少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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前回のあらすじ:玲音のお見舞いに多くの人が来た。


落ち着く匂いに顔を埋めて

 12月中旬に入ってから、俺はリハビリを始めていた。

 とはいってもガチの車と事故をするよりは比較的軽傷ではあったため、感覚鈍麻以外の傷はそんなに重症ではなかった。いやまぁあばらにヒビとかは普通に重症か。

 

 そうして普通に歩けるくらいになていた有記念の次の日に、俺は定期的な通院を条件に退院した。痛むという感覚がないため、骨の回復具合を見ての退院ということで、目に見える無茶は絶対にしないことと釘を刺された。

 

 お世話になった看護婦さんや医者さんに挨拶をしてから外に出てみても、あんまり体感温度は変わらないような気がした。周りを見てみると曇天で厚めの上着を着ている人も多い。病院内にいるとあまり実感が持たなかったが、こうして外に出ると本当に冬になっているんだと驚く。

 

 本当の地元の北海道のあの寒さをもう味わえないのかと少し落胆しつつも、寒すぎて外に行きたくないなんてことが起こらないのは、それはそれでいい気がした。

 

「れ、玲音!」

 

 俺を呼ぶ声が聞こえたかと思うと、右手の方に見覚えのある子がいた。というか、自分のことを名前呼び捨てで言う子なんて、一人しかいない。

 

 そっちの方に顔を向けると、そこにはテイオーがいた。ただなぜだろうか、いつもの天真爛漫なイメージとは真逆の印象を覚えてしまう。

 

「テイオー、久しぶり」

 

「ひ、久しぶり。あ、退院おめでとうございます」

 

「なんでそんな片言に敬語?」

 

「あ、えっと……」

 

 明らかにいつものテイオーじゃないことを、今確信した。あれだ、子犬がしゅんっとなっているような、そんなイメージだ。

 

 俺が怪我をしたことを、俺が思っている以上に心配をかけたのかもしれない。いや、無理もない。近かった存在が二人も倒れたんだ、ショックを受けない訳ない。

 

「悪い、心配かけたな」

 

「し、心配なんて……ううん、やっぱしてた」

 

「無理もないよ、というか学校は?」

 

「もう冬休みに入ってるよ、今日は午前練習だし」

 

「そっか。他のみんなは?」

 

「スぺちゃんは真っ先にスズカのところに、他のみんなも用事やらなにやらでボク一人だったよ。というか退院してるなんてびっくりしたんだけど!?」

 

「あんま言いふらすものでもないでしょ、先生もそれを分かって内緒にしていたんだろうし」

 

「それはそうだけどー!」

 

 ぶーぶーと言いながら、胸辺りを優しくぽかぽかしてくるテイオー。なんとなくいつもの調子に戻っている気がする。やっぱこの子は元気な方がらしい。

 

 そしてそのまま俺とテイオーは駅の方に向かった。迷惑をかけたことと、お見舞いに来てくれた人たちに対して、菓子折りか何かを買おうと思ったからだ。

 

 デパートに入ると多くのお客さんたちで賑わっている。冬休みに入ったからか、普段来ていない学生くらいの年齢の人も見える。テイオーはというと、色んなものを見て目を輝かせるのか振り回されると思ってたが、実際は興味は引かれているが、それ以上に俺の傍をぴとっとくっついて離れない。ウマ耳を傾ければ腕に当たりそうなくらいだ。

 

「あんまり人混み慣れてない?」

 

「え? あ、うん。あんまり地元でこんなに人がいることはなかったから」

 

「年末だからなぁ、これでもまだ少ない方だよ」

 

「そうなんだ」

 

 エスカレーターで2階ほど下ってギフトコーナーに向かうと、お菓子などの甘い匂いが充満している。その代わり多くの人がごった返している。

 

 一つの場所を見ては、また別のところを見てと繰り返し、フロアを一周したところでなんとなくの目星をつける。最終的に選んだのはバウムクーヘン屋さんだ。

 

「治一郎?」

 

「そっ、静岡県って俺の叔父の生まれ故郷でそこの有名なバウムクーヘン屋なんだ」

 

「治一郎は知っているよ、東海出身で寄ったことあるし」

 

「あ、そうなんだ?」

 

 テイオーの出身地に少しだけ驚きながらも、俺はとりあえずいくつかのバウムクーヘンとラスクが一緒になったセットを買って、その場を後にする。そのつもりだったが、テイオーがある商品を目の前にして立ち止まる。

 

「ん、どうした?」

 

「う、ううん! なんでもないよ」

 

 そう言ってテイオーは視線を外すが、俺は逆にそっちに目を向けた。そこにあったのは、ベージュ色のポーチだった。肩の掛けるための紐があって、ちょっとした小物を入れるのに適していそうだった。

 

 ……いやよーく見ると違う、このポーチは一部だ。実際はマネキンに温かそうでかつゆるふわ可愛い系をイメージしたトップス・ボトムス・アクセサリーが飾られていた。

 

 もっといえば、テイオーのイメージとは全く真逆な感じだ。

 何でもないと言いながらも、ちょくちょくそっちの方を見ている。

 

「気になるのか? あれ」

 

「あ、うっ……」

 

「そんな恥ずかしがることでもないだろ、年頃の女の子なんだから。見たかったら寄るぞ?」

 

 テイオーは俯きながら顔を赤くしながらも、こくっと頷いた。それを見た俺はそのマネキンが置かれているお店の中にテイオーの手を繋いで入る。

 

 正直自分はファッションの知識はないと言っても過言ではない。大抵有名店のセール中に薄着や上着、厚着を買うくらいだ。だからこそ女性もの、それもウマ娘専門となると中々お目に掛かれないものが多くて驚く。今のトレンドはウマ尻尾を出すための穴を自然と隠すようなトレンドがあるらしい。

 

 その中でもテイオーはやっぱり、可愛い系を中心に見ていた。

 テイオーの今の私服は厚めの上着に長ズボン。見ているのはロングスカートやふわふわとした装飾が施された服。

 

「可愛い系の服が気になるのか」

 

「ど、同室のマヤノがこういう可愛い服を着ていt──」

 

「あれぇ、テイオーちゃんだ!」

 

 その声に振り替えると、そこには橙色の髪色のウマ娘がいた。冬だがどちらかというと魅せることを意識している服選び、なにより可愛いという印象が強く出ている。

 

「マ、マヤノ!?」

 

「テイオーちゃんもこういうところ来るんだね、って隣の人もしかして!?」

 

「ち、違うから!! この人はスピカの学生トレーナー!!」

 

「あ、よくお話に聞く。こんにちはトレーナーさん、私マヤノトップガンって言います!」

 

「トレーナーはやめてくれまだ違うから。俺は谷崎玲音だよマヤノトップガンさん」

 

「マヤノでいいですよ~。で、二人はデートですか!」

 

「だから違うって!!」

 

 テイオーは今日が俺の退院であること。そしてその帰りに俺の菓子折り選びに付き合っていて、たまたまここに寄ったことをマヤノさんに説明する。その頬はとても赤くなっていた。

 

 マヤノさんも納得……したような顔をして、あれ絶対心の中で「分かっているからね私は~♪」みたいなことを思っているのが分かるように笑みを浮かべていた。

 

「テイオーちゃん、ガーリー系に興味あるの?」

 

「そ、そんなことないよ」

 

「テイオーまた片言になっているぞ」

 

「素直じゃないな~」

 

「う、うるさいよ!!」

 

「あら貴女、あんまり自分の可能性を自ら潰すことは良くないわよ」

 

 そう言って今度は俺の傍に、これまた二人とは系統が違う。高貴なイメージを持った服を纏った大人のウマ娘が現れる。

 あれ、なんかこの人見たことがある気がする。

 

「あら、東京優駿を勝利した娘の勝負服取りに来た子じゃない」

 

「あ、勝負服のデザイナーさん!?」

 

 そこまで言われてようやく記憶の彼方から思い出した。そうだ、この人はスぺの勝負服を仕立ててくれた人だ。いやなんでここに??

 

「ちょうど私プロデュースの一般ブランドに用事があってこっちに来たのだけど、何やら面白い事になっているわね」

 

「なんか増えたぁ!?」

 

「なんかとは失礼ね。それよりも、貴女はいい恰好をすれば、今以上に魅力的な娘になれるわよ」

 

「そうだよ! テイオーちゃん、素で可愛いんだから!!」

 

 同室の友達と、謎の女性に囲まれて、若干涙目になっているテイオー。なんとなく「玲音タスケテ…」的な視線をこっちに送っていたが、これをどうすればいいのだろうか。

 

「試着をご希望ですか? どれでもいいですよ!」

 

 あ、店員さんも参戦した。これは長くなるな。

 

 とりあえず俺は離れたところで見守ろう。そう思っていたが、マヤノさんに腕を掴まれる。うん、めっちゃ可憐なのに全然引き剥がせない。ウマ娘の力はやっぱりすごい。

 

「お兄さんも可愛くなったテイオーちゃん見ましょう!」

 

「うそーん」

 

 その後しばらくずーっとテイオーの様々な服を試している様子を、近くで見守ることとなった。ファッションセンスがない自分はとにかく褒めることしかできなかったが、一つ言えたことは、テイオーはどんな服でも(特に可愛い系)似合っていたことだった。

 

   ・ ・ ・

 

「うぅ、酷い目?に遭った」

 

 あのデパートでマヤノさんはまだ買う物があるらしく、デザイナーさんも仕事があるからと離れ、俺とテイオーはデパートから出て帰路についていた。

 

 ちなみに着た一部の服を、デザイナーさんが払ってくれて、今のテイオーはその中で可愛いという印象だった、真っ白なふわふわした服を着ている。アクセントの白いベレー帽がいい味を出している。

 

「まぁでもいいじゃないか、良い感じに着飾ってくれたし」

 

「むぅ、まぁ悪い気はしないけどさ」

 

 そう言って頬をふっくらとさせているテイオーの頬はとても赤いと思った。インナーとタイツの黒以外、頭から足まで白色だからかそれがとても強調されているような印象を持った。

 

 なんて思っていると、ふわふわと上から白いものが落ちてくる。それが俺の頬に当たる。

 

「つめたっ、って玲音! 雪だよ!」

 

 空を見上げてみると、ひらひらっと少しだが白い雪が降り始めていた。息を一回吐くと白い息が出てくる。いつの間にか結構寒くなっていたようだ。

 

 雪だ雪だと言っても、故郷が北海道である以上雪を見ても特に驚く訳ではない。でもテイオーは真逆でこんな積もらなさそうな小雪でもわーいと目を輝かせている。

 

「そんなに驚く?」

 

「地元じゃあんまり雪降らないんだ~、それにこっちに来て初めての雪だし!」

 

「あんまり降らない方の東海なんだな、海の方?」

 

「うん」

 

 同じ日本に住んでいるのに、ここまで雪への反応が違うのかと驚きながらも、俺は隣のテイオーの様子を見守る。

 妹、どころか娘を持った父親みたいな感じがする。

 

「へっくしゅっ!!」

 

「寒いのか?」

 

「だって今日結構寒いじゃん、玲音は寒くないの?」

 

「まぁ、まぁまぁかな」

 

 あんまり事実とは真逆のことを言っても、勘の良い人には普通に見透かされる。それはグラスでよく分かった。だからこそ、あえて事実側に近い曖昧な答えを出すことで、この体質を悟られないようにする。

 

 ただまぁ、テイオーが寒いというなら、もう少し早歩きしてもいいかもしれない。あと、確か…。

 

「そうだ、テイオー。これ使うか?」

 

「この手袋…スペちゃんが誕生日にあげたやつ?」

 

「いや、あれは多分自室にある。これは俺が使っているやつだよ」

 

 そう言いながらテイオーに手袋を渡す。マックイーンところの爺やが気を利かせて、着替えや勉強道具と一緒に寮の自室から持ってきてくれたのだ。

 

 ただまぁ、俺は寒さは感じないし、寒くしてそうなら差し出す方がいいだろう。

 

「いいの? 玲音の手も少し赤いけど」

 

「あー、いいよ」

 

 差し出すと、テイオーは迷った後そっと受け取り手袋をはめる。よほど寒かったのか、口元に手をやってはぁと息を吐いている。暖を取れた喜びからか、尻尾がぶんっと強く揺れる。

 

 ……あれ、でもウマ耳は横に倒してすっごいリラックスしてるな?

 

「………………」

 

「て、テイオー? 行くぞ?」

 

「あ、うん。ね、ねぇ玲音。玲音ってボクからもらったぬいぐるみ大切にしてる?」

 

「あのスズちゃんの? そりゃもちろん、テイオーからもらったものだし」

 

「そ、そうなんだ……にひひっ♪」

 

 はっとした表情になった後今度は緩んだような顔と、ころころ表情を変えるテイオーを不思議に思いながら、再び歩き始める。その後何度も手を口元に近づけてはーはーやって暖を取るテイオーを横目で見ながら、テイオーが住んでいる栗東寮までたどり着く。

 

 そこで貸していた手袋を返してもらって、そのまま別れようとしたが、何かを思い出したかのようにテイオーは会った時に着ていた上着のポケットから、紙を取り出す。

 

「大晦日にスピカで忘年会やるってトレーナーが言ってたんだけど、玲音も参加する?」

 

 渡された紙を見てみると、テイオーに言われた通りのことが書かれている。そういえばスペが同じことを入院中に言っていた気がする。

 

 どうしようかと少し悩む。毎年冬は叔父の家の方に帰っているが、叔父から「向こうで用があればそっちを優先しなよ?」と言われている。ただ去年はそんな用などがなかったから戻ったが、今はスピカの一員、チーム行事なら参加するのが道理なんじゃないか。

 

「うん、出ようかな。明日先生に言えばいいかな」

 

「うん! あ、明日は午後からで神社での練習だから、集合場所間違えないでね!」

 

「オッケー分かった」

 

 そうして、俺はテイオーと別れた。

 

 

 




・テイオーってね、可愛い服を着れば着るほど輝くんですよ(迫真)

・次回は大晦日のお話の予定です。
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