少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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 前回のあらすじ:チーム・スピカの練習のゴール地点へと最初に着いた玲音とトレーナー。温泉に入りながら玲音は先生に対し、自分が今思っていることを赤裸々に話した。

・今回は若干キャラ崩壊があります。前半はBUCK-TICK『ケセラセラ エレジー』という曲を聞くと玲音とスズカのシチュを追体験できます。


ケセラセラ エレジー / 本音

 

 日が沈み、道路に備え付けられた街灯が灯り始めしばらく経った後、暗闇の中から微かに動く影があった。

 

「おーい! みんなー!!」

 

 そう叫ぶとその影の速さが幾分か増した。その中でも一つだけ抜きん出て速い影が一つ。

 

 それが10mくらいになると街灯なんてなくても誰だか分かった。そう認識する間にも影は街灯の光に当たってその姿を現す。

 

「お疲れ、スズちゃん」

 

「レオくん」

 

「ここまでの道のりはどうだった?」

 

「うん、確かにとてもキツかった練習ではあったけど…でもそれ以上に嬉しいことが分かったの」

 

「……嬉しいこと?」

 

「私たちを応援してくれる…ううん、ウマ娘を応援している人たちは私たちが考えている以上に私たちを見てくれているってこと」

 

「そっか…結構ためになったんだね」

 

「うん」

 

 少しの間だけ、妙に長い静寂が訪れる。

 

 でもお互い視線を外すことなく、スズカは尻尾をぶんっと軽く、でも勢いよく振った。

 

 そしてそんな静寂を切り裂くようにドタタタッと音を立てて、みんなが一斉に到着する。

 

『あ〜! 疲れたぁ〜!』

 

 全員で息を合わせるようにその場に座り込むみんな。俺は用意していたタオルとスポドリをみんなに渡す。

 

「あ、玲音さん。ありがとうございます」

 

「お疲れスペ、キツかった?」

 

「そりゃもうなまら疲れたべ…」

 

「北海道の方言が出るくらいには疲れたんだね…」

 

「でも! 嬉しいこともあったんです!」

 

 そう言いながらスペはジャージのポケットにてをつっこみ、手を突っ込み、何か手のひらサイズのぬいぐるみみたいなものを取り出す。

 

 それはちょっと不恰好ながらも手作りでできていて、特徴的にスペをモチーフにしているように見えた。

 

「道端で会った女の子にもらったんですよ、「おねーちゃんおうえんしてる!」って!」

 

「…なるほどね」

 

 さっき言っていたスズカのセリフがよく分かった。

 

 同時に先生がなぜこのタイミングでこんな練習メニューを行ったのか理解できた。

 

 普段トレセン学園付近での走り込みというのは他のチームのウマ娘もいる。だからこそ川の土手で走っていたとしても、そこまで特別ではないというか、走るウマ娘が通るというのはごく普通の光景なのだ。

 

 だからこそあえて、こんな辺境の地まで走ることによって『応援してくれる人の身近さ』を認識させる。

 

 それがこの練習の目的なんだ。

 

 やっぱ先生はすごい…こんな認識を、このタイミングでみんなに教え込むなんてすご──。

 

「ぎゃああああああああああああ!!??」

 

「……」

 

 先生の方を見てみるとマックイーンがパロ・スペシャルを決めていた。

 

 というかマックイーン、キ〇肉マン知っているのか…。

 

 なんかあそこまで顔が怒り露わになっているマックイーンは初めて見た気がする。

 

「と、とりあえずお前ら、ここから先にある温泉入ってこい。疲れた身体に染みるぞ~」

 

『はーい』

 

「あ、あと玲音。お前は外で全員が出てくるまで外で待ってること」

 

「鬼ですか??」

 

 いくら10月の終わりとは言えど、日中は確かにまだ温かい。

 

 だが夜となれば話は別だ。夜は普通に冷えるし、なんだったらそこまで上着とか持ってきてないし…。

 

「一応、こいつらも中学生とかがいるからな、管理する人間は必要だろうよ」

 

「いや…まぁそっか」

 

 確かに忘れそうになるけど、テイオやウオッカ。スカーレット、スぺは中学生。高校生はスズカと…一応ゴルシ? しかいない。

 

 でもそうすると二人が温泉に入れなくなるから、必然として最初に温泉を楽しんだ俺がその役になるのはまぁ利に適っている。先生は慰労旅行の意味合いもあるだろうし、休みたいんだろう。

 

「分かりましたよ…」

 

「んじゃ、よろしくな」

 

   ***

 

 かこんっと桶が置かれる音が響きます。

 

 私は貯めたお湯を優しく汗のかいた身体に掛けます。

 

 外気で冷え切っていた体に熱いお湯がかかり、少し身体をビクッ!っと強張らせてしまいますが、それとほぼ同時に外から中へと広がっていく温かさが、とても心地いいです。

 

「わぁ…スズカさん、とても肌つやつや…それに髪の毛が本当に綺麗…」

 

「スぺちゃんこそ、いい肌をしているわ」

 

「わぁ…! ありがとうございます!」

 

 尻尾をぶんぶんと振るスぺちゃん。でもちょっと濡れているから水滴がこっちに飛んできてます。

 

「にしてもスピカのみんなでお風呂ってなんか新鮮だなー。ボク、パパとママ以外と行くの初めてかも」

 

「そうですわね、わたくしはメジロ家の者たちで入ることはありますが、その他の人とは初めてかもしれませんわ」

 

「あ、でもあれはありませんか? 小学校の時の自然学習とか修学旅行!」

 

「あ~それならオレ、京都でまぁまぁ心地いい温泉に入ったことあるぜ」

 

「あ~ボクは東海の方だったから修学旅行は東京だったんだよね…」

 

 そう喋りながら各々が温泉に入るために体を洗います。ゴルシ先輩はもうさっさと洗って露天風呂に入っていきました。

 

 私たちもある程度身体を拭き終えた後、温泉に浸かる。少し熱めの温泉が、冷え切った冷気で冷たくなった体を外から温めてくれる。無意識に「ふぅ~…」と自然と深い息を漏らしてしまいます。

 

 長距離走の疲れがその息からふわふわと出ていくように、とても穏やかな気持ちになります。

 

「あぁ~生き返る~」

 

「ちょっとあんた…少し男っぽいわよ…」

 

「きゃっ!? テイオーなにをしますの!?」

 

「にっしっし! テイオー様お得意のテイオー水鉄砲だー!!」

 

「きゃあ!?」

「ちょっ!?」

「うわぁ!?」

 

 中学1・2年組はとてもはしゃいでいる。横に視線を向けるとテイオーがやっている水鉄砲をやろうとスぺちゃんが手を動かしている。でもできなくて少しもどかしそうにしている。

 

「スぺちゃん、こうやるのよ」

 

 そう言ってお手本のように水鉄砲をやってみる。するとスぺちゃんは嬉しそうにそれを真似しています。

 

 そしてちょこんっと水が出ると耳を真っ直ぐに伸ばして温泉の中ですが、波がこっちに伝わってくるくらいにスペちゃんは尻尾を動かしています。

 

「おいおめえらここは温泉だぞ? もっと静かにくつろげよ…」

 

 そう言いながら外から戻ってきたのは、ゴルシ先輩でした。

 

 そしてそんな様子を見て、驚いている子が数人。

 

「あ、ありえませんわ?! ゴールドシップさんはむしろ温泉をプールのように泳ぐはずですわ!?」

 

「そうだよ! なんだったら水鉄砲を持ってきて、ボクたちを攻撃するよね!?」

 

「あたしを何だと思ってんだよ…。それよりいつまで中にいるんだ? おめえらもさっさとこっち来いよ」

 

 そう言うとゴルシ先輩はまた外の方に出ていってしまいました。

 

 他のみんなは少し困惑していますが、私はすっと立ち上がってゴルシ先輩が向かった外に向かいます。扉を開けると冬入りかけの冷たい夜風の寒さが、火照った私の身体を冷まします。

 

 そして目の前に広がったのは、少し欠けた月と星々が点々と光り輝く夜空。そして岩造りで作られている露天風呂。

 

 ゴルシ先輩の長く綺麗な白髪の長い髪が温泉の波によって微かに揺れている。こうして見るとゴルシ先輩はいつも不思議な言動をしているだけで、容姿端麗で生まれてくるウマ娘の中でもかなりの美人な気がします。

 

「お、最初はスズカか…」

 

「えぇ、隣いいですか?」

 

「ここは温泉だぞ? そんな改まる必要はねえだろ」

 

「……そうね」

 

 そう答えて、私は露天風呂に入ります。中にあった温泉よりも少し熱めの温度は、外気に触れて冷めた身体を再び温まる。

 

 しばらくするとスぺちゃんや他のみんなが中から出てくる。みんな早く温まりたいのか、小走りで近づいて、そのまま勢いよく浸かるという感じです。

 

「あ、星がすごく綺麗ですよスズカさん!」

 

「えぇ、本当ね」

 

 レオくんと北海道の地元で見た夜空ほど星は多くはないけど、温泉の中でみんなとこんな風に夜空を見上げてみる星も悪くないと思えます。

 

 全員でふ~っと息を漏らす────そんな時ふと、視線を感じました。

 

 その方向を向いてみると、ゴルシ先輩がどこか神妙でどこか真剣そうな面持ちで私を見ていました。

 

「なぁスズカ────高3になったら海外に挑戦するってマジなのか?」

 

「────」

 

 ゴルシ先輩の口から発せられた言葉に対し、私は言葉を失い、ただただか細い息を漏らすことしかできませんでした。

 

 そしてそんな言葉を聞いたスぺちゃんたちも、驚いた顔でこっちを見てきます。

 

「……どこで、それを?」

 

「あたし聞いちまったんだよな、偶然にも。その時はトレーナーに対して新しく生み出したゴルシスペシャルを喰らわすつもりだったんだがな…」

 

「そうですか…」

 

「え、じゃあスズカさん来年はこっちにいないってことですか!?」

 

「……そうね、この際話しましょうか」

 

 そうして私は2022年の2月から海外に行くかもしれないことを話す。

 

 もちろんそれはこの先の天皇賞・秋。そして次にあるジャパンCで成績を残せればといった感じですが。学園長やあの生徒会長からも勧められていて、年末にほぼ確定みたいなことになっていることも話しました。

 

「ってことは年末はアメリカってことですか…」

 

「わたくし、スズカ先輩の走り、もっと身近で見たかったですわ」

 

「え、いつまで向こうにいるのスズカ?」

 

「それは……分からないわ。一年で帰るかもしれないし、もっと長い間向こうにいるかもしれない」

 

「そう…ですか……」

 

 横を見てみるとスペちゃんがウマ耳を後ろに倒して、どこか悲しそうな顔を浮かべていました。元々秋天が終わったくらいに伝えるつもりでしたから、私自身がそこまで心の準備ができていなくて、だからこそその表情は私の心に深く突き刺さりました。

 

「……ジャパンC、ですよね」

 

「え、えぇ…秋天の戦績がよかったらって前提だけどね…」

 

「なら!!」

 

 ザバッ! とスペちゃんは音を立てながらその場から立ち、こっちを見ず…その目の前、いや、目の前のさらに先に見えているナニかを真っ直ぐに見つめながら、とても真剣な声色で言葉を続けます。

 

「私も出ます────ジャパンCに!!」

 

   ***

 

 道の近くにある岩場に座って、携帯を弄りながらみんなが温泉から上がるのを待つ。

 

 耳に挿しているイヤフォンからは自分の大好きなバンドのツインギターの音が両耳を叩き、ベースとドラムの音が体の芯を震わせ、男性ボーカリストの妖艶たる魅了される魔王ボイスが全身に貫かれる。

 

 いつ聞いても色褪せることはない。やはり何十年も続いているバンドは伊達ではないってことなんだと思う。

 

 なんて思っていると旅館浴衣が視界の端に映ったので、俺はイヤフォンを取ろうとする。

 

「えい」

 

 そんな掛け声が聞こえたかと思うと、右耳が解放感が訪れる。イヤフォンが片耳だけ外される。

 

 そのまま視線を向けてみると、スズカが自分のウマ耳にイヤフォンを挿して、自分の左に座って、同じ曲を聞いている。

 

『幻想の始まりだ 運命共同体 君と繋がって』

 

「……面白い曲ね」

 

「…ケセラセラ エレジーって言うんだよ」

 

「なんとかなる…悲歌?」

 

「面白いネーミングだよね、曲自体もかなりすごいけど」

 

「えぇ、確かにあまり聞かない感じね」

 

「…上がるの早いんだね」

 

「ちょっと温泉が熱くてね、早めに上がっちゃった」

 

「そっか…んじゃ、みんな待つ感じかな。スズちゃん先は戻ってていいよ」

 

「ううん、私も待つわ。涼みたい気分だしね」

 

「あまり体冷やしすぎないようにしなよ? 女の子なんだから」

 

「ふふっ、心配してくれるんだ」

 

「そりゃね、幼なじみだし」

 

『ほら 世界が回る 世界が 狂う ねぇ 止まんないだろう?』

 

 温泉上がりのスズカは、なぜだかいい匂いがするような感じがした。温泉自体は昼間に入ったのと同じなはずなのに。

 

 それに湯上がりでどこか髪の毛が煌びやかで、頬が紅潮していて…なんか妖艶な何かを感じる。

 

 そのまま二人で同じイヤフォンで同じ曲を聴く。そんな当たり前に思えるけどあまりない、ちょっとした非日常に対して、俺の心はちょっとうるさいくらいに鼓動する。

 

「……ねぇ、レオくん」

 

「んっ?」

 

「天皇賞・秋が終わったら…伝えたいことが、あるの…」

 

「……伝えたいこと?」

 

「うん…それで、さ…もし────」

 

『ほら 未来が揺れる 未来がユラユラ さあ 視えるか? 解るか?』

 

「……ううん、この願い事は、まだ胸の中に潜めておこうかな」

 

「…そっか、何をお願いされるのかちょっとドキッとしちゃったよ」

 

 軽い笑みを向けると、スズカも優しい笑みを返してくれる。

 

 そうして、俺たちは目を閉じてこの曲の最後のサビのフレーズを聞く。

 

『哀愁のparadise 進め未来へ I love you forever ケセラセラ エレジー』

 

       ・ ・ ・

 

「 お 前 ら 食 い す ぎ だ ぁ ! ? 」

 

 そんな悲痛な先生の声が部屋いっぱいに響く。目の前では今回のランニングで色々鬱憤が高まっていたのか。チームのほとんどが高いものを注文したり、にんじんを注文していたりする。

 

 というかやっぱウマ娘って結構食べるんだなぁ。まぁ人間のサイズであそこまで驚異的な身体能力が出るのだから、エネルギーの消費が普通の人よりは激しいんだと思う。

 

「おいおい新人、お前ももっと食えよ」

 

「いや…自分も楽してた人間だし」

 

「そんなつまんねぇヤツに育てた覚えはないぞ」

 

「ゴルシ…俺はお前の血縁者でもなんでもな────むぐっ!?」

 

 急に口元になにかを突っ込まれる。一瞬驚いたものの、舌の上から感じるほのかな甘みを感じ取り、咀嚼をする。

 

 噛むとそれが牛肉だと理解し、さらに口を動かす。噛めば噛むほど肉汁と脂の甘味が溢れ出し、口の中がこの牛肉でいっぱいになる。そしてそのまま、飲み込んだ。

 

「どうだ、美味いだろ?」

 

「……んまい…」

 

「店員ここにカツオのたたきにとちぎ和牛の盛り合わせ追加で~!!」

 

「玲音!! お前まで俺を裏切るのか!?!?」

 

 すごく悲痛な声が聞こえるけど────そっとしておこう。

 

 拒み続けたが、なぜだかゴルシは俺に食材を食べさせようとする…なんか楽しんでるのか?

 

「れ、玲音さん! このキスの天ぷらも中々に美味ですわよ!」

 

「玲音玲音~この時雨煮すごく美味しいから食べてみて~!」

 

「このニンジン! なまら甘いべさ~!!」

 

「えっと…レオくん、ニンジン食べる?」

 

「……いただくよ…」

 

 なんか流れは変だけど、まぁ楽しい夕飯になった…先生にとっては悪夢かもしれないけど。

 

 ……っと思ったけど、先生はどこか苦笑いながらも笑みを作っていた。

 

 案外先生はこういったわちゃわちゃが好きなのかもしれない。

 

「……あ、やべ」

 

「どうしました先生?」

 

「いや、玲音を乗せてきたあの車…助手席含めて7人乗りなんだよな…」

 

「え。それどうするんですか俺?」

 

「あら、でしたらわたくしの方で遣いの者を出しましょうか?」

 

「おっマジかマックイ―ン、助かる」

 

「ではわたくしと玲音さんは遅れて戻りますので、学園への報告はお願いいたしますわ」

 

「おう、任せておけ」

 

「……」

 

「スズカさん? どうしたんですか?」

 

「ううん、なんでもないわ」

 

       ・ ・ ・

 

 スズカたちと別れて少しすると、マックイーンの爺やさんがやってくる。

 

 そして俺とマックイーンは車に乗り、来た道を戻る。窓からは街明かりが高速で流れていく。

 

「あの、玲音さん」

 

「ん、どうしたの?」

 

「……スズカさんのこと、どう思っていますか?」

 

「え?」

 

 マックイーンの口から発せられたあまりにも唐突な質問に、俺は素っ頓狂な返答を返してしまう。

 

 しかしそのマックイーンの質問を少しずつ脳が理解すればするほど、逆に困惑してしまう。それも隣にいるマックイーンの表情が少し悲し気なのを認識すれば尚更だった。

 

「…実は、少し早めに上がったんです温泉。それで玲音さんのところに行こうとしたら…玲音さんと、スズカさんがいて……声をかけようと思ったんですけど、二人の空間ができていて…」

 

 ぼそぼそと、か弱い声で話すマックイーン。その声は高速を走る車の走行音でかき消されそうだった。

 

「…空間もなにも、”スズカ”は幼なじみだよ」

 

「呼び捨てで言うんですね、いつもはスズちゃんですのに…」

 

「別にいいでしょ…とにかく、俺とスズカは幼なじみ。10年間の空白の時間を、今埋めているだけだよ…」

 

「なら、わたくしのことはどう思っていますの」

 

「……え?」

 

 マックイーンが言ったことを今度は瞬時に理解する。だが、知ったからこその困惑の沈黙が自分の中で生まれてしまった。

 

 マックイーンの表情を見るとさっきとは打って変わってとても真剣な顔になっていた。

 

「どうなのですか」

 

「……」

 

 その真面目で真っ直ぐな瞳に当てられたのか、俺は何も考えないまま。口を動かし、本音を漏らし出す。

 

「マックイーンは、俺にとっては妹みたいな存在だよ…変わることは、ないと思う」

 

「……わたくしは、そんなことを聞きたいのではありませんわ。1人のウマ娘…いえ、女性としてどうなのかと聞いてますわ…」

 

「なら、もっと答えは単純。俺は君を、妹としてか見られない」

 

「っ…年齢が幼いからですか…わたくしに、スズカさんみたいな魅力がないからなのですか…」

 

「いいや…マックイーンはとてもいい女性だよ。夢に向かってひたむきに、天才と言われながらもその影は超努力家なのは、俺自身が見ている。でも、やっぱ俺にとってマックイーン…ううん、スズカも含めて、みんな妹分としか見られないんだ」

 

 それは多分、自分がとても小さい時に芽生えた俺を形成するものの一つ。

 

「俺の母さんが、死ぬ前に残してくれたんだ。『ウマ娘の走りは、人々に感動を、奇跡を与えるものだ』って。そして俺はスズカの兄みたいなものだった。妹に近くにいて守ってあげること。それが兄としての役割。その時はスズカだけだったけど、今はマックイーンや…他のみんなにも当てはまることになんだ」

 

「…そうですか」

 

 それ以上、マックイーン何か話しかけてくることはなかった。ただお互い、近い方の窓から流れる明かりを眺めていた。

 

 そして、そのまま高速を降りてトレセン学園前を通り、後生寮の前で車が停まる。

 

「爺やさん、ありがとうございました。マックイーンもありがとうね」

 

「いえいえ、夜中で道も少し暗いので足下にお気をつけて」

 

「……」

 

 マックイーンはこっちは見るものの、その場を動こうとはしなかった。

 

 俺は会釈をして、シートベルトを外し、車外に出る。

 

 11月に入ろうとしているこの時期の夜風は、とてもひんやりとしている。そんなことを思いながら俺は歩き出す。

 

「(残り2日…スズカの頼み事もあるから、早朝のために帰ったらさっさと寝ないと…)」

 

 なんて思っていると、後ろからタッタッタッ…と何かが走ってくる音が聞こえる。朝ならともかく、夜にこんな音は珍しく思った俺は振り返る────その瞬間、ポスッと少し強い衝撃が胸辺りから感じた。

 

「うぉ…マックイーン?」

 

 そうマックイーンだった。マックイーンが俺の方に向かって走ってきて、そのままシャツを握りしめながら顔を俺の胸に埋めている。

 

 よく聞けば、啜り泣くような声も聞こえた。

 

「やっぱり…イヤ、ですわ……わたくしはこれからもずっと、慕いたいですわ。それは妹ではなく、一人の淑女として…。

 

 玲音さん、お願いです。もしわたくしの悲願を達成したら────その時は…

 

 ────結婚、してください。

 

 

 

 




S「(尻尾地面にびたんっ…びたんっ…!)」
H「(正座)」
S「終わりませんでしたよね?」
H「はい…」
S「……1月には、終わりますか?」
H「終わらせ…たいです…」
M「なんなのですのこれはぁ!?」

・はい、明けましておめでとうございます。ヒビルです()第7Rは2022に完成させたかったです。(遠い目)そして新年一発目がこんなにも浮き沈みの激しい長めのお話で本当申し訳ございません()

・ケセラセラ エレジーはこの物語のサブタイトルの『ススメミライへ』の元ネタです。

・次回、

『────再び、お目にかかりましたな』

 ウマ娘は、出ません。
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