少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
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菊花賞があるということで、先生とスぺは京都の方に遠征していった。
だからこそ不在の時は自分だけでしかチームを見ないものだと思っていた……だが、ちょっと面白いことが叶っている。
それは────日曜日、トレセン学園の第3トラック。
「どうしたスピカ! お前たちのトレーナーはこうも堕落させているのか!!」
「「「ひぃ~!?」」」
このトラックに響く声は自分の声でも、ましてや先生の声でもない。
それはリギルのチームトレーナー、東条ハナさんの声だ。
いつもとは違う、かなりハードな練習に悲鳴をあげるウオッカとスカーレット、そしてテイオー。
そう、チーム・スピカは今、チーム・リギルと一緒に合同練習を行っている。
「おやおや! 君たちはもう疲れたのかい?」
「この程度で音を上げるなんて、まだまだデ────アイタァ!?」
「エール―? あまり他人を見下すのはよくないですよ?」
「だからってツネないでほしいデース!?」
「エル! グラス! オペラオー!! 私語は慎め!!」
「「「は、はい!」」」
みんなが息を入れ直している時に俺はタオルとスポーツドリンクを配る。
普段とやっていることは同じだけど、いつもメンバーが違うってだけでもかなり新鮮だ。
「あら、ありがとうね谷崎くん」
「学生トレーナーの、それも違うチームの君に渡されるというのは、中々に新鮮なものがあるな」
「まぁ俺にとっては至極普通のことなんですけどね」
そう少し微笑んだ瞬間、後ろから殺気を感じた。
あっ、うん…これ道のだ。振り迎えらなくても分かる。
「(シンボリルドルフさまにあんなに親しそうに…コロスコロス──)」
なんか近くにいる学生トレーナーたちもすごい怖がっているし、これマジで殺されないよね?
「それにしても、この時期になっても向こうはずっとメモを取っているんですね」
「リギルは見て覚えろっていうスタイルなのさ、そっちのチームみたいにタイマンでっていうのも珍しいと思うぞ」
「へぇ…」
「それに他のチームもかなり雑用っていう意味合いが強いからな」
ヒシアマゾン、そしてエアグルーヴのセリフを聞いて、なんとなく他のクラスメートとチームの関わり方を察する。
そういえばかなり前に尊野が、俺はあの娘たちと距離が近いな的なことを言っていた気がする。
「でもまさか、玲音さんがリギルとの合同練習を組むとは思ってもいませんでしたわ」
「そうですね。こちらも結構驚いたことですから、きっとそちらはもっと驚いたんでしょうね」
「まぁ黄金世代の2人にとっても、こっちの2年・1年組にもいい刺激になるかなって思ってね。それにチーム1の練習はかなり参考になるだろうって思ってね」
ちなみにこの提案したのは自分だ。
というのもこの日先生はスぺに付き添うことが決まっていたし、俺一人でチームを纏めることはできないと客観的に考え、それでもスズカの天皇賞・秋前だから練習はしておきたいという考えから思いついた策だった。
リギルが応じるかは分からなかったけど、先生が上手くやってくれたんだと思う。
「だが今はそっちの戦績もなかなかなものだがな」
そう言いながら東条さんが近づいてくる。その声音と強面で少しだけ背筋がピンッとなる。
「それにしても、君はかなりあいつから信頼されているんだな。チームトレーナーがいないのに練習があるっていうのはかなり珍しいことだぞ」
「そうなんですね。でもそれが普通ですから…」
「それだったらよっぽど放任主義か…」
「それはないと思いますよ。先生は俺のことをかなり見てくれますし」
「先生…? あぁ、あいつのことか……よし、次はインターバル走だ!」
『はい!!』
・ ・ ・
今回のこの合同練習。確かに下級生の子たちに先輩たちの走りを見せて、刺激を与えるっていうのも目的の一つではあるが、俺が狙った真の目的は一つ────エルコンドルパサーの偵察も込めている。
今回、俺は先生から誰か特定の娘をマークして偵察するのでは無く、自由に決めていいということだった。
だが出走するウマ娘を見てみたが、今年の秋の天皇賞はかなりの優駿たちが集まっている。
負けてはいるけど入着の範囲によく入っているキンイロリョテイを初め、どの娘をマークしようか俺は考えた。でも俺の浅知恵じゃ何が正しいか俺には分からなかった。
そんな時、俺の頭の中にジョースター卿の声が聞こえてきた。(???)
『逆に考えるんだ…全て調べればいいさと』
ということで俺は時間が許す限り、多くのウマ娘を偵察したのだ。
そして残っていたのがエルだった。だからこそこの機会は中々に大きい。
エルは、てっきりジャパンCに合わせてくるかと世間的には言われていたため、かなり俺も驚いているが、その仕上がりはかなりいいと言っても過言ではない。
「ふぅ、一息つくデース…」
「お疲れエル、はい」
「あ、ありがとうゴザイマース!!」
そう言いながら俺はタオルで巻いた水筒をエルに投げ渡す。リギルのメンバーにスピカに所属している俺が水筒を渡すっていうのは、なんとも不思議な感覚だ。
「玲音先輩、単刀直入に聞いていいデスカ?」
「ん?」
エルはこっちに一歩近づく。そして、その瞳はとても真剣なものだということが分かった瞬間、俺は固唾を飲む。
「玲音先輩から見て、アタシの走りはスズカさんい──世界に近づいていますか」
「……」
少し意外というかなんともエルらしくない質問に、俺は少し目を丸くして驚いた後、瞳を閉じて考える。
「……あくまで、本当に走りを見ているだけなら。エルは世界を取れる素質はあるとは思う」
「……」
「だけどスズカに近づいてるかって言われたら、エルには悪いけど『それはない』って、はっきり言える」
俺はありのまま思ったことことを、一言一句嘘偽りのない言葉を述べる。
だけどエルが少し俯いて曇った顔をしたのが、俺には分かった。
だからこそ……って訳じゃないけど「でもさ」と俺は言葉を続ける。
「エルにはエルの走りがある。無理にスズカを追い越さなくてもいいと思うよ」
「…そういう、ものなんですかね」
「あぁ、サッカーでもあこがれの選手はいるけど、自身のポジションやプレイスタイルが違うことなんて当たり前でしょ」
「……そう、デスね。はい、エルは自分の走りを信じま────」
エルがそう言った瞬間、俺たちの横……トラック側から風が通り過ぎる。
条件反射のようにそっちの方向を見てみると、スズカがいた。
夕日と同じ色の髪の毛が揺れている。その影を自然と目で追ってしまう。
スズカのその顔に疲労の文字は全く浮かんでこない。いや、むしろ逆だ。スズカの姿を見ていると「走りたい」っていう気持ちが伝わってくる。
「本当、スズカは変わったんだな」
「あ、エアグルーヴ先輩!」
「エアグルーヴ…」
そうだ、そういえばスズカってもともとこっち(リギル)の方に居たんだよな。
5月…スズカの誕生日の時にリギルの入団試験があって受かって走ってたっていうのは知っているけど、リギル時代のスズカってどんなのだったか知らない。
でも今の一言で、明らかにリギルの時とは違ったんだろうと思った。だから俺は
「違うって、具体的に言えたりする?」
「……あぁ、そうだったな。お前はスズカの幼なじみか」
少し顎に指を置いて何かを考えた後に、エアグルーヴは話し始める。
「スズカは…リギルでははっきり言って傑出したやつではなかった。むしろ平凡って言ってもよかった」
「スズカが…? そんなまさか…」
「事実だ。そしてあいつの走りはいつも苦しそうだった。まるで鎖か何かに首を絞めつけられ苦しんでいるみたいだった」
「……そこまで」
「だからこそ言える。今のスズカはリギルに居た時とは違う。鎖からも解放され、私たちが見えていない…ウマ娘が今見ている世界の数歩先の世界にいるとな」
「今のウマ娘より──数歩先…」
「ふぅ…こんなものかしら…」
エアグルーヴが離し終わった辺りで、走って満足したのかスズカが帰ってきた。
「っ…お疲れ、スズちゃん」
「うん、そういえばなんか二人でお話していた?」
「いや……ねぇ、スズちゃん」
「ん?」
「走るの、楽しい?」
そう聞くと、スズカは口角を上げて微笑みがら────えぇ。と答えた。
***
『最後の直線! 外を通って、外を通ってようやくスペシャルウィークが外を通ってきた! しかし逃げた逃げた逃げた!! セイウンスカイの逃げ切り!! 逃げ切った逃げ切ったセイウンスカイ!!!!』
『ワアアアアァァーー!!』
『38年ぶりの逃げ切りセイウンスカイレコード!!』
京都競馬場は青い空と、そして多くの観客の声で包まれていた。
セイウンスカイ…同期としてかなりすごい、クラシック2冠達成。きっと彼女は同期の中でも皇道を走っていくんだと思う。
────だけど、私は違う。
「はぁ…はぁ……」
息を整えながら、私は電光掲示板を見上げる。
その一番下には、私の番号────私、キングヘイローが5着だったという残酷な結果がでかでかと出ていた。
…いや、分かってはいる。
この5着より下には、番号すら読み上げてくれない子たちがいるのは多く分かってはいる。それにクラシック、生涯で一回しか出られないレースで入着は、同期の中ではいい成績だって言われることも分かっている。
でも、これではダメ。
キングはもっと、高みに立たなければならない。
「悔しいです~~!!!!」
大声で瞳に涙を浮かべながら全身から悔しいという気持ちを露わにしているスペシャルウィークさん。
「えぇ、完敗ね…あの走りは中々に目を張るものがあるわね」
「うぐっ……ぐすっ…」
「でもね、スペシャルウィークさん。私たちの道は、ここでは終わらないわよ」
「え…?」
涙ぐんでいるスペシャルウィークさんに対して、私は少しの悔しさと、そしてこれから進む道の清々しさを背にしてゆっくりと自分でも驚くくらい優しい口調で話し続ける。
「私たちはこの先、シニア級になってさらに多くのウマ娘たちと戦っていく。そこに先輩後輩なんて関係ないのよ。だから私たちは走り続ける限り、何度もでも物語を作り始めることができるのよ」
「作り…始める……」
私の言ったセリフを反芻させているスペシャルウィークさんを見ながら、私は地下バ道の方に足を向ける。
するとそこには拍手をしながら笑顔で迎える。所属しているチームの学生トレーナーの尊野さんの姿が見えた。
「どうだった? 最後のクラシック」
「……えぇ、完敗ね」
そう言ったタイミングで尊野さん持っている上着のポケットに入れているスマホが震える。でも私はそのままその上着を羽織ってそのまま地下バ道を歩く。
「いいのか? 出なくても」
「えぇ、要件は分かっているわ。それにその答えは沈黙で答えるのが正解よ」
「だな…いいのか? こんなとてつもない茨の道を進むことになっても」
そう言いながら、尊野さんは茶色く丸い、U型の銀の装飾が施されたバッジをひょい、ひょいとその場に投げてはキャッチしている。
それの正体が"アレ"だと確信した私は、そのまま前を歩きながら思っていることを口に出す。
「私はお母さまに認めるために走っていた…周りもそうだと思っていた、私はいわば用意されたレールを走っていただけ…そんな自分は終わり。仮初のガラスのブーツは脱ぎ捨てて、自分の足で歩くことに決めたのよ」
「その踏み始めた道が、真っ直ぐにしか伸びていない棘だらけの道だったとしても?」
「一人なら怖いし痛いわね、でも────」
私は横を向き、彼の瞳を真っ直ぐ見つめる。
「あなたも一緒に飛び込んでくれるんでしょう? "トレーナー"」
「……だな」
「行こうじゃないの、裸足で茨の道を」
「行こうじゃないか、裸足で茨の道を」
正直、この先どうなるかは分からない。
でも、これで正しかったって。キングの道はこれが相応しかったと。茨の道はキングだけの皇道だったと…次のシーズンで、証明してみせるわ!!
「あ、でも5着だからウイニングライブはしっかりしないとな、ははっ!」
「もう! せっかくいい感じに〆めたのに台無しじゃない!?」
・今年の天皇賞秋やばかった…パンサラッサ…。
・なんかこのお話は書かなければいけない気がした。(使命感)
・一週間に定期落とし、食費落とし、自転車盗まれのやばい週間がありました()
・次回こそ、第7Rのプチ合宿のお話をやります。