少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

102 / 120
 前回のあらすじ:叔父の家で学園やウマ娘と関わらない生活を過ごしていた玲音。しかし買い出しの帰りにグラスと出会う。そのまま夕飯に誘った玲音はグラスに親身に寄り添った。

・UA182,000・183,000を突破しました。ありがとうございます!



蕾が実る時

 

 ──10月に入り、潮風に少しの冷気が混じっている。地面に座っているけど、コンクリートの地面はとても冷たい。

 

 ──私の耳に届くのは、穏やかに流れている波の音。

 

 ──そして、隣にいる人間の呼吸音。その人は捕縛用のネットを持ちながらぼーっと前に広がっている海を眺めている。

 

 ──ここだけ、まるで静止画になったかのように時が止まっている。太陽が水平線の向こう側に沈み始めて空が黄昏る。

 

 ──何もしないという、普通では愚策なこと。でも、これでいいと思うんだ。

 

 ──だって…。

 

   ***

 

「いてて…」

 

 制服に着がえながら、横腹を少し抑える。

 

 季節はいよいよ秋が深くなってきた10月。学園側から衣替えの案内が出始めた頃に俺はトレセン学園へと戻ってきた。

 

 実はあの後横腹の痛みが治まらず悶絶したので病院に行くと、かなり酷い打撲だったことが判明したのだ。

 

 まさかあの時コケたのがここまで酷いものだとは思わなかった。そう思うのと同時に人間のアドレナリンやらなんやらの興奮物質の作用はすごいものだと思った。

 

 んで叔母さんは帰ってきた後も自分は通院して思った以上に休みが長くなってしまったのだ。

 

 んである程度良くなってから戻ってきた訳だが、その痛みは地味~にまだ引きずっている。

 

 まぁ、日常生活には支障をきたさないレベルだから大丈夫だとは思うが。

 

 でもそのせいでスズちゃん、そしてグラスが出た毎日王冠は応援に行けなかった。

 

 結果からすればスズちゃんが危なげなく勝った。でも応援できなかったことがあまりにも辛すぎる。

 

 それに…グラスは5着、自分が現地にいれば何か励ましの言葉でもかけられたんじゃないかと思ってしまう。

 

 いや分かってる。グラスはチーム・リギルのメンバーでその管轄は東条さんということは…。

 

 それでも──っと思ってしまうのは、俺の悪い癖だろうか。

 

「はぁ…」

 

「なーに久しぶりに来ていきなりため息ついているんだよ」

 

「あぁ、尊野。おはよう」

 

「おう」

 

「おはよう、谷崎くん」

 

「道もおはよ」

 

 数週間ぶりに出会うクラスメートを見て、『あぁ、ちゃんとトレセン学園に戻って来たんだな』ということを再認識する。

 

 来て早々、机の中には今まで出ていたであろうプリント類の山を見て少し絶望はしたものの、また普通の学生人生が始まるだろう。

 

「そういえばお前のところのサイレンススズカすごいな」

 

「特別オープンの2月から負けなしだよね、確か…?」

 

「……そっか」

 

「そっかって…谷崎が所属しているウマ娘だろ……」

 

 やれやれっと言った感じにため息をつく尊野。

 

 あぁそっか。俺にとってスズちゃんって自慢の幼なじみ! って感じだけど、周りの人から見ればかなり上の存在なんだ。

 

「でも確かにスズちゃんは世間から見たらすごい存在なんだろうなぁ……」

 

「「……ん??」」

 

「んっ?」

 

「ちょ待て谷崎、スズちゃんって誰だ??」

 

「え、まさかサイレンススズカのこと??」

 

「……あ、そうだ。あんま人前では言ってなかった」

 

 ということで軽くだけど自分とスズカの関係に関して説明した。

 

 すると、二人とも口をぽかーんっと開けて目を丸くしていた。

 

「いや…ここで再会って……」

 

「どこのライトノベル…?」

 

「んっ? 道ってラノベ見るんだ」

 

「あっ…」

 

   ・ ・ ・

 

 帰りのSHRが終わり、各々は自分たちのチームの部室へと向かう。もちろんそれは俺も例外ではない。

 

 すごい久しぶりの部室だということもあるし、何より今日ここに来てからチームメンバーの誰一人として姿をみていないからか、久しぶりに会えると思える反面どんな顔をして接すればいいのか分からない。

 

「……いつも通り、いつも通り…」

 

 そう唱えて少しだけ深呼吸してから部室の扉を開ける。

 

「っ! レオくん…」

「あっ、玲音さん!」

 

「戻ってきたみたいだな」

 

「おっせーぞ新人!」

 

 そこにはスピカのみんながいた。

 

 なんかたった数週間会ってなかっただけなのに、酷く懐かしい気持ちになってしまった。

 

「今日から復帰だが、保護者さんは大丈夫なのか?」

 

「はい、心配をお掛けしてすみませんでした」

 

「いや大丈夫だ…さて、復帰は嬉しいことだが、お前には早速働いてもらうぞ」

 

「ほんと早速ですね…なんです?」

 

 そう言うと、先生は持っていた紙をこっちに渡してくる。

 

 俺はそれを受け取りざっと見てみるが…どうやら次の菊花賞で出てくるウマ娘のデータみたいだ。その中にはキングヘイローのデータなどもあった。

 

「……あれ?」

 

 だけど、俺はこの中である違和感に思いついた。

 

 足りないのだ。菊花賞はフルゲート18人で行われるレース。なのに今俺が持っている紙束は17枚しかない。

 

「あと一人は、お前は…いや、お前たちは知っているはずだ」

 

 そう言って先生はもう一枚、紙を渡してくる。

 

 そこには、セイウンスカイの写真が貼られてあった。

 

 ──だけど。

 

「……白紙?」

 

 セイウンスカイのステータスやその他備考は完全に白紙だったのだ。

 

 これはどういうことかと、俺は先生に対して視線を送る。すると先生は瞼を一度閉じて一呼吸を置いた後、先生は話し始める。

 

「俺はこの前の合宿の状況、そしてここ近日の練習なども見てきてなるべく細かいデータを作ったつもりだ。だが、こいつは違った。……ここ数カ月、走りを見ていないんだ」

 

「走りを…?」

 

「そうだ。菊花賞まで残り1ヶ月を切っている。なのに練習に姿を現していない。それもかなり前からな」

 

「え、そうだったんですか…?!」

 

 次走が同じ菊花賞であるスぺは、大声を上げて驚いた。

 

 無理もないだろう。なにせライバルになるであろう友人が走っていない。練習していないと聞けば、勝ってクラシック2冠を取ろうと頑張っているスぺは驚くに決まっている。

 

「あれ、でもセイちゃんは普通に学校に来てますよ?」

 

「えぇ!? そ、そうなのか…!?」

 

「はい。それに誰よりも先に教室に出てますし…あっでも最近は休んでいる日も多いですね…」

 

「ど、どういうことだ…?」

 

「……」

 

 ふと、俺は始業式の時にセイウンスカイと会話を交わした時のことを思い出した。

 

『そりゃもうー-----んくらいでかいものですよ!』

 

『えっ? 最初から釣果の話では??』

 

『まぁ、基本”釣り”しかしていませんし』

 

「……まさか、本当に?」

 

 あの時、俺はいつもみたいに『本当はちゃんと走っていますけど、そう簡単には教えませんよ~だ~』という、皐月賞で偵察した時みたいな返しなどだと思っていた。

 

 でもそうではなく、本当に練習をしていないだけだった…?

 

「……」

 

「まっ、こういう訳だ。セイウンスカイに関する状況が、何一つとして分からない。そこでお前にミッションだ。セイウンスカイの情報、そして今の状態を探ることだ」

 

「……結構無理難題ですね。それ即ち探せってことですよね…」

 

「まっ、そういうことだな。んじゃ、練習行くぞー」

 

 そう言うと先生は部室から出ていき、スピカのみんなも続くように出ていく。

 

「レオくん、気をつけてね。そして頑張ってね」

 

「うん、ほどほどに頑張るよ」

 

「まっ、いきなり大変かもしれないが、頑張れよ新人!」

 

 ゴルシはそう言うとバンッっと俺の腰辺りを強く叩いた。

 

「っつぁ!?」

 

 …その手首が、痛んでいた方の横腹に当たっていた。

 

 いくら回復したとは言えど、まだ歩く度に若干痛みはする。だから体育はしばらく見学するようになど色々言われている。

 

 …ましてや、その辺りを叩くなど言語道断だ。

 

「れ、玲音くん。どうしたの…?」

 

「っっ…だ、大丈夫…」

 

「新人、お前まさか横っ腹怪我してんのかよ。なら早めに言えよな……わりぃ」

 

「いや、隠そうとしている自分の自業自得だから大丈夫…」

 

 俺はすっと立ち上がってその場で跳びはねる。ズキズキと痛むが顔には出さない。

 

 自分が元気そうな姿を見せると、二人は少し心配そうな顔をしながらも部室から出ていく。

 

「……さてと、とりあえずまずは手当たり次第探してみるか…」

 

 そうして俺は部室から出て、まずはトレセン学園全体を探してみることにした。

 

   ・ ・ ・

 

「……はぁ」

 

 机に突っ伏してため息をつく。

 

 先生に頼まれてから3日、全然セイウンスカイの尻尾が掴めない。

 

 本当にどこに行っているのだろうか…周りの人間やチームメイト、そして学園の関係者も彼女の動きは把握していないらしい。

 

 2日目からは河川敷沿いとかを自転車で周ってみたけど成果はなし。

 

 脚がまぁまぁにパンパンである…あと肩。

 

「どうしたよ谷崎、お前がため息なんて…結構してるな」

 

「うっせぇ…」

 

「まあ、お疲れってことでしょ…肩で揉もうか?」

 

「あぁ~…じゃあ頼むよ~」

 

「それじゃあ、じっとしててね」

 

 冗談だと思って軽い感じに返答したが、道は本気だったらしく肩がぎゅっと揉まれる。

 

 あんまりマッサージとかって受けたことはなかったけど、結構気持ちいいものなんだなぁ。

 

 もしかして俺が選択で習っているあのマッサージは、ウマ娘の疲労回復効果だけではなく精神のリラクゼーションも含めているのかな…。

 

 やる側じゃなく、やってもらう側になることで分かることもあるんだな…。

 

「結構凝ってるね、なにしてるの…」

 

「まぁ、色々とね…」

 

「ふ~ん…?」

 

 …それに、今日でこの捜索は終わると思う。

 

 ……背に腹は代えられない手段を取ったけど。

 

「ありがとう道、そろそろ行くわ」

 

「んじゃぁ俺らも行くか」

 

「そうだね、こっちも時間ないし…」

 

 そう言いながら二人は教室から出ていく。

 

 ……さて、俺も行くか。

 

   ***

 

「……釣れませんね~」

 

 釣りは忍耐が大事。それはずっとやってきているから分かってるけど~…やっぱボウズは心が落ち込みますな~。

 

 それにここ最近の釣果はあんまりよくないものなんだよな~。まぁそれは時の運もあるんだけど。でもアジの一匹や二匹は引っかかってもいいんじゃないかなぁ?!

 

 へっくしゅんっと、くしゃみをしてしまう。10月の中旬にも差し掛かればかなり外は寒くなる。さらに東京湾が間近にあるから潮風も吹いてさっむ~…。

 

 まっ、この程度で辞めたら釣り人失格ですけどね~。

 

「へっくしゅ…! う~、ますます冬に近づいたなぁ…」

 

「そりゃ、10月に入って夕方になればね」

 

「……え?」

 

 ただの独り言を言ったつもりだったけど、その独り言に対して返事が聞こえてきたので私は驚く。

 

 でもそれと同時に聞き覚えのある声だってので、私は振り返らずにそのまんま竿の方に目をや──おっと引いてる!

 

「よっと!!」

 

 取れたのは少し大きめのアジ。まぁまぁいいねぇ。

 

「おぉ、でっかい」

 

「すごいでしょ〜ってそうじゃなくて、なんでスピカの学生トレーナーである君がここにいるのさ?」

 

「先生から頼まれたんだよ、お前の偵察をしろって…まぁ、皐月の時と同じだな」

 

「いやいや、あの時は確かにトレセン学園に居たから偵察できたと思うけど、今回はトレーナーにも言ってないんだよ? なんで君が分かるのさ?」

 

「まぁ、人類の技術の勝利、かな」

 

「むぅ…?」

 

 そう言いながら、私の左横に彼は座ってくる。そしてそれと同時にポケットからスマートフォンを取り出して、何か操作している。

 

 すると次の瞬間、私が使っている学生鞄から音が発せられた。

 

 なにかと思い、その音がする方に手を伸ばす。すると触れたのは何やら四角っぽいツヤツヤとしたものだった。

 

 それを手に取って出してみると、そこには○pple Watchが…。

 

「え、これなんですか?」

 

「○pple Watch」

 

「いやそれは分かりますけど…なんでそれが鞄の中に?」

 

 私がそう言うと彼はスマホの画面を見せてくる。そこにはこの辺りの地図と手に持った○pple Watchみたいなアイコン。

 

「使っているデバイスなら、場所がある程度分かるっていう機能があってね。それで君を尾行出来たってわけさ」

 

「いやいやそれって普通にストーカーじゃありません!? 引きますよ普通に!?」

 

 私は右手をぶんぶんと払って少しだけ耳を垂れ下げてそう言う。

 

 でも彼は穏やかに笑っているだけで、だからこそ余計に意図が読み取れなかった。

 

「……まぁ、いいけど」

 

「いいんだ…我ながら結構引いている作戦なんだけどなぁ…」

 

「がっかりした?」

 

「んっ?」

 

 彼の話をぶった斬るように、私は今の状況を少し嘲笑しながら問いかける。

 

 恐らく彼は私の偵察のためにここに来た。それは彼が言っていたように事実なのかもしれない。でも、全ては無駄なんだ。

 

「ここに来ても、何も得ることはないよ。セイちゃんは最近はずっとこうして釣りをしているだけだからねー」

 

「……」

「9月の入学式のこと覚えてます? あれ本当に釣りしかしてなかったんですよねー。チーム練習もサボって、チームトレーナーに夜呼ばれて怒られても、何も響かなかったし…」

 

「なんで、釣りばっかりするように?」

 

「さぁ、なんでですかね〜。もう勝ち負けとか、勝敗に飽きた…いや、冷めたって言った方がいいんですかね〜」

 

「勝負に冷めた、かぁ…」

 

 その言葉をきっかけに彼はこっちではなく、海の方に目を向ける。

 

 それにしても学園からここまでってかなり遠いはずなのに、よく来る気になったなぁーっと私は思う。

 

 いくら位置情報で位置が分かったとしても、行くにはかなり億劫になる距離だと思うのに。

 

「あ、釣り手伝うよ。網でいい?」

 

「え? あ、はい?」

 

「〜〜♪」

 

 彼は鼻歌を歌い始める。確かこれは…Make Debut?

 

 懐かしいなぁ…この歌が全ての始まりだったっけ。

 

10月に入り、潮風に少しの冷気が混じっている。地面に座っているけど、コンクリートの地面はとても冷たい。

 

 私の耳に届くのは、穏やかに流れている波の音。

 

 そして、隣にいる人間の呼吸音。その人は捕縛用のネットを持ちながらぼーっと前に広がっている海を眺めている。

 

 ここだけ、まるで静止画になったかのように時が止まっている。太陽が水平線の向こう側に沈み始めて空が黄昏る。

 

 何もしないという、普通では愚策なこと。でも、これでいいと思うんだ。

 

 だって…これが私が望んでいたこと。

 

 普通に好きなことをして、のんびりと毎日を過ごす。

 

 隣に誰かがいるのはちょっと想定外──いや、小さい頃はこれが普通だったっけ。

 

 隣にはいつもおじいちゃんがいた。でもいつか私は一人で釣りをするようになった。

 

 でもそうなることは至極当たり前の通過点だと思っていた。実際、一人でも楽しいし。

 

 だけど今回分かった。

 

「ウキ沈んでるよ」

 

「あっ…っておも!?」

 

 やっ、やば!? 結構重い!?

 

 少し苦悶な表情をしていると、すっと…彼が私の持っている竿を握ってくる。

 

 驚いている私をよそに、彼は横目で私の瞳を見つめふと口角を上げた。

 

 なぜだろうか、私は彼の意図が少しだけ…いや、完全に分かった。

 

「行くよ! せーの!!」

 

「「ふんぬぅー!!」」

 

 私と彼は二人で息を合わせて竿を引く。

 

 ウマ娘の力に比べたら人間の力なんて微々たるものだとは分かってはいるけど、なんでだろう。彼が一緒なら大間のマグロでも、それこそカジキマグロでも、どんな大物でも釣れるような気がした。

 

 あぁ、なるほど。これが────支えてくれる人ってことなんだ。

 

「……あれ…」

 

 でも彼が必死になっている間にも、私は違和感を感じて力を弱める。

 

 確かに重い、重いは重いのだけど…向こうさん引っ張ってなくない?

 

 私は彼に軽いハンドサインを出して、離れる様に指示する。

 

 そうしてちょいちょいと動かしてみると…なんとなく察した。

 

「あぁ〜…これ引っかかってますなー…」

 

「わーお、マジすか…」

 

 こういうことは別に珍しくもないこと。釣りをやったことのある人ならなんとなくこの気持ち分かってくれると思う。

 

「つまり自分たちは地球っていう大物を釣ろうとしてたんだな」

 

「……ぷっ! あっはっはっは!!」

 

 彼が言った突拍子もない言葉に、私は大笑い。

 

 釣り系の道具とかでちょいちょい見かけるこの言い回しというか皮肉めいた言葉を、まさか現実世界で聞くとは思わなかった。

 

 彼の方を見てみると何に対して大笑いされているのか分からなくて困惑している。その間抜けな顔が私の笑いのツボをさらに刺激した。

 

 ……あーあー、なんかリズムが狂わされるなぁ…。

 

「……そろそろ帰ったらどうです〜?」

 

「んっ、なぜに?」

 

「いやだって私といるだけでも無意味な時間を過ごしているんですよ? それなら早く帰ってチームのみんなといた方が有意義ですよ?」

 

「今の俺の役割はみんなの近くにいるんじゃなく、君を偵察することだ」

 

「……諦めているのに、私に執着して何の意味が────」

 

「それは違う」

 

 ズバッと、まるで刀で斬りつけるかのように、彼は鋭い声音で私の言葉をぶった斬って、私の言葉を否定した。

 

「……君は、菊花賞を捨てていない」

 

「それ、目の前のこの状況を見て言えます?」

 

「まあ、この状況だけだったら無理だよ──でもね」

 

 そう言いながら彼は私に○pple Watchの画面を見せてくる。そこには『ワークアウト』と表示されている。

 

「これってさ、かなり万能で揺れ方や速さからなんのスポーツをしているか把握して、そして心拍数やスピードなどが走れるんだ……そしてこれは、純正ならウマ娘も対応している」

 

「……まさか…?」

 

「君は走っている。途中までは駅だけど、そこから菊花賞3回分を平均タイムとほぼ同じくらいにインターバルのように走り続けている」

 

「…最近の文明ってすごいですね〜そんなことまで分かるなんて」

 

「まぁ正直、これはこいつを確認するまで気付かなかったけどね……俺が気付いたのは、その前だ」

 

「その前?」

 

「見えたんだよ、○pple Watchを出す前にうっすらと……新品のトレーニングシューズが」

 

「っ…」

 

「ウマ娘のトレーニングシューズはウマ娘のことを考えて作られているから、ボロボロになることはそんなにない。それが学園指定のシューズならなおさら。それでも変えているってことは、それだけ走り込んでいるってことだ」

 

「……ほんと、敵いませんね〜…」

 

 あーあー、せっかく騙し通せると思ったのに。ダメだったかぁ…。

 

 仕方ない、ここは素直に話しますか。

 

「あ〜サボろうとしてたのは事実なんですよー……でも、なんだろうね────菊花賞って聞くと、心の奥が熱くなるっていうか。これだけは取りたい! って、別の私が叫んでいる感じがするんですよね…。それに当てられてかわざわざこんな方法で菊花賞の練習をしているわけですよ」

 

「……心が叫びたがってるんだ?」

 

「それなら心が走りたがってるんだになりそうだね」

 

「「……あはは!」」

 

 なんだろう、誰かにこの感覚を伝えたのは初めてだけど。

 

 とても心が安らいだ気がする……でも心の奥は次第に熱くなっている気がする。

 

「菊ってさ、蕾の期間が長い花なんだ」

 

「へーそうなんですね」

 

「でもさ、花って蕾が実らないと咲かないでしょ? 今のセイウンスカイはまさに蕾なんだろうなぁ…って、思うんだよね」

 

「なんですかそれ、口説いてます?」

 

「口説いてはいないよ…でも、長い間ずーっとために溜めて本番に解放するってところが、どっか似てるんだよなぁ…」

 

「……菊と私が、ねぇ…まっ、褒め言葉ときて受け取っておきますよ〜」

 

       ・ ・ ・

 

 次の日、私は久々にチームの方に顔を出した。久々の登場に全員が歓喜の涙〜ってなると思ったけどそんなことはなく、むしろなんで今戻ってきたの感が強かった。

 

 でもトレーナーさんは私の脚を見て、何か察したらしい。

 

 どんな花にも、必ず蕾の期間がある。

 

 菊の蕾がどんなに長かったとしても……私は絶対、咲いてみせる!!

 

 ────その意気込みに呼応するかのように、ナニカが遠くで鳴いている音がした。

 




・前回から色々開きましたが、私は元気です。どうもヒビルです。

・F1見に行きましたけど…まぁ雨でキツかったですねw

・3ヶ月ぶりくらいに新キャラが出てくれました!

・次回も未定ですが、お楽しみを!

スズカ「ヒビルさん…天皇賞・秋、間に合います?」
ヒビル「……ガンバビバス…」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。