少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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 前回のあらすじ:チームスピカはチームトレーナー不在のため、リギルと合同練習を行うことに。そしてキングヘイローとその相棒は────。

・UA188,000・189,000・190,000を突破しました! ありがとうございます!

※アニメでは15時~18時となっていましたが、少し改変しています。


風になる / 繋がっている

 

 菊花賞が終わり、いよいよ秋が深くなり始めたころ、俺たちチーム・スピカは校門前に集まっていた。

 

 金曜日で振替休日ではあるが、この時期の多くのチームは学園内でのトレーニングに勤しんでいる。

 

 そりゃそうだ。だってこの時期は秋華賞・菊花賞・天皇賞秋、一週開けてエリザベス女王杯とGⅠレースの繁忙期だからだ。

 

 だからこの時期に学園を出て練習するチームというのは、あまりいない。

 

 だけど。先生はそのあまりいない希少側の人間だった。

 

『玲音、土曜なんだが予定を開けてくれないか? あとそれをあいつらにも知らせて欲しい』

 

『別に大丈夫ですけど…みんなにも伝えるんですか?』

 

『その日は一日練習にしようと思ってな、帰るのが夜になりそうなんだ。だから遅くなるってことを寮長に報告してもらおうと思ってな』

 

『わっかりました~…』

 

 ということで、みんなに伝えたけど何をするかは俺にも分からない。

 

 というかその本人がここにいないって…。

 

「ねぇねぇ玲音、今日は一日中かかるんだよね~? でもなんでボクたちジャージなの?」

 

「多分走り込みとかだからじゃないかな…」

 

「えぇ!? 一日中ハシルノォ!?」

 

 テイオーは驚いた顔をして、そして周りのスズカ以外のみんなも少しだけ元気がなさそうにウマ耳を────。

 

「っ!? ちょ、スペ!? なんだその腹!?」

 

「えっ?」

 

 俺は周りを見たからこそ分かった。てかなんで今まで気づかなかったんだろ?

 

 あんまり女の子のお腹をジロジロと見るのはよろしくないのは分かっているが……スペの横っ腹が出るくらいお腹が膨らんでいたら誰でもそっちを見てしまうだろう。

 

「スペちゃん、最近菊花賞負けたから少し暴食気味だったのよね…」

 

「いや暴食だからってこうはならないでしょ…」

 

「だ、大丈夫です! 前から結構食べてもどうにかなっているので…!」

 

「う、それは羨ましいですわ…」

 

「いやいやマックイーン、そのお腹を見てそれが言えるのか?」

 

「だってわたくしスイーツを食べるだけでかなりその週は制限されんですわよ!? 一度でいいから好きなだけ食べても全然平気な身体が欲しいですわぁー!!」

 

 そう嘆くマックイーン。まぁ確かにマックイーンはかなりカロリーによる体重の浮き沈みが激しい。一時期はかなり無茶な減量を行っていたが、その時は流石に止めた。

 

 というかマジでスぺの丸々なお腹に目が離せない。マジでどんだけ食べたらあんなことになるの? 〇郎系ラーメン大盛りンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシでも食べたんだろうか。

 

「玲音スぺちゃんのお腹見てる~やらし~」

 

「なっ、やらしくはねえだろ?!」

 

「「……」」

 

 ちょっと待ってなんかすごい殺気と怒気が二方向から感じる…え、二つ??

 

 一つは時々送られるマックイーンの視線だけど、え、もう一つの視線誰?

 

 …いやまぁスズカに決まっているか。そりゃそうだよね、だってスぺとは姉妹のように仲がいいんだから──いやスぺをやらしい目では見てないけどね??

 

「おー集まってるな」

 

「あ、先生。おはようございます」

 

 先生はあの合宿でも使っていた車に乗ってきた。

 

 となるとやっぱり走り込みなのだろうか。そう思うのと同時にテイオーは明らかに怪訝な顔をしているのに気付く。走り込みだと分かったからだろうなぁ。

 

 俺はぽんっとテイオーの肩に手を置いて同情の顔を浮かべる。だけどテイオーには逆効果だったらしくウマ耳を後ろに立てられた、激おこである。

 

「よ~しお前ら集まってるな、今日は超長ロングランを行ってもらう。いつ休むのか、どのルートで行くのかなど、チーム全員でお互いを見ながら話し合って決めるんだぞ」

 

「ロングランっつったって、ゴールはどこだよ?」

 

「あぁ、そうだったな。ほい、これゴールな」

 

「……」

 

 ゴルシが渋々と紙を受け取り、その紙を広げる。

 

 俺も含めたスピカのみんなはその紙を後ろから横からそれぞれ見る。

 

 するとそこに書かれていたのは…なんかくねくねと蛇のようになって「旅館ココ」って書かれている。

 

 うん、これもはや地図としての役割果たしてない。

 

「旅館はフジタヤってところな。玲音、助手席に乗れ」

 

「あ、はい…」

 

 俺は言われるがままに助手席のドアを開けて、そして先生の車に乗った。

 

       ・ ・ ・

 

 車に揺られながら外の景色を眺める。青空の下で動く白い雲や家屋たちは後ろに流れていく。

 

 横目で先生を見てみるが、先生は相変わらず飴を舐めながら余裕の表情で運転をしている。

 

「……あの、先生」

 

「ん、どうした? この曲のリピートは飽きたか?」

 

「いえ、別にNEXT FRONTIERを流すのはいいんですけど…今どこに向かってるんです? もう東京はとっくに出てますし」

 

「まぁまぁ、着いてからのお楽しみだ」

 

「そうですか…自分は少し寝ます…」

 

「おう、着いたらちゃんと起こしてやるから安心しろ」

 

 そう返事を聞いた後に俺は座席を倒して脱いでいた上着を上半身に顔も覆うようにして、目を閉じる。

 

 車内に流れる音楽の音量が少しだけ小さくなる。それを認識するのと同時に音は徐々に遠ざかっていった。

 

       ・ ・ ・

 

 目を開けると──俺は草原にいた。青い空に白い雲、そして奥まで広がっている緑色の草。その奥に、その子は確かにいた。

 

 栗毛の毛並みをしたその子は俺の存在に気づいたのか、4本足を器用に動かして立ち上がり、そして俺の方に向かってくる。

 

「やぁ」

 

「……」

 

 鳴いたりする代わりに、長い尻尾をぶんっと振ってウマ耳をぴょこぴょこ横に動かして返事をしてくれる。

 

 …俺はあれ以降、眠ると高確率でこの4足歩行の生き物(この子)と出会う夢を見るようになった。この草原で、この子に出会ってただ時間が過ぎていくのを感じるだけのなんにも変哲のない夢。

 

 でも不思議と退屈はしない。むしろどこか心地いい。まるで友だちといるかのような、そんな感じがするのだ。

 

 だから俺はその子が座ったのを確認すると、座ってその子の身体に体重を預けて青空を眺める。

 

『────カに! ────!!』

 

 時々こうしていると頭の中にアナウンスが流れてくる。カニなんていう訳の分からない単語を叫んでいるだけなので、もう慣れてしまった。

 

 後ろに手をやると少し片目のさわさわした毛並みが手のひらに伝わる。なでなでするたびに、少しだけ身体の表面が少しだけ盛り上がっている気がする。

 

この毛並み、現実の世界ではあんまり撫でたことのない感触だ。ドーベルマンを撫でた時の感触と少し似ているのかな。

 

 そんな風に考えていると「ブルルッ」と少し鳴いてその子は立ち上がろうとする。俺は退くとまた器用に立ち上がった。

 

 いつもだったらその子が向こう側に走って終わり────なのだが、今回は違った。

 

 その子はその場を走り去らずに、ただただその場で左回りでくるくると回り始めた。

 

「どうしたの?」

 

 そう言っても返事は返ってこない。というか返事が人の言葉で帰ってきたらそれはそれで怖いのだが。

 

 ────なんて考えていると、1つの光景が脳内に浮かんだ。

 

 それは、あのダービーの時に見たようなもの。

 

 人間が4足歩行の生き物に乗って颯爽と駆け抜ける姿。

 

 なぜそれが今の俺の頭の中に思い浮かんだのかは分からない。

 

 でもそれを認識した後にその子の方を向いてみると…その子には鞍と手綱みたいなものが付けられていた。

 

 さらに言うなら何か顔辺りにマスクみたいなものが着けられている。

 

「……乗れって、こと?」

 

 本当にそれが正しいのかは分からないが、俺はその子に近づいて何か足場になっているところから足を掛けて乗る。

 

 いつもの視界とは少し、いやだいぶ高めになっていていつも見ている夢なのに、どこか別の世界に来たみたいだ。

 

 なんて感心していると、とすっとすっとゆっくりその子は歩き始める。

 

「わ、わわっ!?」

 

 思った以上にバランスが悪く、落ちそうになるけどなんとか踏ん張る。

 

 心なしか、その子は自分が乗りやすいように地味に微調整しているようにも見える。

 

 そうしてしばらくすると、なんとなくだけどコツを掴んでくる。最初よりは座るところがズレて落ちかけるなんてことは無くなった。

 

「ブルルッ!」

 

「どうしたの? もしかして、もう少し早く走りたい?」

 

「……」

 

「いいよ、君の本当の速さ────見せて」

 

 そう囁いた瞬間、みしっ…と地面が抉れる音がした。そして、風が吹く。

 

 反射的に俺は姿勢を低くして、縄をぎゅっと握って振り落とされないようにする。不安定の足場に、揺れる接着部分。全てが不安定で、怖い。

 

 でも、その子はどんどんスピードを上げていく。俯いているからこそ、少しずつ下にある草たちが後ろに流れていく早さが上がっていることに気付く。

 

「(なんでこの子はこんなに…)」

 

 と、思った次の瞬間段差っぽくなっていたのかガタッと揺れる。それによりさっきまで俯いていた姿勢が胸を張るような感じになる。

 

 そして、自分は見てしまった。

 

 風を切り…草花、雲などあらゆるものが瞬時に後ろに流れていく。

 

 ふと、俺はこう思った。

 

 ────風になったみたいだ。

 

       ・ ・ ・

 

「おーい、着いたぞ~」

 

「ん、んんっ…」

 

 目を開けると、そこは車の中だった。隣には先生もいて、少しドアを開けている。

 

 リクライニングを戻してから俺は助手席側のドアを開けた。すると聞こえてくるのは近くで流れているであろう小川の音、そして鼻をすんすんっとしてみると、なにやらちょっと独特な匂いがこの周辺からすることが分かった。

 

 これは…温泉の匂い、だろうか。

 

「先に行ってるからな~」

 

 そう言いながら先生は目の前に立っている旅館であろう建物に入っていった。

 

 俺は不思議に思いながら、携帯を取り出して今の場所がどこなのかマップで調べる。

 

 すると、そこは隣県の温泉街のようだ。

 

「……いや遠くに来すぎでは…?」

 

「おーい、チェックイン終わったからこっち来い~」

 

 俺は訳が分からないまま、先生がいる旅館に入る。

 

 女将さんらしきおばあさんに案内されて、和室に通される。

 

 先生は持っていたバッグを置くと「ふ~…」とため息をつきながら、座椅子に座る。

 

「あの、先生…これは一体…明後日は”スズカ”の天皇賞なんですよ?」

 

「確かに明後日はスズカにとって大切なレースがある。だがだからこそ、休むことも大切だろ?」

 

「それは、一理あるかもしれないですけど…でもいくら何でも遠すぎでは?」

 

「ウマ娘から見れば、あんなのちょっとしたハーフマラソンみたいなもんだ」

 

「それは流石に言いすぎでは…」

 

「まっ、細かいことは気にすんな。せっかくここまで来たんだ、入らなきゃ損だろ?」

 

 そう言いながら先生は立ち上がって、腰に手を当てながら伸びをする。

 

「……俺、金ありませんよ?」

 

「安心しろ、俺の奢りだ」

 

「明日槍でも降るんです?」

 

「なんでそうなるんだよ!!!!」

 

       ・ ・ ・

 

 お出かけに誘われる頻度は少ない訳ではないが、温泉はあまり行ったことがない。

 

 というのも叔父さんと叔母さんと旅行やお出かけはあんまりしていないからだ。

 

 それはまぁ自分が他人だから、あーいう時は夫婦水入らずで過ごしてほしいという意味もあったのだが。

 

 多分最後に行ったのはマックイーンに誘われていったメジロ家の別荘の時だったかな…。

 

「はぁ~、生き返る~…」

 

「おっさん臭いですよ、先生」

 

 頭と体を洗った後、先生はそのまま温泉にどぶん。俺は手だけ入れて温度を確かめて、少し熱いなと思いながらとりあえず半身浴で温泉に入る。

 

「おっさんは酷いな…これでも日々の業務が忙しいんだよ」

 

「お疲れ様です」

 

 今思うと、俺は先生がどんな仕事をしているのか具体的には知らない。

 

 よく聞くのが『日本のウマ娘トレーナーは業務内容の割に賃金が合わない』というものだが、俺の業務内容のイメージは基本、コーチみたいなものと出走書類の提出くらいな気もするが…。

 

 まぁ、トレセン学園も組織。仕事が平等に振り分けられるんだろう。

 

「なぁ、玲音。一ついいか?」

 

「なんです?」

 

「お前は、スズカの隣にいたいか?」

 

「……急にどうしたんです?」

 

「いや、ただの興味本位だよ…昔の、大体2年前のことを思い出してな」

 

 二年前でこの時期…というと、俺が受験した時のことを言っているのだろうか。

 

「お前はあそこに来た意味を『幼かった頃の約束を守りたい』って答えたよな?」

 

「えぇ…そうですけど」

 

「つまり簡単に言えば、スズカと再会してずっといるってことだ」

 

「……」

 

「もし、もしだ。スズカが今の殻を破ろうとしている時に、お前は────邪魔になるって分かっても、ずっと傍にいるのか?」

 

「っ…」

 

 あまりにも真剣な声で問われたからこそ、俺は固唾を飲んだ。

 

 同時にこれが、「お前は遠い存在のスズカの隣にいられるのか?」という意味合いもあるのだと、自ずと理解した。

 

 確かに今の俺はまだ、トレーナーのノウハウを学んでいるだけのただの生徒。

 

 それに対して、スズカは今では日本中で話題の雲の上の存在。正直、自分なんて隣に立つ資格なんてないに等しいだろう。

 

 でも、だとしても───。

 

「……俺は、ただの幼なじみなんかじゃない。スズカの走りに魅了されている1ファンでもあるんです」

 

 だからと、俺は先生の瞳を真っ直ぐ見て、言葉を続ける。

 

「必要なら離れます。でも俺は常にスズカの隣にいて、逆もそうだ。俺たちは確かに繋がっている。そしてその繋がりをいつか周りの人たちにも見えるくらい、相応しい男(トレーナー)になるだけです」

 

「……そうか」

 

 そう一言呟きながら、先生は天井を仰ぎ見る。

 

「……すげえよ、お前は」

 

「なんか言いました?」

 

「なんもねえよ、露天行くぞ」

 

「行ってらっしゃいです」

 

「お前は行かないのかよ!?」

 

 たまには他の人と一緒に温泉に行くのもいいと思った。

 

 

 

 

 




スズカ「あの、ヒビルさん?」
ヒビル「……」
スズカ「秋天、終わりましたよ?」
ヒビル「はい…」
スズカ「年明けまで半月ですよ?」
ヒビル「だ、第7Rは…年中に()」

ということでお久しぶりです。ヒビルですそして申し訳ございません_:(´ཀ`」 ∠):_
大学生活が地味ーに忙しくて、あとシナリオ制作や小説大賞やら、やらやら()
ほんと年中には終わらせたいです、暖かい目で見守ってください…。(このお話もここまで長くなるのは想定外だった)

・次回はその後の合流シーンのお話です。
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