少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
※ 第8R全体シリアス的展開が多いです。予めご了承ください。
病室で目覚め、何事もないと思っていた。
でも、現実はそんなに甘くなかったらしい。主治医に言われたことが、頭のぐるぐると周る。
そんな様子を見た主治医は少しだけ、同情の眼差しを向けたかもしれない。でも医者は患者に真実を告げなければいけない。
だからこそ、口を開く。
「やはり、そうですか…落ち着いて聞いてくださいね谷崎さん。あなたは、痛みに対しての感覚が鈍くなっています。おそらく衝撃が脳に深刻なダメージを与えてしまったのでしょう…正直、植物人間にならなかっただけ奇跡と言ってもいいでしょうが」
「……」
マックイーンの主治医は刻々と淡々と、俺にとっては想像できないとを言葉にして脳内に叩き込んでくる。痛みが感じない…? そんなことってあるのか…? 大体、脳にダメージって…それってほぼ治らないってことなのか? など、疑問がどんどん頭の中に膨れ上がるように生まれる。
「すぐに理解することは難しいと思います。我々もリハビリなどはしっかり付き合いますので、もう数日は安静にしててください。痛みが分からない以上、完治できたかはレントゲンなどによるものでしか分かりませんからね」
「そう、ですか…」
「では、私はこれにて失礼…親御さんにも連絡しますので」
そう言って主治医は立ち上がり、そのまま病室を去っていく。そんな主治医の背中姿を見る余裕もない。俺は俯き、そのままゆっくりと深呼吸をする。受け入れたくないけど、でも受け入れないといけない。
俺にはもう、痛みを感じることができない。言ってしまえばその程度だ、確かに体の不調とか咄嗟の危険には気づかないかもしれない。でもそのくらいだ。それでスズカを助けられたならいいじゃないか。
「……まぁでもどうするか…」
しばらく安静、とのことだったので、俺はベッドに横たわろうとした。
と、その視界の端には俺自身が天皇賞の時に持ってきていたリュックが映った。
そうだ、あの時に気絶して搬送されたなら、荷物もあのままだろう。多分先生か誰かが持ってきてくれたのかな。そう思いながら俺は立ち上がってみる。なんか微妙に軸がずれているような、なんとも言えない感覚に陥りつつも俺はリュックのところまで行って、中身を漁る。
その中にはスマートフォン、今の若者にはなければならないものだし、こういう時の暇つぶしにはうってつけだ。
「流石に電源は落ちてるか…モバイルバッテリーは、あるな」
俺はスマホとモバイルバッテリー、そして充電コードを持ってベッドに戻る。しばらく充電していると、電源がついたので慣れた手つきでロックを解除して、適当にウマチューブを開き──。
『天皇賞秋・アクシデント発生! 乱入客がウマ娘に飛ばされる!!』
一番最初の動画にそれが出てきた。そこにはスズカと自分が当たった瞬間を捉えたサムネで、その周りには色んなコメントみたいなものが書かれている。
確かに自分がやったことは、絶対にやってはいけないことだ。下手すると俺が死に、スズカは一生残る傷を遺していた。それに何も分からない観衆からしてみたら、俺は狂った人間にしか見えないだろう。
「まぁ、そうなるよな…」
俺は失笑しながら、ウマッターの方も開こうとする…。
「──え?」
タップしようとしたウマッターのアイコン、そこには『99+』という数字が右横にあった。それが通知数だということは分かる。が、それはおかしい。
自分は確かにやっているが、自転車乗ってたまたま綺麗な景色やご飯があったら、撮って載せるくらいしかしていない。だからフォロワーなんてほぼないに等しいし、フォローだって一部の人しかしていない。
じゃあ、この通知数は…なんなんだ?
俺は、そのアイコンをタップした。
***
「はぁ、はぁ! はぁ…!」
爺やの送迎を待つことも億劫で、わたくしは学園を飛び出して、ウマ娘専用レーンのある道路を走っている。その後ろにはテイオーさんがついてきている。
…わたくしについて来ている? と一瞬思ってしまいましたが、それを振り払い、今はあの人がいる病院に向かって一直線に走る。
肺が苦しい、いつもなら大丈夫なこの道が、今のわたくしにはとてもきつい。心臓のリズムが、呼吸のリズムが、狂いに狂う。それはやはり、あの人に会いたいという気持ち、それが身体よりも先に行っている。
次の信号を曲がってしばらくすれば、病院に着く。と思っていると、目の前の信号が赤に変わる。ここまでノンストップでしたが、ようやくここで足を止めます。
「ま、マックイーンってこんなに早いんだね…」
「子どもの頃から、よく走っていたので」
とは言っても今のわたくしに余裕はありません。膝に手をつかずに横腹に手を当てて、ゆっくりと深呼吸する。トレセン学園の制服はウマ娘が走っても大丈夫なように特殊な素材で作られているので、動きにくいということはありませんが、それでも服が無駄に擦れて、少しだけ赤くなっているところがあるのに気づく。その痛みすらも感じないほどに、わたくしは目の前のことに集中しすぎていた。
横で息を整えているテイオーさんは膝をついて、目を細めている。トレセン学園から玲音さんが入院している病院まではおよそ数キロ、天皇賞の春以上にはあるはずです。
足元を見てみれば、アスファルトを走ったことによってローファーが削れているように見えた。
「やっぱマックイーンってすごいや、一つ上なのに」
「テイオーさんこそ、中一の段階からこの走りに着いて行けるのはすごいと思いますよ」
「にっひひ、そうかな」
結構キツいはずなのに、テイオーさんはにっこりと笑顔を浮かべます。そのことにわたくしは驚きながらも、つられて笑ってしまいます。
ウマ娘の本格化、それは長距離のレースや早いスピードを得る。本来は中一の終わり、つまり中二に上がって、ジュニア級を迎える辺りから始まるのが普通だと言われています。
なので、テイオーさんはまだ本格化は訪れていないはず。なのにわたくしに着いてくる点…これは、元からの素体がいいという言葉だけで済ませてもいいのでしょうか。
「んっ? マックイーンどうした? なんかボクについてる?」
「なんでもありませんわ。ちょっと落ち着くために歩きましょうか」
そう言いながらウマ娘専用レーンから歩道に歩き始める。テイオーさんはきょとんとした表情を浮かべた後、あわててわたくしの後ろについてくる。
「そうだそうだ、ねぇマックイーン」
「なんですか?」
「マックイーンって玲音のこと好きなの?」
「な、ななななな?!///」
あまりにも唐突にそう言われてしまい、わたくしはかーっと顔が熱くなってしまいます。
「あ、顔赤くなったってことはやっぱりそうなんだ」
「……そ、そうですわよ。わたくしは小学校の頃から、あの人が好きですわ!」
少し自暴自棄になっていることを自覚しつつも、わたくしは耳を後ろに倒しながら大声でテイオーさんに向かって叫ぶ。
心臓がさっき走り止まった時よりも早く鼓動を打つ。耳まで熱が籠ってどうにかなってしまいそうです。
「ま、マックイーンってそんな声出るんだ…」
テイオーさんは少し驚きながらも、そのまま自分を越していく。手を後ろに組んで、鼻歌を歌っている。
わたくしもそれについて、しばらく無言が続いた。が、その沈黙を、テイオーさんが破る。
「ねぇ、マックイーン…」
「また質問ですか?」
「うん…。ちょっと、あの出来事からボクおかしいんだよね」
そう言うテイオーさんは、とても弱い笑顔を浮かべていました。
わたくしはしばらくは学園に来ていなかった。だからあの事件以降の全員の様子は知らない。
だからこそ分かる、今のテイオーさんは別人のよう。もっと天真爛漫元気はつらつな印象ですが、その全てが今の彼女にはない。
「なんかね、胸がすごく苦しいんだよね。玲音が倒れて、動かなくなって、ほとんど息していなくて…頭が真っ白になって、自分が立ってた場所から、一歩も動けなかったんだよね」
「テイオーさん…」
「ねぇ、ボクって…玲音のこ──」
テイオーさんがなにかを言おうとした瞬間、どすっと何かにぶつかる。
「ぷえっ!?」
「きゃっ!?」
人にぶつかってしまったのでしょうか、テイオーはそのままバランスを崩し、地面に座り込んでしまう。
そしてその逆方向に目を向けると、黒髪に小さな帽子を被ったウマ娘が倒れていた。
「いったた…あ、ごめんなさい!」
テイオーさんはそのままばっと低い姿勢のまま立って、ぶつかった人に向かって謝りながら近づく。
「あ、だ、大丈夫です…」
テイオーさんにぶつかった人はゆっくりと立ち上がる。どうやらわたくしたちと同じく、トレセン学園の生徒のようです。特徴的な青紫色の制服を見間違えるわけありませんから。
「あら、あなたは…」
そして小さな帽子に青薔薇の髪飾りを着けているのを見て、さらに分かってしまった。
この人はわたくしが目指している最初のレース、数年前の菊花賞で1着を取った。
──ライスシャワーさんだ。
「ライスシャワーさん、ですよね」
「ふぇ? ら、ライスのこと知ってるの?」
「えぇ、数年前の菊花賞で見事な走りは、過去のレース映像などで拝見していますわ」
「そ、そうなんだ。なんか恥ずかしい…」
そう言いながらウマ耳をぴょこぴょこさせているライスさん。あまり学園では見かけませんでしたが、あまりにも小さい体躯、そこから生まれる文字通りナイフで刺すような差し足。それは菊花賞で一番人気だったミホノブルボンさんを抑えて1位を獲得してました。
「マックイーンこの人知っているの?」
「ウマ娘の中だと有名な方ですわ…。でも、最近はレースに出走したなどは聞いてませんわね」
「……」
「へぇ~、ボク他の人の走りだとカイチョーのしか知らないからなぁ。よろしく!」
テイオーさんはあまり過去の走りは見たりしないのでしょうか。ライスシャワーさんの手を取ると、ぶんぶんと少し激しめの握手を交わしています。ライスシャワーさんは少し困惑していますが。
「そういえば、なんでここにいるの? 今日って普通に学園だけど」
「大切な人がここら辺で入院しているかもしれないって”書かれて”いて、行ったんだけど面談はダメって言われちゃって…」
「それは、お気の毒ですわね…」
「ううん、半ば分かっていたから…」
そう言うライスシャワーさんは表情は笑ってますが、ウマ耳と尻尾は嘘をつかずに、しゅんっとなっています。
…しかしどこかわたくしは、今のライスシャワーさんの言葉に何か引っ掛かりを覚えました。なぜなら玲音さんの入院などは、完全に秘密裏に行われいるはずだからです。
それは玲音さんを世間から守るため。マスコミなどでその当時は話題になりましたが、すぐに表向きには学園が鎮火を行い、プライバシーをすぐに保護しているはずです。
「その、あ、名前…」
「わたくしのですか? わたくしはメジロマックイーンですわ」
「ボクはトウカイテイオーだよ!」
「メジロマックイーンさんに、トウカイテイオーさん。あの、お願い事があるんだけど、いいかな?」
「えぇ、もちろんです」
ライスシャワーさんは少し、ふぅっと息を整えてから、小さなメモ帳を取り出す。そしてあるページを捲って、こちらに見えせてくる。
「もし、この人の病室があったら、ネットとかは見ないように言ってほしいの」
「──え?」
そこに書かれていたのは、谷崎玲音。
まさに自分たちが会おうとしている人の名前でした。
目を見開き少しだけぼーっとしていると、「よろしくお願いします」と言って、ライスシャワーさんがその場から去っていく。
慌てて、呼び止めようとしたその時に、テイオーさんが声をあげる。
「ちょ、ちょっと待って! なんでネットなの?!」
テイオーさんがそう言うと、ぴたりっとそのままライスシャワーさんは振り返る。
その瞳に、光はありません。
そして、わたくしたちの方を見て、冷ややかな声を発します。
「人ってね、自分が狂っていることを気付かずに、誰かを攻撃するものなんだよ」
それだけ言って、ライスシャワーさんは駅がある方に去って行きました。
先ほど発せられた冷ややかで、そしてどこか怒りを含んだような声と姿に、呆気に取られてしまいます。
その沈黙を破るかのように、わたくしのスマホが鳴ります。
「──はい、メジロマックイーンですわ」
自分自身で声が震えているのが分かります。鼓動が五月蠅く、小刻みに体が震える。
『マックイーン様……谷崎様が、姿を消しました』
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・あけましておめでとうございます。そして本当にごめんなさい(白目)。現実が忙しくて創作ggggggggg()次すぐ出るとか平気で嘘になってしまいました。
・次回は目覚め、失踪のお話かもしれません。どうぞ、お楽しみに。
『サイレンススズカの未来を奪いやがったな!! この人殺しが!!』
『お前みたいな犯罪者がいるからスズカは壊れたんだ!!』
『お前の住所特定したから、東京都─────────』
《text:#ff0000》『なんでお前生きてんの? 死ねよ』