悪を殲ぼす金剛の棘   作:ぶびっぐ

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 今回はオリキャラが一気に増えます。それでも問題の無い方はそのままお読み下さい。

 それが無理だという方は、覚悟の準備をしておいてください。
 いいですね?

追記:6/1
 文が気に入らなかったので一部変更しました。



幼少期
邂逅:人間としての原点


 私は人間との闘いで敗北し、龍としての生を全うした。

 

 

 

──のだが、私の魂が滅ぶことはなかった。

 

 どういう訳か、私は“人間”として再び生を受けた。

 それも、龍としての力と姿を保持したまま。

 私の持つ他の龍と比較しても異常な剛力、再生力、食欲は、総じて“個性”と呼称される人間の能力として扱われた。

 

 人間にそのような特異な能力があったとは知りもしなかったが、同時に合点が行きもした。

 私を殺したあの人間は、自然を象徴する古の龍達にさえ引けを取らぬほどの実力を持っていた。

 私の持つ硬い棘をいともたやすく斬り伏せる鋭利な得物を駆使し、軽やかな身のこなしで繰り出される斬撃の雨を思い出せば、小気味の良い身震いが背筋を走る。

 

 しかし、それは既に過去の物である。人として暮らすこの世界には、龍として生きていた頃に跋扈(ばっこ)していた多種多様な竜や獣はおらず、ましてや天災の権化たる古の龍など影も形も無い。

 あるのは、大小様々な姿形の人間と、前世よりも小さく弱い動物だ。

 

 今世でも変わらず肉親のいない私は、慣れぬ人の姿をとり、そういった動物の肉を喰らうことで腹を満たす。他の龍を喰らったことがないからか、龍である姿の体躯は以前の半分ほどしかない。これはこれで小回りが利いて便利と言えるかもしれないが、私が本来持ち合わせていた金剛色の棘を武装するに至るまで成長させるには全くもって足りなかった。

 

 かといって、同種である人間を喰らう訳にはいかない。

 まだ幼く非力であった私を拾い、今日に至るまで育ててくれている“あの人”を失望させることはしたくない。

 

 嘗て、同種を喰らい続け、集約した龍の力に狂わされた竜がいた。

 その竜はドス黒い霧を立ち昇らせて、古の龍にすら牙を剥き、抑えきれなくなった龍の力により身を滅ぼした。

 その顛末を知る私は、共食いがいかに愚かな行為であるかを理解しているのだ。

 

 

 

 故に、同種をいたぶる者を、私は看過できなかった。

 

 目の前の少年は力を持て余し、その力を他者に振り下ろそうとした。

 それは生きる為に獲物を屠る訳ではなく、ましてや縄張りを侵した脅威たる強者を排する為でもない。

 明確に、己よりも下位の存在を嬲る為だけに力を振るおうとしたのだ。

 

「な…んだよ、トゲ野郎!!」

 

 人間の輪郭を保ちながら頭部に角と顎に牙を生やし、筋肉の膨張した四肢と尾に(その未熟さは否めないが)棘を生やした私の姿に目つきの悪い少年は慄くが、私の容姿を見るや否や委縮した他の少年二人とは違いその威勢だけは崩さない。

 

「聞くが、お前は自分の手が何の為に振るわれるべきものか、考えたことはあるか?」

 

「…は?」

 

 唐突に投げかけられた抽象的な問いかけに対し、少年は鋭い目つきのまま唖然とする。

 

「テメェ、なに言ってん──」

 

「──少なくとも私は、無抵抗の弱者を痛めつけるような者が正しいとは思えない」

 

 少年の言葉を途中で切り、心許ない語彙を使って自分の意見を述べる。

 今私が試みているのは、いわゆる“更生”というやつだ。道を踏み外してしまった、或いはそうなりそうな人を言葉で以て諭し、人としての道理を取り戻させる行い。たしかそんな意味だったか。

 

「ッ…」

 

 少年は逡巡し、その喧嘩腰な態度を改める。それは己が行ったことを自覚している何よりの証拠だ。

 

 あと一押しといったところか。

 

「自分が生まれ持った才能に、ちっぽけな産毛を生やした程度で胡坐をかくな。努力し、研鑽し、己が掴み取り昇華させたものこそ、堂々と大見得切って胸を張れ。勝ち誇ってみせろ」

 

「…!」

 

 人相の悪い目つきは変わらない。しかし、僅かに目を見開いて、何かに気が付いたような少年の顔に、私はこれまでにない手応えを感じた。

 理性という単語の発音すら聞き取らないあの子たち(・・・・・)を手なずけるのに比べれば、この少年は随分と素直だ。

 

「分かっているではないか。であれば、自ずとその償い方も分かる筈だ」

 

 偉そうに高説垂れた私だが、並べた言葉は所詮あの人からの受け売りに過ぎない。

 それでも、この少年が自分の行いを認め、改心してくれれば──

 

 

 

「……ンなもん知るか!!オレはオレが正しいと思ったことをしただけだ!!」

 

 ──あぁ、どうやら、私の早とちりだったようだ。

 

 見苦しいほどに声を荒げる少年を見て、私は結論づける。

 言葉を知らぬあの子たちよりもその様はずっと酷い。この少年は己の過ちを理解していながら、しかしそれを認めることができないのだ。

 

「……そうか。なら、報いを受けるのは必然と言えよう」

 

「は?」

 

 自分の非を認めない悪童には、相応の“おしおき”が必要だとあの人は言っていた。

 言葉が駄目なら行動で分からせる。乱暴に聞こえるだろうが一番効果的である事実は覆らない。実際に手の付けようが皆無ないたずらっ子も、これで言うことを聞くようになった。まぁ、文の頭に「ある程度は」と付くが。

 

「な、なにすんだテメェ!?」

 

 反抗的な態度を取り戻した少年を小脇に抱え、肩から生えた翼を羽ばたかせ上空へと飛び立つ。

 腕の中で暴れる少年を腕力で抑え込み、私はぐんぐんと高度を上げていった。

 

 上へ、上へ、残酷さを伴った羽ばたきの、風を切る音が続く。

 小鳥が行き交うほどの高さに連れてこられた少年は、急な上昇による重力の負荷のせいか、先程までの威勢をなくして私の身体にしがみついていた。

 

 

 

 そして、私は翼を折りたたみ、抱えた少年もろとも頭から急降下した。

 

「────!!!」

 

 少年が音の無い悲鳴をあげる。生身の人間であれば臓物が浮くような感覚に襲われ、さぞかし苦痛だろう。

 それを承知の上で行っているのだが。

 

 地面が眼前にまで到達したのを確認し、私は閉じていた翼を大きく広げる。今の私の体躯に合わぬ巨大な翼は、人を抱えた状態でも問題なく着地できるほど風を捉えやすい。

 

 私は小さく羽ばたき、徐に着地する。

 横抱きにしていた少年は、いつの間にか気を失っていた。空中で私が担ぎ方を変える際にも負荷がかかっていたから、気絶してしまうのは当然だろう。

 私は頭を打たぬようそっと地面に少年を寝かせ、彼に虐げられていた緑髪の少年に目を向ける。

 

「っぁ、えと、その…」

 

「慌てることはない。ゆっくりでいい。何か言いたいことがあるのなら、私は聞こう」

 

 何かを言い淀む緑髪の少年に対し、私は彼を落ち着かせる為の言葉を口にする。他者との関わり合いをする上で、言語という手段はやはり役に立つ。私があの人から与えられたものは、こうして活用されるのだ。

 

「あ、ありがとう…」

 

「あぁ、どういたしまして」

 

 少年としているこのやりとりも、私があの人から教わった人間として大切なことの一つである。

 

『誰かに感謝されるような人間になること。もちろん、貰った感謝を受け入れることも忘れないように、ね』

 

 あの人が私にくれたものは、何があろうと尊守すると決めた。それほどまでに私はあの人に恩義を感じているのだ。

 

「そ、それと…」

 

「? なんだろうか」

 

 私がそんな思考に耽っていると、少年から声をかけられた。

 

「かっちゃん…ぜんぜん動かないけど、大丈夫なの?」

 

 かっちゃんと呼ばれ指差された少年が気絶していることを心配したのか、緑髪の少年は不安げな声色で尋ねる。

 

「……」

 

「な、なんで黙るの?」

 

 しまった。私としたことが、加減を間違えて負荷をかけすぎた。これでは気絶というより、昏倒といった方が正しいかもしれない。

 

 弱々しく息をする少年を見て、私は胸中の焦りが膨れ上がるのを感じる。

 私は過ちを犯してしまったのか? それこそ、自分が正しいと思ってやったことが、前提からして間違っていたのか?

 

 思えばいつもそうだった。同じ屋根の下で暮らす兄弟姉妹たちには事あるごとに迷惑をかけ、私の未熟な償いを許してもらうばかり。

 

 それに、このお仕置きは体が丈夫な弟と妹だからこそ許されるのであって、見ず知らずの少年にはあまりに過剰だ。

 

 押しつけがましいだけの独善は、非を認めない悪童よりもずっと質が悪い。どうしてそんなことも私は分からないのだ。

 

 

 

 焦燥、不安、自己嫌悪。様々な思考が錯綜する中。ふと、あの人の言葉が頭に過ぎった。

 

『自分の過ちは、自分で方を付けること。尻も拭けないようじゃいつまでも赤ん坊のままだぞ〜』

 

 そうだ。私は、教えられたことを忘れるほど愚かではない。

 

 私はあの人の教えに倣い、意識を失っている人間を起こす方法を頭の中で模索する。

 

 心臓マッサージ? いや、加減を間違えた手前、失敗を重ねる訳にはいかない。ただでさえ私は力加減が不得手なのだ。誤って肋を折ってしまえば、それこそ本末転倒である。

 

 なら除細動器? 駄目だ。見渡した限り、ここには動ける者が私と緑髪の少年しかいない。先程までいた他の少年達も、今はここにいない。それに、あったとしても使い方が分からない。

 

 まずいぞ、このままでは本当に少年の命が危ない。私は一体どうすれば……

 

 

 

 あぁ、一つあった。

 

 私は脳裏に走った解決策を実行するべく、個性によって発動していた龍の力を解き、人の姿に変化する。

 

「ってええ!? 女の子!?」

 

 緑髪の少年の驚く声が聞こえるが、事態は一刻を争う。構っている暇はない。

 私は自分の顔と気を失っている少年の顔を近づけ──

 

 ──そっと唇を触れさせた。

 

 人工呼吸。気道を確保し鼻を抑えた状態で肺に空気を送り込み、傷病者を蘇生させる術。あの人に聞いた際に『あまり気が乗らないけど…』と言われつつも教わったが、やはり役に立つことに変わりはない。

 

「……? っ!!?」

 

 元々身体が丈夫なのか、六回ほど空気を送り込むだけで少年は目を覚ました。

 ぱちりと目を開けた少年が三度瞬きをし、その目を勢いよくかっ開く。

 

「お、よかった。目が覚めたか」

 

「んな、あ、て、テメェ…!」

 

 少年はわなわなと体を震わせ、何故かその顔を真っ赤に染める。

 まだ身体に不調が残っているのだろうかと私は不安に思ったが、次の瞬間。

 

 大声と共に少年の掌から爆発が起こった。

 

 

 

「なにキスなんかしてやがんだァァ!!!」

 

 


 

 少年は私にありったけの罵声を浴びせ、逃げるようにその場から去っていった。それに続くように緑髪の少年も走り去ってしまった為、結局彼らの名前を聞くことは叶わなかった。

 

 私は彼の行動に疑問を抱きながらも、あの人から頼まれていたおつかいを済ませ、帰宅した後に私と同じく施設に住む義理の兄弟姉妹の一人に尋ねることにした。

 

「なあ、龍成(たつなり)。聞きたいことがあるのだが」

 

「ん、滅理(めつり)か。なんだ?」

 

 滅理(めつり)とは私の名前だ。施設で暮らす子供は皆等しく、あの人から名を与えられている。

 

「“きす”とはどういう意味の言葉なのだ?」

 

「は? え、急にどうした?」

 

 私より十歳年上の兄である龍成(たつなり)は、読んでいた本から目を離した。

 

「気になったので聞いた」

 

「えぇ…」

 

 答えにくいことなのだろうか…?

 

 (ページ)の間に指を挟み、龍成は顔をしかめて困惑を漏らす。そんな兄の様子を見た私は、つついてはならぬ藪に足を踏み入れてしまったのかと思い至り、発言を撤回しようと口を開いた。

 

「すまない。答えにくいのであれば取り消そ──」

 

──「なになにー? なんかあったの? メッちゃん(・・・・・)

 

 どこからともなく私の愛称を呼ぶ声がして、龍成と私はそちらに目をやった。

 

「げ、ババアが来た…」

 

「んん~? 私に向かってそんなこと言っていいのかなぁ? タッちゃん(・・・・・)?」

 

「その呼び方はやめろって言ってんだろ! この前の授業参観でも恥掻かせやがって…!」

 

「じゃあタッちゃんはどうしてババアなんて言うのかなぁ? 女性にそんな事言っちゃダメって分かるでしょ?」

 

「一世紀も生きてるんだからババアで合ってるだろうが。見た目が変わんないからって無理に若作りすんなよ」

 

「なにおう!? こんなにピチピチで綺麗なんだから別にいいでしょうが!」

 

「自分で言うことじゃないだろ、それ」

 

「“白龍(はくたつ)”先生。あの、いいだろうか?」

 

 どんどんと話題が逸れていくのを感じ、私は遮るように育ての親である白龍(はくたつ)先生に話しかけた。

 

「あぁ、はいはい。どうしたの?」

 

 激化していた言い争いを止めたことで先程までの様子が一変し、先生はいつもの優し気な雰囲気に戻る。

 

「聞きたいことがある。“きす”とは、どういう意味の言葉なのだ?」

 

「ええ!? ちょっとメッちゃん、貴方にはまだ早すぎるわ…!」

 

 早すぎる…? それは私が無知であるが故に、知るに値しないということなのか?

 いや、先生は私がたとえ如何なることを聞いても真摯に応えてくれた。私が以前人間がどのようにして繁殖するのかを聞いた時も、嘘偽りなく教えてくれただろう。(何故か声がどもっていたが)先生は私を突き放すようなことはしない。

 

 大袈裟ともいえる反応を示した先生は、我関せずといった風にそっぽを向く龍成を見て、まるでいたずらを企む義妹のような顔で彼に話しかけた。

 

「ということでタッちゃん、お兄ちゃんとして可愛い妹を導いてあげなさいな」

 

「何が“ということで”だ! ただ単に俺をからかいたいだけだろババア!! 大体、なんで滅理はいきなりそんなこと聞いてきたんだ!!?」

 

「確かに。なになに~、メッちゃんたら気になる子でも見つけたの~?」

 

「いや、実は──」

 

 私はおつかいで頼まれた店へと行く途中、偶々見かけ甚振(いたぶ)られていた少年を救け、その元凶であったカッチャン少年にややあって人工呼吸を施したことを話した。

 しかし事の経緯を話す内に、どうしてか先生の表情が氷のように冷たくなっていった。

 

「へぇ、こりゃ驚いた。滅理は“ヒーロー”目指してたんだな」

 

「ひーろー? なんだそれは、初耳だ。教えてくれ」

 

「貴方たち…本当にそういったことには無頓着なのね……」

 

 珍しく人をあだ名以外で呼んだ白龍先生は、呆れた顔でヒーローとは何かを語る。

 曰く、人々を救う英雄だとか、悪を淘汰する正義の味方だとか、そんな抽象的な言葉ばかりが出てくる。

 他者の為に己を犠牲とするのは美徳とされるが、それではその者がいつまでも消耗するだけだ。

 何かに縋るだけでしか生きられぬ者も、この人間社会には数多く居るだろう。中にはそれを当然の事と思い込み、その足元を掬われるような輩も。私はそんな奴らを生かす為だけの人柱になりたくはない。

 

「かく言う私も、昔はヒーロー紛いのことやってたんだけどね」

 

「…意外だな。アンタの性格的に、そこらへんにいる人間なんて気にも留めないで生きてきたのかと」

 

「心外だな~。私だって、身近な人が死んじゃったら気も落ち込むよ」

 

 飽くまでも、飄々とした口調で先生は話す。先生がヒーローとやらをしていたのは私も初めて聞いたが、その顔は遥か昔を懐かしむような、見たことの無い先生の一面だった。

 

「でも、誰かに感謝されるのは悪い気分じゃなかったからね」

 

 その言葉で、私は思い出した。

 

──誰かに感謝されるような人間になること──

 

 そして同時に、他ならぬこの人の教えが、私にとって何よりも大切であることを。

 

「…なら、私もヒーローになる」

 

 先生は私に多くのものをくれた。知恵や知識、安らぐ場所、美味しい肉。

 

 私の心が欲していた、未だ名も知らぬ感情。

 

 私は、誰かに寄りかかる生き方しか知らぬ愚者ではない。

 私は己の身一つで困難を乗り越え、数多の強者を屠ることができる。誇り高き龍なのだから。

 

 その誇りの為。そして何より、先生に恩を返す為。私は悪を殱ぼす英雄となろう。

 

 

 

 たとえ、この身が滅ぼうとも。

 

 


 

「おーい、メッちゃーん。戻ってこーい」

 

「またか……滅理がフリーズするのはアンタが絡んだ時な気がするんだが、コイツに何吹き込んだんだよ」

 

「失礼な。メッちゃんにはいい子に育つ為の英才教育しかしてませーん」

 

「その英才教育とやらは、箸の持ち方も態々教えなきゃいけないのか?」

 

「ぐっ……し、仕方ないじゃんか、皆んなお箸持つのへたくそだったし…タッちゃんも含めて」

 

「うっ……そりゃそうだろ、最初から綺麗に使える奴なんていないし──」

 

──「はらへった! ごはん!」

 

「あぁ、ごめんごめん。爪助(そうすけ)待たせてたんだった」

 

「はぁ…おい、滅理。早くしないとお前のケーキが爪助に食われちまうぞ」

 

「──ハッ」

 

 それはよろしくない。たとえ弟であろうと、私が自分で買ってきたケーキを食べられるのを良しとすることはできない。

 

 いそいそと皆が居るであろう食事場へと私達は向かい、しっかりと手を洗ってから席に着く。

 

「それじゃ、メッちゃんの誕生日を祝って、皆んなで“一鳴き”しましょう!」

 

「えぇぇ……またやるんですか、それ…」

 

「いいじゃんか溟人(めいと)センセー! オレは好きだぜ! 存分に声張り上げられるからな!」

 

虎兄(とらにい)は煩いから黙っててよ」

 

「あぁ、久巳(ひさみ)の言う通りだ。お前は少し声を抑えろ」

 

「まあまあ、いいじゃねェか昂獅(こうじ)の兄貴。それとも声に自信が無ェってのか?」

 

「なんだと?」

 

「煽るんじゃないよ砕己(さいき)。それに昂獅も、この机壊したらまた凍らせるからね」

 

「落ち着いて下さい麗貴(れいき)さん、折角作ったジュースが凍っちゃいます」

 

(きずき)先生、それもしかしてトマトジュースか? だったら俺は飲みたくないんだが」

 

「おれは飲む!」

 

ようすけ(熔介)おじいちゃん~、わたしおなかすいた~」

 

「ほほ。もう暫く我慢じゃぞ、銀子(ぎんこ)や」

 

 口々に騒ぎ出す兄弟姉妹達を、施設で働き暮らしている先生らが諫める。

 

「耳栓はあるからうるさいのがイヤって子は付けてね。じゃ、いくよ…!」

 

 先生は誰かの誕生日がある度に、こうやって皆んなで咆哮をすることで祝いを挙げるのだ。

 

『ガァァァァアアアアアア!!!!!!!!!』

 

『オ゛オ゛ァァァァァン!!!!!!』

 

『ヴォォォォオオウ!!!!!!』

 

『キュィェェェエ!!!!』

 

 誰よりも声に自信のある虎丸(とらまる)が率先し、それに続くように砕己が腹に響くような声を上げ、施設で最年長の兄である昂獅も唸るように喉を震わせる。気付けば築先生も意気揚々と奇声のような声を出していた。

 

『グルオォォォォォ!!!!!』

 

 私も、負けじと声を張り上げる。まだ兄達には遠く及ばないが、いつかは越えてやる腹積もりだ。

 

「はぁぁ…お耳が幸せ……」

 

「鼓膜が破れるの間違いでしょうが!」

 

 こうして、私にとって三度目の誕生日会が開かれたのだった。




 登場人物が多いと、文章と台詞を違和感なく並べるのが難しいです。
 オリキャラ達の名前や個性はいつか明かすので、それまでお待ちください。

 それと、タグ追加した方がいいですかね…?
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