悪を殲ぼす金剛の棘   作:ぶびっぐ

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どうも、大好物は期日ギリギリこと作者です。

前話から丁度30日の期間が空きましたが、技量はさほど変わっておりません。安心のクオリティでございます。

頭とお腹(胃腸)を痛めて作ったので、読んでいただければ嬉しいです。



追憶:あかいもの

 

 これは、ある夏の日に見た、夢の話だ。

 

 


 

 俺は今まで、何をやってもトップだった。

 

 他のヤツらができないことが俺にはできたし、そのことを周りの大人はもてはやした。

 派手で強い“爆破”の個性を持っていて、だがそれにかまけず自分をさらに強くしようと努力してる。読み書きだって他のヤツよりできるし、競走(かけっこ)で負けたことは一回もない。

 

 だから俺は、どんなことも俺がトップじゃないと気が済まない。

 足の速さも頭の良さも個性の強さも、ぜんぶ誰よりも上。

 

 それが俺の“個性”で、爆豪勝己の(たち)だから。

 俺は絶対に、オールマイトみたいなヒーローになる。それが俺の目標で、成し遂げる現実だと思っていた。

 

 

 

 俺よりも遥か上にいる、アイツに会うまでは。

 

 アイツが俺に近づく動きが、ほとんど見えなかった。

 悪魔みたいなバケモノの姿を見た瞬間、いつの間にかアイツが目の前にいた。

 

 アイツが言ったことに、俺は言い返せなかった。

 俺の個性が何の為にあるのか答えられず、みっともなく逆ギレした。

 

 アイツが俺の手をひっ掴んで飛び上がった時、あっさり負けを認めちまった。

 そこら辺の家より高いところに来て体の中身が浮くような感覚がしたら、いきなり地面スレスレまで落ちた。そのままぶつかると思ったら気を失って、人間になったアイツのキスで目が覚めた。

 

 フザけんな、俺を白雪姫と一緒にすんじゃねぇ。

 

 しかもそれを、デクに見られたのが俺は受け入れられなかった。

 

 俺が負けたところをあんな石ころに見られて、いつもみたいに幼稚園行くなんてムリだ。

 行ったって何も手に入りやしない。今の俺に必要なのは、己を鍛えてアイツよりも強くなることなんだ。

 

 近所の森に来たのはそれが理由だ。ここの森は探検でよく入るが、大抵は川の中流ぐらいで帰る。なんでも、それより奥は深すぎるから、行くと帰ってこれなくなるんだと。

 

 俺はそこに目を付けた。深く入ると戻れない森をトウハ(踏破)すれば、今よりも強くなれるんじゃねぇかと考えたからだ。

 イノシシだろうがクマだろうが、爆破の熱にはかなわないハズだ。森の入り組んだ地形も含めて、思う存分俺のカテ()にしてやる。

 

 

 

 そんな意気込みで森の奥に踏み入ったはいいが、イノシシどころか動物に一匹たりとも遭遇しなかった。

 

 拍子抜けどころじゃねぇ。虫を相手にしろってのか。

 計画が上手くいかないのと、しつこく耳元で飛び回る羽虫を振り払う度に苛立ちがふくらんで、そこにあった岩に当たり散らす。

 

 ボン、ボン、ボンと、胸の煮えきらないのを吐きだすように、腕を振りまわす。

 

 かれこれ朝から4時間くらい森を歩いたが、発見できたのは岩がたたずむこの広場だけ。山の地形は探検で登り慣れてるせいで、障害物にもなりやしなかった。

 

「…クソッ」

 

 岩に残る爆破痕を見つめて口ぐせをつく。

 こんな調子じゃ、アイツを超えた強さは手に入らない。目の前の壁ごときを突破できねぇで、ヒーローになるなんざ夢のまた夢だ。

 

──お前は…

 

 ふいに、聞き覚えしかない声が降ってきた。

 

 俺は爆破した岩のてっぺんを見る。案の定、頭に生やしたツノの目立つアイツ(悪魔)がそこに居た。

 

「ここで何をしているんだ。今日は平日の月曜日だぞ」

 

 あの時と同じ平らな喋り方。俺なんか何とも思ってねぇような、まるで感じるものが無いみたいな顔と口ぶりに腹が立つ。

 

「…うるせぇ、お前には関係ないだろ」

 

 今日は平日だぁ? それを言うなら幼稚園行ってねぇのはお前もじゃねぇか。自分は特別だって言いてぇのか。

 

「いや、そうだな。先日はすまなかった」

 

 たとえ謝っても、グツグツ煮える俺の苛立ちが冷めることはない。逆にイヤミとさえ思える。

 それとまず、そもそも見下しながら謝んじゃねぇ。親に習わなかったんか。

 

「見下されながらンなこと言われても許せるワケねぇだろーが」

 

「ハッ」

 

 なぁにが「ハッ」じゃクソが。んでもって急にとび下りやがって。

 

「オイ、急にとび下りるんじゃねぇ。あぶねぇだろ」

 

 一瞬でもヒヤッとしちまった自分がムカつく。コイツがこの程度の高さで怪我するこたぁねぇってのに。

 

「あっ、す、すまない」

 

 コイツはどうやら、よっぽど人をきづかうのが苦手らしい。それが俺の言えたことじゃないのは分かってるが、どうも注意不足というか……コイツ、前会った時みたいな迫力が無い。

 

「本当に申し訳ない…自分でも己のフメンボクさを痛感している…」

 

 なんだよフメンボクって。知らねぇ言葉使うんじゃねぇ。俺が知ってんのはニュースでよく見る言葉だけだ。

 

「本当に………ぅ」

 

「はぁっ!??」

 

 コイツ、いきなりしゃがんだと思ったら泣き出しやがった。

 

「オイ、なんでお前が泣くんだ!?」

 

 あの時とはぜんぜん違うコイツの様子に、俺はうろたえてしまう。

 俺よりも下のヤツが泣いたところでどうだっていいが、コイツは別だ。俺の上にいるコイツがこんなだと、こっちまで調子が狂っちまう。

 

「ああクソ、なんで俺がお前をあやさなきゃいけねぇんだ…」

 

 俺を負かしたヤツが今、デクみてぇに泣きべそをかいてうつむいている。2本のデカいツノも失せて、数段と弱っちく見える。

 結局俺は、ガラにもなくそいつをなぐさめていた。

 

「なんで、わたしを見捨てない、んだ」

 

 泣きはらした目で俺を見つめながら、そいつはたどたどしい喋り方で言う。

 

「…なんか、俺に勝ったお前がそんなんだと、すっきりしねぇ」

 

 俺は、俺らしくないあやふやな言葉を返した。

 すっきりしねぇというか、フに落ちねぇというか……なんとなく、俺はコイツが泣くのを見たくなかった。

 

 近くで見つめ合うのが気まずくて、少し目を逸らす。形だけでも、誰かによりそったのは人生で初めてのことだ。

 

「それだけ、か」

 

「あぁ」

 

 それ以外にあるかってんだ。こちとら誰かを心配できるような余裕がねぇんだよ。お前のおかげでな。

 

「そう、か」

 

 しゃくり上げる度に上下していた肩を手でおさえて、そいつはもう一度うつむく。

 

「…ありがとう」

 

 うつむいていた顔を上げて、俺と目を合わせるそいつを見て、ドクンと、胸のあたりが動く。

 ヘタクソな笑い顔を浮かべるコイツが、俺はなんだか直視しづらいものみたいに思えた。

 

「……おう」

 

 またしてもあっけに取られちまったが、前とは違って気分は悪くねぇ。むしろ、くもり空が晴れたみたいでジョーキゲンだ。

 

「自己紹介がまだだったな。私はコクソウ メツリ、4歳だ」

 

「爆豪 勝己。個性は爆破。4歳。お前は?」

 

 だが今はコイツの、メツリの顔が見れねぇ。かろうじて返事はできたが、頭がごっちゃになってるせいで個性じゃなく何歳か聞いてるみたいになっちまった。

 

「同い年なのか」

 

 そーだよお前のほうが大人びてるけどな!

 胸さわぎがまだ落ち着かねぇ。心臓が勝手に動いてるみてぇだ。いやそれは普通のことだアホ。

 なんだ? なんで俺はコイツにまどわされる?

 もしかして、コイツの個性が悪魔みてぇだからか?

 

「それと個性だが──」

 

──『グオォォォウゥ!!』

 

 突然、メツリの声をさえぎる鳴き声が森にひびいた。

 地の底から聞こえてきたみたいな、低くおどろおどろしいうなり声だ。

 

「今の声は…!」

 

 メツリにも聞こえたらしい。若干だが、まゆ毛が動いておどろいたように見えた。何気にコイツの無表情じゃない顔は初めてだ。

 

「オイなんだ? 今の鳴き声」

 

「私の弟の声だ。さっきまでずっと探していたんだ」

 

 やっぱコイツ、悪魔の個性でも持ってんじゃねぇのか。個性は家族どうしで似るから、十分ありえそうな話だ。

 お前の弟の声、俺らより年下の人間が出せるような声してねぇぞ。

 

「ソウスケ!! 私だ、メツリだ!! 聞こえたのなら返事をしてくれ!!」

 

 座りこんでいたメツリは俺の側からかけ出し、空に向かって呼び声を上げる。

 数メートルは離れてるってのに、耳鳴りがするくらい声がデカい。そういえば、コイツの鳴き声もバケモンみてぇな声だった。

 

 広場の真ん中にさす太陽の光がメツリの日焼け肌を照らす。肌とは真反対な白い髪が、声を張る度に揺れていた。

 

「たのむ……答えてくれ!!!」

 

 ヒツウな叫びだ。どうやら、よっぽど弟を心配しているらしい。

 冷静さを手放しかけているメツリに近づき、俺は落ち着けと言おうとした。

 

 その時

 

 

 ガサッ

 

 

 ふと、メツリをはさんで向こう側のしげみから音がした。

 

 メツリと俺はつられるように、音が聞こえた方を見る。

 

──「うるせェなぁ、ヒトサマの庭でデカい声出しやがってよォ」

 

 低くつぶれた声の男が、木をかき分けながら広場に入ってきた。

 くすんだ灰色の上着に、青いズボンと黒い髪の毛。光のささないうつろな目をこちらに向けて、その男は長袖についた葉っぱを片手ではらう。

 

 誰だ?

 

 俺がそう聞こうとすると、急にメツリが頭を押さえだした。

 

「っどうした!?」

 

 思わずさっきなぐさめたのと同じような姿勢をとってしまったが、腕からのぞくメツリの顔を見ておどろく。

 耐えるように歯を食いしばり、ぎらぎらと光る目を白黒させるその顔は、まるで恐怖と怒りが混ざっているように見えた。

 

「おォ? なんだ、お前かぁ。まぁだ“生きてやがった”のかぁ」

 

 違和感のある言い方がつっかかる。メツリがこうなったのは、この男が原因なのか?

 

「誰だよテメェ!」

 

「こっちこそ誰だボウズ。こいつのダチかぁ?」

 

「ダチじゃねぇ、質問に答えろ!」

 

 跳ね返された質問は諦めて、俺は警戒をあらわに男を睨む。

 キシ感のある無表情のまま距離をつめながら、男はそのちぢれた髪を親指で掻いた。

 

 この男、どう見ても(ヴィラン)くさい。

 

「まいっかぁ。聞いてくれェボウズ、俺の話をよォ」

 

 俺はかばうようにメツリの前に立ち、腕をいつでも振るえるよう構える。もしこの男が(ヴィラン)なら、少しあぶねぇが爆破の煙で時間をかせいで逃げるつもりだ。

 

「そいつのママはな、頭は弱ェが肌がキレイでなぁ、オレはママの真っ白な脳と肌色が好きだったんだよなぁァ」

 

 ねばっこくまとわりつくような声で、男は喋る。

 なんでこの男がメツリのカアチャン(母親)のことを話すのか分からないが、その口ぶりはものすごく気持ち悪い。

 

「なのに…なのになんだよその黒い肌はよォ…個性も全ッ然違ェしよォ…!

 ……ママと似ても似つかねェナリしやがってよォ!!!」

 

 男は急に怒鳴りだし、顔をゆがませて両手を左右にピンと伸ばす。

 

「!」

 

 個性の予備動作か?

 

 俺はそう考え、いつでも爆破を放てるよう両手の肘を後ろに引く。

 

 ヴゥン

 

 安っぽい効果音が鳴って、男を中心とした何もない空間にいくつもの穴があいた。

 

「パパの言うこと聞かねェ悪ガキがよォ…躾が要るみてェだなぁァ!!」

 

 気味悪く口角を吊り上げた男は、伸ばしていた両手を前に大きく振って交差させる。

 ぽっかりとあいた真っ暗な穴から、数え切れない量の鉄線が飛び出してきた。

 

「!?」

 

 俺はとっさに右手を後ろから前へかきだすように動かし、爆破で地面をえぐって即席の盾をつくった。

 だが俺の破砕力でかきだせるのは、もろく壊しやすい土くらいだ。飛んでくる鉄線の全てを防ぐには、両手の爆破で土壁を押し返すしかない。

 

「ぐぅぅ…!」

 

 今までも個性は使ってきたが、ここまで連続して爆破したことはない。

 ビキビキと、突き刺されるような激痛が両腕に走る。

 

──グラッ

 

「ッ!!?」

 

 踏みしめる足場がなくなって、姿勢が乱れてしまう。

 地面が崩れたんだ。削られて緩くなった地面を土台にすれば、そりゃ崩れてもおかしくはない。

 

 爆破の煙幕を貫いた一本の鉄線が目の前に迫る。爆破に使い続けた腕は、すぐに動かなかった。

 

 隙につけこまれた。俺の弱さが、それを許してしまった。

 

 

 

 間に合わねぇ

 

 そう理解して俺は、ぎゅっと目を閉じた。

 

 

 

 ドシュッ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…巻き込ませてしまった」

 

「──あ…?」

 

 天幕みたいな黒とオレンジのまだら模様が、視界一面に広がっている。

 

 いや、天幕じゃねぇ。これはメツリの翼だ。

 見上げれば、口に牙を揃えたメツリの顔があった。

 

 俺はコイツに、守られたのか…?

 

「逃げてくれ勝己。これ以上、無関係な者を危険に晒したくない」

 

 包むように覆われていた二つの翼が広がると、メツリの右腕に突き刺さる鉄線が見えた。

 

「お前…右うでのそれ…」

 

「あぁ、これか」

 

 前腕に深々とめり込んだ、親指の太さくらいはある鉄の棒。

 メツリはそれを何ともないように引き抜く。空いた穴から垂れた血が手指をつたい、地面を赤く染める。

 でも、メツリの顔は一切変わらなかった。俺にはそれが、痛みすらも感じることがないように見えた。

 

「こんなもの、あの頃に比べれば気にもかからない」

 

 そう言い捨てたメツリは、右の拳を深く握って立ち上がる。

 

「うァぁ…それだ、その姿だ! ママの腹を突き破って出てきたその姿! 一時も忘れちゃいねェ、バケモンの姿だぁ!!」

 

 男はいびつな表情でわめき、身悶えしながらメツリを睨みつける。

 

 『腹を突き破って出てきた』

 

 男が言ったその言葉に、俺は疑問を抱く。字面だけでも十分おぞましいが、今はそこじゃねぇ。

 個性が発現するのは4歳前後だと記憶してる。イギョウガタ(異形型)っつう例外もあるが、メツリは人間の姿になれるから違うハズ。

 

 じゃあ一体、メツリの個性はなんなんだ?

 それに、今までのセリフからしてこの男、ひょっとしてメツリのトウチャン(父親)なのか?

 

「何をしているんだ勝己。これ(・・)は私が相手をするから、早く逃げるんだ」

 

「ことわる。お前に言いてぇことが山程あるんだよ。それに、まだ個性を聞いてねぇだろ」

 

「そんな理由で…」

 

「悪いかよ」

 

 男がメツリにとって何者なのか、メツリが探す弟はどういうヤツなのか、そもそもなんでメツリと男が敵どうしなのか。

 聞きたいこと言いたいことは重なるばかりだが、今はとにかく目の前の壁を乗り越えればいい。その後でいくらでも質問攻めしてやる。

 

「…決して死なないと約束しろ」

 

 右に立つメツリが顔をしかめながら、ぶっきらぼうに言い渡す。

 それに対し俺はニッと歯を見せて笑い、前を向いて言い捨てた。

 

「死なねーよ、安心し倒せこのトゲ野郎!」

 

 そんな軽口が言えるくらいには、腕の痛みもひいてきた。それになんだか、いつもより頭がさえてる気がする。このままの調子で(ヴィラン)男をぶっ飛ばして、さっさとシツギオートーの時間だ!

 

「ガキがナメてんじゃねェぞォ…! まとめて吹き飛ばしてやッから縦に並べェ!」

 

 ヴォン

 

 またしても安っぽい音が鳴って、男から見て左横の空間に穴が開く。今度の穴は1つだけだが、さっきよりも円が大きい。

 

 直感的にデカい攻撃が来ると予感した俺は構えをとるが──

 

──結局、それは不発に終わった。

 

 理由は言うまでもねぇ。飛んできた木くらい太い鉄骨を、メツリが打ち落としたからだ。

 

 鉄骨を避けようと左に跳んだ俺とは逆に、メツリはその場から一歩も動かなかった。

 なにしてんだと言いそうになった俺をよそに、大きく息を吸いこむようにメツリは背をそらした。

 

 そこからの光景は、俺の認識を青から赤に塗り替えるようだった。

 

 振り上げたと思った右手が、一瞬で地面へと吸い寄せられて。その手の進む道に触れた鉄骨は、先端ごとひん曲がった。

 

 とてつもないスピードで迫ってきたそれを、あろうことかメツリは上から叩き潰した。

 

 ドガンだとか、バゴンなんて安い音じゃ表せない轟音がして、舞い上がった土煙がメツリの姿を隠す。

 

「…ぁ」

 

 そんな喉すら震わせない声を漏らしたのは男か、もしくは俺か。

 

 煙を振り払うように大ヅノを揺らし、メツリは雲間からその形相を覗かせる。

 俺は向かい合ってすらいないのに、威圧だけで膝をつきそうになった。

 

「あああああああああ!!!!!!」

 

 そして、直接それを向けられた男が発狂するのは当然だった。

 男の叫び声でぼうっとしていた俺の意識が戻ったのは秘密だ。

 

 男は両腕の手の平を下に向けて、勢いよく前に突き出す。

 すると、川の増水で起こる鉄砲水みたいに空間の穴から色んな物体が噴き上がり、溢れ出た。

 

──ドドドドドドドド!!!

 

「ハァッ!」

 

 真正面からじゃせり負ける。万全の状態でもノされちまったんだ。

 だから俺は流れてくる物体を、受け止めるのではなくその勢いを逸らすように爆破を放った。

 

 木箱は爆破で砕いてから除けて。鉄パイプはそのまま受け流して。ドラム缶は飛び越えるように爆破して。黒い袋は蹴って飛ばして。よく分からないガラクタはとりあえず爆破しながら避けて。

 肩で息をしながら体を動かして、一心不乱に腕を振るう。メツリがどうやってこれを対処してるのか気になったが、それを確かめる暇はなかった。

 

 そうして押し寄せてくるそれらをいなし続けていると、何か、妙な手ごたえを感じた。

 

 なんだこれ。土より硬いが、岩より柔らかい。まるで、巨大な何かの骨を爆破したみたいな、変な感触だ。

 

──ドドドド、ドド…ド……

 

「っはぁ、おさまっ、た…?」

 

 なぜか急に物体の流れが止んだ。いや、それよりアイツはどうなった?

 

 俺が立っている箇所だけゴミが無いから、穴に落ちたみたいだった。

 広場を見渡そうと、背丈くらい積もったガラクタに登る。不安定な足場だから姿勢を低くして、手を付きながら頭を上げる。

 

 周りの木がほとんど折られて遮るものが無くなったせいか、照りつける太陽の光が眩しくて、思わず目を細めてしまう。

 

 あの男はどこに行った? メツリは無事なのか?

 

 そんなことを考えていると、次第に目が日差しに慣れてきて、ぼやけていた視界が明るみになる。

 

 見え──

 

 

 

「は」

 

 ガラクタの山に転がった、一つのかたまり。

 

 黒ずんでて、ごつごつしてて、とげとげしいそれ。

 

 

 

──力なく横たわったメツリの喉を、一本の槍が貫いていた。

 

「あ、あ…?」

 

 さっきまで、動いていた。俺と話していた。息を吸って吐いていた。

 なのに今は、ピクリとも動かないし、喋らないし、呼吸もしてない。

 

「手間ぁかけさせやがってよォ…知ってるかぁ? お前のママはもっと苦しかったんだぜェ」

 

 男が、メツリの腹を踏みつけながら、まるで言い聞かせるように話す。

 

「な……あ…」

 

「おォ、いたのかボウズ」

 

 音で気付かれたのか、男はこっちを向いた。

 

「安心しなぁ、こいつはまだ生きてる」

 

 ウソだ。メツリがどれだけ強くても、あれは絶対に、

 

「目をちぎっても、腹をつぶしても、喉をかっさばいても死ななかったんだからなぁ。こんくらいじゃ死にやしねぇよォ。そうだ! オレとゲームしようぜゲーム! テメェみたいなガキはそういうの好きだろォ?」

 

 メツリを隠すように男が立ちはだかり、そんなうわごとを言って笑う。

 

「ルールは至ってシンプル! これの喉から棒を引っこ抜いて、オレから見事に逃げきればボウズの勝ち! それができずに捕まったらオレの勝ち!」

 

 思考の読めない男の言動に寒気がして、俺はひゅっと息を呑む。

 捕まったらどうなるのか、それは言われなくても分かった。

 

「よォい、スタァト」

 

 男の合図と同時に飛んできた鉄線を避けようとして、ガラクタの地面に足をとられる。

 立ち上がろうにも、靴に何かが引っかかったのか地面から抜けない。

 

「おイおイ、ちッたぁ楽しませてくれよォ」

 

 男は気色悪くニタニタと笑いながら、穴から取り出した長い刃物を持って舌なめずりをする。

 

「クソが…!」

 

 両腕はとっくに限界を迎えた。体力も底をついて、逃げ道はもう閉ざされた。

 

 こんな状況だってのに、だんだん意識が薄れていく。

 

 

 

 糸がほつれて切れるように、記憶はここでプツンと途絶える。

 

 この記憶に残る、最後の光景。

 

 それは、視界(せかい)全てを塗りつぶすような、どこまでも続く(あか)だった。

 

 


 

 

 

 気付いた時には、俺はいつも通りの生活に戻っていた。

 

 

 朝に起きて、カアチャンの作ったメシを食って、車に揺られながら幼稚園に行って、他のヤツらと変わらず過ごして、昼にはまたメシを食って、体を動かして昼寝をして、家に帰ったらテキトーに時間をつぶして、夜のメシで腹をふくらせて、風呂と歯磨きを済ませたら、ベッドに入って一日を終える。

 

 休みの日も特に変わらず、ごくふつうな毎日を過ごす。

 

 

 あの日、あの時の記憶は、その生活に一切かかわってこない。

 

 だから、俺はこの記憶を“夢”だと思って、フタをした。

 

 あれは夏の暑さが見せた幻なんだと、頭に何度も言い聞かせた。

 

 

 そして時間を経るにつれ、朧げに霞んだ夢は輪郭を失っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪魔の姿を、この目で再び見るまでは。

 

 




原作キャラの脳内を妄想しながら書くのは、大変骨の折れる作業でした…

次回は視点が滅理に戻る予定です。

感想や評価は執筆エネルギーの変換効率が最も高いので、好評悪評甲乙問わずどちらもくださると跳ね上がって喜びます。

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