少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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 前回のあらすじ:SNSを見てしまった玲音は、入院していた


目覚めと呼びかけ

「──待って!!」

 

 大きな声を上げながら、手を伸ばす。

 しかし私が見ていたものは一瞬で無くなり、変わりに私の瞳の中に入ってきたのは真っ白な天井と白く光っている照明です。

 

「あ、れ…」

 

 困惑を浮かべながらも、その伸ばした手をゆっくりと自分のお腹に乗せる。そこまで行って初めて、さっきまで見ていたのが夢だということに気付きました。

 どんな夢を見ていたのかを思い出そうとしても、あまり思い出せません。ただ微かに嫌な気持ちと焦る気持ちが芽生えるような感覚もあります。

 

「数日ぶりにしては、元気な目覚めだな」

 

 横から聞こえてくる。もはや聞きなれた声。そっちに首を動かしてみると、チーム・スピカのトレーナーさんがいました。

 この時、初めて周りを見たことで、ここが病院の病床ということを把握しました。

 なんで自分が…と、最初は思いましたが、その気持ちは視線を外した瞬間に察してしまう。

 私の左足、それは包帯や固定具で巻かれた状態になっていました。それと同時に、自分に何を起こったのかを全て察してしまった。

 

「トレーナー、私…」

 

「すまん。お前の疲労具合を、もっと知っておくべきだった。トレーナー失格だ」

 

 そう言いながら、深々とトレーナーさんは私に対して頭を下げる。

 あまりにも真剣な顔に、少し驚きの感情が勝ってしまう。

 

「い、いえ。完全にオーバーワークをしていた私の自己責任ですから、トレーナーさんは何も悪くないですよ」

 

「……これ以上言っても、平行線になるかもな」

 

 顔を上げたトレーナーさんの表情は、なんとか笑みを浮かべようとしながらも、悔しさと申し訳なさが滲み出ているような物でした。

 もちろん、今ある痛みで…どれほど私が取返しのつかないことになっているのかを、痛感してしまいます。

 

「こらスぺ、お前も起きろ」

 

「え?」

 

 ここにいない子の名前がトレーナーさんの口から発せられて、また私は驚いてしまいますが、左目の視界の端、本当に少しですがぴょこっと何かが動いたような気がしました。

 それに釣られるように、私は少し首を左に向けます。するとそこには少し赤みがかった黒色の髪の毛と、特徴的な白髪の前髪が視界に移る。

 ウマ耳をぴょこぴょこっさせながら、くぅくぅと寝息を立てている。スペちゃんがそこにいた。

 

「ここんところずっと様子を見に来ていたんだ。それこそ練習そっちのけでな」

 

「そうなんですね……」

 

 うっすらとスぺちゃんの目が開く。少しだけ顔が上がったかと思うと、ばっと動きます。

 

「ス、スズカs──!」

 

 ガーンッ!と、大きく動かした腕が病床の骨組みに当たり、辺りにその金属音が響きます。そして腕をぶつけたスぺちゃんはその腕をさすりながら、その痛みを受けています。

 

「いったぁ~…」

 

「おいおい、大丈夫かよ」

 

「スズカさんが目を覚ましたのがうれしくて、あっはは…」

 

「だとしてもスぺちゃん、もう少し気をつけましょうね」

 

「うぅ、はい…」

 

 涙目になりながら、ゆっくりとスぺちゃんは立ち上がる。感覚としては少し前に地下バ道で分かれてから、そこまで時間が経っていないように思いますが、恐らく長い間寝ていたのでしょう。なんとか身体を動かせそうですが、思うようには動かなさそうです。

 

「でもよかったです、目が覚めて」

 

「だから命に別状はないと言ってただろ」

 

「それでも心配だったんですもん!」

 

「心配をかけたようね。ただいま、スぺちゃん」

 

「っ! おかえりなさい、スズカさん!」

 

 その後は、他愛のない話をして過ごしました。寝ていた間に何があった、とか。スピカの年内のレース参加は中止になってしまいましたが、それは”スピカが悪いということではなく、トレーナーさんが決めたこと”だとのこと。など、色々話している内に時間は過ぎて行き、スぺちゃんは寮に帰る時間になります。

 

 「明日も来ますからー!」と言いながら病室を出て行くスぺちゃんを見届けてから、しばらく沈黙が続きました。トレーナーさんは少し居心地が悪そうな顔をし、私は彼が何かを伝えるべきかを悩んでいることに気付いてました。

 そしてその件は、私の足に関係すること。

 

「あの、トレーナーさん。私の左脚は、どうなっているんですか」

 

「っ……」

 

 トレーナーさんは私がその言葉を発するとは思っていなかったのか、呆気にとられた顔を浮かべる。しかしそれで覚悟が決まったのか、目を細くして、真っ直ぐに私を見る。

 

「はっきり言えば、お前の今の脚の状況は良くない。むしろ競争生命が終わる可能性もあった。何せ大欅から故障しながらゴールまで走り切ったんだからな」

 

「──え?」

 

「なんだその反応、もしかして覚えていないのか?」

 

「い、いえ…私の記憶だと、大欅から何も覚えていなくて」

 

「無理もないな、左脚が壊れている状態で、トップスピードを維持する。下手すれば神経一つ一つが悲鳴を上げる激痛が走っているはずだ」

 

「じゃあ、私は最後まで走って…」

 

「あぁ、ハナ差で一着だった」

 

「え、え??」

 

 トレーナーさんがあまりにも自然に言ったその言葉で、私は大きく困惑します。

 もはや覚えていないレース、大欅で終わっていたと思っていたものが、実はゴールまで走っていて、しかも一着を取っているなんて、思ってもいなかった。

 

「誰もが驚いたよ、そんなの現実的に不可能だって」

 

「現実的に不可能……その代償がコレなんですね」

 

「そうだ。っと、普通はなる」

 

「普通、は?」

 

「先生と話した。普通あんだけの極限状態で脚を酷使した場合は、最悪歩けなくなるほど、完全に壊れる可能性があった。だけどなぜだかお前の脚は、完全に壊れなかったんだ」

 

「完全、には?」

 

 ふと、どこかでギィ…と金属が軋むような音が聞こえた気がした。

 まるで、そう…レールの分岐点が変わったかのような。そんな音が。

 

「リハビリとスズカ次第になる。けど、支障なく日常を暮らせるほど回復できるだろう…と」

 

「……」

 

 恐らくそれは、とても喜ばしい事なんだと思う。

 歩けなくなる。その最悪を回避できるのだから。また普通の暮らしを送れるくらいになれるはずなのだから。

 でも、そのトレーナーさんの言葉は同時に、私の当たり前が終わることを濁して伝えている。恐らく言葉にしたら、これをトレーナーさんに言ってしまったら、狼狽えてしまう。

 私は、確認せずにはいられなかった。

 

「トレーナーさん。私は、また走れるようになりますか」

 

 一秒、二秒と、沈黙が続く。トレーナーさんは目を泳がせ、唇を嚙みしめている。

 そのトレーナーさんの表情だけでも、全てを察することが出来てしまいます。

 ですが、なぜでしょうか────そこまで悔しくないのは。

 まるで何かが、抜けてしまったかのような喪失感。手を伸ばしていたのは、何かを捉えるためだったのかもしれない。

 その空いた感情を埋めるには、今のこの状況は十分で────。

 

「スズカさんは、走れるようになりますよ!」

 

 バンッ!と病室の扉が開かれたかと思うと、そこには帰ったはずのスぺちゃんがいました。

 そのまま私の方に近づいてきます。

 

「スぺ、お前さっきの聞いてたのか」

 

「スズカさん、私、待ちますから! 走れるように、私ができることは、なんでもやりますから!」

 

「っ!」

 

 一瞬だけど、何かまた聞こえた気がした。でもそれは、金属音ではない。何かの生き物のような……そう、確か、合宿の時の夢……ううん、最近見てた夢や、そう…あのレースでも聞こえていたような…。

 それが、スぺちゃんの方から聞こえた気がした。まるで、仲間を呼ぶかのように…。

 「一人にしないで」っと、そう叫んでいるように。

 

「……トレーナーさん」

 

「……この先、かなりきつくなる。再発のリスクだって」

 

「やらせてください、まだ…終わりたくないんです」

 

「──分かった。お前がそう決めたなら、俺はサポートするだけだ」

 

「ありがとう、ございます」

 

       ***

 

「まさか、再び走りだしてくれるとはな」

 

「スズカさんは強いですから!」

 

 新しい飴を出しながら、病院から出る。外はもうほとんど日が沈んでしまっていて、紺色の空が広がっていた。

 流石に今から帰ったとしても、スぺは門限に間に合うか…」

 

「スぺ、俺の車に乗っていくか?」

 

「え、走った方が早いですよ?」

 

「遅れた説明などはチームトレーナーがいた方がいいだろ?」

 

「あー確かに、じゃあ乗りますね!」

 

「おう、乗っていけ乗っていけ」

 

 そのまま駐車場に停めた車に乗って、トレセン学園に向けて走り出す。スぺは相変わらず、窓の風景を見るのが好きなのか、尻尾を揺らしながら楽しそうに見ている。

 それを横目で見ながら、車のオーディオで音楽を流す。

 ただただ時間が過ぎていく。そう思っていたが、明らかにスぺの耳が垂れ下がった。

 

「どうした?」

 

「……玲音さん、大丈夫かなって」

 

 スズカの前では絶対にあげなかった、玲音のこと。

 昨日の夕方ごろに入院している病院から、玲音が姿を消したことが報告された。病室にはSNSが開かれたスマホだけが転がっており、そこに書かれていたことに気が動転してしまった。というのが医者の考えらしい。

 ネットやメディアの遮断は、最新の注意を払ったつもりだった。テレビを取っ払い、携帯機器はチェックし、他人がなかなか入って来れない病室に入れたつもりだった。

 携帯機器がなぜ出てきたのか。そのチェックを行ったのは俺じゃない。URAの末端の職員が行った。だからこそ、内ポケットや二台目を所有している可能性など、そういったことを考慮しなかったのかもしれない。

 そしてあれ以降、連絡はない。あいつの容態上、そんなに遠くには行っていないはずなのに見つからない。マックイーンが血相を変えて、メジロ家を動かしてまで捜索しても、見つかっていない。

 

「大丈夫だと、信じるしかないだろ。なんだかんだあいつは、よく人前からいなくなる」

 

「それは、そうですけど…スズカさんには伝えなくて、よかったんでしょうか」

 

「あいつは玲音の幼なじみで、かつ互いがああなってしまった要因。そんな時に居なくなったと言ってみろ、あいつは絶対自分を責める。そしてそれを起こしてしまったのが、玲音だった」

 

「玲音さん…」

 

 病院では全然気付かなかったが、通り雨でも降っていたのか、道路はところどころ水たまりができて濡れていた。対向車線のライトでそれが照らし出されて、嫌に眩しい。

 

「今日の練習、マックイーンもいないわ、テイオーもいないわ、ゴルシもいないわ…」

 

「ゴールドシップさんもですか?」

 

「一応、昼休みに「休む」とだけ言ってそれっきりだ。何をやっているんだか」

 

「マックイーンさんとテイオーさんも心配です」

 

「テイオー、あいつが玲音に懐いているってのは、全然気付かなかった」

 

「……ばらばらになりませんよね、私たち」

 

「ならねえよ、絶対な。あとお前もしっかり練習に出ろよ?」

 

「うっ、は、はい…」

 

 そう言った少しだけスぺの表情が和らいだ気がした。

 しかし、絶対というその言葉は…俺自身にも言い聞かせているようなものだったかもしれない。

 




・一応、21を迎えました。自覚は皆無ですけど。
・大学在学中に物語完結を目標にしていたけど、いけるかな…(遠い目)
・新しいフォーマットむずい…()
・次回は抜け出した玲音の話の予定です。
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