少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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 前回のあらすじ:玲音、不吉な夢を見る……でもそれは夢か?

・今回は長いです。

・UA22,000・23,000を突破しました。ありがとうございます!


初めてのレース、初めて見るレース〈後編〉

 ポケットに入れていた携帯が振動した。

 

 俺はすぐに取り出してその連絡主の名前を見る。

 

 ……玲音だ。

 

 俺はすぐに通話ボタンを押す。

 

「玲音か、今どこだ?」

 

「今は新大阪です」

 

 新大阪か……となると後40分くらい……スペのパドックには間に合うな。

 

 合流したらどうしてやろうか。怒る? いや、それは俺のキャラじゃないな。

 

 ……そう言えばそろそろお昼だよな。

 

 遅れた罰は……お昼ご飯の買い出しにさせるか。

 

 でもまぁ今はそう言うよりも重要なことがある。

 

「なぁ玲音、遅れたからって急ごうと思うな」

 

「えっ?」

 

「急がば回れってやつだ……お前に万が一の事があるなんて、学園的にもウチ的にも個人的にも良くないからな」

 

「っ……はい」

 

 そう言う玲音の声は……どこか不安げだった。

 

 どうしたんだ玲音のやつ……こんな声をするやつだったか?

 

 ……するやつか、うん。

 

「仁川に着いたらまた連絡してくれ、まぁ専用通路が駅から繋がっているから迷う事はないだろ」

 

「えっ……専用通路? 何ですかそれ?」

 

「知らないのか?」

 

「レース場に行くのも初めてなんで……」

 

「そうか……まっ、行けば分かる。じゃあな」

 

 そう言って俺は電話を切った。

 

 んじゃあいつらを安心させるためにも報告と、パシらせるためにもあいつらに昼飯は何がいいか聞いておくかな。

 

「お〜いお前ら、あと40分くらいで玲音は来るらしいぞ」

 

「んて事は……スペのレースには余裕だな!」

 

「はぁ〜……よかった〜」

 

「何だよスカーレット、玲音先輩のこと心配だったのか?」

 

「べ、別にそう言うことじゃないわよ! スペ先輩の大事なデビューレースに遅れるなんて、いくら玲音先輩でも許せないって思ったのよ!」

 

「またまた〜素直じゃねぇな」

 

 ウオッカとスカーレットとゴルシは玲音が間に合う事に安堵している。

 

 ……だが。

 

「……」

 

「どうしたんですか、スズカさん。何で不安そうな顔をしているんですか?」

 

 そう、スズカだけはこの報告を聞いても安心したり、笑おうとはせず、むしろ逆に不安げな表情を浮かべていたのだ。

 

 どうしたんだスズカのやつ、あいつが真っ先に喜びそうな報告なのに……。

 

「……ううん、何でもない」

 

「どうしたスズカ、お前がそんな表情をするなんて……らしくないぞ?」

 

 流石の俺も不安になって、スズカが暗くなっている理由を聞き出そうとする。

 

「……胸騒ぎがするんです」

 

「胸騒ぎ?」

 

「何か……不吉な予感が……」

 

 そう言うスズカの声音は……真剣だった。

 

 本気で怖がっている……こんなスズカを見たのは、初めてだった。

 

   ***

 

 新大阪から色々乗り換えて、最後の乗り換えを終える。

 

 これで俺何回乗り換えたんだ? そう思って携帯の画面を見てみると乗り換えは6回と書いてあった。

 

 うわ〜、そんなに乗り換えたのか……これ携帯が無かったら終わってたな。

 

 さて、これで後3駅乗ればお目当ての仁川駅だ。

 

   ・ ・ ・

 

「これが……先生の言っていた専用通路か……」

 

 仁川駅の改札を通り、先生が言っていた専用通路を探した。

 

 分かりにくいところにあるかと思ってたが、そんな事はなかった。

 

 「阪神レース場へようこそ!」とでかでか描かれていた看板があったので分かりやすかった。

 

 なるほど……阪神レース場に直通している地下通路なんだな。

 

 てっきり駅を出た後にそのまま歩いて向かうのかと思ってた。

 

 自慢ではないが俺はそこまで方向感覚がいい方ではないので、これはめちゃくちゃ助かる。

 

 よし、そうと決まればこの専用通路を通って阪神レース場に全速前進DA☆

 

 そう思いエスカレーターに乗った瞬間、どこからか「ドンッ!」という轟音が聞こえた。

 

 少し気になったが……今は阪神レース場に急ごう。

 

 ……にしてもまさか、遅れた代償がお昼を買ってこいなんて……俺の樋口さんが犠牲に……とほほ。

 

 えっと、ゴールドシップは大盛りカレー、スカーレットとウオッカはたこ焼き……スズカはーー。

 

   ・ ・ ・

 

「おっ、ちゃんと着いたようだな」

 

 阪神レース場に無事に着き、先生から言われたお使いを済ませて、俺はチームのみんなと合流した。

 

「すみませんでした、先生」

 

「これから気をつけろ……ともあれ無事でよかった」

 

「そんな……大げさですよ」

 

「……こいつはそう思ってなかったみたいだけどな」

 

「……こいつ?」

 

 先生はそう言うと、少しだけ横にずれる。

 

 するとそこにいたのは……スズカだった。

 

 先生と被っていて俺の視点からは離れていたらしい。

 

 ……ん? なんだ、このスズカの表情。

 

 どこか暗い……もしかして、遅れた事に怒っていらっしゃる?

 

「す、スズちゃん? どうしんだ?」

 

「……」

 

 俺はスズカが怒っている理由を知りたかったが、スズカは何も答えてくれない。

 

 その代わり、スズカはこっちを見ながら無言で近づいてくる。

 

 あっ、ぶたれる。

 

 そう思い、俺は目を強く瞑った。

 

 すると次の瞬間、胸辺りを優しく……それでいて力強く抱きしめられた。

 

 ……へっ?

 

「す、スズちゃん?」

 

「……よかった」

 

 そう言うと、スズカは俺の胸に顔を押し付け……静かに嗚咽を漏らしていた。

 

 えっ、えっ、待ってくれ待ってくれ……なんでスズカは泣いているんだ?

 

 今見てみると、ウマ耳も前の方に垂れていて弱気になっている。

 

 そして俺が欲しい答えを……先生が言ってくれた。

 

「スズカはな、お前の事をずっと心配していたんだ」

 

「えっ、どうして……」

 

「俺も分からない。でもスズカはな、「胸騒ぎがする」ってずっと言ってたんだ」

 

「……」

 

 俺の胸の中で泣いているスズカの頭を……俺は優しく撫でた。

 

 ビクッと体が震えたが、ウマ耳は横に向いていく。

 

「大丈夫だスズちゃん、俺はここにいるよ……心配してくれてありがとな?」

 

「……うん」

 

「お昼ご飯買ってきたからさ、みんなで食べよう……な?」

 

「うん……!」

 

 スズカはその後も俺の胸の中で泣いたが、しばらくすると泣き止んだので、俺たちは他のみんなと合流した。

 

 その後ゴールドシップにヘッドロックかけられたのはまた別のお話。

 

 そして時間は少し過ぎ……スペシャウィークのガチガチ緊張パドック後。

 

 先生はスペシャルウィークにゼッケンを渡し忘れており、それをスズカと俺で届けてやれと先生に言われた。

 

 スズカはなんて事なく「はい」と答えたが、俺は先生がわざと渡さなかったんじゃないだろうかと考えている。

 

 でもそれだったらスズカだけでいいはず……そう思ったが携帯のメッセージ欄に「レース前の緊張をほぐすのもトレーナーの役目だぞ」と書かれていた。

 

 ……何を言えばいいんだろう。

 

「元気にやってこい」とか「楽しんでいけよ」とかか?

 

 無難ではあるんだけど……微妙にプレッシャーを与えるような気がするなぁ。

 

「気負いせずに行けよ」「いつも通りにな」とかはどうだ?

 

 いや、緊張が無さすぎるのも考えものか……。

 

「2人のお母様と作った、目標への一歩目なんですよね。怖がっていたら損ですよ。楽しまないと……ス、スペちゃん」

 

「っ! スズカさん……はい!」

 

 ……なんて悩んでいるとスズカはスペシャルウィークを励ませたらしい。

 

 さっきまで不安そうな顔をしていたが、目つきが変わった。

 

 よしならこれだったら俺が何かを言わなくてもーー

 

「レオくんも何か言ったら?」

 

「……ソウダナ」

 

 うん、まさかスズカが催促するとは思わなかったよ。

 

 や、やめろスペシャルウィーク、そんな輝いた目で俺を見ないでくれ、多分言うことはスズカよりも平凡な事だから〜……。

 

「……俺、ウマ娘のレース見るの、これが初めてなんだ」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ……正直、テレビでしか見ていなかった。だから俺、今ワクワクしているんだ。スペのデビューレース……本当のウマ娘のレースを!」

 

「っ、はい!」

 

「行って来いスペシャ……いや、スペ! 俺を……ここに来ているみんなをあっと言わせてやれ!」

 

「はい! 行って来ます玲音さん!!」

 

 そう大きな声で言うと、スペはターフの方へと駆け足で向かって行った。

 

 これで良かったのかな。正直プレッシャーを与えたような気がするけど……スペが元気そうに走っていったからいいのかな、うん。

 

 でもそれも、スズカが先にスペを励ましてくれたお陰だ。

 

 だから、俺はスズカにお礼を言う事にする。

 

「ありがと、スズちゃん」

 

「えっ、なんでお礼を言うの?」

 

「俺の励ましが滑らなかったのは、スズちゃんが先に励ましてくれたからだよ」

 

「……そうは思わないよ」

 

「えっ?」

 

「レオくんは良いことを言ったと思うよ」

 

「……そうかな?」

 

 幼なじみに褒められ、ちょっとだけ照れ臭くなる。

 

 そうして俺とスズカは足早にチームのみんなと合流した。

 

   ・ ・ ・

 

 スターターが旗を振り、阪神レース場にファンファーレが響く。

 

 ファンファーレに合わせて、観客のボルテージが上がっていく。

 

 実際、ファンファーレに合わせて俺の鼓動も徐々に早くなっていく。

 

 始まるんだ……レースが!

 

 ファンファーレが終わり、ウマ娘たちが続々とスターティングゲートの中に入っていく。

 

 そして最後にスペが入り、入り口が閉められる。それと同時に……阪神レース場全体が沈黙に包まれる。

 

 1秒、2秒と短くも長く感じる時間が……過ぎていく。

 

 そしてゲートが開き……レースが始まる。

 

「っ、出遅れた……!」

 

 スペのスタートは今回走っているウマ娘の中で一番遅かった。だが自慢のポテンシャルで一気にスピードを上げ5番手くらいに位置つけ、スタートの遅れを取り戻す。

 

「スペ先輩、先行の位置ね」

 

「あぁ……」

 

 先行……簡単に言えば、最初から前に付けて粘り強く先頭を取る作戦。

 

 先生は作戦なんか出していない。ということはあれがスペの自然な走り……スペは先行型ってことか。

 

 最初は特に展開が変わったりしなかった……だが、スペの後ろに付いていたグリーンベレーが少しずつ加速している。

 

 そして……スペに対して、体当たりしてきた。

 

「あそこまで露骨にやるのか……」

 

「それがレースだ。勝つためには手段は選ばないってやつだな」

 

「……」

 

 俺はスペ……そしてグリーンベレーの動向を注意深く見てみる。

 

 すると第3コーナーに通過した辺りで、グリーンベレーの足の力の入れ方が変わった。

 

 まるで、蹄鉄をターフにめり込ませるように踏み込んでいるのだ。

 

 そう考えていると、グリーンベレーは後ろに勢いよく足を振り払った。

 

 あのウマ娘……わざと土を飛ばしているのか。

 

 あぁいうのもレースにはあるのか……。

 

 しかしスペは飛んできた土を最小限の動きで避けた。

 

「すごい……あれって避けれるのか?」

 

「お母ちゃんとの練習の成果ね」

 

「……お母ちゃんの?」

 

 スズカが独り言で何かを呟いたが……まぁ、今はスペのレースに集中しよう。

 

 第4コーナーを回り、最後の直線……最初にスパートをかけたのはグリーンベレー。

 

 しかし少し遅れて……スペもスパートをかけた……!

 

 1人2人3人、一気に3人を抜かして2番手、グリーンベレーを射程圏内に捉えた!

 

 少しずつ、少しずつ……グリーンベレーとの差が縮まっていく!

 

 ラスト数十メートル……グリーンベレーの手の振り方が変わった?

 

 いや、これは……体当たりをするつもりだ。

 

 しかもさっきみたいな抜く際に少し当たる程度ではなく、ガッツリと相手を転ばせるためにやる……サッカーの反則タックルみたいな強い体当たりをしようとしている。

 

 腕の角度がそれを物語っている!

 

 それにこんな速さでそんな体当たりを喰らえば……まずいことになる!

 

「躱せ、スペ!!」

 

 俺は声を上げた……それと同時にクイーンベレーはスペに向かって体当たりをする。

 

 それをスペは……前傾姿勢にすることによって躱した!

 

 クイーンベレーは完全にバランスを崩し、スピードが出ない。

 

 それに対して、さらに加速するスペ……誰が見ても、結果は明らかだった。

 

「いっけええええぇぇ! スペエエエエェェ!!」

 

 そして今……スペは両腕を大きく広げて、ゴール板を通過した。

 

 その瞬間、阪神レース場が歓喜の嵐に包まれた。

 

   ・ ・ ・

 

「どうだった? 初めてのレースは……」

 

 レースで熱くなった感情を冷やすため、レース場の芝生席で先生と2人で訪れた。

 

「なんて言えばいいか……ただ、すごく心が熱くなって、目の前のことしか見えなくて……なんか、すごかったです」

 

「確かに、チームの中で一番声を出していたからな、玲音は」

 

「うぐっ……わ、忘れてくださいよ〜」

 

 ははは! と大笑いする先生。

 

 うぅ……叫ぶのは自分のキャラじゃないのに……。

 

 でも、それくらい……自分を忘れるくらい、レースに夢中だったって事だよな。

 

 俺、やっぱりこの業界(セカイ)に足を踏み入れてよかったと……心の底から思う。

 

「それにしても、まさか初レースだけじゃなくて、初ライブもスペで見られるなんて思いませんでしたよ」

 

「……んっ? ライブ……?」

 

「先生なにをボケているんですか! ウィニングライブですよ! ウィニングライブ!!」

 

「ーー」

 

 はしゃいでいる俺に対し、先生はなぜだか顔が青ざめている。

 

「どうしたんですか先生?」

 

「……やっべ」

 

「えっ、なんて……」

 

「ウィニングステージの練習、マジで全然やってなかった……!」

 

「……」

 

 ……。

 

「……ゔえあ!?」

 

 その後、1着を取ったスペシャルウィークがウィニングライブの時、ステージ場で棒立ちになっていたのは、また別のお話。

 

   ***(オマケ)

 

「次のニュースです。今日のお昼頃、仁川駅にてトラックが暴走、制御不能になり空き店舗に突っ込みました」

 

 今日のお昼、仁川駅近くでトラックが暴走し空き店舗に突っ込む事故が起きました。

 

 トラックの運転手は脳梗塞により意識不明になり、アクセルが踏みっ放しになり暴走、数十メートル先の空き店舗に突っ込みました。

 

 この事故によりトラックの運転手が病院に運ばれましたが、両足の骨折するなどの重症を負いました。

 

 事故当時、多くの人が仁川駅にいましたが……幸いにも誰1人轢かれる事はありませんでした。

 

 ……そんなニュースが阪神の一部のテレビ局で取り上げられたが、玲音たちはそのニュースを知らない。

 

 

 

 

 

 

 




・マジで今回疲れた……トマルンジャネェゾ……(キボウノハナー)

・ゲームだとデビュー戦もファンファーレがあったのである扱いにしました。(競馬はどうなのかは知りません)

・これ1期12Rまでやったら何話くらいになるんだろう……。
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