少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
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サイレンススズカという名のウマ娘
トウカイテイオーをチームに勧誘し、やんわりと断られた(いや、保留っていうのかな?)その週はチーム・スピカが本格的にトゥインクル・シリーズに参入した週になった。
まず初めにスペシャルウィークがトゥインクル・シリーズ通算2度目の勝利を半バ身差で勝ち取った。
それに続くようにウオッカ・ダイワスカーレットがメイクデビューをそれぞれ3バ身半、約2バ身で華やかに飾った。
さらにチーム・スピカの(おそらく)最年長であるゴールドシップが阪神レース場で2バ身半つけて1着を取った。
そうして……その次の日、最後のスピカのメンバーがレースで走る。
・ ・ ・
その日、中京レース場のパドックには多くの人が集まっていた。
スペやスカーレット、ウオッカのデビューレースも人はまぁまぁ入っていたが、今のこの人数を見るとあれでも少なかった方なんだなと思ってしまう。
そんなことを考えていると、場内の実況者のテンションが上がっていると分かるくらいの声でこう言った。
「さぁ、いよいよやって参りました! チーム・リギルから脱退し、チーム・スピカに入った彼女はどこまでやれるのか! また、前回見せたあの大逃げは見られるのか!! 5枠5番サイレンススズカ! ファン投票は一番人気です!!」
実況者がそう言うと、パドックに用意されたランウェイにスズカが現れる。
とても落ち着いた様子で1歩、2歩と進み……立ち止まる。そしてジャージの襟部分を握ると、勢いよくジャージを後ろの方に投げ飛ばした。
バサッと舞い落ちるジャージ、それと同時に現れた調整のいい体つきを見て、パドックにいた全員は感嘆の声を上げる。
「スズカさん……やっぱりかっこいいです!! 玲音さんもそう思いますよね!!」
「そりゃもちろん、いつもの表情とは違って凛々しくてかっこいいな」
スズカのパドックパフォーマンスを見て尻尾をぶんぶん振りまくっているスペに俺は素直な気持ちを伝える。
スズカはある程度歓声を受けた後、自分自身で投げたジャージを拾ってランウェイを後にした。
「そういや新人、あいつの走りを見るのは今日が初めてなんだよな?」
「あぁ、そうだけど」
「でしたら、今日は忘れられない日になりますよ!」
「スズカ先輩を逃げさせたら右に出るものはいませんからね!」
興奮気味にスカーレットとウオッカがそう言う。
この2人がここまで言うのだから、本当にすごい走りを見せてくれるんだろう。
……そういえば、さっきの実況者が言っていたことで気になることがあった。
だから隣にいる先生に訊いてみることにした。
「先生、スズは元々リギルにいたんですか?」
「んっ? そうだが?」
「なんで引き抜けたんですか?」
チーム・リギルはもう頭の中で何度でも思っている事だが、学園1のチーム。
そこを脱退してまで、スズカはスピカに何を求めて入ったのだろうか。
「それはーー」
「リギルのトレーナーがスズカ先輩の本当の走りを知らなかったからですよ!」
「……ウオッカ、俺のセリフ取るなよ」
はぁ、と先生はため息をついた。
そして俺は考えていた。チームって言うのは担当するウマ娘を見て、レースに勝つために支えるものではなかったか。
なのにそのトレーナーが……スズカの走りを知らない?
そんなことがあるのだろうか……。
「玲音、確かにリギルは学園1のチームだ。だがチームによって方針が大きく違うことも知っておけ」
「方針?」
「サッカーだって同じチームでも監督が違えば、ガラリと戦術を変えるだろう? そんな感じだ。俺はウマ娘のポテンシャルやコンディションを完全にして、あとは好きにしてもらう放任主義。それに対しおハナさんはレースに勝つことだけに拘り、スパルタ指導を行う完璧主義って言えばいいかな」
「……完璧主義」
「スズカがしたかった大逃げは勝ちの定石では無い。定石を貫きたいリギルとは相性が悪かったんだ」
「……」
「あいつが本当にやりたかったこと……それが今日見れるんだ」
トレーナーがそう言った瞬間、中京レース場にファンファーレが鳴り響く。
・ ・ ・
走者のゲートインが済み、中京レース場は一時の静寂に包まれる。
……自分の鼓動が早くなるのを感じる。
(始まれ、早く始まれ!)
そう思っていてもまだゲートはまだ開かない。たった数秒が十数秒以上に感じる。
まだか……まだなのか。
(--ガコン!)
(ワーー!!)
ゲートが開いた瞬間、中京レース場は歓声や雄たけびで包まれる。
スズカは……完璧なスタートを切った。一気に先頭に躍り出る。
ーーーその時だった。
中京レース場に……いや、スズカの周りに風が纏ったかのような幻覚を見る。
スズカはさらにスピードを上げる。
上げる、上げる……もっともっと早さを求めて、他のウマ娘たちには目もくれずにスズカは前に出る。
俺は……何を見ているのだろうか。
レース? いや違う……これは……
このレースはもう、彼女の独壇場。そしてここにいる人たちはみな、彼女しか見ていない。
「先頭のサイレンススズカ、ペースを上げてきました! 10バ身くらいリード!」
第4コーナー前でもスタートからのスピードは衰えない。
いや、衰えるなんてものじゃない。さらに加速している。
スズカが最後の直線に入る……その時だった。中京レース場は拍手に包まれた。
それは誰もが目の前で走っている彼女の勝利を確信し、スタンディングオベーションをしたからだった。
「100m独走だ! サイレンススズカ!! 2連勝です! 2連勝、チーム・スピカに入ってからは初の重賞勝利!!」
実況者も興奮気味にスズカの勝利を確信する。
そしてスズカはそのまま速さを殺さずに、トップスピードでゴールした!
「サイレンススズカ圧勝! 10バ身近いリードがありました!!」
「あ、圧勝……」
「2着と11バ身、あいつの速さは本物だな……」
「……」
俺は……言葉が出なかった。
スズカは確かに素質があるとはトレーニングを見てずっと思っていた。だけど、まさかここまでの実力があるなんて……。
本当にあれが……俺の幼なじみであるスズちゃんなのか。一瞬疑ってしまったが、すぐに俺は思い直す。
あれが……俺の最高の幼なじみなんだって。
そう思うと心がゾクゾクしてくる。
そうなると俺は言っても立ってもいられなくなる。
「スズちゃーーん!! いい走りだったよーー!!」
俺が急に大声を出し、先生は咄嗟に耳を塞ぎ、チーム・スピカのみんなはビクッと尻尾を動かしながら驚いていた。
そんなことに気付かないで俺はスズカの方を見る。
すると声が聞こえたのか、スズカがこっちに振り返る。
そして俺の顔を見て……笑ってくれた。
・ ・ ・
「スズカさん! 今日のレースすごかったです!!」
「ふふ、ありがとうスペちゃん」
トレセン学園へと続く帰り道、スペはずっとスズカにつきっきりで話をしている。
そんな姿を見ていると、なんだか姉妹のように見えてくる。
もしかして本当に血の繋がった姉妹なんじゃないか? そう思えるくらいにはウマが合っている。
「どうだった? 今日のレースは……」
「そうですね……」
今日のスズカの走りはトゥインクル・シリーズの歴史で見ても、快挙と呼べる走りだった。
そんな走りを……俺の幼なじみはやってのけた。
それは……とても誇りに思う。
でも同時に……。
「うかうかしていられない……そう思うレースでした」
「それはどうしてだ?」
「幼なじみは快挙を成し遂げた……だったら、自分も負けていられないなって」
それは……この前した約束。
『俺は君に追いついて、君の近くにいる!!』
スズカは一つ先の世界へと足を踏み入れた。
なら俺も……ここで足踏みをしている場合じゃない。
俺ももっとトレーナーとして成長して、スズカの隣に追いつく……幼なじみとして相応しい人間になる。
「そうか……まっ、後数年は学習だがな」
「お願いしますよ、先生」
「へいへい、任されましたよ」
・ ・ ・
ある程度歩くとみんなが暮らしている栗東寮とトレーナー寮の別れ道に着いたので、これで今日はみんなとはさようならだ。
……と思ったけど、スズカと話したくなった。
そう思い、声を上げようとしたが……向こうも同じことを考えていたらしい。
「ごめんなさいみんな、ちょっとレオくんとお話ししたいから、先に寮へ行っててくれないかしら?」
「そうですか……分かりました!」
スペがそう返事する他のみんなも各々返事し、栗東寮の方に向かう。
……あっ、先生がゴールドシップのドロップキック食らってる。
すごい自然に栗東寮に行こうとしていたもんなぁ。
なんて思いながら、俺はスズカが話しかけるまで待つ。
「レオくん……今日のレースどうだった?」
「最高、スズちゃんの幼なじみでよかったって本気で思うくらい」
「さすがに言い過ぎじゃ……」
「いいや? 別に言い過ぎじゃないよ」
「……ふふっ」
微笑んでくれるスズカ……あの時の凛々しい姿はどこに行ったのか。
今ここにいるスズカは俺が知っている。幼なじみのスズちゃんだ。
でもあのターフの上にいたのは……サイレンススズカと言う名のウマ娘だった。
「……追いついてみせる」
「……何に」
「君に……君がいるところに……絶対に……!」
「……うん、待ってる」
そう答えるスズカの顔は……サイレンススズカだった。
今日のこの出来事は二度と忘れないだろう。
そしてここで生まれてきた感情が……この先の俺に力を与える。
そんな予感がした。
・1998年金鯱賞の実況・レース映像を聞き取りながら書きました。
・ゴルシウィークマジで、ありがてえ……ゾックゾクにガチャができやがる! サンキューゴルシ。
・次回はカラオケ回の”予定”です。