少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
・UA40,000・41,000・42,000を突破しました。ありがとうございます。
トレーナー学科で学ぶことは何もウマ娘に関することだけではない。
最近のトレーナーはウマ娘にレースに勝った後のウィニングライブのためにダンスや発声も指導する人が多い。
まぁ、そこはトレーナーで完結させるか。それかちゃんとした講師を雇うかで派閥が別れるが……。
「1、2、3、4」
講師の先生のカウントとメトロームの音が部屋に響く。
今いるここはスタジオA、文字通りダンスの授業の際に使う教室だ。
そこで俺と尊野、そして道はステップを刻んでいる。
ある程度踊っていると講師の先生がパンッと大きく手を叩いて練習終了を知らせる。
「はい、今日はここまで。今日もお疲れ様でした」
『ありがとうございました!』
俺たちは後ろの方に行って各自持って来た飲み物を飲む。
「ぷっはー! やっぱダンスの後のアクエリは最高だ!!」
「俺はポカリで十分かな……」
「ワタシも普通の水でいいな〜」
「おいおい、そんなんじゃ2人とも塩分不足になるぞ?」
・ ・ ・
『あーあーあーあーあー……』
「もっと口角を意識して声は腹から出してください……尊野くんは少しズレてますよ」
「は、はい!」
ダンスの後は発声練習、こっちの講師の先生は少し厳しい。
だが教えるのはとても上手く、入学当初マジで音痴だった尊野と数人を基準レベルまで持っていったすごい先生だ。
実際、生徒からもかなり人気がある。
「はい、では今日はここまでにしましょう。谷崎くん、号令をお願いします」
「気をつけ、ありがとうございました」
『ありがとうございました!』
「はい、ありがとうございました」
・ ・ ・
発声練習授業のあと、俺たちはそのまま食堂に向かう。
「今日の日替わりランチは何だろうな?」
「昨日がブリの照り焼きだから、今日はお肉系じゃないか?」
「いやでもこの前魚2日連続もあったから、そう考えるのは安易じゃないかな?」
そう話しながら、食堂が見えて来た……というところで、ポケットの中に入っている携帯が震えた。
携帯を出してみると、画面には「先生」と表示されていた。
先生? 何で先生が学園にいる時間帯で俺に連絡してくるんだ?
「んっ? どうしたんだ玲音?」
「ごめん、ちょっとチームのトレーナーから電話が来ていて……先行ってて」
「うん、分かった。じゃあ場所取りだけはしておくね」
「うん、お願い」
2人は食堂に、俺はすぐ近くにある渡り廊下まで移動して電話を取る。
「もしもし?」
「おう玲音、今いいか?」
「何ですか?」
わざわざ学園の時間帯に電話してきたんだ。何か緊急な用事なんだろう。
そう思い、俺は少し身構える。
「今日の練習なんだが、ちょっと行ってもらいたいところがあるんだ」
「行ってもらいたいところ?」
「あぁ、放課後になったら学園の正門前であるやつを待ってほしいんだ」
「……待ってほしい?」
なんか先生の話を聞いていると……これ別に緊急ではないのでは?
これくらい別にメールでいいのに……。
「……誰なんですか、その待ってほしい人物は?」
「テイオーだ」
「……んっ?」
今この人、なんて言った?
テイオー? テイオーって、トウカイテイオーのことだよな?
何でトウカイテイオーの名前がここで出てくるんだ?
チームの練習とテイオーの名前が上手く結び付かずに、俺は少し困惑する。
「何でテイオーなんですか?」
「いや、ほら……うちのチームって確かに順調ではあるんだが……その後が色々とあれだろ?」
先生のその言葉を聞いて、俺は昨日か一昨日くらいに出された新聞の内容を思い出す。
『チーム・スピカ、レースには勝ってもこの有り様……』
その字面と共に掲載されていたのは、棒立ちするスペシャルウィーク、ダンスで転ぶダイワスカーレット、途中でひっくり返ったウオッカ、そして何故だか急にブレイクダンスを踊り始めるゴールドシップの写真。
そしてそれは新聞だけには留まらず、SNSでもスピカ=ライブ下手と言うイメージが固まりつつあった。
(ちなみにゴールドシップは初めてブレイクダンスを踊ったことにより、SNSでは『ゴルシ伝説』というワードがトレンドになっていた)
「つまりその汚名を返上するために、ダンスと歌の練習をするってことですか?」
「そうだ」
「でも何でテイオーなんですか?」
「あいつはこのトレセン学園に在学しているウマ娘の中でもかなり踊りと歌が上手くてな……まぁ本当はチームに誘ったんだがあやふやにされて、そうして向こうから来たと思ったらダンスのレクチャーならしてもいいってあいつから言ってきてな」
「……なるほど」
「まぁそういう訳だ。頼んだぞ」
「えっ、あちょ……!」
俺はまだ聞きたいというか言いたいことがあったが、先生はそのままブチッと電話を切った。
……一つ聞きたいけど、俺が行く意味ってあるのかな。
でも先生にもそう言われたし、テイオーもそういう事で約束しているだろうから……放課後になったらすぐに正門前に行こう。
「……さて、昼飯食べるか」
そう呟き、俺は食堂に向かった。
・ ・ ・
帰りのSHRが終わった後、俺はすぐに正門前へと向かった。
……のだが、そこには俺よりも先に正門前に着いて、俺を待っているテイオーの姿があった。
テイオーはこっちに向かって来る俺を視界に捉えると少しムッとした表情になる。
「遅いよ〜! 玲音!!」
「えぇ……SHR終わってすぐに来たんだけど……」
「それでもお〜そ〜い! このテイオー様を待たせるのはジューザイに値するんだよ!!」
「え〜……」
明らかにご機嫌斜めテイオーをどう機嫌を取ったらいいのか、俺は考える。
だけど……テイオーは突然笑い出した。
「冗談だよ! ボクはそんなに怒ってないよ」
「え、えっ?」
「そんな難しい顔をしなくてもいいって事だよ、それよりも早く行こう?」
テイオーは俺の腕を掴むと「しゅっぱーつ!」と言いながら、足を進める。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! どこに行こうとしているんだ!?」
「それは、着いてからのお楽しみだよ!」
テイオーの華奢な手は俺の腕を絶対に離すまいと言わんばかりに、少し強めに握られており、解くことは無理そうだ。
結果、俺はテイオーに腕を掴まれながらその場所に行くことになった。
途中、通行人に何度もすれ違ったが、その度に視線が刺さったので恥ずかしかった。
そんなこんなで俺とテイオーが訪れたのは……駅前のカラオケ屋さんだった。
「フリータイムで、人数は2人ですけど後から数人来るので部屋は大きめの部屋をお願いします」
「はい……では357ルームをご利用ください」
「はーい、行くよ玲音」
「あ、あぁ……」
俺は初めて来る大きなカラオケ屋さんに少しビビる。
一応、俺自身はカラオケは初めてではない……だが、ここまでビル一つが全部カラオケ屋というのは俄には信じられない。
自分が知っているカラオケ屋はもっと地下にあって、一階や二階もないワンフロアなイメージだった。
「何でそんなにビビってるの?」
「いや……初めて来たから……」
「あはは、ただのカラオケ屋さんだよ? そんなにビビるものでもないでしょ」
「そ、そうだよな……」
テイオーが357ルームの扉を開ける。
内装はとてもシンプル。ソファーにテーブル、大きなディスプレイにカラオケ用のスピーカー、そしてカラオケの本体。
シンプルイズベスト、この内装は行った事のあるカラオケ屋とほぼ一緒だ。
「それじゃ、早速歌おうかな」
「えっ、歌うのか?」
「だって今日はダンスのレクチャーが目的だし、そこまで歌う時間はないだろうからね」
そう言いながら、テイオーはログインを済ませ、曲名を検索し、そして予約をする。
さっきまで広告が流れていたディスプレイには予約曲が映されていた。
曲名は……恋はダービー?
「これ、ボクの十八番の曲なんだ〜」
テイオーがそう言うと、予約し始めた曲が流れ始める。
……なんだろうこの弦楽器? 名前は分からないが弦楽器がまるで一つの生き物みたいに鳴っている。
「よ〜し、いっくよ〜!」
そうして歌い始めるテイオーの歌声は……とてもよかった。
そしてテイオーはダンスを踊っている。
結構普通に歌っても難しそうな曲なのに、テイオーはそこに細かいステップや身振り手振りを入れている。
これは確かに先生が言っていたように上手い方に入るだろう。
少なくとも、テイオーのこの歌と踊りで俺は興奮を覚えた。
「恋は〜ダービー☆ 胸が〜ドキドキ〜♪」
高音もとても綺麗に出している。それなのに踊ることは全然忘れない。
……っと、サビに入るくらいのタイミングで部屋の扉が開かれる。
そこにいたのはチーム・スピカのみんな。
「「「て……テイオー!?」」」
スピカのみんなが入ってきたが、テイオーはそのまま入ったサビを歌い続ける。
こんな急に人が来ても動揺しないのか……本当にテイオーは踊り慣れているらしい。
「明日? やだね、今すぐ! Step it!」
テイオーはサビを歌い切ると、まるで足を弾ませるかのように独特なステップを刻む。
「これが噂のテイオーステップか!」
そう言いながら、ウオッカが感心する。
実際彼女のそのステップに……俺も心を奪われていた。
・ ・ ・
そうして始まったテイオーの歌とダンスのレッスン。
スペは主に基礎のステップを、スカーレットは振り付けを、ウオッカはリズム感覚を、ゴールドシップは……何で座禅しているんだ?
そんな練習背景を俺と先生、そしてスズカはソファーに座って見守っている。
……時々、スズカが合いの手を入れるかのようにタンバリンを叩いている。
その無邪気な幼なじみの姿に俺は少し微笑んだ。
そんなこんなで1時間強くらい経った頃だっただろうか。
レッスンを受けていたみんなが休んでいる時、テイオーが俺と先生の方を向いて、こう言った。
「そういえば気になったんだけど、トレーナーと玲音はどれくらい歌とダンスが上手いの?」
「「えっ……?」」
テイオーのその言葉に俺と先生は嫌な予感が頭の中に横切る。
「っ! そうだそうだ! アタシたちのことを傍観しているんだから、さぞ上手いんだろうよ!」
予感は的中し、ゴールドシップがそう叫ぶとカラオケリモコンをピピピッと操作する。
いやいや待て待て、先生はなぜテイオーに講義を頼んだ? それは先生には教えるノウハウがなかったからだ。
だからテイオーに頼んだのに……実際先生は鼻の付け根を押さえてちょっと唸っている。
しかしゴールドシップはそんなのは無視して曲を入れる。
そしてマイクをほいっとトレーナーに渡す。
そして流れた曲は……イントロがファンファーレから始まる独特な曲だった。
「はっ!? この曲を歌えって!?」
「ほらよく言うだろ? うまぴょいから逃げるなって」
「……だーもう! こうなったらやけくそだ!」
先生はどこか吹っ切れたかのように……その曲を歌いきった。
振り付けとかはぎこちなかったが、掛け合いを全て1人でこなしていたのでみんなは普通に称賛していた。
ただゴールドシップだけは「面白くねぇな」みたいな顔だった。先生が派手にミスるところを見たかったのだろう。
そしてみんなの視線は……俺に向く。
先生もなんか「お前だけ逃げれると思うなよ?」みたいな感じでジリジリと近づく。
「さぁ、お前もやるんだ……」
「無理です! 無理ですって!! あの曲知らないし、自分が知っているのはもっと昔のーー」
「うっほほーい! んじゃあこの曲を〜ポチッとな!」
そうしてゴールドシップは先生がさっき歌っていた曲を入れた。
……結果、自分のうまぴょいは大失敗で終わったのだった。
普通にゴールドシップにめっちゃ笑われて、他のみんなは同情の言葉を俺に言う。
そうしたら……なんか自分もどこか吹っ切れた。
ゴールドシップが持っているカラオケリモコンを奪い取ると、ある歌手名を検索し、曲を見つけ予約する。
その後の記憶はほぼないが、一つ言えることは……あの時俺の体にはキング・オブ・ポップの魂が憑依していた。
???「キング……この私の出番のようね!」(但し出走予定無し)
・ムーンウォーカーネタはアニメのゴルシもやってましたね。
・テイオーとカラオケ行きたい(願望、恋ダビ1日に一回は口ずさむレベル)
・次回は空白の4年間の"予定"です。