少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
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──夢を見た。
それは、なんてことのない。普通の夢。
自分の大切な幼なじみとただお出かけをする。そんな普通の夢。
これからも何度も何度も行っていくであろう出来事の一つ。
なのに、なんでだろう。
その当たり前のことが、とても愛おしく感じる。
***
花火大会から一夜が明け、自分たちは早めに府中に戻ってきた。
あの会場辺りの騒がしさに比べるとこっちの騒音はまぁまぁうるさく感じてしまった。
「さぁってと、んじゃあそろそろ学園に戻る?」
「そうだね……えぇ、戻りましょう」
いつも遠征の時から帰っているように、俺とスズカは二人そろって帰路に着く。
……でもまぁ、いつもとちょっと違うところっていうと。
外を出た瞬間に、ザーッという音とシャーっとタイヤが水を弾いている音が聞こえた。
──雨だ。
いつも、スズカと歩いている時は基本晴れていることがとても多いが、ここまで雨が降っているのも珍しい気がする。
というかまさかこの時期にここまで土砂降りの雨が降るのは予想外だ…。
「じゃあ、行こう?」
「あれ?! いつの間にビニール傘を!?」
「さっきレオくんがお手洗い行ってた時に買っておいたの」
そう言いながらバサッとビニール傘を開く
やっぱスズカはすごいな。とてもしっかりしているというか、行動が早いというか。
…あれ、でも傘は一つだけなんだ?
まぁでも普通に一つの傘を2人で共有すればいいだけか。それにビニール傘なんてすぐに使わなくなるしね。理にも適ってるか。
スズカが傘を差しながらこっちに振り返り視線を送る。俺はそのままスズカの隣に立って、そして傘の持ち手を握る。
なるべくスズカが濡れないようにちょっと半分より右に自然と傘を傾けながら、俺らは歩き始める。
・ ・ ・
ビニール傘に雨粒が当たる音が、少し軽やかで心地いい音だと思ってしまう。
アスファルトの地面はところどころ水溜りになっていて、ぽちゃぽちゃと面白い音が耳に届き、近くの川はいつもよりも少し流れが速い。
「ねぇ、レオくん。ちょっと聞いてもいい?」
「んっ、なに?」
「レオくん、花火大会の前。寝ていたよね?」
「うん」
「あの時どんな夢を見ていたの?」
「……あの時かぁ…」
俺は昨日の夜に見ていた夢を思い出す。
夢っていうのは忘れることが多いけど、あの夢は覚えている。
俺は一人、とても広大な草原に寝ころんでいた。
それは故郷の北海道の、とても清々しい空気に包まれていた。緑と青がとても綺麗なところ。雲一つ一つがくっきりしていて、流れている様子を見ているだけで楽しかった。
そうしてそのまま目を閉じようとした時、何か動物の鳴き声がした。
俺は体を起こしてその声の方向の方に振り返ってみる。すると、何か四足歩行の何かがこっちに向かって走ってきていることが分かった。
数か月前の自分だったら謎の生き物として避けていたかもしれない。でもそうはしなかった。
なぜならその形が最近は見ていなかったけど、ダービー前に見ていたあの生物と瓜二つだからと分かったからだ。
遠くで黒い点みたいなものだったその影が、少しずつ近づいてくると少しずつ色が分かってくる。
それはとても綺麗な明るい茶色だった。走っている度にふさふさのロバよりも長いたてがみが揺れている。
そしてなにより…大きい。
自分よりも一回り、いや、4回りくらい大きいその巨体に思わず腰を抜かしそうになる。
でもそんな巨体とは裏腹に、その瞳はとても……つぶらだった。
「……」
自分はそのフォルムに、少し惹かれていたのかもしれない。
じーっとこっちを見てくる。茶色の毛並みをしたロバを何回りも大きくなったような生き物。
そんな生き物はこちらをじーっと見つめた後、かなり器用に脚を曲げてその場に座った。
ブルルッ! とあんまり聞かないような鳴き声を発した。そしてもしゃもしゃと草を食べ始める。
自分はそのまま、その生き物に近づく。レース場みたいなところでこんな生き物が……スペたちと同じ名前を呼ばれていたこの生き物が競っていることは見たことはある。だが距離があった。
でも、今は目の前にいる。
俺が一歩二歩近づいてもその生き物は、こちらをじっと見た後にまた草をもしゃもしゃするだけだった。
草食系の動物…なのだろうか。なら襲われるリスクはない……いやそもそもここは夢の中だから痛くも死ぬ訳でもないけど…。
でもこの草を踏む感触や空気は、現実に近いかもしれない。
自分はその生き物に近づき、そしてもしゃもしゃ食べている姿を横で見つめる。
本当にとても可愛い生き物だ。その耳の長さといいふさふさな尻尾といい、まるでウマ娘を本当に4足歩行にしたように思えてしまう。姿も顔も全然違うはずなのに。
ふっと、俺はその長い首辺りをさすりっ…さすりっ……と、撫でる。
するとその生き物はその大きく長い耳を横に倒した。その仕草がスズカやマックイーンがリラックスしている時のウマ耳の動きと類似していた。
この生き物は一体なんなんだろう……なんて思っていると、その生き物は目を細めて顔をすり寄せてくる。
ちょっと突然のことで驚きはしたけど避けることはなかった。この数分間でこの生き物には害がないということを認識したからだと思う。
そうしてその顔が自分の額辺りにこつんっと当たる。
『───────かに! ────!!』
そう、まるでスピーカーを通したような声が響き、脳内にあるイメージが浮かぶ。
それは木だった。とても大きな木。その木がなんていう木なのかは分からなかった。でも、どこかで見たことがある。それだけは心の中で確信していた。
それよりも、"かに"とはなんなんだ…?
甲殻類のカニ…? でもイントネーションはなんか下がっていたような…。
なんて気になっていると目の前の生き物はのそっと立ち上がり、そして背を向けて走って行ってしまう。
そして──俺は気付けばに走っていた。
全力で追いかけても、その後ろ姿はどんどん小さくなっていく。
『待って! 君は、一体! 誰だ!!』
そう叫び、手を伸ばした────そこで目が覚めて、目の前にはスズカの顔がめっちゃ近くにあった。
やっべ思い出したらめっちゃ恥ずかし…寝ぼけていたからまだよかった…。
「まぁ、普通の夢だったよ」
「そう…?」
「そっ、まぁ気にすることもないよ」
「……分かったわ」
・ ・ ・
ビニール傘をちらりと見てみると、私側の方に傾けているのが分かる。
横を見てみると平然としているレオくん、でもその私から見た反対側の肩辺りは雨で濡れている。
きっと、私に濡れて欲しくないから、自然とそうしているんだと思う。そう思うとどこか大切にされているんだって実感がさらに湧いた。
……もう少し、一緒に居たい。
いつの間にか私はそう考えていた。だから私は何かきっかけはないかと辺りを見渡した。
すると視界の端に、ぽつんっと看板があった。
「あっ、レオくん。ちょっと、あそこ寄って行かない?」
「んっ…New Openのカフェ……Achille coffeeね。まぁ待ってたら雨が止む可能性もあるし、そうしよう」
「うん」
私はぶんっと尻尾を大きく振って、その後も時々レオくんの太ももの裏に当たるように高々と尻尾をあげて振りました。
レオくんはズボン越しでもその感覚が伝わっているのか、少しくすぐったそうにしていた。
・ ・ ・
看板の通りに道を進んでみると、そこには白くて少し小さめな建物があった。白い塗装に小ぶりな十字枠窓、そして真ん中に設置されている木製のドア。
立てかけ看板にはAchille Coffeeという文字にカップを持ったちょっと小太りなおじさんが猫と一緒にカフェタイムを楽しんでいるちょっと可愛らしい絵があった。
入口辺りには屋根があり、近くに傘立てもあったので、レオくんはビニール傘をそこに立て入れる。
ドアを開けるとからんっからんっとベルが鳴り、少し静かなジャズ曲が耳に入ってくる。
内装は少し黒っぽい木材で作られいて、その明かりは少し温かみのある照明を使っている。
「いらっしゃいませ、お二人様ですか?」
「「はい」」
「席へご案内いたします」
店員さんに案内されて、ソファーのある席に案内される。
そのソファーはまぁまぁふかふかでとても心地よかった。
「こちらがお品書き……あら、あなたは…?」
「んっ……あ、あなたはあの時の…」
どうやら二人は知り合い…いや、私もその人は知っていました。
金色の瞳に長い黒色の髪……確かこの人はファン感謝祭で喫茶店・スピカに来てくれた人だ。
確かレオくんの淹れたコーヒーを褒めていたはず…。
「まさか、ここに来るとは…想定外でしたね」
「俺も意外でしたよ、こんな風に再開するなんて」
「私が言い出さなかったらここに来なかったもんね…」
なんとも面白い偶然があるものです。
「ではご注文がお決まりになりましたら、お呼び────」
「すみません、この店員のおすすめで」
「あ、じゃあ私もそれを」
「はい。今の時間はモーニングでマフィンがつきますが、どうしますか?」
「「じゃあお願いします」」
レオくんと一緒にそう言うと、黒髪のウマ娘さんはその場を離れます。
ついついそのままレオくんと同じものを頼んじゃったけど、まぁいいかな。
少し待っているとコーヒーミルでごりごりと豆が挽かれる音が聞こえます。するとレオくんが席を立ってそのままコーヒーを淹れているあの店員さんの方に歩んでいきます。
私は少しそっちにウマ耳を立てて二人の会話を聞きます。
「へぇ~、淹れ方はオーソドックスなやり方なんですね」
「最近の豆は質がいいので全部に浸透させるやり方が流行っていますが、私はこのコーヒードームを作るのもコーヒーの醍醐味の一つだと思っていますから。それにこの方が酸味など特定の味を出したい時にはいいんですよ」
「なるほど…」
「それでも全部に浸透させる方法も、コクを引き出せるのでいいですけどね」
「うおっ!? こんなにドームって膨らむんですか?! まるで芸術だ…」
「コーヒーは飲んで、香って…そして見て楽しむものですからね。今使っているのはキリマンジャロをベースにブラジルで甘さと────」
などと、ほとんどコーヒー経験者しか語れないようなとても難しい会話を交わしている。
そして、とてもニコニコしている。
…私も、コーヒー淹れてみようかなっと、ふとそんなことを思ってしまった。
少しするとレオくんが戻ってくる。
「あれ、どうしたのスズちゃん…?」
「んっ? なにが…?」
「いや…ウマ耳が……」
そう指摘されて、私は横にある窓ガラスに反射している今の私を見てみます。
すると、そこにはウマ耳を倒して────怒っている時のウマ耳をしていました。
それを認識した瞬間、私は手でウマ耳をぺたんと抑えて、少し下を俯きます。
なぜでしょう…一体何に対して私は怒っているんだろう…。
「う、ううん。なんでもない…」
「そう? ならいいけど…」
そう言いながらレオくんは向かいに座る。その顔はとても心配そうにしていたからこそ、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
なんなんだろう…この気持ち、どこかもやもやして……むずむずして……。
なんて悶々と考えている間に私の前にはマフィンとコーヒーが届けられていた。
レオくんはカップを持って、ゆっくりとコーヒーを味わっている。
私もゆっくりとカップを口に近づけて、チビッと飲む。
……とても酸味が効いていて、そこにふわっとほのかに香る甘味が後味に響いていてとても美味しい…。
美味しい‥‥はずなのに、なんでだろう。
酸っぱく感じる…。
・ ・ ・
「おっ、止んだら止んでる」
食事を済ませて会計し喫茶店から出ると、雨は止んでいた。
青空なんて見えないし、ましてや晴れ間も覗かない。虹がかかっている訳でもない空。
だけど、そんな曇天な空にも…天から光が漏れ出ている。その光はまるで地上に伸びているように見えた。
何かの記事か本で見たことがある。確かこれは……天使の梯子とも呼ばれているやつだ。
その光が、私たちのいるこの道包んだ気がした。
「……ねぇ、レオくん」
「んっ、どうした? なんか忘れ物でも────」
「頼み事があるの」
「……頼み事?」
私はその”頼み事”をレオくんに言う。
その頼み事を聞いたレオくんは少し眉間にしわを寄せたけど、一度目を閉じるとゆっくり瞳を開け、こっちの瞳を見ながら微笑んでくれた。
・天秋…間に合いませんねぇ(´・ω・`)
・ブルーインパルスかっこよかったぁ~^
・最近、私のYoutubeがヤンデレ音声に占領されています(笑)
・次回はアニメ第7R前半のお話です。