少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
・UA43,000突破しました。ありがとうございます。
・長くなったので明と暗で前後編分けました。(同時投稿です)
あの出来事を伝えると……どうなるんだろう。
彼は困惑するのかな、それとも恐怖で縮こまってしまうのかな。
……流石にそんなことはないかな。
でも今日ライスが伝えようとしているのは……かなりショッキングな真実。
彼の『空白の4年間』。そのきっかけとなったとある事件。
彼の言動を聞いていると、彼はあの事件を忘れている。
それはそれですごく幸せなことなんだろう。
……だけど、彼はトレセン学園の屋上でこう言ってくれた。
『教えてくださいライスさん。俺の……空白の4年間を……』
彼は自分自身の過去と向き合おうとしている。
だったらライスはそれを応援したい。
だから……少し待ってほしいと言った。
彼に真実を伝える……それなら当時の新聞や雑誌などがあった方が現実味がある。
そしてその資料たちはライスの実家にあった。
だからお母さんに頼んでその資料と、彼とライスが一緒に写っている写真が入っているアルバムをこっちに送ってもらった。
久しぶりに内容に目を通してみたけど……やっぱり苦い何かが口の中に広がるような……そんな錯覚に陥ってしまう。
だってこの事件は……ライスが彼と約束しなければ起こらなかった。
起こったとしても、被害者は彼ではなかったかもしれないから。
「……よし、行こう」
ライスは資料とアルバムをバッグの中に入れて……部屋を出た。
***
ーーー空白の4年間ーーー
それはどんなに思い出したくても思い出せなかった……俺の小学校1年生から4年生までの記憶。
ただ空白とは言ってもその時期に学習したことは覚えているし、夏・冬休みの時にスズカに会いに行ったことも覚えている。
だから空白になっているのはほんの一部。
その時の私生活や学校の出来事の記憶だけだ。
小学校5年生になった頃にはすでに東京の新しい自宅の自室で眠っていた。
叔父さんや叔母さんに自分の4年間の記憶がなくなった……と言ってみても「そんなことある訳ないだろ?」「それより新しい学校に早く慣れなさいね」と信じてくれなかった。
いや、信じてくれなかったというよりは、はぐらかされたと言った方が正しいんだろう。
俺はずっとこの空白の4年間にモヤモヤしながら、今に至る約6年間ずっと生きてきた。
しかし、ライスシャワーさんと出会ったことによって、そんなモヤモヤに終止符が打たれるかもしれない。
ライスさん曰く、彼女は俺と友達として接していて……俺の空白の4年間のことを知っている。
そして……自分がその4年間の記憶が抜けている原因も知っていると言っていた。
俺はライスさんに空白の4年間と、そうなってしまった原因を教えてほしいと言った。
すると少しだけ待ってほしいと言われて、その週の土曜日は大丈夫ですか? と言われたので了承した。
(ついに……空白の4年間が分かる)
お昼時、駅前に俺はライスさんを待っていた。
いつもだったらアプリゲームで時間を潰すが……出かける理由が理由だから、そんな気にもならない。
しばらく待っていると……ちらっと見覚えのある帽子が人混みの間から見えた。
「お、お待たせしました〜……」
頑張って人混みの間を縫って、ライスさんが現れる。
さすがウマ娘、かなりの人混みでも誰にも当たる事なく、綺麗に躱してここまで来た。
こういう練習……もしかしたらチームの練習に活かせるかもしれない!
……んな訳ないか。
「ううん、俺も今来たところなんで……じゃあ行きましょうか」
「う、うん!」
俺とライスさんは近くにある格安イタリアンレストランに向かう。
そこで昼食と空白の4年間の話を聞くっていう訳だ。
***
ついに……ついに来ましたわ……この日が!
今日わたくし、メジロマックイーンは上機嫌で外出している。
それはなぜか……それは今日、行きつけのスイーツのお店に限定商品が追加されたから!
その名もキウイパフェ!
わたくしの行きつけのスイーツのお店は毎月一週間、旬の果物を使ったパフェを期間限定で販売している。
今の季節としては3月に入り、旬の果物といえばリンゴやイチゴなどがあるが、そのお店の店主はあえてキウイを選んだ。
そしてわたくしはこの時のために必死に食事管理を徹底しました。
これならパフェ一つ食べてもギリギリ大丈夫なはずですわ……。
本当はまた玲音さんと一緒に卓球をしたかったが、少し前に付き合ってもらったばかりで、しかも今はラケットのスペアがなかった。
だから今回はかなりギリギリに追い込んだ。
全ては……キウイパフェのために!
ああっと行けません、わたくしとした事がよだれを垂らしてしまうなんて……メジロ家の人間として相応しくないですわ。
メジロ家はいつも冷静でーーー。
しかし、その景色を見たわたくしは冷静にはなれなかった。
わたくしが何を見たか……それはわたくしが大好きなあの人の姿。
そしてその人が見知らないウマ娘と一緒にイタリアンレストラン入って行くのを……目撃してしまった。
「えっ……玲音さん?」
自然と漏らしたその声は……周りの環境音によって掻き消され、彼の耳には到底届かなかった。
***
店に入ると店員さんに「お好きなところにどうぞ」と言われたので、俺たちは窓際の隅のソファー席に座る。
このお店のお水はセルフサービスなので、俺は自分とライスさんのお水を持って行くことにする。
「お水持って来ますけど、氷何個にしますか?」
「じゃあ……二つでいいかな?」
「分かりました」
グラスに氷を入れて水を入れ、グラスを持って席に戻る。
戻るとライスさんは何を頼もうかメニューを見て悩んでいた。
まぁ、自分はもう決まっているんだが……このお店に来た以上、お値段300円の超安価格のドリアを食べる以外選択肢はない。
「注文取っていいかな」
「うん、いいよ」
そうして俺は呼び出しベルを押して店員さんを呼び、各々で注文する。
……にしてもライスさんめっちゃ多く注文するなぁ。
そう言えばウマ娘って普通の人と比べると食べるご飯の量って多いのかな。
ウマ娘は大体時速70キロくらいで走り、中には長距離で3000m……つまり3キロ走る子もいる。
仮にウマ娘が普通の人と同じエネルギー効率だとしたら、普通の食事では絶対栄養不足だろう。
だがトレセン学園の食堂にいるウマ娘を見ていても、普通の食事を取っている子の方が多い。
山盛りにしている子も数人はいるが、特にこの前会った白髪の子は本当にすごかった……それも秒で食べ終えておかわりもするんだからまぁ……。
まぁその辺りもまだ研究中だから、ウマ娘ってまだ未知の存在なんだなぁってつくづく思う。
・ ・ ・
店員が持って来たドリアを食べ終え、俺はライスさんが食べ終わるのを待つ。
いや本当、よくこんな小さな身体にこれほどの量のご飯が入るもんだ。
ラージライスにコーンポタージュ、にんじんサラダ、ハンバーグにマルゲリータピザにデザートのプリンとティラミスのセット。
……流石に頼みすぎじゃ? と思っていたがドリアが来る間に3分の1食べられており、俺が完食した頃には3分の2以上食べていた。
ライスさん……食べるだけじゃなくて、その早さもすごかった。
「っ? ライスに何かついてる?」
「あ〜いや、美味しそうに食べているから幸せそうだな〜って」
「……女の子がご飯を食べるところを見るのは、少し失礼だよ?」
「あっ、そうなのか」
「でも今日はいいよ……数年ぶりのランチだから」
「……」
それにしてもずっと思った事があるが……俺とライスさんってどれくらい仲が良かったのだろうか。
俺からしたら初対面に等しいが、ライスさんは結構な近さで接して来る。
それに時々、ライスさんの笑っている姿を見ると……どこか安心するというか、なんか不思議な感情になる。
多分俺は忘れてしまっているが、深層心理の奥にはきっと彼女との記憶がまだ残っているんだろう。
「あっ、良かったらこれ見てみる?」
ライスさんはバッグから何やら厚めの本みたいなやつを取り出す。
表紙には『PHOTO ALBUM』と書かれていた。
「玲音くんとライスが一緒に写っている写真があるから」
「……へぇ」
俺はアルバムを受け取り、ペラっと捲ってみる。
するとそこに写ってたのは……カメラに向かってピースサインをしている男の子と少し恥ずかしそうに俯いている女の子。
なんとなくだけど、それが自分とライスさんだと思った。
ていうか俺、こんなに幼かったのか……。
叔父さんと叔母さんとは旅行に行くが、写真は撮っていないので小学校の頃の写真はほとんどない。
だからこうして他人のアルバムに自分の幼い頃の姿が写っているというのは……なんか変な感じだ。
「どう、何か思い出したかな?」
「……ごめん、何も思い出せないや」
ただこの写真を見ても……特別何かを感じるわけでもなかった。
小説とかではこういうのを見ると、昔の記憶がフラッシュバック……なんて事もあるが、俺には起こらなかった。
「……そうなんだ」
そう言う彼女の声音は弱々しく、ウマ耳は前の方に垂れてしまう。
こう言う時、嘘でもいいからポジティブなことを言えばいいのだろうか。そうすれば、こんな悲しそうな姿は見ないで済んだんだろうか。
でも嘘をついたからってどうなる?
俺と彼女はどこまでかは分からないが関係を持っていた。(友達って言ってたからそんなに深くないと思うが……)
下手な事を言えば、彼女を傷つける可能性だってあるかもしれない。
だったらここは素直に言うのが一番……なはずだ。
「……本当にごめん」
「ううん、玲音くんは悪くないよ……ーーーーだから」
最後はボソボソしていて、何を言っているのか分からなかった。
ただ、時々ひしひしと……彼女の言葉に何か暗い感情が乗っているような感覚は伝わった。
「……じゃあ玲音くん、今度はこれを……」
そう言うと彼女はバッグの中から雑誌みたいなものを取り出す。
それを俺の方に置くと、何枚かの新聞の切り出しをテーブルの上に置く。
「これが……空白の4年間の原因だよ」
「……」
俺は雑誌を手に取って、その表紙にデカく書いてある文字を言葉にした。
「『1人の子どもが起こした最悪の放火ーー』」
「えっとそっちじゃないよ……こっちだよ……」
俺は彼女の指差した少し小さな文字を口にする。
「『〇〇市、児童誘拐事件』」
俺は雑誌の目次からその事件のことが書かれたページを開き、そして読み始める。
・暗に続く。