序章:“龍の原点”
とある龍が居た。
身体のいたる所に棘を生やし、反り返った太く厚い両角を携えた、金剛の如き龍。
龍は、何かを渇望していた。満たされぬ心、唸る腹わた。そして、身体の奥から溢れる欲望。それらは龍を常に苛立たせ、まだ知り得ぬ何かに駆り立てた。
遂にしびれを切らした龍は、己に燻る餓えと渇きを満たす為、翼を広げて新たな地へと飛び立った。
暴風が進む道を遮れば、全身の剛力に任せ嵐の主を打ち砕いた。
炎塵が龍の棘を折れば、瞬く間に再生した棘を用いて炎帝を串刺した。
瘴気がその身を蝕めば、構う事なく冥界の支配者を貪り喰らった。
両角が黒い輝きを放ち、半身を覆う棘の一部が金剛色に染まると、龍はいつしか飢餓を忘れていた。
だが龍は、まだ何かを欲していた。
地底から空へ木霊する歌声に導かれ、果ての島へと辿り着いた龍は初めて、“人間”を目にした。
竜や獣と比べても小柄な体躯に、武装した鎧から覗く肌。
そして、龍を射貫く強かな眼差し。
龍はその人間との闘いで、脆弱な肉体にそぐわぬ、決して折れぬ強靭な精神を見た。
あの人間はきっと、私を狩る為に何処までも追いかけてくるだろう。
そしてあの人間こそが、未だ満たされぬ何かを私に与えてくれる。
大地の喉笛を咬み千切り、果ての島から飛び去った後も、龍はあの目を忘れられなかった。
まるで、あの瞳の中に、己を見出したかのように。
龍は人間を待ちわびていた。訪れるであろう闘いに備え、遠方の地へと翼を広げ、その人間に手を出そうとした飛竜を態々仕留める程に。
そうして、龍と人間は再び相見えた。
死闘に次ぐ死闘の最中、龍は今まで姿を現さなかった己の中に潜む何かを感じ、これまでに無いほど歓喜していた。
それは強者との闘いで生じる喜びではなく、美味な肉を味わう際に感じる嬉しさでもない。龍はこの感情を、それらとは全く別の幸福であると無意識に理解した。
龍は、窮地に陥っていた。
角はへし折れ、爪は剥がれ。研ぎ澄まされた刃は、龍の棘を容易に断ち斬る。
嵐の主も、炎帝も、冥界の支配者も。この人間に比べれば、取るに足らない弱者であるとさえ錯覚した。
しかし人間も無傷ではなかった。飛散した棘によって鎧が削られ、至る所から鮮血を流す。
時折口にしていた丸い種のような物も、今では底をつきたのか取り出す素振りすら見せない。
龍は、噛みしめるように闘い続けた。
時間にして、僅か半刻足らず。
龍は、人間との闘いに敗れた。
僅かな隙をついた人間によって心臓を貫かれ、老いさらばえた肉体は傷口から血を零し続ける。
今瞼を閉じれば、もう二度と光を見ることはないだろう。
龍は抗うことなく己の死を受け入れた。数々の
心残りがあるとすれば、ようやく見つけたこの感情の正体を、終ぞ理解できなかったこと。
もし、私にまだ機が残されているのなら。名も知らぬこの感情を探し求めることにしよう。
そんな希望を胸に抱き、龍は生を手放した。
とある、小さな公園にて。
取り巻きを引き連れたガキ大将こと、
「デクゥ~、邪魔すんじゃねえよ」
掌と拳を打ち合わせ、小さな爆発を起こして脅迫する勝己。かたや脅された出久は、目に浮かぶ涙を必死にこらえ、背後にへたりこんでいる少年を庇う。
「こ、ここから先は、ぼくがとおさゃなへぞ…!」
出久は震えた声で、勝己のアイスキャンディーを不注意により落としてしまった少年を守ろうとする。
たとえ自分が“無個性”で非力だとしても、これ以上この少年を理不尽な暴力で傷つけさせない。
なけなしの正義感だけが、出久を駆り立てた。
尤も、その行動が無意味であることは、他の誰よりも出久自身が自覚しているのだが。
「無個性のくせにヒーロー気取りかよ、ムカつくなァ…!」
言うことを聞かない出久への苛立ちが頂点ギリギリに達した勝己が、バチバチと音をたてる右手の掌を振りかざす。
「ッ…!」
抗いようのない脅威を前に、出久はただ目を瞑るしかなかった。
Boom!!!
“爆破”の個性の象徴たる爆発音が鳴り響き、目の前の邪魔虫に制裁を下す。
少々強めに撃ってしまったが、この馬鹿な幼馴染には丁度いいだろうと考え、本命である後ろの“ヴィラン”へにじりよる。
折角買ったオールマイトのアイス棒を、わざとではなかったとはいえ落とした罪は重い。
泣いて許しを乞う少年の胸ぐらを掴み、その顔面に爆破をかましてやろうとするが──
──「はな…せよ…!」
往生際の悪い出久に足首を掴まれ、勝己は今度こそ怒りが有頂天に到達した。
蹴るように出久の手を振り払い、うずくまった彼の後頭部目掛けて爆破を放とうと右手を振り下ろす──
──『グルオォォォォォ!!!!!!』
だが、突如として公園に響き渡った咆哮により、勝己の両手は耳を塞ぐ為に使われた。
咄嗟の判断で暴発は防いだものの、自分の行いを邪魔した不届き者に怒りの矛先が向いた勝己は、咆哮の主を探ろうと顔を上げる。
「あ、か、かっちゃん、あれ…!」
取り巻きの一人の少年が、個性によって伸びた人差し指で公園の入口を指しながら、怯えた表情で勝己に伝える。
──そこには、悪魔のような“バケモノ”がいた。
天災に牙を剥き、
その龍の名は、
滅尽龍 ネルギガンテである。
息抜きに書きましたが、意外と楽しかったです。
モンハンを始めたのはWorldからなので、過去作の仕様はあまり詳しくないです。
古龍は基本的に人の手によって殺されることはありませんが、ゴア・マガラ骨格の古龍には、一部を除き共通して“古龍ではない生物が古龍へと成る”という生態があるように思えるので、このネルギガンテは老化と滅尽龍としての性質により死亡しました。
因みに私のモンハン知識は、とある動画投稿者様からの借り物ですので、あまり深く突っ込まれるとボロが出ます。