少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
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「……やっぱ人多いなぁ」
次の日、放課後に先生が言っていたグラウンドに来るとそこには50人くらいのウマ娘たちと、トレーナーバッチを付けているチームトレーナーが十数人いた。
どのトレーナーも真剣な表情で、自分自身で用意したであろうウマ娘のデータが書かれた紙とそのウマ娘を直に見ている。
そしてそんなトレーナーの皆様方が俺の足音に気づいて、こっちを向く。
恐らく、トレーナーの皆様方はこう思っているだろう。『なぜここに学生がいるんだ』と。
ここにいるのはトレーナーバッチを持ち、学園がトレーナーと認めた人だけだ。
そんなところに制服姿の学生が現れれば、それはそれは目立ちに目立ちまくる。
耳に意識を向けると「なんでこんなところに学生がいるんだ?」と細々と聞こえる。
そんな声を無視して、俺はグラウンドの方に目を凝らす。
すると、ジャージ姿でポニーテールのウマ娘がいたが背中しか見えないので分からない。
……と思ったら、ちょうどいいタイミングでテイオーがこっちに振り返った。
俺の姿を見て手を振っているテイオーに対して、こっちも手を振る。
「そこの君、少しいいかしら?」
君というのはおそらく、俺の事だと思い視線をグラウンドにいるテイオーから声の方向へと移す。
そこに立っていたのは灰色のスーツを着て、トレーナバッチを付けた紺色の髪の女性……というか、俺はこの人を知っていた。
この学園で1番強いと言われるチーム・リギル。そのチームを統率している敏腕トレーナー……東条ハナさんだ。
「っ? 君って確かあのバカの……」
「はっ、はい。チーム・スピカで見習いトレーナーをしてます。谷崎玲音です」
「なんで見習いトレーナーの君がここにいるのかしら、あなたの担当トレーナーはどうしたの?」
「チームのメンバーの調整をしています。来週にレースらしいので……」
「……まさか君が新戦力を見に来たのかしら?」
「はい」
そう即答すると、東条さんは眉間辺りを抑えてはぁとため息をついた。
まぁ確かに東条さんのこのリアクションはあながち間違いじゃないと思う。
「あのバカ……一体何を考えているんだ……」
「……あの、間違ってたら申し訳ないんですけど、東条さんはうちのトレーナーと知り合いなんですか?」
「……えぇ、そうよ」
やっぱり、先生は東条さんの事を「おハナさん」と親しげに呼んでいたし、なぜだか東条さんの趣味も知っていた。
「私とあいつのことはどうでもいい。君はあいつの指示でここに来たってことでいいのね?」
「はい」
「あいつから何か資料とか渡された?」
「いえ……自分の目で見ろって……」
「(……あいつ、この子を育てる気が本当にあるのかしら……)」
東条さんが何かを呟いた瞬間、グラウンド全体にホイッスルの音が鳴り響く。
どうやら練習が始まるらしい。
さて、しっかり見ないとな!!
・ ・ ・
練習を開始して1時間少し、トレーナーの皆様方はずっとグラウンドにいるウマ娘を見ている。
もちろん、俺もそうだが……今俺の目には1人のウマ娘しか映ってなかった。
「次、坂路ダッシュ!!」
「はい!」
『は、はい……』
ほぼノンストップで練習が続き他のウマ娘はヘロヘロな中、1人のウマ娘はまだハキハキしていた。
そのウマ娘の名は……トウカイテイオー。
「あのウマ娘、まだ余裕がありそうですね!」「これは次の新戦力が決まったかな……」と、周りの人たちもテイオーの話で持ちきりになっている。
実際、テイオーは疲れるどころか、とても楽しそうに笑顔で練習に励んでいる。
(すごいな、テイオー!)
もしスピカに彼女が入ったら……と思ってしまう。
いやでも、今俺の隣にいるリギルのトレーナーの東条さん、そして他のチームのトレーナーも彼女を狙うはず。
特にリギルはシンボリルドルフがいるから、シンボリルドルフが好きな彼女は憧れの人が入っているチームに入る……な〜んて可能性もあるよな。
そう思いながら、俺はずっとテイオーを見ていた。
……すると彼女もこっちを向いた。こっちに向かって笑顔でピースサインを送ってくる。
俺も一応サムズアップで答える。
サムズアップは「古代ローマで、満足できる、納得できる行動をしたものにだけ与えられる仕草」……って、某特撮ライダーで言っていた。
ただ一部の国では侮蔑の意味になるので注意だが……。
数分後、グラウンドに再びホイッスルの音が響いた。
「今から模擬レースを行います。紙を配るのでそれに従いブロックを作ってください」
『はい!』
練習は終わり、トレーナーにアピールするための模擬レースが始まる。
第1、第2レースと次々とウマ娘たちが走り競う。
トレーナーたちは持っていたストップウォッチを押したり、持ってきていたタブレットや紙に何かを書いている。
……正直、どうすればいいか全然分からない。
先生は一応項目をつけてくれているが……俺って一応、数日前に初めてウマ娘のレースを見た新参者なんだけどなあ……。
先生、なんでこんなことを俺にやらせようと思ったんだ?
いや、あの人ならこう言うな。
『経験が大事、何事も経験あるのみ』って……。
とりあえず1着だった娘、途中までリードしていた娘、坂でグンッと順位を上げた娘という風に付けてみる。
「次、第5ブロック、スタート位置につくように!」
その言葉を聞いた瞬間、トレーナーの皆様方の目がさっきよりも更に鋭くなる。
それもそのはず、第5レースはこのレースの最終レースであり……大本命が走るレースである。
トウカイテイオーが……スタート位置に着いた。
「位置に着いて、よーいどん!」
バッと旗が振り下ろされると、一斉にウマ娘たちが走り出す。
トウカイテイオーは……少し前で詰まってしまった。
前に出た娘に上手く塞がられ、最初の加速が思うように上手くいかなかった。
第1コーナーを通過し、テイオーは6番手に位置付けている。
「トウカイテイオー、スタート上手く行きませんでしたね」
そんな言葉が俺の耳に届くが、それは違うと俺は心の中でツッコむ。
テイオーはわざとスピードを落とし、後ろの方に着いたのだ。
もしあのまま加速していればあの集団に突っ込んで行き、最悪垂れウマが出てきた時に捕まる可能性がある。
だからテイオーは後ろのスペースがあるところに位置つけて、様子をじっくり見られるポジションに着いたのだ。
もしあれを考えて……いや、無意識にやっていたとしても、テイオーにはレース脳がある。
向こう側のストレートで外から他の娘が抜き、テイオーは7番手……だが、テイオーは笑っていた。
テイオーはあるところを見ていた……俺もその視線の先を見てみる。
……第4コーナーだ。
テイオーはずっと第4コーナーを見ている。あそこで仕掛ける気なのだろう。
そして少し経ち、第4コーナーに入った。
「来る……」
俺がそう言ったのと同時にテイオーは仕掛けてきた。
1人、2人、3人と抜かし……先頭にいた2人も外から抜こうとする……最終ストレートに入った瞬間、テイオーの前には誰もいなかった。
この時を待っていたと言わんばかりに、テイオーは更にスピードを上げスパートをかけた!
1バ身、2バ身とどんどん差をつけていく……!
彼女を追えるものは……もう誰もいない。
4バ身という圧倒的な差をつけて……トウカイテイオーはゴールした!
・ ・ ・
「どうだった〜玲音? ボク、すごかったでしょ?」
あの後テイオーはトレーナーの皆様方に「うちに入ってくれ!」「私と一位を目指しましょう」とスカウトを受けまくっていた。
あまりの多さで少し困惑していたテイオーだったが、丁寧に全員の話を聞いていた。
そうして言ったセリフは……。
『すみません、もう少し考えさせて下さい』
これにはトレーナーの皆様方は豆鉄砲を食らった鳩みたいな反応をした。
俺も聞いていたが、条件としては全然悪くないものばかりだった。なのにテイオーは選ばなかった。
『ボクは……会長を超えるウマ娘になりたいんです。ですから、チーム選びは慎重に選びます』
テイオーのその真剣な顔と宣言に、トレーナーの皆様方はそれ以上何も言おうとしなかった。
俺もそれを聞いて帰ろうと思ったが、テイオーに「あの公園で集合ね!」と言われたので、公園に来て今に至る。
「すごかったよ、スタートミスったと思ったけど、あそこまで差がつくなんてな」
「一番目立ってたでしょ?」
「あぁ、そりゃあもちろん」
やったーとはしゃいではちみつドリンクをちゅーと吸うテイオー。
ちなみにはちみつドリンクは俺の奢りだ。
「ぷは〜、やっぱレース後ははちみつドリンクに限るね!」
笑顔ではちみつドリンクを飲むテイオーの横顔を見ながら、俺は悩んでいた。
……テイオーをスカウトするか。
正直言って、テイオーは今回練習に参加していたウマ娘の中で一番素質があった。
もしテイオーがチームに入ってくれたら……そう思う。
いや、思うじゃない。
俺はテイオーに入ってほしい……感じるんだ、テイオーはすごいウマ娘になると。
そしてその姿を……近くで見てみたい。
「っ? どうしたのさ玲音、そんなにボクのことを見て? もしかしてボクにほーー」
「テイオー」
俺はテイオーの言葉を遮ってしまう……だが、俺は続けてこう言った。
「チーム・スピカに入らないか?」
「えっ……スピカに?」
「嘘偽りなく言う……俺はテイオーの走りが好きだ。その脚だったらいいところまで行くと思う」
「……」
「俺は……テイオーの物語を近くで見たい。だから、スピカに入ってほしい」
「……」
テイオーは……黙っていた。
それでも一度も視線を外すことはなく……俺を見てくれていた。
「……ごめん、今すぐには返答はできないや。玲音だけを贔屓って訳にはいかないからね」
「……だよな」
「でも、ありがとう玲音。すごく嬉しい言葉だったよ!」
そう言うとテイオーは立ち上がって公園の出口まで駆けて行く。
「またね玲音!」
「あぁ、気をつけてな」
公園で1人になった俺は……テイオーの姿が見えなくなるまで見送った後、携帯を取り出し、先生の連絡先をタップする。
『どうした玲音、報告だったら明日ーー』
「見つけましたよ、先生」
『……何をだ?』
「次の世代を担ってくれる……そんな娘が…‥!」
『ほ〜う? 名前はなんて言うんだ?』
その問いに対して、俺は誇りに思うように……彼女の名前を口にした。
・今回のレースは、テイオーの新馬戦を見て書きました。
・次回は……11バ身のお話になる予定です。