少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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前回のあらすじ:前代未聞の事故が起きてしまった秋の天皇賞、玲音やスズカ、それを見たみなはそれぞれは何を想うのか。

・UA200,000~207,000を突破してました。ありがとうございます!




第8R「過ぎて行った風は、どこへ征く」
栄光の代償


 ガタガタっと身体が揺れる感覚で目覚める。電車やバス、車とと違うこの感覚は何度か経験している。だかるこそここがどこだか分かる。

 

 ゆっくりと目を開けると、そこは青を基調とした空間…ビロードの館だった。恐らく四度目くらいだろうか、見慣れた空間だと気づいた俺は、力を抜かして客車の席に体を預ける。

 

 ただ妙だ、いつもは聞こえるピアノの音が聞こえることもなく。目の前にいつも招いてくれる老人やその従者らしき姿も見えない。

 

どこかいつもと違うこの状況に、俺はなぜだか嫌な汗を流した。

 

「やぁ」

 

 突然、声が聞こえた。それも向かいなどからではない。俺の隣からだった。驚きながらも俺はその方向に振り向く。するとそこにいたのは子どもだった。特撮ヒーローのソフビ人形を持ちながら、こっちを見つめている。

 

 だが、その姿に俺は違和感を覚えた。いや、それよりもその子自身にだろうか。なぜならその姿は、俺の幼少期と全くの瓜二つだったからだ。

 

「何をそんなに困惑しているの? あぁ、この恰好が気になる?」

 

「それもそうだが…。お前は?」

 

「ふふっ、僕は死神さ」

 

「死神…?」

 

「そう、死者を冥界へと導く存在さ」

 

 そう言いながら死神と名乗った少年は、いつもは老人がいる席の方へと歩いていく。だが、よく二次創作などで見られる鎌などは持っていない。普通の子どものような恰好だった。

 

 しかしなぜだろうか、背筋が凍り、そして心臓の辺りがきゅっと締め付けられるような嫌な感覚が俺に走っていた。

 

「ただそうだね、君はまだ死んでいないんだよ。ちょっと危ない状態、だから僕がここに現れた。いつでも魂を回収できるようにね。でも不思議だ、こんなところに招かれて、ましてや具現化してしまうなんてね」

 

「……具現化するのが珍しいのか?」

 

「それはもちろん。僕たちは冥界の存在、いわば普通の人には見えるはずもなく、姿がある訳でもない。人間が生み出した仮初の嘘の姿ならあるけど、本来はそれすらも具現化されることはない。でもここはどうやら、生と死の狭間みたいな場所みたいだ」

 

 よっと…と声を出しながら、長机の上に座る少年は、そのまま子どもが遊ぶかのようにソフビ人形を分解し、そして地面に落とす。

 

 その子どもの無邪気さのある行動が、今の俺にはそれが現状の自分のことだと思ってしまう。

 

「あの後、どうなったんだ?」

 

「僕が知っていると思うかい?」

 

「……だよな」

 

「まぁ知っているけどね」

 

 くるりっくるりっと指を回しながら、目を閉じる少年。そうすると、なぜだろうか。その頭上辺りに霧のようなものが現れ、そしてその中にアナログ放送くらいの画質の背景が映し出される。

 

 そこに映っていたのは東京レース場だった。全体図から少しずつズームされていき、ターフがくっきりと見えた。観客席とレースしている様子が見えるようなアングルでその背景は動きを止めて、動画が再生されるかのように周りが動き始める。

 

 そこにはまさにゴールを目指すスズカと、そして柵を乗り越えてターフの方へと走っていく自分の姿があった。

 

 そして俺はスズカが通過するであろう位置について、そして両手を広げている。

 

 ラスト十数mでスズカが態勢を崩したのを察し、俺は咄嗟に前に出てスズカを受け止め──そして吹き飛ばされた。

 

 

「あの存在は車レベルの速さで走る。いくら質量や最後十数mは力を失って原則しているとはいえ、君にかかった力は相当なものだろうね」

 

「……だなぁ…」

 

 俺は見た目以上に酷いことになっていそうな俺自身の姿を見て、恐怖心を覚えていた。周りから見たら自動車事故に自分で遭いに行くようなものだからだ。

 

 ソファーに深々と座って、俺は不思議に思う。なぜあんなことをしたのだろうかと。

 

 確か俺はスズカの名前を読んだ。しかしその後の記憶が全くないのだ。ただ頭の中が真っ白になって、そしていつの間にかここにいた。

 

 いや、一つだけ覚えていることがある。スズカだ、スズカが俺の前で笑顔で笑っていた。恐らくそれが現実の自分が最後に見た光景なのだろう。どこか安心しているような、嬉しそうなような…幼いようなあの表情が脳裏から離れていなかった。

 

「っ、そうだ! スズカは…!?」

 

「あの娘は無事だったよ。最も大きな代償はあったけどね。命に別状はないさ」

 

「そ、そっか…よかった」

 

「でもいいのかい? さっき死んでいないとは言ったけど、かなり危ない状況だよ。それでもなお他人の心配をするのかい?」

 

「スズカが無事なんだ…どういった受け身やら受け止め方したのか分からないけど……でも、これで命が尽きたって構わないよ」

 

「……そっか」

 

 その死神と名乗った少年は、何も言うことはなかった。

 

 ──ふと、左手に包み込むような温かさが広がった気がした。

 

       ***

 

「今年のレース参加資格を剥奪…ですか」

 

 あの波瀾の秋の天皇賞が終わった数日後、俺は学園のトップの人と話し合っていた。題材としてはあの秋でやらかした生徒、つまり玲音の処遇決め、そしてそれを止めれなかったチーム代表の俺やスピカ全体の処遇決めといった感じだった。

 

 部屋に入った瞬間に理事長だけではなく、そのさらに上の方々までいることに気付き、その空気があまりにも重かった。

 

 そうして話しが始まり、監督不行き届きになっていたことや、あのシーンをもう一度スクリーンで見たりして、誰が悪いといった論争になり、少しの退出を命じられた後、戻ってそのまま伝えられた処遇結果だった。

 

「君のチームの一員が起こしたこの事故は、URAが設立されて以降、前代未聞の出来事だ。我々はこのことを強く受け止めて、メディアやファンの方々に謝罪をしなければならない。それにはそれ相応の罰があるのは至極当然である」

 

 何もかも正しかった。自分の意見を言える隙など全然なかった。だからこそ、悔しい…ただただここで立って、聞き入れることしかできない。

 

 自分の無力さを改めて、思い知らされる。

 

「ただし、チームに属するウマ娘・及びトレーナーに対する処罰はこれ以上の追求は無しとする。来年、つまり202X年1月からはレースの参加権利を再び得ることができ、またそれまでのトレーニングに関する制限は設けないものとする」

 

 その言葉を聞いた俺は、少し安心してしまった。生徒を危険に合わせてしまった処罰としてはまだ軽い方だ。

 

 だが同時に、スペには申し訳ない気持ちが出てきてしまう。ジャパンCのためにトレーニングを積んでいたが、それがパーになってしまうからだ。最も、今はスズカのことがあるから、100%全力を出せるかと言われればほぼNoとしか言いようがないが。

 

「あの、れ──谷崎玲音は、どうなりますか」

 

「彼にはしばらくの休学期間を設ける。反省、そして回復するまでというところも大きいが、今は病院から出さない方がいいだろう。」

 

「メディアや大衆の目から守るため、ですか」

 

 そう呟くと、お偉いさんはゆっくりと頷いた。

 

「先にも言ったが、あの事故はURA設立して以来前代未聞の出来事だ。我々の対応もあるが、この世の中には不幸話や悪者物語をでっちあげ、人を陥れ大衆へ大っぴらに公開する存在だっている。ほとぼりが冷めるまでは休学が最適化だと我々は判断した」

 

「…………」

 

「何か他に聞くことはあるかね」

 

「いえ…大丈夫です」

 

「ならこれで会議は終了とする」

 

   ・ ・ ・

 

「────と、以上が今日の会議で決まったことだ。年内のレースに出れないのは残念だが、みっちりと練習するからそのつもりでな」

 

『…………』

 

 放課後、トレーニング時間になりいつものように部室に集まって、今日決まったことを話す。が、誰も返事はなかった。

 

 ゴルシ以外は全員耳をぱたんっと畳み、不安そうな顔を見せている。無理もない、今ここには"3人"もいない。

 

「ね、ねぇトレーナー…玲音は、大丈夫なの?」

 

「……あいつが目を覚ましたら、マックイーンが電話を掛けてくるはずだが。まだない」

 

 それを聞くと、テイオーがしゅんっ…さらに耳を低くし、尻尾も垂れ下がってしまう。

 

 ウマ娘の回復力は、かなり偉大だ。人間では全治にかなりかかる怪我すら、数週間で治ってしまうほどだ。

 

 しかし、玲音はただの人間だ。ハーフだとも聞いたことはない。つまりあいつに取ってあの接触は、車と接触するのとさほど変わらない。

 

 容態を医者からは聞いたが、そこまでいいとは言えない。はっきり言ってしまえば、危ない状態になる可能性だってあることも知らされた。

 

 だが俺には何もできない、できることとすれば…あれからずっと学校にも行かずに、ずっとあいつの傍にいるマックイーンのことを許すくらいだ。

 

 少ししか聞いていないが、なんでもあいつらは昔からの知人同士。ほぼ家族のようなものなのだろう、あれからずっと付きっ切りであいつのところにいる。

 

──────空中分解。

 

 その四文字が、俺の脳裏にこびり付いている。

 

 もしあいつがあのまま目覚めなくなったらどうなるか。その時は最悪なことになりかねない。

 

 スズカは恐らく負い目を感じ、マックイーンは立ち直れなくなる。仮に目覚めたとしても、スズカが負い目を感じるのはほぼ確定といってもいい。

 

 他のやつらも玲音やスズカのことを気にかけている。特にスぺとテイオー。この二人はそれが顕著に現れている。タイムもそうだが、どこかずっとそわそわしていてトレーニングに集中できていない。それは全員に言えることではあるが、テイオーなんかはガクッと落ちている。

 

「トレーナー…」

 

「……心配すんな、あいつは大丈夫だ」

 

 そう言いながら、俺はテイオーを見る。

 

 俺にできることは、虚勢を張ることだ。その言葉がどれだけ薄っぺらいとしても、これ以上不安にさせないためなら、なんでも言ってやる。

 

「あいつはいつも遅れてくる、それがちょっと今回は長いだけだ。またここに来る」

 

「……」

 

 その後、テイオーは何も言わなかった。スぺにも同じことを言ったが、あまり効果はなかったと思う。いつものような腰の入らないトレーニングを全員で行い、そして解散した。

 

 帰り際、もう冬を知らせるような冷たい風が、辺りに駆け抜けていった。

 

 

 




・2週間くらい~、うんもうちっと早く書きたい()

・多分この章自体が、だいぶ暗めになると思います。

・ウマ娘の映画見ましたけど…最高だった。レース表現、キャラ…最高。

・次回の話は二人ほどの視点から少し経ったお話をする予定です。
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