少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
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スワットとステイヤー
スペシャルウィークのデビューレースから夜が明け、次の日の朝。
俺は学園の近くの駅で1人、人を待っていた。
正直スペのデビューレースに昨日行って疲れがあったが、寮にいるよりも誰かと出掛けたいと思ったので、今日の朝携帯に来ていたお誘いは喜んで受けた。
んでちょっと準備して今に至る。
そろそろ来る頃だろうから携帯内に入れてる競馬ゲームを止める。
そしてやめたのと同時に、メッセージが届く。
『もう少しで着きます』
「はいよ〜っと」
そう返信をして、携帯をポケットにしまう。
ちなみにその待っている人物はマックイーンのことだ。
マックイーンとは月一くらいである目的のために出かける事が多かった。
ただ最近は行っていなかったので、久々のお出かけになる。
……そんな事を思っていると、突然視界が暗くなった。
まるで垂れ幕が掛かったかのように……あ〜いや、これ指だな。
って事は、これは……。
「だ……だーれだ?」
やっぱり、目隠しされていたのか。
「……う〜ん誰だろうな〜?」
「っ……本当に分かりませんの?」
「う〜ん、多分だけどメジロ家の令嬢で、誰よりも春の天皇賞に思いを馳せていて、プライドは高いけど甘いものには目がないところが可愛くて、でも誰よりも頑張ってーー」
「も、もうやめてくださいませ! は、恥ずかしいですわ……」
ちょっとからかってみたが、想像以上にマックイーンには効果があったらしい。
マックイーンの方から手を離して、今度は逆に自分の顔を手で隠していた。
でも頬が紅潮して、しっぽがぶんぶんと忙しなく振り回しているのを見ると、満更でもない様子だ。
「おはよ、マックイーン」
「うぅ……朝から熱いですわ……」
俺はあははと笑って返答して、携帯で今の時間を見てみる。
待ち時間よりも10分近くに着いた……まぁ、都会は電車の来る間隔が狭いのであまり変わらないと思うが……。
「んじゃ、行きますか……お嬢様?」
「ですから! その言い方はおやめ下さいと言っているでしょう!?」
バシッとマックイーンは俺の手を掴んで来たかと思うと、ギューとめちゃくちゃ強い力で痛い痛い痛いイタイイタイイタイ!!
「痛い痛い! 悪かった! 悪かったから!! 潰れる潰れる!!」
俺が必死に声を上げると、マックイーンは少しづつ握る力を弱めていった。
ま、マックイーン……マジで自分の手を握りつぶされるかと思った。
「もう、これに懲りたらお嬢様呼びはやめてください」
「あ、あぁ……」
流石にこの年で片手は失いたくないので、マックイーンが言ったことに肯定的に返事する。
でも多分、数週間後にはまたお嬢様って言うんだろうなぁ。
だって必死になってる時のマックイーンって、かなり可愛いし……。
そう思いながらマックイーンの方を見る。
「っ? どうかなさいましたか?」
「いや、なーんでマックイーンはお嬢様呼びが嫌いなのかなぁ〜って考えてただけ」
「そんなの決まってます。貴方には相応しい言い方があるからでしょう?」
「マックイーン呼びが好きなのか? だったら執事さんにも言っといてやろうか?」
「あの人は恐れ多いっと言って断りますわよ。それにマックイーン呼びは貴方が言うから意味があるのです」
「……そっか」
その後俺たちは電車に乗って、目的の駅まで移動した。
握られた手はそのままで……。
***
俺とマックイーンはなぜ電車で出かけたか。
それは2つ理由がある。
その1つ目が……今やっていることだ。
「はぁ……はぁ……中々やりますわね」
「そりゃ、何年も付き合ってるからな……ちょっとのブランクなんてどうって事ないさ」
「でも貴方も随分疲れてるのでは? 足がガクガクしてますわよ?」
「それは……お互い様だぜ……」
俺とマックイーンは睨み合う。マックイーンの瞳には闘志が宿っている。
だがそのマックイーンの瞳に反射して見える俺自身も闘魂の火は消えていない。
「さぁ、行くぜ!!」
「望むところです!!」
動きを制止し、目の前の事に集中する。
俺の手の中にあるのは……小さな白いボール。
それを転がし、集中の波が整うのを待つ。
……。
「ーーーーっ!」
手の中に収めてたボールを高く垂直に上げる。
ボールは高くあがり、やがて重力によって下に落ちてくる。
そして俺はタイミングよく、右手に持ってたラケットを振った!
カコンッと少し腑抜けた音が俺の耳に届いた。
打ったボールは右下回転をしながら、マックイーンのコートに向かっていく。
……俺とマックイーンは今どこにいるか。
それは、卓球場だ。
「っ!」
俺が放ったサーブの回転に逆らわないように、マックイーンは優しく撫でるように、繊細にレシーブする。
そのボールは俺が立っていた位置とは真逆の方に飛んでいく。
「っ……」
足に限界が来ていた事もあり、反応が少し遅れてしまい返しが甘くなってしまう。その隙をマックイーンは見逃さなかった。
「はぁ!!」
渾身の一撃、そのスマッシュはスパンッ! と俺の横を通り過ぎていく。
やがてボールが壁に当たるが、回転が残っているのかその場でまだ回り続けている。
そんな様子を見た瞬間、さっきまで固めていた何かがふにゃんと崩れていく。
「やりましたわ! 勝ちましたわ!!」
「だーくっそ〜! もうちょっとだったのに〜!!」
そう叫び俺はスコアボードを見る。
8-11、13-11、そして今の14-16。
あともう少しだったが、そのもう少しが出せなかった。
やっぱりブランクがあったか……いや、ブランクのせいにしてはいけない。これが今の実力だ。
……マックイーンと卓球を始めたのは、メジロ家に招かれて2回目の時だ。
マックイーンの部屋でくつろいでいると、マックイーンが「運動しませんか?」と言われたのが始まり
とは言っても普通の人とウマ娘では身体能力の差がある。それが例え年の差が3つ離れていたとしてもだ。
さらにその時、執事さんたちは用事があって2人しかいなかった
だから運動するって言われても何をするんだと俺は聞いた。
するとマックイーンは「付いてきてください」と言ったので、俺はマックイーンに付いていった。
すると遊戯室という部屋があり、そこにあったのが卓球台と卓球道具1式だった。
確かに卓球なら人間とウマ娘の身体能力の差はそこまで関係ないだろう。
ただ……これでも一応卓球部だったので、別のやつを提案しようとしたが、マックイーンはなぜか自信満々で「大丈夫ですわ!」と言って、ラケットを構えていた。
そして実際にやってみると……惨敗だった。
俺が取れたのは情けで与えられた泣きの一点だけ。(しかもマックイーンのわざとサーブミス)
完全にズタボロにされた俺は、メジロ家に行く度にマックイーンに再戦を申し立てた。
今では二回に一回と互角になっているが、前は5点取るのもやっとだった。
……まぁ、マックイーン以上に強い、執事さんという裏ボスがいたのだが……。
少し前に先生が俺のことを「卓球で市内一になった男」と言っていたが、あれは運もある。
だけど、少なからずマックイーン……そしてマックイーンの執事さんと試合をして、普通に選手としてもレベルが上がっていたのもあると思う。
「ずっと寝てますけど……立てます?」
「あぁ……大丈夫だ」
マックイーンが手を差し伸べてくれたので、俺はその手を掴みゆっくりと立ち上がる。
「いやぁ〜、やっぱマックイーンのドライブはきついわ……市内でもそんな回転かけれる奴はいないぞ」
「あら、市内一の選手に褒められるのは悪い気分ではありませんわね」
「しかもステイヤー……ラバー貼りラケットでよくそこまで出来るな」
マックイーンが持っているラケットはステイヤーというラバー貼りラケット。
卓球のラケットは本体のブレードとラバー・スポンジの2つ(ラバーは裏表があるから3つか)で出来ているが、ステイヤーはそれがセットになっている。
えっ、なら良くね? と思うがそれは違う。
ラバーは基本消耗・交換品なので変える必要がある……でもラバー貼りは最初から付いており、そして剥がせない。
つまりラバーだけ捨てて、ブレードは使い続けるというのは出来ないのだ。
……まぁ、その分安いんだけど。
俺が使っているのはスワットという初心者や中級者が使っている7枚木材のラケットだ。
……部活に入った時にこのラケットを買って、ほかのラケットを買ったが合わなかったので、結局戻して使ったのが今の2代目スワット。
こいつで俺は市内一に輝いた。
「結局、卓球は道具ではありませんのよ。己の力が全てですわ」
「左様でございますね……」
マックイーンは勝者の余裕を見せると、バッグからタオルを取り出してこの建物にあるシャワー室の方へと向かっていった。
……自分もシャワーを浴びることにしよう。なにせこの卓球はあくまでお膳立て。
本当のお出かけの目標はこの後にあるのだから……こんなべっとりとした体じゃあ楽しめない。
俺もシャワー室へと向かったのだった。
・スワットはVICTAS、ステイヤーはバタフライのラケット。
・マックイーンが使っていたラケットのブレードの色を見て、ステイヤーだと思ってますが、違うかもしれません。
・次回もマックイーン回の予定。