少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
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もし、願いが叶うなら、また彼に会いたい。
そして聞かせたい。いつもポケットに入れているこの原稿を……彼の前で……。
でも、そんなことはもう無理だっていうのは、理性では分かっている。
だから時々、泣きたくなってしまう。
そんな時は原稿を取り出して、当時の彼を思い出す。
そして笑顔になった彼の顔を見て、ーーは希望を捨てないでいる。
彼と再会する……そんな希望を……。
そうして高等部に上がって1年が過ぎた時、奇跡が……起きた。
彼が……この学園に来たのだ。
背は当時より大きくなっていて、一人称も変わっていて、顔も大人っぽくなっていた。
だけれどーーは確信していた。彼が……今の彼だってことに……。
***
「……」
昼食を尊野と道の3人、食堂で取っていた時、俺はふと視線を感じて辺りを見回す。
……まただ。
最近に入ってからなんか視線をこの学園で感じるようになった。
「っ? どうしたの谷崎くん? そんなにキョロキョロ周りを見て?」
「なんか悪いことでもしたのか? それとも、CBIやFBIに追われているとかか?」
「いやそれはないけど……最近視線を感じるんだ」
「へ〜、どんな感じにだ?」
「どんな風にって言われても……形容し難い感覚だな」
なんというか、行動を全部見られているというか……本当に形容し難い感覚だからどう言葉にすればいいか分からない。
「まっ、そんなの気のせいだろ」
「谷崎くん、例えそれが本当だとしても意識しない方がいいよ。意識し過ぎて疑心暗鬼になるのは心に毒だからね」
「うん……ありがとう道さん」
うん、そうだよな。
俺はそんな誰かにストーカーされるくらい顔がいいなんてことはない。
多分、俺の勘違いや気のせいだろうな、うん。
そう思い、俺はトレーを持ち上げながら席を立って、返却口にトレーを置きに行く。
・ ・ ・
次の日、俺は授業が終わるといつものように足早でスピカの部室に向かおうとしていた。
まだ誰もいない昇降口で上履きを脱いで、外履を取り出そうと靴箱を開けた……その瞬間、一つの紙がヒラヒラと舞い落ちた。
一瞬、ポカンとしてしまったが俺はそれを拾い上げる。
そして俺は考える。
放課後の学校、靴箱に手紙……俺の記憶から考えるなら、これはもしかして……ラブレターなのでは!?
いや落ち着けまe……いや俺の名前は谷崎玲音だ馬鹿野郎!
とにかく落ち着こう……まずは手紙の内容を見るんだ。
そう思い、俺は手紙の封を開け……中に入っている紙の内容を見てみる。
『今日の放課後、屋上で約束を果たします。必ず来てください。ライスシャワーより』
「……」
俺はその手紙を見て……不思議に思った。
普通のラブレター(俺の知っている限りの)はもっと簡単な言葉でほぼ一文で書くはずだ。
しかし、この手紙は違う。
特に気になったのは『約束を果たす』という文。
どういうことだ? 俺は何かを約束していただろうか……この手紙を書いたライスシャワーという人と……。
俺は記憶を遡ってみるが……約束を交わしたのはスズカだけだったはず。
そもそも、ライスシャワーなんていう名前に心当たりがない。
「……誰かの悪戯か?」
ふと俺はそう口にしていた。
そう口にすると、なんかスッと腑に落ちるような感覚がした。
俺は読んだ手紙を制服のポケットに入れて、上履きを靴箱に入れて外靴に履き替えようとした……その時だった。
あの感覚が……誰かに見られるような感覚が急に後ろの方から現れたのだ。
その感覚に気づいた瞬間、俺は反射的に身体を後ろの方に向ける。
そして、俺の視界は捉えていた。
靴箱を使って身を隠している黒髪のウマ娘。
そのウマ娘は俺が振り向いた瞬間、脱兎の如くその場を後にした。
「待ってくれ!」
俺はその子の後を追った。
とは言っても、人とウマ娘では明らかに能力的な差がある。
だから見失ってしまった。
「はぁ……はぁ……畜生……」
肺が苦しくなり、俺は走りを止めてしまう。
なんだ……なんだこれ……。
俺はあのウマ娘とは会ったことが無いはずなのに……なんでこんなにも焦っているんだ?
まるでもう1人の俺が「あの子を見失うな」と言っているみたいだ。
それにこの胸の鼓動……走ったのもあるけど、それとは別に……変な感情が混ざっている。
それこそ……形容し難い感情、味わったことのない感覚。
見ず知らずのウマ娘になぜここまで執着してしまうのか、自分自身でも分からない。
でも、俺のナニかが叫んでいる。
あの子を見捨てるな、1人にするなって。
「あら……玲音さん。こんなところで何をしているのですか?」
「っ! マックイーン! さっきそっちの方に黒髪のウマ娘が走ってこなかったか!?」
「えっ? えぇ……確かに走っていましたけど……」
てことは、この奥にある階段を上がったってことか。
確か手紙には屋上に……って書かれていた。
なら俺が向かうべき場所はこの先の階段を上がったところの屋上。
そう考えた瞬間、俺はまた走り出した。
「えっ、ちょ……玲音さん!?」
マックイーンが急に走り出した俺に対して驚きの声を上げたが、俺は無視してそのまま屋上に向かって走る。
階段は一段飛ばしで駆け上がる。
一階、二階、三階と上がり……屋上に繋がる扉を開ける。
開けた瞬間に風が吹きつける。
そしてその風によって、長い黒い髪がユラユラと揺れている。
さっき昇降口で俺を見ていたウマ娘は、俺に背を向けていた。
「……」
「……」
1秒、10秒、1分と無言の時が過ぎていく。
辺りに聞こえるのはトレーニングを始めた他のウマ娘たちの掛け声と強く吹きつけている風の音だけ。
俺は彼女に近づこうか、少し悩んだ。
そんな時だった……彼女が振り返り、声を発したのは。
「私のささやかな祈り 4年〇組ライスシャワー」
***
ライスは……心を込めて読む。
今まで会えなかった分……ずっと伝えてきたかった感情を全て乗せる。
再会、喜び、悲しみ……様々な感情が声音に移る。
今、彼はどんな思いで聞いてくれているんだろう。
一番はそれでライスのことを思い出してくれることだけど、多分それは願わない願い。
それよりもライスが恐れているのは……忘却。
彼がライスのことを忘れていたら? そんな不安が頭の中で何度も横切った。
でも、その時はその時。またあの時みたいにゼロから始めればいい。
そのためにライスは昔交わした約束を……今果たすんだ。
***
「だから私は、みんなを笑顔にできる……そんなウマ娘になりたいです」
ライスシャワーと名乗ったウマ娘は原稿を読み終わったのか、原稿を折って制服のポケットに入れる。
そしてこっちに向き直って、こう言った。
「久しぶり、玲音くん」
「っ……」
その声を聞いた瞬間、自分の心臓は大きく鼓動を打った。
そしてなんなんだ……目の前にいる彼女を愛おしいと思ってしまう、この感情は……。
……だけど、俺は今の素直な気持ちを口にする。
「ごめん……俺たち、どこかで会ったことあったかな?」
そう、どんな感情が身体中に巡っていたとしても、俺とこの人は初めて会った"はず"なんだ。
……はずってなんだよ、俺と彼女が初めて会ったのは紛れもない事実だ。
……事実の”はず”なんだ。
なのになんで、俺は”はず”って考えてしまうんだ。
そんな自分自身の考えに戸惑いながらも、目の前の彼女の様子を見てみる。
彼女は……口を両手で押さえながら、身体を震わせていた。目尻には涙が溜まっており、それがツーっと頬を濡らした。
誰が見ても目の前の彼女がショックを受けているのは分かるだろう。
「……ごめん、なさい。人違いでした……」
そう言って、弱々しくライスシャワーは俺の横を通って扉の方へ歩いて行こうとする。
その背中はあまりにも哀愁を漂わせていて、どう言葉を掛ければいーーーー。
「えっ? ……玲音くん?」
「ーーーー」
俺は……何をしているんだ?
彼女を……ライスシャワーを後ろから抱きしめている。
そして同時に頭を撫でている。
そして撫でた瞬間湧き上がってくる知らない感情……こんなの知らないはずなのに……。
「(なんでこんなにも……懐かしく感じるんだ)」
「どうしたの玲音くん……いきなり抱きついて……」
「……俺は、君と会ったことはないはずなんだ。なのに、なのに……ずっと、こうしたかったって思うんだ……」
今俺の中で駆け巡っている感情がどういうものなのかは……全然分からない。
だけど……心の奥で俺はずっとこうしたかったんだ。
その気持ちに、思いに……嘘はない。
***
後ろから、ギュッと抱きしめてくれた。
頭をなでなでしてくれた。
正直、それだけで……嬉し涙を流れそうだった。
でも、ライスが嬉し涙を流したのは……その後、「ずっと、こうしたかったって思うんだ」という言葉。
これはライスからしたら、こういう解釈ができた。
ーーーー玲音くんは完全には忘れていない……彼の心の奥にはまだ記憶が残っていると。
ーーーーライスは忘れ去られていなかったんだと。
だからライスは彼の方に向き直り、彼に頭を撫でられながら、彼の胸の中で嬉し涙を流した。
・ということでメインウマ娘最後の枠はライスシャワーでした。
・年下系兄を書きたい(願望)。
・次回もライス回(というより玲音回?)の予定です。