状況を整理したい
・風太郎は五年前の修学旅行である女の子に出会いそれまでから一転して真面目に勉強に取り組むようになった
・その女の子は実は五つ子で、全員を風太郎が家庭教師として勉強を見ることとなった
・風太郎は例の女の子が五つ子の誰かとは知らない
・五つ子たちも気づいていない、若しくは言うつもりはない
・風太郎はおそらく今も想いを寄せているであろう女の子に気づかず勉強を教えている
……なんじゃこりゃあ…
どういう因果が絡まったらこんな複雑な巡り合わせが起きるんだ
これだけで長編ドラマにでもなりそうだが、現実問題当事者として関わるにしてはどうすれば正解なのか全くわからん
俺としては風太郎がその子に気づいて想いを遂げてほしいとは思うが、かと言って過度に干渉しすぎるのも主義ではない
…………よし、傍観に徹しよう
ちょうどテスト期間で自分の勉強に集中したいという名目もある
俺がどうこうしなくても、お互いにドラマチックに思い出して一気に仲が進展、家庭教師も順調にことが運び中野たちの成績もアップ、風太郎の借金問題も解決、みんな幸せなんて結末が待っているはずだ
決して問題を先送りにしているなんてそんな事は無い…はずだ
「下川君!この問題を教えてもらってもいいですか!?」
「どぉあ!?」
今後のスタンスを決定して気が緩んだ瞬間の呼びかけに椅子から転がり落ちた
周りがざわつきだしたのがさすがに恥ずい…
「ご、ごめんなさい
考え事ですか?」
「いや、いい、なんでもない」
目の前で申し訳なさそうにする星型ヘアピンの女生徒、五月に大丈夫と答えて椅子に戻る
「それで?わざわざ休み時間に隣のクラスまで来てどうした?」
「…………少し行き詰まってしまったので
ここの問題なのですが」
何やら最初の間が少し気になるが頼られた以上邪険にできんし
五月の課題にアドバイスをしていたら、教室の入り口からじっとりとした視線
同じく隣のクラスの風太郎がこちらを見ている
(おい、まさかまたなんかやった?)
(な、何もしてねえ!勉強を教えようとしただけだ!)
アイコンタクトだけだが、なるほど大体わかった
基本デリカシーゼロの風太郎のことだからまたなんか余計な一言を添えたと
五月の方も意地っ張りなのでこれは風太郎の話題自体しばらく禁句になりそうだ…
風太郎に気づいた五月はそちらに向けてアカンベまでしてる
おのれ風太郎ォ…!
で、放課後の図書館での勉強会
離れた席の一団では風太郎が一花、三玖、四葉へ中間試験に向けて徹底的に対策していくことを宣言している
そう、離れた席でだ
「下川君、ここの問題なのですが…」
「ああ、ここは…」
目の前で時折質問をしながらノートを埋めていく五月
平静を装ってはいるが不機嫌感は隠せていない
いつもならもう少し近くに座ってさりげなく風太郎の指導を聞かせてるんだが今回は五月が早々にここにポジション取り…
さっき少し風太郎の話題を出したら涙目で睨まれたしもうどうしようもない
結局図書館の利用時間いっぱいまでそんな調子で勉強は続き下校時刻となった
「あー疲れた!」
「一刻も早く帰りたい…」
さすがに帰るタイミングは一緒になるわけなので昇降口で風太郎と他の姉妹とも合流
けっこう詰め込んでたみたいだがまだ不満があるのか風太郎は眉間に皺を寄せて思案顔
まあ、こっちもどうにか五月と風太郎の仲を取り持ちたい訳で似たような顔になってる自覚はあるが
「ふぅ」
「うおあっ!?」
不意に耳に生暖かい感触を感じて文字通り飛び上がった
何で今日に限って二回も不意をつかれる!?
「あはは
思ったよりもいいリアクション」
こんなくだらねぇことすんの一花くらいだろうなと思ったら案の定…
抗議の意味を込めて睨むがどこ吹く風の様子
「そんなに根詰めなくていいんじゃない?
中間試験で退学になるわけじゃないんだし」
まあ、お前らはそうだろうけども…
いつもの調子ならまず心配ないが俺は直結する可能性あるんだよなぁ
なんてこっちの事情だから話すことはしないが
「私たちも頑張るからさっ
じっくり付き合ってよ」
「……それは風太郎に言ってやってくれ」
少しは前向きなだけ事態は好転してはいるんだよな
「ご褒美くれるんだったらもっと頑張れるんだけどね」
「あ、駅前のフルーツパフェがいいです!」
「私は抹茶パフェ」
「私はデラックスパフェを」
なんて話からこれから行こうかなんて盛り上がり始めた
一刻も早く帰りたいんじゃなかったのか?
隣で風太郎も呆れ顔だ
「上杉さん!下川さん!早くしないと置いてっちゃいますよ」
夕日を背に四葉が手を振り一花、三玖、五月もこちらを待っている
何とも絵になる光景だが
「いや、これからバイトだから」
「ええっ!?」
シフト減らしてもらってるとはいえ行ける時は行かんといかんのだ
今のは完全に一緒に行く流れ?知らん
あっけに取られた中野姉妹を尻目にさっさと歩き出す
後ろで一花と四葉が何やら抗議の声を上げてる
そもそも放課後に友達?と仲良くおしゃべりなんて柄じゃないしな
なんて、誰に向かってかわからん言い訳なのだが…
「上杉さんっ!
私結婚しました!ご祝儀ください!」
四葉の楽しそうな宣言で他のプレイヤー、一花、三玖、風太郎が四葉へご祝儀を渡す
土曜日恒例らしい家庭教師の授業も終わり何故か始まるボードゲーム
「ってエンジョイしてる場合かー!!
自分の人生どうにかしろ!」
風太郎耐えきれず叫ぶ
こうして見てると単純にテストが近くて焦ってるように見えるが…
一応説明(誰に?)しとくと今回は初めて俺の意思で風太郎にくっついてきた
と言うのも、どうにも風太郎の様子が昨日からおかしい
昨夜バイト先でもらった余り物の惣菜をお裾分けに行ったんだが、どうにもよそよそしいというか、バツの悪そうというか
そんな様子が気になったので朝イチで風太郎の所に再度訪問したわけだが、何か隠しているのはわかるが肝心の中身を言おうとしない
というわけで、ついてきてまで仕事の邪魔をしない程度に聞き出そうとしたんだが結局聞き出せず夕方まできてしまった…
「フータロー?
なんかいつもより焦ってる…私たちそんなに危ない?」
「実は…」
三玖の不安そうな顔の問いかけに風太郎が前髪をいじりながら答えようとする
ガキの頃からのテンパったときのくせ…なんか追い詰められてんのか?
「それなら私から提案があるんだけど」
「あー!なんだー勉強サボって遊んでるんじゃない」
いつのまにか帰ってきた二乃が何やら提案をしようとした一花の言葉を遮った
「しかも保護者同伴?」
俺への当て擦りも忘れない
まあ、今回に関してはたしかに俺が勝手についてきたから何も反論できんが
そのままゲームに混ざるらしく風太郎を押し退ける
「実は?」
「いやっ、なんでもない!」
二乃が来た途端また別の意味で慌ててないか?
「あんたも交ざる?」
どうやら五月も一緒だったようだ
「五月…昨日は…」
「私はこれから自習があるので失礼します」
風太郎…まさかあの後さらに五月と喧嘩したりしてる?
気持ち昨日より不機嫌感増してる気がするんだが
「中野」
呼べばその場の五人が全員こっちを見る
うん…今更ながら全員中野だもんね
「すまん、五月さんの方
昨日の続きだったらいっしょにどうだ?」
いつもなら俺から提案かけるなんてしないから我ながら言い方なんとかならんかと思うが
「…………ありがとうございます
でも、今日は私一人で大丈夫ですので」
なんてらしくない作り笑顔で断られて部屋に戻られてしまう
昼間に顔を合わせた時から五月までずっとこんな調子で正直困惑している
二乃の方はフラれてやんの〜などと楽しそうだが…
「ってか今日のカテキョはもう終わりでしょ?
帰った帰った!」
そんで一転して俺と風太郎を部屋から追い出そうとする
風太郎の方は引っかかるところがあるのか抵抗する素振りを見せるが
「待って、二乃」
一花の静止の声が割り込んでくる
「フータローくん、ユーキくん何言ってるの?
約束が違うじゃん」
ん?
「今日は泊まり込みで勉強教えてくれるって話でしょ」
「え?」
「ええーっ!?」
風太郎の呆気に取られた声と二乃の素っ頓狂な声がこだました
いや何で俺も?
「で、そろそろ観念して説明してくんない?」
俺たちの家とは比べ物にならないくらい広い風呂場
頭を洗いながら浴槽に浸かる風太郎に問いかける
いつもなら適当な理由付けて帰るところだが、一花の突然の提案に乗っかることにした
狙い通り風呂場で野郎二人きりになることに成功したわけだ
「…………昨日、五月とまた言い合いになって」
それはわかるよお前らの態度見たら
そこじゃなくて
「俺が五月さんの勉強見てるせいで口論になったとか?」
こいつら二人が喧嘩して気まずそうにしてる根本に俺がいるなら流石にこっちも罪悪感はある
成り行きとはいえ、実質風太郎の家庭教師を邪魔してる形になってるわけだし
「…それもあるんだが」
何だよ?他にもなんかあんの?
「…………お前の事情も知らずに五月の都合を押し付けるなって」
…………ああ、そういうことか
「どこまで話した?」
「いや、詳しくは何も…
ただ、テスト勉強しながら他のやつの勉強見る余裕が」
「俺にあるわけ無いだろ、と」
なるほどね
こいつなりに俺の方に気遣ってくれたわけだ
んで、五月の方もあの生真面目な性格だ
俺に負担をかけてるって思い込んで遠慮してしまっていると
「お前は…今更俺に」
「上杉君、五月です」
気なんか遣うな、と続けようとしたところで浴室の外から横槍が入る
「あなたから私に話したいことがあると一花に言われたのですが何か御用でしょうか?」
風太郎の方へ目配せするが何のことかわかってない様子
「用が無いようでしたら」
「あ!いや待て!よく来てくれたな!」
一花がさっきから何かと気を回してくれてるな
あいつからしても五月と風太郎の様子がおかしいことが気になってんのか
「…話したいこととはなんでしょう?」
問いかけに風太郎は少しだけ答えるのに躊躇ったようだが
「昨日は悪かった
焦って感情的になっちまった」
風呂から体を起こす音がしたから頭でも下げているようだ
「俺に家庭教師をさせてくれ」
告げる声色は今までになく切羽詰まってるように聞こえる
「何かあったんですか?」
「お前たちの誰かが赤点を取ったら俺は家庭教師を辞めさせられる
うちの事情は知ってるだろ」
なるほどね
雇い主からハードルを設けられたわけだ
そりゃここまでの勉強会の結果を見てりゃ焦るわけだ
「そうでなくてもお前には」
「そういうことでしたか」
風太郎の言葉を遮りドアが開かれる音
「い、五月!何開けてたんだよ!」
風太郎が慌てて姿勢を変えたのか水音が響く
外の五月が浴室に突撃してきた!?
「前に私の裸を見たんだからこれでおあいこでしょ
五月の様子がおかしいから来てみれば」
誰だ?喋り方がさっきまでとまるで違うから五月ではなさそうだが
シャンプーのせいで目は開けれんし声は浴室に反響してるから聞き分けられん
「赤点を取ればクビね
いいこと聞いちゃった」
中野姉妹の中で風太郎に反発しててかつ五月でないとなると
「中野次女?」
てか風太郎
裸見たとかどういうこと?
「あー、そういえばあんたもい…何よ、それ…」
聞こえる声が一転して信じられないものを見たような声に変わる
そうか、風呂場だから当然俺も裸なわけで
ドア側に背を向けて座ってるから前側はともかく、後ろからでも左腕の方はしっかり見られたわけだ
「あぁ…すまん
見苦しいもの見せた」
とはいえ風呂場じゃ流石に隠すもんないから謝るしかできんわけだが
そう声をかけた途端ドアが閉まる音と共に足音が遠ざかっていった
「……すまん」
風太郎が苦々しい様子で謝ってくるが
「別に今のはしゃーない
隠してるわけじゃないからいずれ見られてただろ」
と言いつつも家の中以外でもうずいぶん半袖なんて着てないけどな
「それよりも赤点で即クビか…今までのアレ見てりゃそりゃ焦るよな」
シャワーで頭を流しつつ言う
その言葉にようやく現実に引き戻されたのか風太郎は顔を青くしている
「よりによって最悪のやつに知られちまった…」
風呂場に重々しい事実が響いていた
「私自分の背中にコンプレックスがありまして
警告します
私の背中を見たら◯しますよ?」
「それだと俺が真っ先に◯られるんだが!?」
風呂場でのやりとりボツ案でした
オリ主はシャンプーの最中に目を開けられません