悪を殲ぼす金剛の棘   作:ぶびっぐ

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 一週間のズレはあれど日曜日には上がりましたが、それが詭弁であることは承知しています。
 しかも前日に誤爆してしまうなんて失態もプラスされて、見苦しいことこの上ない限りです。

 以後はこのようなことが起こらないよう精進いたします。


再会:棘を破りて、壁に当たる

 淡い緑の蛍光色に光る導蟲の群れを追い続け、数分後。

 

 私と溟人は敷地の裏手に位置する、施設の建物とそれを囲う外壁との間にある開けた通路を歩いていた。

 

「いやぁ、爪助はこんな所よく見つけたね」

 

「故意に探そうとしなければ来ることもないだろうな」

 

 私の左隣を歩く溟人とそんな他愛のない会話を交わしながら、未だに見えてこない終着点を思うと少し呆れてしまう。

 熔介の話を聞く限り、間違いなく非があるのは銀子の方だ。返り討ちにされいじけてしまったからといって、何もこんな場所まで隠れることはないだろうに。

 

「そんなに菓子を食われたのが悔しかったのか…」

 

「まぁ、爪助は誰よりも食に対して貪欲な子だからね。このくらい拗ねちゃうのは仕方ないと……あれ? 導蟲が止まっちゃった」

 

 突然進行を停止した導蟲に溟人が疑問を示す。

 すると先程まで地面を這うようにして進んでいた導蟲達が、急に不自然な上昇を見せた。

 

「これは…」

 

 私と溟人は壁を伝う導蟲を目で追うように見上げる。

 施設の建物よりも高く(そび)え立つ、鋼鉄で造られた垂直の壁。

 

 その壁面には、(おびただ)しい数の爪痕が刻まれていた。

 

 爪痕は六本の線が全て一様に縦並びしていて、まるでこの壁を駆け上がろうと何度も爪を立てたかのようだ。

 

「上の電気柵が破れてる……そうか、電力供給で一旦停止させてたから…」

 

 外壁上に張り巡らされた雷が流れる鉄柵の一部分が、背の低い私でも視認できるほど分かり易く破られていた。

 

「なあ溟人、まさか爪助は…」

 

 私は言葉を詰まらせ、溟人の方に視界を移す。

 個性を発動したのだろう。溟人の顎から伸びた細長い四本のヒゲが、僅かな電気を帯びて周囲を探るように揺蕩(たゆた)っていた。

 

「…生体反応が無い。爪助は脱走したと見て間違いないと思う」

 

 溟人は至極落ち着いた声色で、信じ難き事実を告げる。

 あれほど無許可で外出してはならないと釘を刺されていたにも拘わらず、爪助は脱走した。

 

 あの子は人の言うことを無下にせずきっちりと守る。特に、施設からは勝手に抜け出さないよう再三言い聞かせられていた筈だ。

 ではなぜ、爪助は言いつけを破ってしまったのだろう。

 

 考え得る理由としては、理性ではなく本能で行動を起こした、とかだろうか。

 

 途轍もなく美味な肉を味わうとき、理性が溶けるような感覚に陥ることがあるのだ。思考はそこに介在せず、ただ一つ幸福(・・)のみが存在する。私は片手で数えられる程度しか体験したことがないが、それらには“考える暇もなく体が動く”という共通点があるのだ。

 

 爪助も、「施設から出てはいけない」という理性が揺らぐほどの何かに遭ったのだろうか?

 

 私はその何かを探るべく、爪助と出会った時の記憶を思い起こした。

 今から凡そ二年前。まだ一つにも満たぬ年の爪助は白龍先生に連れられて、この施設にやって来た。

 あの時の爪助の、尋常ではない様相が未だ頭に残っている。

 

 ぎょろぎょろとした目は血走り、口からはよだれをとめどなく垂らし、剥き出しの牙をがちがちと鳴らすその顔は、まるで血に飢えた獣のような形相だった。

 人としての常識をある程度理解している今だからこそ言える。

 あれは、人の子がしていい顔ではない。

 

 爪助を含めここに住む者は皆等しく肉親から見限られ、捨てられている。

 しかし、それを白状だと言って憤る者は誰一人としていない。

 他ならぬ我々が、親の下にいることを自ら拒絶し、ここにいたいと望み願ったからだ。

 

 身体の奥底から際限なく溢れる破壊の衝動を抑えきれず、その剛腕が赫く染まるまで拳を振るい続けた。

 僅か数か月で立つことを覚えると、本能のままに辺りのもの全てへ牙を剥き、暴君の限りを尽くした。

 個性を(てい)のいい発電機として酷使された結果、限界を迎えた竜の声に身を委ね、岩石を焦がす雷を生身の人間に落とした。

 

 他者を傷つけた者、他者から傷を負わされた者。ここには、そんな子供だけが集まるのだ。

 

 かく言う私も、母親の腹を突き破って産まれた。なんでも、胎内で個性を発動してしまったのだとか。

 

 そして朧げな記憶の中、今も鮮明に残っている感覚がある。人間としてこの世に産まれ落ちた私が初めて捉えたそれは、鉄を奥歯で噛んだような鈍く濃厚な“血の味”だった。

 

 爪助も私と同じなのだろうか。思えば爪助はトマトだけで作られた野菜ジュースを好んで飲む。私も一度飲んでみたことはあるが、あのどろっとした舌触りの鹹味(かんみ)は血と似ているように思える。

 

 爪助は個性を発動した状態でここへ行き付き、何処かから漂ってきた血の匂いを彼が持つ鋭敏な嗅覚で拾ってしまい、血肉にありつく為に何度も壁をよじ登って脱走を試みた。

 私は納得がいく彼の行動理由として、そう結論づけた。

 

「溟人、爪助が脱走した理由なのだが…」

 

 導き出したこの推測を伝える為に、私は思案の中で自然と俯いていた顔を上げて首を左に振る。

 

「…何をしているんだ?」

 

 すると溟人は何故か両のこめかみを人差し指で抑え、なにやらウンウンと唸っていた。

 

「電子機器が使えないから…こうやって個性で電気信号を作って…連絡を飛ばしてるんだ…」

 

「そうなのか。邪魔をしてしまって申し訳ない」

 

 途切れ途切れの言葉で話す溟人の様子を察した私は、彼の集中を乱すまいと端的に詫びの言葉を述べた。

 

 こう考えると、溟人は雷の扱いに関して施設の中で最も長けているとつくづく思う。今しているように電子機器を介さず遠方からの連絡ができる上、彼曰く「生き物が発する電気を見る」ことで如何に巧妙な隠密をしても、彼の目を欺くことは不可能だろう。先日訪れた溟人の実姉である蛟も「かくれんぼの鬼役で溟人の右に出る者はいない」と言うほどだ。

 

「…ふぅ、よし。ごめん滅理、さっき何か言った?」

 

 私の名前を呼ぶ溟人の声で、逸れ始めていた思考が我に返る。

 連絡を終えた溟人は姿勢を戻して息をつき、私の言葉を聞き返す。

 

「ああ。爪助が脱走した理由だが、血の匂いを嗅いでしまったのではないかと推測したのだ。

 溟人は爪助が人一倍食に対し貪欲だと言っていただろう? この壁から外は山の森が広がっている。爪助は恐らく、怪我を負った動物が流した血の匂いに誘われでもしたのかと考えたのだ」

 

 

 

「……いや、爪助が嗅ぎ取った血は動物のものじゃないと思う」

 

 一拍置いて出された否定の返答に、私は首を傾げた。

 

「なぜだ? ここは山の中なのだから、動物など余りあるほどいるだろう」

 

 この施設は緑豊かな山間にあると記憶している。現に私は、先日のおつかいで出発する際に改めて壁の向こうに広がる森の景色を見た。人工物があるとはいえ、それだけで動物が寄り付かぬ訳もない。

 

「20年くらい僕はここに居るけど、施設の近辺で一度も野性の動物を見たことがないんだ」

 

 溟人の確信を含んだ口調と言葉に、私の頭にはますます疑問符が浮かび上がる。千年余りの歳月を生きた私にとって、20年という僅かな時間はその現象を判断する基準足りえないのだ。

 しかし、そうはいっても溟人の経験談を否定するには筋が通らない。人が本来持つ一生の年月を考えるならば、20年は確証を持つに十分と言えよう。白龍先生は例外中の例外であるので考慮には含めない。

 

「多分、施設で暮らしたことがある人はみんなそうなんじゃないかな。滅理もこの前出掛けた時、散歩してるワンちゃんとかに吠えられたりしなかった?」

 

「そういえば…白い毛玉みたいな奴に、やたらと鳴き声を浴びせられたような気がする」

 

 確かに、言われてみればそうだ。人間としての私が肉眼で見たことのある動物は、二日前に偶々通りかかった毛糸玉のような形状をした珍妙な動物のみ。龍成の本で見たことのあるイヌやネコは今のところ会った経験がない。

 私は偏った判断基準で物事を決めつけてしまった己を少し恥じる。郷に入っては郷に従え、とは正にこのことを言うのだろう。

 

「なんとなくだけど、滅理だけじゃなく蛟姉さんとか麗貴さん、この壁を造った鋼影(こうえい)さんみたいな過剰すぎる個性を持つ人には、他の動物が近寄らないのかなって思うんだ」

 

「そうなのか…」

 

 これは新しい発見をした。動物の持つ自分よりも強大な存在から逃げるという性質は知っていたが、まさか人の姿であってもそのような風格が私に残されていたとは。自分で言っておいて若干のむず痒さはあるが、悪い気分ではない。

 

「だから爪助が嗅いだ血の持ち主は、動物じゃなくて人かもしれないんだ」

 

「……いや待て。それはつまり、爪助がその者に遭遇している可能性があるということか?」

 

 溟人は鋼鉄に刻まれた爪痕を見つめて、ゆっくりと頷く。そして、次の句を待つ私の方を向き、まるで躊躇うように重々しく口を開いた。

 

「…万が一、爪助がその人に危害を及ぼした場合……彼を“処分”しないといけなくなる」

 

 “処分”

 

 発された言葉の響きに私は、先程までの浮かれた気持ちなど消え失せ、底冷えするような不快感が体の底から這い出て来た。

 

 私の出自は決して人に褒められるようなものではない。当然だ、私を産もうとしてくれた実の母を、私自らが殺してしまったのだ。親殺しの罪は私に重くのしかかり、今でも後ろ暗い過去として引きずっている。

 

 しかしそのことに罪悪感を覚えることはあっても、どうしても償う気持ちにはなれないのだ。

 

 あぁ、今でも思い起こすだけで吐き気がしてくる。

 実の父親が、子の首を絞めるなど。

 

 十分な環境で母が出産を迎えられなかったのは誰の責任か。母が死んでしまったのも、言葉すら知らなかった私を虐げ、“処分”と言って棄て去ったのも。

 全部、あいつだったろう。

 

 私にとっての家族とは、施設に住む人々だけだ。誰一人として欠いてはならない。何者にも代え難き、大切な存在なのだ。

 爪助に己の意思を表す為の言葉を教え、人としての智を与えたのは私だ。爪助は決して、理性を持たぬ獣などではない。理不尽に存在を否定される道理はどこにもありはしない。

 

 これが、私の独り善がりだというのは分かっている。

 でも、そうだとしても……家族を失うなど、今の私には到底受け入れられないのだ。

 

 

 

 氾濫する感情の荒波が、黒い堅棘(けんきょく)となって体表に顕れる。

 全身の筋肉は怒張し、心臓の脈動がいやに頭の中で響いた。

 

「滅理? ちょ、いきなりどうし──」

 

 

 

──ヴア゛ア゛ァァァァァァァ!!!!!!!

 

 龍と()った私は高らかに警鐘を鳴らし、両翼を大きく羽ばたかせる。

 

 身の防護など考える必要もない。私がすべきことは、棘を以て目の前の鋼鉄を突き破るのみ。

 螺旋を(えが)き、私は突進する。金属と棘が衝突する音が響き、幾つもの棘が根元からへし折れる。

 

 しかし、私が止まることはない。

 削られ、穿ち。折られ、砕く。一秒にも満たぬ僅かな(とき)の中、幾多の棘が(ついや)されてゆく。

 

 

 

 私は、鋼鉄を打ち砕いた。

 

 ひしゃげた鉄屑となった鋼鉄を尻目に、私は再び翼を広げる。私を捕らえようと押し寄せる流水は、溟人が造り出したものだ。

 既に空を掴んだ私にとって、それも無意味であるのだが。

 

 待っていろ爪助よ。お前が罪なき人に牙など剥かぬ理性ある人間であると、私が証明してやる。

 引き留める溟人の声を振り払い、私は高揚と共に快晴の空へと羽ばたいた。

 

 


 

 数分前に遡る術があるのなら、私は間違いなく自分をぶん殴っているだろう。

 

 山に広がる森林の上空を飛びながら、無価値なたらればを自分の失態に対し考えてしまう。

 一時の感情に身を任せた挙句、勝手な外出どころか施設の破壊をしでかしたなんて。

 それだけではない。馬鹿みたいに近距離で放った大声の所為で、溟人の耳に怪我を負わせてしまった。空を飛べる筈の溟人が私を追ってこないのはきっと、私に鼓膜を破られて平衡感覚が狂ったからだ。

 

 これでは白龍先生に合わせる顔がない。せめて贖罪の余地として、何が何でも絶対に爪助を見つけ出さなくては。いやそれは動機としてあまりにも不純が過ぎるぞ。

 ああ…弟を保身の為の言い訳に使おうと考えてしまうなど、私は姉として失格だ…

 …しかし、嘆き蹲っていても事態が好転しないことなど分かりきっている。解決の糸口を見つけ出すには、否が応でも行動を起こさなければならない。憂鬱な感情は一旦置いておこう。

 

 施設の近くは一通り見渡したが、竜に成った爪助の目につきやすい赤色の体はどこにも見当たらなかった。私の五感の中で比較的優れている嗅覚も、爪助のように遠くのものを嗅ぎ分けられるほど発達していないので探すには役立たない。

 

 つまりは何の成果も得られず飛び回っている訳だが……やはり駄目だ。己の無計画さに嫌気が差してならない。

 自分が作り出した不況に喘ぐなど自業自得そのものではないか。これぞ正しく“自分の首を自分で絞める”ということか。いや洒落にならんやめろその例えは今すぐ取り消せ。

 

「はぁぁぁ……」

 

 森の木々から突き出た岩山を止まり木に、愚かしく墓穴を掘った私はでかでかと溜め息をつく。

 こんなことをしている暇はないと頭では分かっていても、行動に移せるほどの気力は湧いてこないのだ。

 要はただの言い訳だが、今の私にとっては精神安定に役立つ。自分で言っておいて情けないとは思う。

 

 ──ドゥン…

 

 ふと、僅かな振動が項垂れ脱力する私の足を伝った。

 

 ……ドォン、ゴゥン…

 

 地震にしては短く弱い揺れが不規則な間隔で発生する。もしや爪助かと期待し、私は岩山の麓を見下ろした。

 

「! お前は…」

 

 蒸栗色(むしくりいろ)の刺々しい髪に、私と同じくらいの背丈。二日前、公園にて出会った“かっちゃん”少年が、今私が立っている岩山の壁に向かって爆破を放っていた。

 

「ッ! テメェは…!」

 

 私の姿を見るや否や、彼はその目つきをより一層尖らせる。

 

「ここで何をしているんだ? 今日は平日の月曜日だぞ」

 

 一般的に5,6歳以下の子供は普段幼稚園や保育園といった託児所に通っていると聞く。彼を私と同年代だと仮定するならば、こんな山奥に一人でいるのは不自然だ。

 

「…うるせぇ、お前には関係ねぇだろ」

 

 突き放すような口調と態度。余程彼は私のことが気に入らないようだ。

 

 しかしそれは当然と言える。あの時は知り得なかったが、彼が言った“キス”という言葉は人間の求愛行動を指すと聞いたのだ。他の兄と姉や先生に尋ねてもはぐらかされてばかりだったが、昨日施設に来た蛟が教えてくれた。

 

 彼が私に対し激昂したのは、人命救助の為という前提を知らず私が行ったこと自体に嫌悪感を覚えたからなのだろう。

 

「いや、そうだな…先日はすまなかった。あの時は気が動転して、あんな行動に走ってしまったのだ」

 

「見下されながらンなこと言われても許せるワケねぇだろーが」

 

 そうだった。

 

 彼に指摘され気が付いた私は、己の失態を恥じつつ岩から降りる。

 

「っオイ、急に飛び降りるんじゃねぇ。あぶねぇだろ」

 

「あっ、す、すまない…」

 

 あぁまたやってしまった…どれだけの醜態を晒せば気が済むのだ私は。これでは許しをもらうどころか、爪助を見つけるなんて夢のまた夢だ。

 

「本当に申し訳ない…自分でも己の不面目さを痛感している…」

 

 私は何がしたいのだ。住み処を壊し、家族を傷つけ、まともに謝罪もできないなんて。

 

 重ね過ぎた過ちは、膨れ上がってしまって清算しきれない。償っても償っても、その度に失敗はどんどん増えていく。そうして負の鎖が連なって絡みつき、いつかは破裂して終わる。

 まるでそれは私が愚かだと嗤った、龍の力に狂わされた竜のように。

 

 その様のなんと情けなく、見苦しいことか。

 

「本当に………ぅ」

 

「はあっ!?? オイなんでお前が泣くんだ!?」

 

 体温の籠った雫が頬を流れる。落涙など、一体いつ振りだろう。

 

 私がまだ龍であった頃は、涙など浮かびもしなかった。如何に痛みや苦しみを味わおうと、それらが泣くに至ることは無く、只々感覚が擦り切れていくだけだった。

 枯れていたのではない。元から涙を知らなかったのだ。千年に渡る孤立と孤独は、私を心なき怪物たらしめた。

 

 あいつに棄てられた三年前の私は、訳も分からず目から溢れるこれに大層驚いたものだ。

 

「ああくそ、なんでオレがお前をあやさなきゃいけねぇんだ…」

 

 そう言いつつも彼は、みっともなく嗚咽する私の背をさすって落ち着くよう促してくれる。

 彼にとって私の存在は不快極まりない筈なのに、どうしてだろう。

 

「っ、なんで、わたしをみすてない、んだ…?」

 

 涙の溜まった目にぼんやりと映る彼の顔を見ながら、おぼつかぬ口調で私は問うた。

 

「…なんか、オレに勝ったお前がそんなんだと、すっきりしねぇ」

 

 私の背中をさする左手はそのままに、右手の人差し指で頬を掻きながら彼はそう言った。

 

「それだけ、か?」

 

「あぁ」

 

「そう、か…」

 

 純粋な心配や邪な打算とかではなく、飽くまで自分の抱える気持ちの問題なのが、彼の性格ゆえなんだろうか。

 

「…ありがとう」

 

「……おう」

 

 口角をほんのりと上げて、不束ながらも礼を述べる。

 ここまで数々の体たらくを露呈させてきた私だが、感謝の心まで忘れてはいないのだ。

 

 いつの間にか涙は収まり、幾ばくか精神が軽くなったと感じる。不安や悲哀といった負の感情は、涙として吐き出すことが賢明なのだ。因みにこの知識は先生ではなく龍成から学んだ。

 

「見苦しい姿を見せてすまない、自己紹介がまだだったな。私は黒創(こくそう) 滅理(めつり)、四歳だ」

 

爆豪(ばくごう) 勝己(かつき)。個性は爆破。4歳。お前は?」

 

「同い年なのか。それと個性だが──」

 

 勝己の淡々とした言葉にどこか不自然さを覚えつつも、個性の名を言おうとしたその時。

 

 

 

──グオォォォウゥ!!

 

 獣のような咆哮が、森の中から耳に届いた。

 

「今の声は…!」

 

 あの低く唸るような叫び声は、爪助が宿す竜のものだ。

 

「オイなんだ? 今の鳴き声」

 

「私の弟の声だ。さっきまでずっと探していたんだ」

 

 早く見つけてやらなくては。爪助や私など施設に住む者が身に宿す個性は総じて強力だが、消耗が激しく長続きしない。

 特に爪助は脂肪が付きにくく、それ故に蓄えが少ないのだ。空腹のあまり人に牙を剥けてしまってはならない。

 

「爪助!! 私だ、滅理だ!! 聞こえたのなら返事をしてくれ!!」

 

 私が大声で呼びかけても、森の静寂は一向に答えてくれない。

 

 もし爪助が近くにいるのなら、何かしらの反応はある筈だ。草木が揺れ動く音や、土を踏み占める音。二度(にたび)声は出せずとも、存在を知らせる手段はある。

 だというのに、辺りはしんと静まり返ったまま動じない。不気味なまでの静けさが、森一帯を包み込んでいた。

 

 嫌な予感がする。

 

 野性の勘ともいうべき直感が、心臓を揺すぶり不安を煽る。まるで、得体の知れぬ何かが私を(おびや)かしているとさえ思えた。

 

「頼む……答えてくれ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるせェなぁ、人様の庭でデカい声出しやがってよォ」

 

 

 

 その声を聞いた私は、全身が凍え上がるように栗毛立った。

 

 考えることも拒みたくなるような、どこまでも低く不快で、鼓膜にねばりつく男の声。幾度となく浴びせられた暴力の数々が、記憶として否応なしに呼び起こされる。

 

 私の名を呼ぶ勝己の声が、遠くのものであるかのように錯覚した。

 

 枝木を折り、土を踏み荒らしながら、声の主はこちらに近付いてくる。

 

「おォ? なんだ、お前かぁ。まぁだ生きてやがったのかぁ」

 

 その人間は紛れもなく、私を棄てた父だった。




 かっちゃんってこんな感じだっけ…

 それと、しばらくは月一くらいの投稿頻度になりそうです。多忙というより、私の器量と要領の無さが主な理由なので、調子が良ければ二週に一度まで引き上げれなくもないかもしれません。

 あとアンケートとります。

Riseの新モンスターでどれが好き?

  • マガイマガド
  • ヤツカダキ
  • ゴシャハギ
  • オロミドロ
  • ラスボス
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