたさはあるんだな
今更気の利いた話で不安や緊張を取り除くなんてできないが
「…………俺には家族がいない」
「え?」
流石に突然の話題で驚いたのかこちらに向き直る一花
こいつの本心を聞いた以上こちらも少しは話しとかねぇとな
「正確には、話ができる家族がだがな
父さんは死んでるし、母さんはもう何年も寝たきりだ」
ついでに言えば親戚兄弟もいないが今は特に関係ないから話さない
「あんな事言わなきゃよかったとか
もっとちゃんと話しておけばよかったとか、ずっと後悔してる」
俺がこいつに伝えたかった事は結局これに尽きるのだ
今すぐ家族の誰かがいなくなるなんてことはまずないかもしれないが、それでも言うタイミング逃してずるずる引き摺って手遅れになって、なんて後悔するのが見たくない
「話せる家族がいるんならちゃんと話しとけ
お前が真剣ならわかってくれるだろ」
一人前になるまで言わない、その決意を否定するつもりはない
だけど一花が真剣にやろうとしていることより花火の約束の方が絶対、なんて他の姉妹が言うはずないと短い付き合いの中で確信してる
一花の方は妹たちに約束を破った後ろめたさを感じず
妹たちには真剣な一花の事をわかってほしい
そんな都合のいい結末を俺自身が見たいだけなんていう、我ながらなんとも身勝手な願望だ
「なんで、そんな大事なこと…私なんかに」
一花の方は面食らってる様だ
そこまで重く捉えられてもなぁ
隠してるわけじゃなくて今まで話す必要性がなかったから話さなかっただけだし
「これでお互い事情を知っちまったわけだからな
花火に間に合わなかったことは、まあ、共犯者って事で」
「……はは
なにそれ、それじゃユーキくんまでみんなに怒られちゃうよ?」
我ながらもうちょいまともな例えはなかったのかと思ったが一花の方は何故か楽しげだ
「一花ちゃん何やってんの!早く乗って!」
いつのまにかおっさんが車を近くに乗り付けていた
一花は慌てて車に駆け寄っていく
その背中に
「あいつらに謝る時は付き合ってやるよ
……だから、頑張ってこれば」
それだけ伝えて目を逸らす
面と向かって応援がなぜか恥ずかしい
「うん」
「よろしくね、共犯者さん」
そんな一花の声が聞こえて、車の方は離れて行った
結局、一方的に言いたいこと言って送り出しただけみたいになったがこれでよかったのかね?
さて
ポケットから携帯を取り出す
我が幼馴染ながら登録されてる連絡先が少なくて泣けてくるがおかげで目的の番号はすぐ出てくる
「もしもし、らいは?風太郎と四葉は近くにいるか?」
「よお、オーディションは無事終わったか?」
「!ユーキくん?」
あれから数時間
もとのロータリーへ戻ってきたおっさんの車
そこから降りた一花へ声をかける
よく考えたら家に直接送られるとかされたら待ちぼうけだったな
まあ結果合流できたのでよしとしよう
「で、手応えは?」
「うーんどうだろ」
煮え切らねえな珍しい
いつも通りの作り笑いで誤魔化されるよりはマシだが
「どうも何も最高の演技だった」
間違いなく受かったと見ているねといつの間にか車から降りてきたおっさんが言う
「一花ちゃんがあんな表情を出せるなんて思わなかったよ
それを引き出したのは恐らく君だ」
ん?なんでそこで俺?
「私も個人的に君に興味が湧いてきたよ」
「…………はぁ」
胡散臭いだけな人かと思ったがなかなか愉快な人なのか?
下手したらオーディション不参加とかになりかねない動きしてたから叱られることも覚悟してたんだが
「とりあえず用事はこれで終わりってことでいいですね?
こいつ借りてきます」
「へ?」
一花の手を掴み歩き出す
おっさんが後ろの方でまたも戸惑ってる様だけど悪いけど無視
花火の上がっていた時と打って変わって歩く道に人影は無い
「ねぇ?どこ向かってるの?」
「近くの公園
お前の姉妹と風太郎たちとそこで合流」
少し後ろを歩く一花の足取りは重い
「みんな怒ってるよね
花火を見られなかったこと謝らなくちゃ」
「ま、そうだな
ただ、花火の約束はまだ生きてんだろ?」
公園に着くそこで
「あ!一花に下川さん」
各々手持ち花火を持った二乃、三玖、四葉、五月
一花はその姿に目を丸くしてる
打ち上げ花火とは比べものにならないがこれも花火だ
「下川さん準備万端です!
我慢できずにおっ始めちゃいました」
「おう
風太郎とらいはは?」
「らいはちゃんが疲れて寝てしまったのであっちのベンチに」
指さされた方を見ればらいはの頭を膝に乗せた風太郎
とりあえずこの場をセッティングしてくれて助かった
別れる直前に渡された携帯も返さないとな
「……」
「ほら、二乃」
五月に促され二乃が俺の前に来る
「何?」
「ものすごく不本意でアンタなんかに2回も言いたく無いからちゃんと聞いときなさいよ」
「お」
「つ」
「か」
「れ」
ふんと顔を背け離れていく二乃
五月の方は俺の方に謝った後、二乃を注意している
「みんな!」
一花の声に全員がそちらを向く
「ごめん
私の勝手でこんなことになっちゃって…
本当にごめんね」
深々と頭を下げて一花は言う
「まあ、今回ばっかりは理由があるし」
「全くよ」
フォローをするつもりで口を開いたら二乃に遮られた
「なんで連絡くれなかったのよ
今回の原因の一端はあんたにあるわ」
けっこう厳しめ…
それだけ思い入れが強いんだなやっぱ
「あと、目的地を伝え忘れてた私も悪い」
「私は自分の方向音痴に嫌気がさしました」
「私も今回は失敗ばかり」
「よくわかりませんが、私も悪かったということで!
屋台ばっかり見てしまったので」
結局、口に出してしまえばこんなふうに簡単に分かり合えるんだ
それが確認出来ればあとは心配ないだろ
そっと姉妹たちから離れて風太郎たちの座るベンチへ
「おう、悪かったな
助かった」
言って携帯を返す
「いや、俺の方こそ助かった
一花連れてきてくれてサンキューな」
大遅刻だけどな
まあ俺としてはまたいつものように五人が自然に一緒にいてくれる光景が戻っただけでもよかった
「で、いつもならだいぶ時間を無駄にしたがこれで帰って自習が出来るぜ、なんて言い出すころじゃないか?」
「……別にもう少しだけいいだろうが」
風太郎はぶっきらぼうにそう言って姉妹たちの花火へ視線をやる
さっきまでの派手な打ち上げ花火に比べればずいぶんショボい花火だが
なんとなく見てて心地いい
「お前の方こそ、バイトはいいのか?」
風太郎たちと違うベンチに腰掛けた俺に一言
「珍しく予定がなくてな」
そういうことにして俺ももう少しだけ眺めてるとしよう
色とりどりの光が付いては消えるのをただボーッと見てる
程なくして隣のベンチからの寝息は二つになる
あれだけの人混みの中で一花以外の姉妹集めるのにだいぶ苦労したんだろう
なんだかんだいって、この家庭教師の仕事でこいつも変わっていくんだろうな
「まだお礼言ってなかったね」
いつの間にか一花がそばに立っていた
「応援してもらった分、私も君たちに協力しなきゃ」
何が、なんてここで聞くのは野暮だろう
なんでか俺まで風太郎の家庭教師の仕事の枠内に入ってるのは早々に認識改めたいが…
「それは助かるな」
せっかくやる気になってくれてんだから水を差す必要もない
珍しく緊張の糸が緩んだせいか、出たあくびを噛み殺しながらそう答える
「…………何?」
「ん?ほらほら、お疲れみたいだから遠慮しなくてもいいんだよ?」
何故か隣に座り膝を叩く一花
こいつ全然懲りてないな…
ロータリーでそういうとこが苦手って面と向かって言ってやったつもりだったが…
「どうせいざ本気にしたらまたテンパるんだろーな」
結局いつも通りの憎まれ口
「あはは、それはどうかなぁ〜?」
だというのに一花はその答えでも楽しそうだ
「私、一筋縄じゃいかないから
覚悟しててよね、共犯者さん?」
そう笑い覗き込んでくる一花の顔は今まで見てきた作り笑いじゃなく、嘘じゃないこいつの笑顔が妙に眩しく感じてしまった
「ーーありがとね
これからよろしく」
今回もけっこう勢いだけなので話の流れなりは強引かも
MVPはなんだかんだで一花以外の姉妹プラスらいはを合流させた風太郎
オリ主はポーカーフェイスのくせに嘘をつく時はすぐバレます