少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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前回のあらすじ:玲音とスズカは水族館に行く夢を見た。

UA227,000・UA228,000突破しました。ありがとうございます!


fragment Ⅱ/変わっても変わらない君

 夢から覚めた時、世界はその瞬間から始まっていると思ったことがある。昨日までの記憶もある。昔の悲しかったことや、楽しかったことだって覚えている。

 でもそれは誰かに創られ、植え付けられた記憶かもしれない。過去は思い出すことはできても、映画などみたいにその手で、その目で再び体験することも見ることすら叶わないのだから。

 現実の夢、夢の現実、それは表裏一体で誰も観測することはできない。

 

 だけど、だ。

 

 それは裏を返せば、誰にだって世界を作ることができるということ。

 自分の思い通りにはならないかもしれない。だがその世界をどう瞳の中に映し、どう行動するかは全て自分自身が決めるのだから。そしてその世界の定義を決める者はこの世にいないのだから。

 世界は様々な分岐があり、色んな世界が別世界線として存在すると言われている。その中の一つにここにいる自分たちは生まれている。

 

 けどきっと、”俺たち”が暮らしているこの世界は、理想郷と呼ばれる一つの正しい世界の目に見えない小ささの断片なんだ。

 

 だからきっと、辿る道は違う。違うけど、それでもみんな未来へ進んでいる。

 足並みは絶対に揃うことはない。みんながみんな認識する訳でもない。形も色も感情も、何もかもバラバラだ。

 それでも、みんな未来へ進んでいる。なぜなら──

 

 時 は 必 ず 未 来 へ と 進 む も の だ か ら 。

 

       ***

 

 年が明けてから数日が経ち、俺は学生寮で目が覚める。普通なら寒すぎて布団から出たくない、というか出られないはずだが、今の俺はヒョイっと身体を起こし、床に足をつける。

 つんざくような冷たさもなく、ただ吐息の白さが部屋の寒さを物語っている。こういうところは便利なんだか、不便なんだか。

 

 そのまま冷蔵庫の前まで行って、コーヒー豆を取り出す。そのままミルに入れて、挽き始める。

 今日は年明けに届いていた、期間限定で売っている高級な豆を使ったものだ。北海道のどこかの小さな焙煎屋が作っているもので、珈琲を淹れるようになったその年から毎年、ここで豆をネット通販で購入している。

 100g5000円とかなり高めなため、一回20gで5回に分けて楽しむ。俺の淹れ方は2杯分ほど飲めるので、量の割には結構楽しめる。

 

 淹れている際の香りを楽しみながら、自分の中で決めている量を淹れ切る。本来ならそのままカップに注いで楽しむが、今回はそれを魔法瓶に入れる。半分くらいしか満たしてないコーヒーを見ながら内心「少な…」と思いながらも、蓋をしてそれを学生鞄に突っ込む。

 

 ハンガーに吊るされている制服を手に取り、そのまま慣れた手つきで着る。あの事件ぶりに袖を通したため、どこか懐かしさを感じた。というかあの時に俺普通に血を吐いていたような気もするけど、血がかかったりしなかったのだろうか。

 もしくは学園がクリーニングしてくれたのだろうか。ハンガーにかけるなんてあんましないから、誰かがやってくれたのは確かだろう。

 最後に身体が冷えないようにコートを羽織ってから、俺は自分の部屋を出た。

 

       ・ ・ ・

 

 朝早くの学校というものは、どことなくいつもの雰囲気とは違う気がするのはなぜだろうか。

 

 妙に空気が澄んでいるような気もするし、いつもは聞こえてくる各チームの朝練の声が今日はないから、別の場所に来たような気もする。俺以外にもぽつぽつと生徒はいるが、辺りはアプローチを通る足音しか聞こえない。

 

 そのまま昇降口まで行き、靴を脱いだ後、自分の下駄箱の扉に手をかけたその時だった。何か視線を感じ、俺はそっちの方向を見る。そこには学生鞄に手をかけて驚きの表情を浮かべている道がいた。

 あんま見たことない学友の表情に俺も驚きながらも、なるべく自然な笑みを作ろうと頬を引き攣らせて、「お、おはよ…道」となんとか声を出した。

 道も「おはよ…谷崎くん」と言って、しゃがんで靴を脱ぎ始めた。特に待つ必要もないと思って、先に廊下の方に出るが少し駆け足気味で道が追いついてきた。学生トレーナー科の教室はウマ娘の教室と比べると少し遠いところにある。だから無言の時間が結構続いた。が、その沈黙を道が破った。

 

「なんか、谷崎くんが制服着ているの久しぶりな気がする」

 

「あー、11月だから2ヶ月間学園に来ていなかったからな」

 

「そっか…そんなに経っていたんだ」

 

 道の表情は俺にはよく分からない。微笑んでいるようにも見えるし、安堵しているようにも見えるし、少し寂しそうにしている気もする。言葉にするのがとても難しい表情を浮かべていた。

 その後、また無言が続く。俺自身何か話せることなんて特にないし、年末の時はみんながわちゃわちゃしていたから、なんか自然に話せた。でも今は二人しかいない。周りがうるさいどころか、自分たちの足音や制服が擦れる音が廊下にしっかりと響いているのだ。

 ただ、このままじゃ流石に俺も持たないから、他愛のない言葉を投げることにした。

 

「俺がいない間の学園はどうだったよ」

 

「あー…どうだろ、よく覚えてないかな」

 

「覚えていないって、ジャパンCとか有馬とか色々あるだろ?」

 

「それはトレーナーに関することでしょ? 学校行事に関することはちょっとここ数ヶ月はね。修学旅行もあったけど、なんかあんまり楽しめなかったっていうk──」

 

「嘘でしょ修学旅行やったの!?」

 

 道がしんみりと何かを言おうとしていたが、俺はそれよりもとんでもない言葉が聞こえたことにショックを受けて、思わず声を荒げた。いきなりの大声に道もびくっ!?と身体を跳ねていた。

 

「あ、うん。11月の中旬に」

 

「数少ない修学旅行の一部逃したぁー!」

 

「谷崎くん、そんなに楽しみにしてたっけ? あんまり意識してなかったような」

 

「あの時はスズ──サイレンススズカの自主練に付き合ったりしていたから、そんなに意識してなかったけど。いやそれはそれ、これはこれだよ!」

 

 なぁー!!と俺は本気で悔しがる。いやだって修学旅行なんて小中高のたったの3回しかない一大イベント。しかも俺は小学生の時は転校した後だったから本気で楽しめたのは中学生の時のみ、高校も楽しむぞー!って密かに意気込んでいたのだ。

 いやマジでやってしまった。いや別に怪我したことには後悔はないぞ? ないけれども!! これはまたちょっと話が違うますって。

 

「……ふふっ、なんか変わってないね谷崎くん」

 

「ん? いやいや、11月からほぼ病院さら出ていないからほぼ変わらないでしょ」

 

 道が突拍子もないことを言ったことに、俺は苦笑しながら答える。でもなんか道はさっきとは同じ表情で、しかしまた違った感情を含んでいる状態でこっちに話してくる。

 

「さっき昇降口で会った時、最初谷崎くんって気づかなかったんだよ。顔がとか姿がとかじゃなくて、雰囲気がすごく変わっているって思ったの。でも、今話して谷崎くんは谷崎くんだって、安心したの」

 

 ふふっと、笑う道を見て、俺は昇降口でしていた道の表情の正体がなんなのか分かった気がした。きっとあれは、困惑や不安を含んでいたんだ。目の前の知っている存在が、知らない存在になっていたら、誰でも不安になると思う。

 

「でも、多分君は変わっているんだよね。どこかが必ず」

 

「まぁ、人はどこかは必ず変わるんじゃないかな。身長とか」

 

「それ私が背低いって言いたいの?」

 

「道は156cmくらいだろ? 別に低いって訳じゃないだろ」

 

「残念、私は12月の身体測定で158cmになったんだから」

 

「おーそれはいいね」

 

 さっきまでは何を話せばいいか分からなかったけど、今はそんなことはなかったかのように学友同士の会話が成り立っている。2ヶ月間会わなかったってことはあったけど、この距離感が変わることはないのかもしれない。トレーナー同士の友情っていうのはこういうものなのかもしれない。東条さんや先生の距離感を見ていればなんとなくそれが分かる。

 

「ねぇ、もし谷崎くんがよかったらでいいんだけどさ。尊野も誘って春先にプチ修学旅行しない?」

 

「え、いいのか? 道は2回目だろ?」

 

「あんまり楽しめなかったの修学旅行。君のこともそうだし、尊野もインフルで欠席したから」

 

「うぐっ、申し訳ない…」

 

「謝ることじゃないよ。女友達とも回るのはよかったけど、私的にはやっぱりいつものメンツの方が気遣わなくていいから」

 

「分かった、お金は余裕あるから大丈夫だと思うよ」

 

「じゃあ私が大まかに考えるから、またどこかで3人で話し合お」

 

「オッケー、ならいい喫茶店知っているんだ」

 

「コーヒー好きの谷崎くんなら、間違い無いだろうね……あ、そうだ谷崎くん」

 

「ん?」

 

「谷崎くんのこと、名前呼びにしてもいい?」

 

「別にいいけど、許可なんているか? 俺なんてもう一年の夏前には道呼びだったぞ?」

 

「なんとなくね…深い意味はないから、玲音くん」

 

「……予想以上に新鮮かも」

 

 そんなこともありながら、俺たちの教室に着く。久々に来た教室はどこか懐かしさを覚えるような気がした。横を見ると道が「さむ〜」と言いながら、自分の席まで移動していた。教室になぜだかある温度計を見てみると、十何度だった。そりゃ確かに寒い。

 とりあえず、俺は机の上に学生鞄を置いて、中にある魔法瓶を取り出してまた教室を出て行こうとする。

 

「あれ、どこかに行くの?」

 

「あぁ、ちょっとな」

 

 そうして俺は教室を出て、生徒会長室の方に向かった。。




そろそろ夏休みに入りそうなヒビルです。なんかしまむらで競走馬たちが描かれている服とか出るらしいので、早速予約しました。楽しみ。またこれも私事ですが12年ぶりに乗馬をやりました。ちょっと怖かったけど、優しい子に乗ったため楽しかった。競走馬とは全然違うけど、少しは小説の表現の足しになったらいいなと思ってます(苦笑)

次回はルドルフに会うお話の予定です。
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