少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
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君と、あなたと、花火を見上げるだけ
カウントダウンが始まる。
5…4…3…2…迫り来る時間、これから始まるんだという期待の鼓動。それに交わる不思議な鼓動。
花火が打ち上がり、ヒュー…と音を立てて真っ直ぐ昇っていく光の筋がとても綺麗。一瞬、消えたかと思うと。
夜空に一輪の花が咲いた。
今、俺とスズカは東京駅のホームに来ている。
少し前に花火を見に行こうという約束を果たそうと思い、計画を立てて2人で遠出をしているのだ。
そのための新幹線を待っているのだが…俺たちはホームの端に来ていた。
なぜなら、真偽を確かめるためである。
「あ、あった!」
俺が指を指したのはとある自販機。とは言っても普通の自販機ではない。1○アイス以外の自販機っていう時点でだいぶ珍しくはあるが、これはもっとレアだ。
なにせ、これは!
「シンカンセンスゴイカタイアイス!! スジャータが作っているすごく固いアイス! しかしそれには乳脂肪分が15.5%と非常に濃厚でかつ密度とても高くかつ! ドライアイスで冷やされているからとても冷たいからといった理由もあり、ネットでは『シンカンセンスゴイアイス食べようとしたらスプーン刺さったw』とか言われてまぁまぁ有名なあのアイスの自動販売機!!」
「どうしたの急に…」
「なんかやれって言われた気がした」
「えぇ…」
バニラ味とストロベリー味を買ってベンチに腰掛ける。
「私、あんまりこういうの食べたことないかも」
「なら今日が初めてだね」
蓋をパカっと開けて、フィルムを剥がし…そしてほぼ同じタイミングでスプーンを立てる。
すると次の瞬間「キンッ」という効果音が聞こえるかの如く、アイスはスプーンを通さなかった。
結構力を入れても、ようやく1mm食い込んだくらいだ。
「くっ…やっぱ固い……」
「そう?」
横を見てみると、普通にスプーンを突き刺してたぱくりと一口分のストロベリー味のアイスを食べていた。
なるほど、ウマ娘のパワーからしたらこんな固さは全然関係がないようだ。
「もしかして食べれないの?」
「いやまぁ数分おけばスプーンは通るようになるから…」
そんな風に言ってアイスをベンチの横に置いた。するとスズカはなぜだか、そのバニラ味のアイスを手に取った。
そのまま突き刺さってたスプーンをアイスに突き立てた。
「はい」
「はむっ…」
差し出されたスプーンを俺は迷うことなく食べる。
ドライアイスで冷やされたとても冷たいアイスが口の中で蕩けていく。するととても濃厚なバニラと牛乳の味が口いっぱいに広がりとても美味しい。
ある意味、常人では食べられない領域の段階のシンカンセンスゴイカタイアイスを、俺は今味わっているのかもしれない。
「……なんかいつもより美味しい」
「んむっ…うん、バニラ味も結構美味しいね。レオくんはストロベリー食べる?」
「んじゃ、いただこうかな」
そんな感じに、お互いのアイスをシェアしながら待ち時間を待った。
・ ・ ・
まだお昼下がりではあるものの、その花火の会場にはまぁまぁのお客さんが入っていた。
10月で少し肌寒くなり始めた頃だけど、花火を見に行きたいという人はかなり多いらしい。
ただまぁ、東京都内で行われている花火大会よりは明らかにマシだ。
「場所は…まぁここでいいのかな?」
「そうね…うん、いいと思う」
とはいっても初めてのところだから、どこでどんな風に見えるのかは分からない。
とりあえず持ってきたレジャーシートを敷いて、荷物やもろもろを置いた後ゆっくりと腰を下ろす。
「だぁ~まぁまぁの移動でなんか色々抜ける~…」
「ねぇ玲音くん、なんでこっちにしたの? 近場なら確か神奈川とかもあった気がするんだけど…」
「ん~、一応全部の写真を見てさ。ここで見てみたいな~って思っただけだよ」
「本当は私と遠くに行きたかったんじゃない…?」
「……まっ、それもあるとだけ」
あまりにも近場すぎると、学友や知人と出会うかもしれない。
ただでさえスズカは社会的には上の存在に立っている。それに対して、自分はただの一般人。
横に並ぶのは……チームメイトという肩書きがないと、少し厳しいかもしれない。
それに……それでスズカにマイナスなイメージがついたら俺が嫌だ。
「……でもまぁ」
聞き耳を少し立ててみる。するとひそひそとだが、「あれ、サイレンススズカ?」とかそういう声が聞こえてくる。ちらっちらっとこちらの様子を窺っている人もわずかながらいる。
こういうところを見ると、隣にいる自分の幼なじみはすごいウマ娘なんだなっていうのを改めて認識する。
ほんと、スズカの隣に堂々と立っていられる時なんて、来るのだろうか。
「……レオくん?」
「ん?」
「なんか、大丈夫?」
「え、大丈夫だけど…」
「レオくんってさ、なんか時々目が遠くなるよね」
「目が遠く?」
スズカが言っていることを理解しようと目を瞑って「うーん…」と唸りながら考えてみる。
でもその意味を読み取るよりも前に、俺は抱き寄せられる。あまりにも唐突なことに俺の体は少し硬直しながら重力に従ってバランスを崩す。
……なにか柔らかいものが、俺の頭に当たる。
頭をフル回転させて今のこの状況がどういうことなんだろうかと理解しようとしたその時、さす…さす…と頭を撫でられた。
その一定のリズムで頭を撫でられたことによって、少しずつ思考が落ち着いてきた。
今俺は、スズカの膝枕で包まれながら頭が撫でられているってことに。
「レオくんはさ、近くに私がいるのに…なぜだか時々、遠くを見ている時があるの」
「……そう、なんだ」
「ねぇレオくん…私はもっと、ここにいる私を見てほしい……」
そう言いながらスズカは優しく、慈しむように…頭を撫でる。
するとなぜだろうか、不意に眠気が襲ってきた。いや、睡魔って言ってもおかしくはない。
「そう…だね……うん、分かっ────すぅ……」
***
「……」
頭をなでなでしながら、レオくんに膝枕をして、もう何分が経ったんだろう。
周りのお客さんは太陽が沈んでからさらに増えた。屋台の明かりがくっきりと視界に映るようになった。
吹いている風はとても冷たい……しっかりと上着やブランケットを持ってきてよかった。もしもなかったらとっても寒い状態で花火を見ることになったと思う。
……でもその場合、レオくんと密着して温め合うのかな…。
なんて、突拍子のないことを考えて私は少し笑みを溢しながら頬を熱くする。
「……────」
「……んっ?」
今、レオくんが小さく何かを呟いた。
ウマ耳が少しだけ捉えてくれたけど、でも言葉はよく分からなかった。
いつもだったら別に気にならないただの寝言。それでもなぜだか、その言葉だけは、その一瞬だけ気になった。
私は自分の顔とレオくんの顔を近づける。そして寝言を聞き逃さないようにウマ耳を口元に立てる。
「──君は、いったい…ダレだ?」
擦れたとても小さな小さな声で、レオくんは確かにそう言った。そしてさっきは気付かなかったけど、瞳に涙を浮かべていた。
そして、うっすらと目を開けた。
「……スズ、ちゃん?」
「おはようレオくん、そろそろ始まるよ」
「んっ、ありがとう…」
ゆっくりとレオくんは体を上げる。太ももにあった温もりが次第と離れていき代わりに秋の夜のひんやりとした空気が、肌を刺激する。
私は少しでもその温もりを逃がしたくなくてブランケットを膝に掛ける。なるべく深く…腰辺りまで。
すると身体を起こした玲音くんが、のそのそとそのブランケットに入ってくる。きっと寒かったんだと思う。
でもまだ寝ぼけてぼーっとしているのか、そのままぴとっと身体をくっつけてくる。さっきよりも明らかに広く、そして温かいぬくもりが、私の左半分を満たす。
それでも右半分は寂しく、とても冷たい。だから私はもう少し彼にくっつく。これ以上くっつけないというかそもそももう密着しているというのはお構いなしに、くっつく。
すると反発してかレオくんももっとくっついて、私たちは超密着状態になりました。
そして瞬きもしない内に、ドンッっと真っ直ぐ、火の軌道が夜空に光る。
その火の軌道は途中で消えて、数秒の沈黙……しかし次の瞬間その軌道は大きな花を描く。それと数秒遅れで聞こえてくる空気を引き裂く爆発音。
花火大会が────始まった。
────君と、あなたと、花火を見上げる。
────それは、まるで夢のようにふわふわとしていて、とても煌びやかだった。
────でもそれ以上に、あなたの温もりを感じる。君の存在を。
────なんて…なんて素敵な、現実なんだろう。
────きっと、自分たちは…こんな思いを、一緒に何度も経験するんだと、どこかで思っていた。
・第7R、始まりました。
・最近嬉しいことがあったので、モチベありありのチョベリグ!!
・次回、スズカとカフェに行く。