少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
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「えーっと、牛肉にじゃがいも。それに玉ねぎに…あ、砂糖切れていたな」
叔母さんが倒れてから翌日、俺は鞍安家の専業主夫になっていた。
朝から朝食を作って洗濯をこなし、空いた時間は勉強……ではなく、ゲームや過去のレースの動画などを見ていた。
とくに今度はスぺの菊花賞などもあるから、ライバルたちの動きを確認したかった。まぁ何か月も経っているから全然違うとは思うけど。
そしてまぁ、一番のライバルはセイウンスカイで間違いはなさそうだ。
ダービーで競ったエルは凱旋門賞へ向かうため、それと同じ距離であるジャパンCへ向けて調整を進めてくるだろう。
グラス…は正直分からないけど、それは次にある毎日王冠で分かる。まぁ、怪我明けになるからそこまで無理してほしくないけど。
そしてキングヘイローだが…正直、菊花賞に出てくるのだろうか。個人的には出る可能性としては低いとは思うけど、キングヘイローがクラシックに掛けている情熱は誰にも負けないくらいだ。
出ては…まぁ来るか。
どこまでキングヘイローができるのかは、自分が一番気になっているし。
…にしても、セイウンスカイ……か。
最後に言葉を交わしたのは9月初めの遅刻が確定したあの時。それ自体は別にいいけど…。
「(なんか、どこかおかしいような気がしたんだよな…)」
おちゃらける態度は皐月賞の偵察時に分かっていたけど…なんだろう。おちゃらけるっていうより、本当に諦めているような…。
それに九月の最初にセイウンスカイと会ったけど…なんか元気がなかったというか、元気なフリをしているように見えていたというか……なんか分かんないけど、なんかモヤモヤする。
「……まぁ、今考えても仕方ないか…」
とりあえず自分は目の前の夕飯の買い出しとその後の料理のことを考えないと…。
てか、あっちにいると基本ウマ娘のこととかレースのこととか、色々考えてたけどそこまで考えることって無くなったなぁ。
「……数秒前の俺、ふつ~に考えてるじゃねえか。ははっ」
なんか変な笑みが出た。
なんて思っているうちにスーパーへ到着した。
肉じゃがの材料に…あと刺身用のアジとサンマ、あと冷製パスタの材料なども購入。ついでに駅前のドーナツ屋さんでドーナツを購入する。
「んじゃ、そろそろ帰るかなっと」
自分はママチリ自転車にスーパーとドーナツ店で買ったものを入れて、家までの帰路につく。
それにしても、叔母さんは退院するまでって言っていたけど、そろそろ目処が立ったのだろうか?
いくら向こうの生活を考える時間が減ったとはいえど、夜になるとスズカがLANEで今日習った一般高校教養教化のノートが送られてくる。
ウマ娘とトレーナー学科の授業進行スピードはほぼ同じだということは、一学期の勉強を頼んだ時に把握している。
だからスズカには今日習ったノートを送ってもらうように頼んでいるのだ。
でも二学期からは選択授業のなんか…マッサージ?とかがあるから、そっちは遅れを取り戻さないといけない。
……というか、あの選択に見覚えのない事件はなんだったんだろうか。
そこまで苦ではないけど、でも将来どっちが役に立つかって言われれば圧倒的に英語なはずだよな?
まぁ、今考えても仕方ないこと────。
「ぬぁ!?」
「きゃ!?」
建物の死角から何やら人影が突っ込んっで来たので俺は体を傾けなんとか回避する。
「ほわっ!?」
…でも、現実は非常であり、結構急に避けたことによって自分はバランスを崩す。
ガシャンッ!っと金属音が鳴り響く。即座に体に衝撃が走り、手のひらと脚周りに熱い何かを感じる。それと同時に痛覚が突き抜ける。
「いたた…」
「だ、大丈夫ですか…!?」
飛び出して来た人影が声を掛けてくれる。横に倒れているので近寄ってくる足が見え──赤ジャージに、赤の運動靴?
あれ、どっかで見たことが…。
「あ、あら? 玲音さん…?」
あれ、どっかで聞いたことがある声…。
俺はゆっくりと顔を上げてその人影の顔を確認する。
「……グラス?」
そこにいたのはトレセン学園の指定のジャージを着て、額や頬に汗をかいていたグラスワンダーが…そこにいた。
・ ・ ・
「動かないでくださいね、沁みますよ」
「っつぅ──!」
あの後、俺はグラスと近くの公園へ入ってグラスに消毒液や絆創膏を近くの薬局で買ってもらって、ついでにそのまま応急処置を受けている。
「はい、これで大丈夫だと思いますよ」
「あぁ…ありがとう」
そう言うとグラスは応急用具を自分の買い物バッグに入れてくれた。
幸いにもたまごとかガチで割れやすい食材はなく、トマトなども上の方に置いていたので少し土を被った程度で済んだ。
ふぅと一息をつきながら、グラスが自分の隣に座ってくる。
しばらく、遠くでツクツクボウシが鳴って、少し涼しい風が吹き抜け公園の草木が揺れる。
横を見てみると目を閉じながらスポーツドリンクを喉を鳴らしながら飲んでいる。
その姿が、なんか妙に美しいと思ってしまった。
「……私の顔に何かついてます?」
「あっ、ごめん…あっ、糸くずが…」
本当はそんなことはないけど、とりあえず取るふりをしておく。
「ありがとうございます」
「いやいや……」
その後またお互い正面を向いて無言の状態になる。
……気になる。
なんでグラスがこんなところにいるのだろうか。ここからトレセン学園はとてもとても遠いはず。
「「あの…!!」」
「「あっ……」」
話を聞こうと思ったら運がいいのかは分からないけど、グラスと発言が被ってしまった。
グラスの方から話してもらおうとグラスの方を見ると、にこにこと笑顔を向けながら手をこっちに向けていた。
こっちから話してほしいということだろう。
「……グラスは、なんでここに?」
「そうですね。自主的なランニングを行っていたら、ちょっと悩みごとがあって…ずっと頭の中で考えていたらいつの間にかここまで……って感じですね」
「そっか……いやでもここからトレセン学園ってかなり距離あるよね?? 脚とかシューズとか大丈夫なの?」
「いえ…12キロくらいでしたらウマ娘の脚力でしたら3・40分で────」
「でも地面はアスファルトだ。芝の上を12キロで走るのとは訳が違う……それに、グラスはまだ怪我明けだろ?」
「……」
グラスは耳を少し後ろに倒して、明らかな不満な表情を浮かべていた。
普段のグラスの性格や顔を少しは知っているからこそ、今彼女が浮かべている表情は初めて見たかもしれない。
「玲音さんも……そう言うんですね」
「も…? ってことは他の人にも?」
「先輩方のウマ娘さんや学生トレーナー、そしてチーム代表者である東条さんに」
「…つまりあれか。練習したいけど全然できないから勝手に自主練してたらここまで来ちゃったっと」
「……えぇ…」
そう言うとグラスは目を閉じる。
しかしさっきよりも忙しなく尻尾を動かしているのを見ると、かなり気が立っているように見える。
さて、どうしようか…。
正直、ここで怪我明けのことを叱って多分今日グラスに言われたことのくり返しだと思うし…はっきり言って自分がその事を叱るのはお門違いな感じもある。
…なにより、彼女だってまだ中学三年。叱りの言葉は、反感を呼ぶかもしれない。
でもこのままだとどこかに行ってしまう可能性があるし…。
……仕方ない。
「いてて…」
俺は苦悶の顔を浮かべながら少ししか痛んでいない横腹を抑える。
「だ、大丈夫ですか…?!」
「ちょっとまだ痛んでてさ…よかったらなんだけど、家まで付き合ってくれないかな?」
「え、えぇ。分かりました…」
本当はそこまで痛んでいないけど、これでグラスがこの場から去ることはなくなった。
あとは家に着いた後だけど……夕飯に誘えば行けるかな…。
「あの、本当に申し訳ございません。私の不注意のせいで…」
「いや、あれは俺の前方不注意だからグラスが気に病むことはないよ。むしろごめん、そっちの脚は大丈夫?」
「え、えぇ…大丈夫です…」
幸いにも、お互いほぼ怪我はなかったということだ。そのことに心の中で安堵の息を漏らす。
歩いて数十分、叔父さん宅前までやってくる。
そのまま鍵を開けて、グラスを先に入れて玄関側を自分の方になるように立ち回る。
「ありがとうグラス……かなり助かったよ」
「いえ、では私は──」
「あぁ待って待って! ここまで来たんだから夕飯食べていかない?」
「え、そんな申し訳ないですよ…」
「大丈夫大丈夫、二人分も三人分もあんまり変わらな──」
「いから」と言おうとした瞬間、がっしゃーん!!っと何か金属音みたいなものが響く。
「「っ!?」」
俺とグラスは玄関先から音のしたリビングの方に行く。
そこにいたのは……なんか人差し指を突き出しながら倒れている叔父さんだった。
「お、叔父さー-ん!?」
「きゃああああああ!?」
・ ・ ・
「いやぁ帰りが遅かったからせめてパスタ茹でる用のお湯を用意しようかと…」
「まだお水で本当によかったよ…(というかこの人がガス使ったらガス中毒になってもおかしくない)」
「ところで…そこのお美しいウマ娘さんは…もしや?」
「ち、違いますからね? 私は──」
「グラスワンダー、チーム・リギルの新人ウマ娘の一人でエルコンドルパサーや、他チームのスペシャルウィークとの同期でジュニア級では最優秀賞ウマ娘。でも今季のクラシックでは脚を故障してしまって参加できなかった」
「っ…」
流石叔父さん。チーム・リギルのウマ娘もちゃんと把握済みか…。
「というかなんで玲音くんリギルのウマ娘とも関係があるんだい??」
「まぁ、成り行きで…」
「そ、そっか…まぁグラスワンダー。ここで夕飯を食べていきなさい。寮長にはこっちで連絡しておくよ。そこでゆっくりしててね」
「え、あっ…」
叔父さんはグラスの肩をぽんぽんと叩くと、こっちに視線を送った。
まぁ、電話は自分の方がいいよな。叔父さんが連絡したらいよいよ誘拐だし、そもそもこの件を持ってきたのは自分だ。
ということでリビングから出て美浦寮の電話へ……すると出てきたのはグラスと同じリギルのメンバーであり、同時に美浦寮の寮長をしているヒシアマゾンさんだった。
一応、顔見知りではあるということ。そして今日のグラスの様子を分かっていたからこそ、話しはとてもスムーズに終わった。
『あんまり遅くにさせないこと…あと帰ってくる時は一応もう一回、こっちの電話で知らせてくれ』
「分かりました」
『……あの子のこと、よろしくな谷崎』
「えぇ」
ぷつっと電話が途切れる。
リビングに戻って寮長からの許可が取れたことをグラスに伝え、そのまま調理を始める。
ちょうど今日買った牛肉は二人だとちょっと多いくらいだったのでむしろちょうどいい。適当に野菜を切って肉をほぐし、適当にちゃっちゃっと野菜と肉を炒めて調味料入れて水を入れてと、慣れた手つきで肉じゃがを作っていく。
「あの~玲音さん、やっぱり私もなんか作ります…」
「あぁ~…じゃあ味噌汁頼める? そこに豆腐、乾燥わかめ、しめじがあるから」
「はい…」
俺は冷蔵庫からかぼちゃを取り出して、切って適当に調味料入れてレンチンしてカボチャの何か(煮てはいないけど、まぁカボチャ煮?)を作る。
……叔父さんはリビングの方でサブスクを使って外国のドラマを見ている。その端のキッチンで俺は知り合いのウマ娘と一緒にご飯を作っている。
今冷静に考えてみると、結構不思議なことだなぁ…。
誰かと料理なんて、家族以外とするとは思っていなかったし、今思えばこの叔父さん宅に誰かをあげたのも初めてだし。
「わ、わぁ!?」
「どうしたグラス?」
「いえ、いつも寮で見てるくらいのわかめを入れたんですけど…」
「……あ~…」
小鍋を覗いてみるとそこには緑色の物体が鍋を覆いつくしている光景があった。
あぁ、なるほど。グラスって確かアメリカからの留学生だっけ……あんまり増えるわかめというのに慣れていなかったんだろう。
「あぁ~これね、スプーン一杯で十分なんだよね」
「それだけでいいんですか…?!」
「うん、まぁわかめは多くても味噌汁は美味しいから大丈夫だよ」
「は、はい…」
***
『ごちそうさまでした』
私は玲音さんの食卓で自分、玲音さん、玲音さんの叔父さまの3人で囲んで挨拶を交わす。
そのことになんとも不思議な気持ちを浮かべながらも、談笑などを交わしながら夕飯を楽しむ。
普段寮やアメリカに帰った時にやっていることなのに、ただ場所とシチュエーションが違うだけでこう気持ちが変わるものなんですね。
「玲音さん、皿洗い手伝いますよ」
「じゃあお願いしようかな」
そのまま私は玲音さんと一緒に皿洗いを始める。
玲音さんは洗剤で食器皿を洗って、私は乾きタオルで食器皿についた水滴を拭きます。
「どうだった、俺の肉じゃがは?」
「とてもじゃがいもがほろほろとしていてもなお、かつ程よい硬さで……そして味がとっても染み込んでいてとても美味しかったです」
「あはは! それはよかった!!」
素直な感想を伝えると玲音さんは見たこともないくらいの笑顔を私に向けます。
この人…普段から柔和な感じはするのに、こんなにも無邪気な笑顔を浮かべることもできるんですね…。
ちょっと意外と言いますか…玲音さんの知らない表情が知れました。
「んっ? なんかついてる?」
「いえ、なんでもないです」
そうしてまたしばらく無言の時間が続く。でもそんな時間でもどこか安心するような……不思議な感じです。
そのまま時間は過ぎていき、玲音さんが用意してくれたタクシーが到着し、私と玲音さんは玄関から出て外に出ます。
タクシーに近づくと自動的にドアが開きます。
私はタクシーに乗る────の、ではなく、踵を返して玲音さんに近づきます。
そのことに対して少し驚いたのでしょうか、玲音さんはびくっと身体を震わせて驚いています。
私は玲音さんの前で立ち止まります。
「玲音さん、今日はありがとうございました。怪我を負わせてしまったのに…」
「あ~、それなんだけどさ~実はそこまで酷い怪我じゃなかったんだよね」
「え?」
「……あ~、なんて言えばいいのかな~」
そう言いながら玲音さんは後ろ髪をぽりぽりと弄っています。
その時、Tシャツの袖から横腹が少しですが見えました。だからこそ分かってしまいました。
彼の横腹が青く腫れていることを。でも目の前の彼はそこまで辛くなさそうです。
…これが、谷崎玲音さんっていう人間なんだ。
だからこそ、気になる。
「玲音さん、なぜ私を家に誘ってくれたんですか?」
「……自分が誘いたかったから…じゃ、ダメ?」
「ダメです」
「うそーん…」
少し、意地悪でしょうか?
ですが、私は知りたいです。彼を──。
「う~ん、意味ってわけでもないと思うけど。俺もさ、最初はあの公園でグラスが言われたようなことを言いそうになってたんだ」
「……」
「でもさ、それって超簡単に言えばさ、宿題をやれって言われるとやりたくなくなるあの現象と同じ…つまり反発するんじゃないかって。ていうか俺ならそうする」
「……玲音さんなら、ですか」
「そっ、それにさ」
そう呟きながら、玲音さんは上を見ます。私も釣られて上を見ますが、そこには一等星の輝きしかありません。
「自分とグラスの関係は、多分トレーナーとウマ娘なんかじゃなく”生徒同士”だからさ。だから俺がすることは叱ったり、一般論を諭すんじゃなくて、親身に寄り添うことなんじゃないかって…ね」
「────」
あぁ、そういうことですか。
私は、あの時…初めて会った時、リギルにいた学生トレーナーとは全然違う雰囲気がしました。
だからこそ私は、1人で座っていた彼に声をかけた。
そうして少しだけど彼と交流する機会があって…その度にやっぱり他の学生トレーナーとは違うと思いました。でもその理由の核心は分からなかった。
でも、今分かりました。
彼は私たちを特別な存在を扱いしていない。
ウマ娘は人間と同義とされていますがその身体能力の高さやその容貌の良さで、どこか距離を開ける人はいます。とくにここ中央のレースへ出るトレセン学園は特に。
でも、玲音さんは普通の生徒として扱い、かつフレンドリーに接する。
そこが、他の学生トレーナーとの大きく違うところ。
「……あなたのことが、少し分かった気がします」
「え?」
「ありがとうございました玲音さん。そして、お休みなさい」
「あ、うん。おやすみ…」
そうして私はタクシーに乗り、トレセン学園へと帰りました。
同室のエルにとても心配されましたが、私の様子を見たエルは必要以上に心配することはありませんでした。
……どこに行ってたかは、登戸とだけ行って玲音さんの叔父さま宅に行ったことは内緒にしておきました。
いつものように就寝の準備をし、ベッドに横になります。
最近は重圧や焦りなどでなかなか寝付けない日が多かったですが、今夜はぐっすり眠れる。
そんな感じがして、目を閉じてしばらくすると────。
・お久しぶりでございます、ヒビルです。スランプに陥ってます。(確信)さらに大学も始まりますので遅くなりますね(多分)
・アヤベさんと温泉行けましたPEACE!……New育成ウマ娘が出ない(´;ω;`)
・次回も特に未定です。お楽しみに。