少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

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 前回のあらすじ:玲音、スピカ名物に遭う。


ようこそ、チーム・スピカへ!!

 小学校、または中学校の頃に防犯講座をやったのを俺は不意に思い出した。

 

 そこで習ったのは見知らない人・マスクやサングラスをつけた人にはついていかないというものだった。

 

 でもこう思ったことはないだろうか……”俺には関係ないと”。

 

 おい……数年前の小学生の俺、お前を殴ってもいいか?

 

 実際に起きたぞ……拉致事件。

 

「チーム・スピカへようこそ!」

 

「……」

 

 落ち着こう谷崎玲音、こういう時こそ周りの状況を把握するんだ。

 

 目の前にいるのは俺をさらって来た張本人たち、白毛に赤毛に黒毛のウマ娘。

 

 周りを見てみるとプレハブみたいなところ……彼女たちの発言から考えるに、ここはチームが持っている部室みたいなものなのだろう。

 

 そして何より……俺の後ろの方、出口の扉に背を預けながらこっちを見ている黄色い服を着た男。その服の袖には赤いバッジ……トレーナーである事を証明するトレーナーバッジを付けている。

 

 つまり後ろにいる男こそ、目の前のウマ娘たちのトレーナー。

 

 とりあえず……ここは素直に思っていたことを口にするとしよう。

 

「何の真似ですか?」

 

「おいおい、そんな敵対心を向けるなよ、このゴルシちゃんが話しかけているんだぞ? もっと気楽になれよ〜」

 

「ごめんなさい、痛くはなかったかしら?」

 

「にしてもトレーナー、新しいウマ娘ならまだしも、トレーナー学科からこいつを拉致ってこいってどういう事だよ?」

 

「あ〜、それには深い訳があってだな」

 

 そう言いながらトレーナーらしき男は俺の正面に立つ。

 

 するとポケットから折った紙を取り出し、それを広げる。

 

 ……そういえば、この人を俺はどこかで見たことがある。

 

「谷崎玲音、年齢16歳、都立〜〜中等学校を卒業」

 

「っ! そうだ……」

 

 思い出した。この人は俺が入学試験を行った際、面接官になっていた先生だ。

 

 他の面接官がスーツ姿なのに対し、この人だけ私服だったので印象が深く残っていた。

 

「志望理由として君は『幼かった頃の約束を守りたい』って答えたな……?」

 

「……はい」

 

「俺は一応、他の奴らも対応したが……そんな志望理由を言ったのはお前が初めてだ」

 

「……」

 

「他の奴らは『立派なウマ娘を育て上げたい』『業界に名を残すトレーナーになる』など具体的な目的がある中、君はあまりにも曖昧な答えを出した。はっきり言って……君は学園に不必要だ」

 

「えっ?」

 

「んっ? それってつまり〜……どういうことだ?」

 

「お前たちで言うなら、トゥインクル・シリーズを目指さないって言ってるもんだ」

 

「おいおいそれって……」

 

「無計画ってこと……?」

 

 目の前が暗転しそうになる。それくらい俺にとっては衝撃的な事実を突きつけられた。

 

 確かに筆記試験も少し自信はなかったし、面接も上手くいったかも自信がない。はっきり言って試験後に後悔していたレベルだ。

 

 でも、待てよ……じゃあなんで俺はーー

 

「トレセン学園に入れたのか……だろ?」

 

 俺が考えるよりも先に、トレーナーが俺の考えを読んで口にする。

 

 そして合っているので、俺は弱く頷くしかなかった。

 

「それは俺が……いや、チーム・スピカが君を見ることにしたからだ」

 

「「「えっ、そうなの(か)!?」」」

 

 おそらく、このチームのウマ娘たちはその事を知らされていなかったのだろう。

 

 部室内にウマ娘が驚く声が反響する。

 

 それでも俺は、そんな声などもう聴こえていないに等しかった。

 

「なんで……そんなことを?」

 

「あの時の君の顔は本気だった……それに感動しただけだよ」

 

「トレーナー、年寄りの涙もろさってやつだな!」

 

「うるせぇぞゴルシ、俺はまだそんな歳は取ってねぇよ!」

 

「……」

 

「ごほん……この世界では常に結果が優先される。どんなに才能があるやつでも最終的には勝負の結果が全てだ。そしてそれに埋もれてしまう才能は多くいる……それはトレーナーにも言えることだ」

 

「あっ……っ……」

 

「学校側からしたら君……いや、お前は不合格だった。だけどうちで見ることを条件に入学を許可してもらったんだ」

 

 と言うことは……俺はこの人のお陰でトレセン学園に入れたってことなのか?

 

 ……。

 

 なんだよそれ。

 

 つまりあれか? 俺は自分自身の力ではこのスタート地点にも立ててもいなかったのかよ……。

 

 あの時の約束を守るために……一番叶えられそうなここに行こうって思ったのに……。

 

 自分自身があまりにも哀れに感じてきて、少しずつ目頭が熱くなって……ツーっと温いものが頰に流れ落ちる。

 

「ちょ、ちょっと大丈夫!?」

 

「おいおい、どこに泣く要素があったんだ……?」

 

「だって……約束を守れていない……」

 

「なぜそう言える?」

 

「だってそうだろ!? 俺はあの子と約束をした! でも自分自身の力では約束は守れなかった!! そんなの……守っていないのと同じーー「自惚れるな!」

 

「っ……!?」

 

「お前のその言葉は、自分自身にトレーナーの素質があると勘違いしている言葉だ!」

 

「あぁそうだよ! だからーー」

 

「だから俺はお前に約束する。お前を約束が守れるくらい力のある……いや、きちんとした一人前のトレーナーにしてやる! だからチームに入れ、谷崎玲音!!」

 

「……」

 

 俺は一回、燃え上がっていた感情を落ち着かせる。

 

 ここは冷静に考えなければいけないことだ。

 

 俺はこの男を信じても良いのだろうか……一人前のトレーナーにしてやる。その言葉は正直言うと学生トレーナーからしたらとても嬉しいものだ。

 

 トレーナー学科の試験を受ける時、俺はある程度のことを調べていた。

 

 その時に分かったのが……入ったからといってトレーナーに絶対成れるとは限らないということだった。

 

 実際合格率は85パーセント。

 

 その理由はチームによって得られる物が違うからである。

 

 例えばリギルみたいにウマ娘の脚質や性格にあった指導のやり方を教えるチームもいれば、脚質など関係なく超スパルタの調整でウマ娘の限界を引き上げるような指導を教えるチームもある。

 

 だから自然に知識の格差という物が出来てしまう。

 

 だからこのチーム選びというのは、簡単に言ってしまえばこの学園の最初のターニングポイント。軽率には決められない。

 

「一応言うが、この誘いを受けるか受けないかはお前次第だ。だが、学園内のチームの多くはお前を下に見るだろうな、意思がない奴を取るほど暇じゃない……まぁ逆境からみんなを見返すんだったら、茨の道を進むのも良いだろう。

 

 でも、俺はお前に約束する。お前を一人前のトレーナーにするとな……!」

 

「っ……俺は……」

 

 俺はもう一度、俺のために声をあげているトレーナーの方を見てみる。

 

 トレーナーの瞳には俺が映っていた。その瞳は真っ直ぐでどんなものでも貫きそうな鋭さと真っ赤に燃えた炎の熱さが混じっているような目だった。

 

 その真剣みがあるトレーナーの姿に……俺は……。

 

「俺……なりたいです。一人前のトレーナーに! だから……俺をこのチームに入れてください!!」

 

 その時の俺は多分、今まで生きてきた人生の中で一番声を大きく出した。

 

 目を強く瞑り、勢いよくお辞儀をする。

 

 すると……すっと目の前に手が差し出される。

 

 顔を上げるとトレーナー、そしてウマ娘たちもこっちに手を伸ばしていた。

 

 そして……こう言ってくれた。

 

『ようこそ、チーム・スピカへ!!』

 

「歓迎するぜ」

 

 こうして俺はチーム・スピカでお世話になることになった。

 

 ……それが思いもよらない再会のピースになるなんて、その頃の俺は思いもよらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




・トレーナーがちょっと熱い男すぎるかな?

・次回にメインのウマ娘の1人が一瞬だけ出てくるはず。
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