ネカフェでキーボードをカタカタさせること一時間……中々に条件の合う仕事が見つからない今日この頃。まずは場所──東京からあまり離れないことが前提だ。
数億円を儲け、かつそれを対外的に証明することが必要ならば、馬券を買うべきは『場外馬券場』ではなく競馬場そのものである。
そしてあまり離れすぎると、なにか不測の事態があった時に馬券を買えないという最悪が考えられる……それを避けるためには東京競馬場近くに住む必要がある訳だ。まあ住むとは言っても、身分証もないし保証人もいないのでウィークリーマンションすら借りられないけど。
カプセルホテルやネカフェを転々とする毎日は、いまいち気が休まらないというのが本音だ。なるべく早いとこ住居を用意しないと、精神的によろしくない気がする。ちゃんとしたホテルに泊まればリフレッシュできるんだろうけど、流石にお金がもったいない。
まあホテルに泊まると殺人事件が起きそうな気がするってのもあるけど……とはいえ、この辺は米花町や杯戸町から電車で一時間くらいかかるので、原作で起きた事件には関わらなくて済むと思う。
その二つの町と東京以外の道府県を除けば、コナンくんが関わる事件は驚くほど少ない……筈だ。場所が明記されていない事件もあるし、そもそも犯罪発生率が全国的に驚くほど高いので自衛の必要はあるだろうが。
さて、仕事を探すにあたってのもう一つの条件だが──そう、仕事先が馬鹿みたいにブラックであることだ。ブラックというか、精査されたら一発で業務停止になるようなところと言うべきか。
要は身分証が必要でなく、給料が手渡しである事が望ましい。僕の状況で口座なんか作れやしないし、身分証も用意できないし。
脱税抜け道なんのその、福利厚生なんだそれのクソみたいな経営者だとありがたいのだが……しかしこれが意外と、探しても見つからないのだ。もう少し世間というのはガバガバだと思っていたが、案外そうでもないらしい。
今のところ条件に合致する働き口は一つだけ……東京競馬場から少し米花町よりの、高架下に小さな事務所を構えた怪しげな派遣会社だ。メインは清掃作業員の派遣らしく、パチンコ屋の閉店後の清掃や、何かしらのイベント関連の臨時清掃員を雇い入れているらしい。
その性質上、短期の日雇いが多く、だからこそ人の管理が
『何かしらのイベント』=殺人事件──偏見かもしれないが、そう思ってしまうのは仕方ないだろう。
例えば……そう、コナンくんがパーティー会場にいるとします。貴方は何を思い浮かべましたか? …はい、停電と殺人事件ですね。これがメンタリズムです。
──まあ贅沢は言えない身の上だし、作業場所を選べる上等な身分でもないから仕方ないけど……なんかこう、勘に引っかかるというか、フラグを踏んでいるような気がするというか。
前にもそんな気分になった事があるけど、もしそれが気のせいではないとするならば、やはり怪しいのはこの体だろうか。足が異常に速くなっていることからも、今の僕にアバターの性質が表れているのは間違いない。
そして当然、ゲームのアバターには『主人公』として『事件に巻き込まれやすい、関わりやすい』性質が備わっている訳だ。
これが僕に影響を及ぼしているとするなら、やたらと原作キャラにかち合うのも納得がいく。しかし……もしそうだとすると、それは『運命』というものの存在を証明することにも繋がるのではないだろうか?
『原因』があって『結果』が存在するのではなく、“そうあるべき”と因果が流れていくのなら、いったい人の意思にどれだけの意味があると言うのだろうか……ん? なんかちょっとカッコいいな。次に作るゲームの題材にでもしてみよっと。
あ、『人の意思こそが因果を捻じ曲げる』とかどうだろう。それにプラスして流行りの要素を入れてー……うーん……『死んだらループ』とかもいいな。
最近ちょっと人気が落ちてきている『ロボット』要素を逆張りで入れて、美少女ヒロインは複数が当然で……そうだ、主人公は因果を歪められた側にしよう。ロボットが出てくるんだから戦記物がいいな──ん? …ほぼマブラヴだった…
──考えが逸れた。そう、つまり……はて…? まあどうでもいっか。『我思う故に我あり』の格言通り、僕が僕である限りそんなことはどうでもいいのだ。
むしろクリエイターとしての観点で言えば、非日常な運命を決定付けられるというのは悪くないかもしれない──いや、やっぱり死体だらけの日常は嫌だ。
とはいえ、あれも嫌だこれも嫌だじゃ生きていけないのが現実だ。大人になるってのは何かを妥協することであり、不満を飲み込むということなのだから。
──僕はスマホを手に、件の派遣会社の電話番号を打ち込んだ。
■
さて、滞りなく派遣登録することができた僕が最初に働く場所は──神社での清掃作業であった。そんなものは神社の関係者がやるものではないのかと言う疑問はもっともだが、なにせ今はお花見シーズンである。広大な敷地を埋めつくすように、酒盛りを楽しむ人々が騒いでいるのだ。
当然、誰もかれもがちゃんとマナーを守っている訳ではない。ゴミをそのままにして帰る人間の多いこと多いこと。
缶、ビン、スナック菓子の袋にその他もろもろ……日本人の民度が高いって本当なのか? サッカーのワールドカップで『ジャパニーズの席にはゴミが落ちてまセーン! ファンタスティック!』とか言ってたのは嘘なのか?
やってみてわかる清掃作業の面倒臭さだよね、ほんと。作業員のおばちゃんにはもっと感謝をしておくべきだったか……あと貸し出されるのが清掃用具だけってのが闇が深い。せめて作業服くらい用意してよね。
『動きやすい服装でお願いします』って言われた時点で嫌な予感はしていたが、どれだけ経費をケチるんだこの会社。神社なんだからバチが当たっても知らないぞ。
──しかし神社で花見か……この時期にそれって、もはやコナンくんに会う気しかしないんだけど。
確かコナンくんがベルツリー急行関連の事を話すために、ジョディ先生との密会の場所として選んだのが『花見客だらけの神社』だった筈だ。
阿笠博士に、哀ちゃん含む少年探偵団も一緒にきてた覚えがある。変装したバーボンが探りを入れてくる回でもあり、物語としては結構な重要回だ。
最初に出逢ったのがコナンくんだったことも含め、流石にここまで偶然が続くのは有り得ない……となれば、やっぱりこの体のせいと見た方がいいか。
偶然は二回までってのが僕の持論だ。三回目は必然か、あるいは奇跡のどっちかである。奇跡なんてのはそうそう起きないから奇跡なのであって、ならばこの状況はきっと必然なのだろう。
コナンくんに出逢ったことは偶然でもいい。バーボンと関わったのも、確率としてはゼロじゃない。けれど、もしここでも関わるようなことがあるのならば、それを偶然とはもう認めない。
創作を元にした世界であるが故に、『お約束』というものが実際の法則として作用しているのかもしれない。ただどちらにしても平穏な生活は難しいと考えた方がいいか。
だったら僕にできるのは、たった一つだ。『物語の完結を目指す』──その一点。
世界そのものがコナンくんとその周囲を
そしてもし『この状況』が
だから──……ん?
「スリよー! スリがいるわよ~!」
あ、やっぱ原作の事件ですねこれは。あの人は『スリがいるわよオバサン』こと『矢谷郁代』……通称は確か『
凄腕のスリ師であり、スった証として相手の懐にわざわざ黒い五円玉を三枚入れる、なんJ民ばりの煽りカスオバサンである。一手間を増やしてまでザマァ要素を追加するとか、格ゲーで絶対に死体蹴りしてるね間違いない。
まあ今日は彼女がリアル死体蹴りされるんですけどね、なんつって──……あれ……ん? 僕が何もしなかったら、そうだ、死ぬんだよなあの人。
えーと……え? 僕がなんとかしなきゃいけない感じ? いや、見逃したところで罪になる訳じゃないのは理解してるが……崖に向かって全力疾走してる人を見て何もしないのはどうなのさ。
あのオバサンが犯罪者だとしても、殺される程のことをしたなんてことは……あいや、殺される程のことをしたから殺されるんだけども。
確か財布と一緒に車の鍵までスったせいで、被害者の息子さんが車から出られず喘息で亡くなったんだったか。子供を亡くした親の気持ちを考えると、非常に忍びない。
しかし、だからといって殺人を見逃すのは……う、え、僕が助けなきゃなのか? いま正に、オバサンがジョディ先生の財布をスっているのが見える。
FBIから財布を抜き取るって、何気にえげつない技術で草。いや、草生やしてる場合じゃないんだけど。
…どうしよう。ここで見逃したら最後、人混みに紛れてオバサンを見失ってしまうだろう。そして次に会う時は撲殺死体だ。
でも割って入ったらまたコナンくんに会っちゃうし……いや、究極的に言えばそれは問題はないんだけどさ。コナンくんだけが僕を疑ったところで、物理的に何かしてくることはないだろうし。
FBIやらなんやらに告げ口をされる可能性はあるが、それにしたって何か被害を被るようなことにはならないだろう。勘違いしてる人が多いけど、FBIも公安も問答無用に人を拘束するような組織ではないのだ。多少は暗い部分があるとはいえ、どちらも公的な組織であることに変わりはない。
どれだけ対象が疑わしかろうが、確証がない限り
それは『シャロン・ヴィンヤード』と『クリス・ヴィンヤード』が同一人物であるという謎が解けなかった、たったそれだけのことで逮捕に動いていない事実からもわかる。
まあ大女優を逮捕しておいて、それが誤認逮捕だったらFBIの醜聞が知れ渡るという点を危惧したのかもしれないが……それでも、実際に僕が犯罪でもしない限りはそう怖い組織ではない。
だから、ここで動くかどうかは僕のモラル次第ということになる……なんか試されてる? …僕は聖人君子という訳じゃないんだけどなぁ……ううむ……いや、流石に見殺しにするのはなぁ……なんかもっともらしい理由でもあれば『待てい!』とか言って堂々と割って入るんだけど。
…ん? 待てよ……そういえば既にジョディ先生の服には、バーボンが盗聴器を付けてるのか。そしてオバサンが去っていったあと、コナンくんはジョディ先生に近況を語る。
原作ではもちろんベルツリー急行やバーボンの事を話す訳だが……いや、もう話してたっけ? 流石にそこまでの詳細は覚えてないが──
『この前バーボンと一緒にいた人が、コニャックって名乗ってるかもしれないんだ』とか言われたら……ええと……まあそれをFBIが把握することに関しては問題ない。
純然たる事実として、僕は組織と繋がったりなんかしてないんだから証拠なんて存在しない。証拠がなければ、そうそう荒事に繋がったりはしないだろう。
しかし『バーボンが聞く』というのはちょっとヤバい気がしないでもない……ううむ、少し彼の気持ちになって考えてみよう。
やぁ、僕はバーボン。公安から組織に潜入してる、凄腕のスパイさ。ちょっと疑問に思うことがあって、まだ毛利探偵の周囲を探っているんだけど……FBIを盗聴していたらコナンくんが妙なことを言ったんだ。
“コニャック”……いったい誰だ? この前の事件の話をしていたから、おそらくあの奇妙な言動の少年のことを言っているんだろうが……まさか彼が?
確かに色々と変に思うところはあったが──もしコナンくんの言っていることが真実なら、まさか……僕がスパイかどうかを探るために、組織が送り込んだのか…!? あの掴みどころのない言動は全て演技…!
…って感じになりそうじゃない? まかり間違ってベルモットにまで盗聴されてたら、洒落になんないんですけど。
FBIも公安も、基本的なスタンスは『疑わしきは罰せず』だ。だからそこまで警戒してないし、もし尾行なんて付いた日には、最高の護衛を無料で雇ったようなもんだと思ってる。
しかし、しかしだ。組織だけは絶対にダメっ…! 彼らは完全に『疑わしきは罰する*1』だ。『疑わしきは罰する*2』なのだ。微妙に
………い、いま助けるぞオバハン!!
「待てい!」
「な、なによアンタ……離しなさいよ!」
「それは貴女が盗んだものを返してからですね……財布の確認をして頂けますか? ジョディせ──ん゛ん゛っ!! ジョ、ジョ……
「アメリカ人だけど!?」
「失礼、
「どっちにしても失礼すぎるわよ! …あ、でも財布はないわね……これは、黒い五円玉?」
「スリの常習犯──通称『黒兵衛』の手口ですね。コナンくん、警察呼んでもらっていい?」
「…! う、うん…」
『なんでここに!?』って感じの顔で驚いているコナンくん。鳩が豆鉄砲を食ったような顔がちょっと可愛い。そしてその横に居る、変装したバーボンはというと……『どうしたものか』といった表情で考え込んでいる。
彼の変装は、この神社にきている花見客の顔を再現したものだ。泥酔して寝こけている男から、持ち物を拝借して変装している訳だが……実は既にその花見客は財布をスられており、黒い五円玉を懐に入れられていたのだ。つまりこの場に留まれば、彼は被害者として事情聴取を受けることになる。
警察の事情聴取ってのは、たとえ被害者であっても非常に時間がかかる。その間に変装元の人間が目覚めるのは間違いないし、色々と不都合が起きるのは確実だろう。何も知らない振りをしたところで、後で財布が無いことに気付いた被害者が騒げば、それはそれでおかしな話になる訳だ。
つまり、この場で彼がとる行動は──
「私はこのあと用事がありますから……お金と財布さえ返してもらえれば、私の被害についてはなかったことにしても構いませんよ」
「…と仰ってますが、どうしますか? 黒兵衛さん」
「だ、だから私はそんなんじゃ…」
「往生際が悪いですよ。この状況で言い逃れができると、本気で思ってます?」
「う、ぅ…」
よしよし、素直にバーボンへお金を返してくれた。財布を捨てた場所も白状し、ぺたんと地面に尻餅をつくオバサン。通称で呼ばれるほどの常習犯なら、たかがスリとはいえそれなりの実刑を食らうだろう。つまりしばらくは塀の中ということになり、彼女を殺そうとする人間も手出しができなくなる。
その間に犯人(仮)も思い直してくれればいいんだけど……まあそこまでは僕が考えても仕方ないか──っと。変装したベルモットが盗聴器を回収しにきた。
まだなんの情報も手に入れていないだろうが、これからジョディ先生も警察に事情聴取されることを考えたら、回収できるチャンスはここしかない。
鮮やかな手捌きで盗聴器を回収し、変装したバーボンと夫婦の振りをしながら消えていった……それにしても、ジョディ先生ガバガバすぎない?
盗聴器付けられても気付かないし、財布をスられても気付かないし、黒い五円玉を入れられても気付かないし、盗聴器回収されても気付かないし。
登場時はあんなにミステリアスで有能だったのに、いつのまにかポンコツと化してしまって……ストーリーの都合とは言え、お
…ん。コナンくんがくいくいと服の裾を引っ張ってきた。前に会った時よりは、表情から険も取れている……別に信用してくれた訳じゃないだろうが、僕という存在を測りかねているのかもしれない。
僕自身、とても怪しいのは自覚しているが──それはそれとして、組織の人間だとするならば余計におかしいところは沢山ある。それに気付かないようなコナンくんではないだろう。
「…ねえ、お兄さん。なんでジョディ先生を助けてくれたの?」
ジョディ先生に盗聴器がつけられてて、その状態で僕のことを話して欲しくなかったから──なんて言ってもなぁ。よし、じゃあ『悪事を見過ごせなかったんだ…!』ということに……いや、流石にちょっとクサいか。
逆に『ふん、助けたつもりはねえよ』とかどうだ? …いや、ないない。そういうのはイケメンがやるから様になるのであって、フツメンがやると『うわぁ…』ってなるだけだ。
だったら──
「…」
「…」
「心の中のスカッとジャパンを抑えきれなくて…」
「心の中のスカッとジャパン!?」
日本人の心に住まう、水戸黄門魂と言い換えてもいいだろう。勧善懲悪ストーリーの主人公となり、フワフワな感じに悪を裁く、古き良き日本の心だ。最後に周囲の人間が何故か拍手をするのがお約束である……あれ? そういえば誰も僕を賞賛してないな。やはり嘘松は嘘松でしかないのか。
「やるじゃねーかお前!」
「この前の事件でコナンくんの暗号を解いたのもアナタだと聞きましたよ!」
「お兄さん、探偵さんなの?」
おっ……ちびっ子たちが褒めてくれた。相手が子供とはいえ、褒められるのは嬉しいものだ。よしよし、もっと褒めるがいいちびっ子共、僕はおだてられると調子に乗るタイプだぞ。
あ、そういえば哀ちゃんは──おっと、今度はジョディ先生の足に隠れている。未だにちゃんと姿を見せてくれないの、ちょっと悲しいんですけど。
たぶん前の事件の時、コナンくんから何かしら伝えられたんだろう。『コニャック』というのが実際に組織に所属しているのかは知らないけど、哀ちゃんがそれを知っていようがいまいが、警戒するのは当然の話だ。
でも、それはそれとしてやっぱりコミュニケーションとりたいよね。男性からも女性からも大人気の、ミステリアスでクールなビューティー……もちろん僕も彼女のファンだ。
比護さん信者になったり沖野ヨーコアンチになったりで若干キャラがぶれた気もするが、それでもその魅力は衰えない。むしろ普通の少女になっていく過程って感じで微笑ましいよね。
おいでおいで……ほら、怖くないよー。そう言いながらしゃがんで彼女に手を振ると、なんかジョディ先生の下半身にバイバイしてる変態みたいになった。
そんなつもりはまったくなかったのに、なんかすごい変質者っぽくなったな……仕方ない、ここは気さくにジョークでも飛ばしてみよう。
「へーい彼女、お茶でもしない?」
「…ロリコン」
「おっと、そういうつもりはなかったんだけど…」
「…」
「じゃあ歩美ちゃん、一緒にお茶でもどう?」
「ホントにロリコンじゃないでしょうね!?」
おっ、ジョディ先生の壁を越えてきた。歩美ちゃんの前に立ってジト目で威嚇してくる哀ちゃん……ふーむ……コナンくんを見る時も思うんだけど、いったいどういう原理で縮んだり大きくなったりするんだろう。
一つ間違えば、骨だけ大きくなって皮膚が爆散したりするのかな? …というかホントに大きくなるのか?
こればっかりは、実際に目撃しないと信じられそうにないな。蘭ちゃんがあそこまで何度も疑っておきながら、結局は疑いきれないのもわかるというものだ。人間がそう簡単に伸び縮みしてたまるかって話だよ。
「…なによ」
「え? ああ、ごめんごめん。えーと……どこかで会ったような気がしてさ」
「…っ!」
…ん? あれ、『ナンパの常套句ね…』とかいう返しを期待してたんだけど。んん…? …興味深げにじっと見つめてたから『宮野志保かどうか確認してた』みたいに思われた……とか?
頭のいい人たちって、なんでみんなして深読みするの? 確かに僕も迂闊な行動や発言をしているかもしれないが、それ以上に相手側の疑心暗鬼が酷い気がする。普通は聞き流すようなことにも意味を見出そうとする姿勢、嫌いじゃないよ。困るけど。
「…どこかで……会ったかしら」
「ナンパの常套句ね…」
「あなたが言い出したんでしょ!?」
うーん、突っ込む哀ちゃんも可愛いものだ。それに、僕と彼女のやり取りを見てコナンくんの警戒もちょっと緩んだ気がする。よしよし、これで組織の匂いがしないことはわかってもらえたことだろう。あとは──
「おーい! そっち終わったのか?」
「あ……すいません、すぐやりまーす!」
…そういや仕事中だったの忘れてた。警察の事情聴取だなんだとか言ったら『ふーん、じゃあ今日のバイト代は無しだね』とか普通に言われそうだな。
境遇的に強く出れないのが痛いところだ。仕方ない、後のことはコナンくんたちに任せよう。ちゃんと働いた分まで無給にされたら、たまったもんじゃない。
「ごめん、仕事があるからまたねコナンくん」
「えっ? あ──」
…あ。バーボン扮する男性が事件に関わらなかったことになったから……あれ、回りまわって高木刑事からの情報がコナンくんに行かなくなっちゃうかも。
下手したら『対バーボン工藤邸訪問対策』ができなくなる…? もしかすると赤井さんとバーボンが殺し合うことに──いやまあ、映画込みだとちょいちょい仲良く殺しあってるから大丈夫か。
…いや、大丈夫か? ホントに? ──警告くらいはしとくべきだろうか。
振り向きかけていた体を戻して、コナンくんの耳元に口を寄せる。何故か哀ちゃんも寄ってきたが、まさかロリコンに続いてショタコンの疑いまでかけてるんじゃないだろうな。
「コナンくん、さっきの夫婦だけど…」
「っ、う、うん…」
「──ベルモットとバーボンの変装だったみたいだから、しばらく気を付けた方がいいよ」
「っ!?」
「…!」
──またもや同僚に大声で呼ばれたので、急いでそちらへ向かう。
さて、流石にここまで発言してしまえば無関係だと言い張ることもできないだろうが……しかしこれからも関わりあうことになるならば、そもそも情報を隠す意味がない。
『なぜそれを知っているか』という……ただそれだけを秘密にして、あとは全部話した方が『物語の終わり』を目指す上では正解だと、僕は思う。
──ただし、今は仕事を優先せざるを得ないのが現実の厳しいところである。目を見開いているコナンくんと哀ちゃんに小さく手を振って、僕はその場を後にした。