少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
・UA14,000・15,000を突破しました。ありがとうございます。
・なお今回、ウマ耳以外にもヒト耳が出てきますが、僕はウマ娘にもヒト耳があると思っている人間です。(理由としてはメガネなどヒト耳に掛けるアクセを使っている。時々ヒト耳が映る特にマックイーン)
「ただいま〜」
寮に着いて自分の部屋に入った後、癖のようにその言葉を言ってしまった。
別にこの部屋には家族や他人はいないのに……長年やってきた帰宅の習慣はなかなか抜けないものだな。
……そう思っていたのに。
「おかえりなさい」
返事が……帰ってきた。
俺は咄嗟に声のした方に顔を向ける。
そして俺の目に映ったのは……紫色の髪……見覚えのある子がそこにいた。
「……何でここにいるの、マックイーン」
「あら、わたくしがここに来てはいけない理由があるのですか?」
「いや……ないけどさ」
そこにいたのはマックイーンだった。
俺のベッドに腰をかけて、読書をしていたのか膝に本を置いている。
「あなたこそどこに行っていたのですか? もう待ち続けてかなり経つのですが……」
「……ちょっと世間話していただけだ」
そう言いながら俺は勉強机にカバンを乗せて、マックイーンと対面になるようにイスを移動させ、イスに腰掛ける。
「で、何しに来たんだ?」
「玲音の部屋に遊びに行きたくなった……ただそれだけですわ」
特に悪びれることもなく、ごく普通にそれが当たり前だと言うようにマックイーンはそう言った。
ただ……俺には分かる。
マックイーンの左のウマ耳だけが異様にぴこぴこ動いているのだ。
これは……俺に隠し事がある時のマックイーンの癖みたいなもの。
「んで、本当の理由は? 昔から左耳の癖直ってないよな」
「くっ……」
今更感が拭えないが、マックイーンはウマ耳を両手で抑える。
早く本当のこと言えばいいのに……。
「れ、玲音の淹れたコーヒーが飲みたくなったのですわ……パティシエが新作のマドレーヌを送って来てくださったので、玲音のコーヒーと一緒に食べたいと思いまして……」
「最初から素直に言え……ちょっと待ってろ?」
俺はコーヒー豆を取り出しミルにセット、電動ポットのスイッチを入れてコーヒーを淹れる準備をする。
・ ・ ・
「やっぱりあなたが淹れるコーヒーは、わたくしの執事が淹れる紅茶と同じくらい美味しいですわ」
「恐縮です、お嬢様」
「むっ……お嬢様と呼ぶのはやめてくださいと何度も言ってるでしょう?」
「ごめんごめん」
俺が淹れたコーヒーとマックイーンの家のパティシエさんが送ってくれたマドレーヌを飲み食いしながら、マックイーンと話す。
ちなみにマックイーンは俺にお嬢様と呼ばれるのを嫌っている。理由としては「それでは他人みたい」とのこと。
ちゃんと名前で言ってほしいとずっと前から言われているが……お嬢様と言った時のマックイーンが少し可愛い顔をするので、ちょっと悪ふざけで言う時もあるのだ。
「そういえばマックイーンはチームはもう決めたのか?」
「いえ、まだ決めてませんわ。意外とチーム数が多いですし……悩みますわね」
「……」
俺は一瞬考えてしまった。マックイーンをスピカの一員にできないかと。
マックイーンは幼い頃からメジロ家で練習を積み重ねて来た。
数回俺もその走りを見たことがある。
正直言って、彼女の走りは素晴らしい。
その姿は美しくもあり勇ましさもある。
そんな彼女がスピカに入れば、間違いなく活躍してくれるに違いない。
でも彼女の性格を考えると、あのチームは合わない気がする。
それにトレセン学園にはスピカよりも断然実力のあるチームが多くある。
「玲音さん?」
……いや、それはマックイーンが決めることだ。
もちろん入ってくれたら嬉しいけど……でも彼女の未来を縛る訳には行かないよな。
「玲音さん!!」
「うおっ!? な、なんだマックイーン……」
「さっきから何度も呼びましたのに、返事一つもありませんの!」
「ご、ごめん……」
「まぁいいですわ。玲音さん、いつものアレやってもらえません?」
「……アレを? この学園でもか?」
「自分自身でやってみたのですが、やはり難しくて……」
そう言いながらマックイーンは近くに置いていたカバンに手を突っ込み、中から何かを取り出した。
それは……耳かき棒だった。
俺たちがさっきからアレと言っているもの、それは耳かきだ。
「オーケー、タオル用意する」
そして俺はタオルを取って、さっきコーヒー入れるために使ったお湯(温くなってる)で少し湿らせる。
俺がマックイーンの耳かきをする様になったのは今から2・3年前くらいだろうか。
自分は両親に耳かきをしているとマックイーンに言ってみたら「わたくしにもやってほしい」と言われてやり始めたのがきっかけ。
それまでは耳鼻科で使うような機材を使って耳掃除をしていたらしいが……それも御役御免になったらしい。
「ほい準備完了、いつでもどうぞ?」
「……失礼しますわ」
俺はベッドに腰掛け、膝をぽんぽんと手で叩いて催促をすると、マックイーンは少し遠慮気味に俺の膝に頭を乗せた。
まずは湿らせたタオルで表面を拭きながら、ヒト耳とウマ耳をマッサージするように優しく揉む。
体は動かないが、さっきから尻尾がソワソワとせわしなく動いている。
「今日はどっち? ウマ耳、ヒト耳、それとも両方?」
「りょ、両方……お願いしますわ」
「りょーかい、ヒト耳の方からやっていくからな」
「えぇ……お願い」
ゆっくりと耳かき棒をマックイーンの耳に入れる。
少しビクッと体と尻尾が跳ねたが……その後は比較的動かないでいてくれる。
最初やった時はだいぶビクビクと動いていたから痛くしないか心配だったけど、今ではもうすっかり慣れてくれている。
マックイーン自身もウマ耳を横に向けてリラックスしてくれている。
「ほい、ウマ耳の方をやっていくからな」
「……はい」
ウマ娘にはウマ耳があるが、基本ヒト耳と対して耳かきは変わらない。
ウマ耳は通常時は前の方を向いて直立しているが、ヒト耳と違い自由に動かすことができるので、横に向けてもらえれば普通の耳かきとほぼ同じ形でできる。
でもウマ耳はヒト耳よりもさらに繊細なので、かなり集中しないといけない。
「……よし、マックイーン反対向いて」
「……」
マックイーンは返事をしなかったが、のっそりとした動きで逆を向いてくれる。
……ちょっと息がお腹に当たってくすぐったい。
反対の方も両方の耳を耳かきし、最後に梵天で仕上げる。
(よし終わりっと……マックイーンは)
途中から全然喋らなくなったので、もしかしてと思いマックイーンの様子を見てみる。
「すぅ……すぅ……」
マックイーンは俺のお腹に顔を埋めて、寝息を立てていた。
「ありゃりゃ、寝ちゃったか」
こうなると仕方ない……このまま眠らせよう。
ウマ娘たちが使っている寮の門限はうちと同じだから……うん、まだ時間は余裕がある。
あ〜でも、これだと俺も一歩も動けないなぁ……それに夕ご飯だってまだだし。
まぁいいや、明日多めに食べればいい。
前は耳かきしてもうつらうつらする程度だったが、今回は久しぶりの耳かきだったから寝てしまったんだろう。
……。
「はる……てん……じろの……すぅ……」
「……」
マックイーン、夢の中でも春の天皇賞のこと……メジロ家としてプレッシャーを背負っているのか。
彼女がどれだけ春の天皇賞に想いを馳せているのか、俺は1年と少しの間で見てきた。
そしてそれはメジロ家も望んでいる事……でも……。
「夢の中くらい好きな夢を見ろ……スイーツ食べ放題とかさ」
そう独り言を呟きながら、彼女の頭を優しく撫でる。
するとどうだろう……彼女の寝顔が少しだけ穏やかになった気がした。
・ ・ ・
「すみません執事さん、こんな夜分にお電話してしまって」
「いえ大丈夫です谷崎様。マックイーンお嬢様がご迷惑をおかけしました」
結局あの後、門限の30分前くらいになったのでマックイーンを起こそうとしたが起きなかった。
んで俺自身もマックイーンに膝を貸していて動けなかったので、近くに置いていた携帯を取ってマックイーンの執事さんに電話をかけてお迎えに来てもらった。
「迷惑なんてそんな……俺もマックイーンといて楽しいですから」
「そうですか、お嬢様があなた様のその言葉をお聞きなさったら大変喜ばれるでしょうな」
「さすがに恥ずかしくて言えませんよ」
「左様でございますか。マックイーンお嬢様は私が責任を持って寮にお送り致します」
「はい、お願いします」
執事さんは俺の膝を枕にしているマックイーンをひょいとお姫様抱っこし、この部屋から出て行った。
・マックイーンは可愛い(森羅万象の理)
・次回はスペシャルウィークのデビューレースのお話の"予定"です。