少年とウマ娘たち - ススメミライヘ - 作:ヒビル未来派No.24
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「花見に行こーぜ!!」
「……花見?」
それはスペの皐月賞まで残り1週間に迫っていた土曜日の午前練習が終わった後の事。
いつもみたいにみんなが練習後のストレッチをしていた時にゴールドシップが急に立ち上がり、そしてそう言い出したのだ。
確かこの前ニュースで開花宣言がされていたが、まだ満開にはなっていなかったはず……。
花見なら満開にやればいいのでは……そう思っていたが、ゴールドシップは俺が何かを言う前に説明する。
「花見=満開だって言うのは誰でも考えることだろぉ? そうなれば花見を楽しむ前に人混みとダンスっちまう」
「あぁ……だから人が少ない間にってことか?」
「察しがいいな新人、そういう事だ!」
「お花見か〜、確かに面白そうかも!」
「私、お母ちゃん以外とお花見行くの初めてです!」
「そうなの? ならいい思い出になるねスペちゃん」
「はい!」
「お花見と言えばお団子が必要よね!」
「はぁ? そこは桜餅だろ?」
ゴールドシップの一言により、チーム全体でもう花見に行くことが決まっている様な空気になっている。
だが……その中で1人、渋い顔をしている人がいた。
それはポケットから取り出した財布を覗き込んでいる先生だった。
「どうしたんですか、先生?」
「……去年、同じように花見を開いたが……その時の出費がすごく多くてだなーーー」
そう言いながら、先生は財布をひっくり返す。
するとポツンッと何やら小さな小銭一つが出てきた……その額は5円。
えっ、待ってくれ。この人5円しか持っていないの?
「先生……まさかそれが全財産ってことは……」
「今は訳あって金欠なんだ」
「……」
この人、一体どうやって1日を生きているのだろうか……。
しかしそうとなると、花見はかなり難しいのではないか?
各自でお金を持って行くようにするとかか? まぁ、それが一番無難ちゃあ無難だが……。
もしくは自分たちで作って持って行くとか? でもそうなると食材を用意しないといけないし……トレーナー寮の部屋は1Kだが、ウマ娘が住んでいる寮はワンルームでキッチンはなかったはず。だから食材を仮に用意出来たとしてもどこで調理すればいいのだろうか……厨房とか? 勝手に使っていいのかな……。
「ゴールドシップ、お花見のお供とかはどうすればいいかしら?」
「そこなんだよなぁ、トレーナーの顔を見ると金欠そうだし……作るにしても場所がなぁ……」
「……」
ゴールドシップが花見のお供の事で唸っている時、俺はある考えを思いついていた。
だがそんな私的な用事のために……”あの人たち”を動かしてもいいのだろうか。
いや、その前に一つ提案してみようか……。
「なぁゴールドシップ、一ついいか?」
「んっ、なんだ?」
「俺の知人で1人誘いたい子がいるんだけど、その子も花見に参加してもいいかな?」
「別にいいけどよ〜誰を誘うんだ?」
「メジロマックイーンって言うんだけど……」
「ぶーー!! ちょ、おま玲音! 今なんつった!?」
自分の言葉を聞いていた先生が突然飲んでいたスポーツドリンクを吹き出すと、凄まじい速さで俺との間を詰める。
えっ……俺そんなに変なことを言ったか?
「えっと……メジロマックイーンって言う子を誘ーーー」
「なんでお前の口からメジロ家の令嬢の名前が出てくるんだ!?」
「……妹みたいなものだから?」
「ーーーー」
俺の言葉を聞いて驚愕の顔を見せる先生。
……そんなに不思議なことだろうか。確かにマックイーンはメジロ家の令嬢ではあるが、正直ずっと近くにいたから先生のこの反応は流石にオーバーだと思ってしまう。
そんなトレーナーを無視して、俺は携帯を取り出しマックイーンの連絡番号をタップし出るまで待つ。
2コールに入ったあたりで電話がつながる。
『はい、もしもし?』
「あぁマックイーン? 玲音だけど、今いいかな?」
『えぇもちろん……何の御用ですか?』
「明日チーム・スピカで花見をしようってことになっているんだけど……よかったらマックイーンも一緒に行かないか?」
『えっ……でもそれはチームでやることなのでしょう? 赤の他人であるわたくしが入るのはどうかと思うのですが……』
「聞いてみたけど大丈夫だってさ……それに毎年行ってるから、今年も一緒に行きたいなぁ〜なんて思ってたり……」
『……ーーーーーーのに……』
「んっ?」
マックイーンは何かぼそぼそ言っていたが……全然聞き取れなかった。
ただ、マックイーンの声音が少し寂しさを帯びているような感じがした。
俺……何か癪に障るようなこと言っちゃったかな。
このまま断られると思いながら、マックイーンの言葉を待つ。
『……明日特に予定はありませんでしたので、お言葉に甘えますわ」
「っ! 本当か!」
俺は心の中でガッツポーズを取る。よかった……無言になっていたのはスケジュールを確認していたためだったんだな。
てっきりマックイーンの機嫌を損ねたのかと思い、内心すごくヒヤヒヤしたが……どうやら杞憂に終わりそうだ。
『集合時間と場所はどこですか?』
「あ〜それはまだ決まってない。うちのチームの一員が今さっき言って決まったことだから……詳しいことが分かったらメッセージ入れておくから」
『分かりました。では御機嫌よう』
ツーツーツーと鳴り、電話が終了する。
・ ・ ・
その後、チームのみんなでどこに行くかを話し合った。
話し合いの結果、場所は最寄り駅から急行で数駅行って、乗り換えた先にある少し大きな公園で花見をすることになった。
それに伴い、集合場所も学園の最寄り駅、時間は7時半という事になった。
そうしてそのまま「また明日〜」とグラウンドで解散した後、俺はトレーナー寮に戻らずに学園の外に出て、携帯を取り出しある電話番号をタップする。
『はい、メジロ家です』
「ご無沙汰してます執事さん。谷崎です」
『これはこれは谷崎様……本日はどのようなご用件でしょうか』
「実は……お願い事をしたいんです」
俺がゴールドシップの話を聞きながら考えていた事……それはメジロ家の力を借りる事。
実際、毎年マックイーンと花見をする際お弁当を持って行くのだが……その時はメジロ家の人たちが用意してくれたお弁当を持って行ってた。
だから今回も……と思ったが、流石に2人と大勢では用意する量も、それに掛ける時間も全然違う。
自分でも思う……これは図々しい願い事だ。
『マックイーンお嬢様と谷崎様の他に数名分のお弁当を用意してほしいと……』
「俺のは無くていいです……できますか?」
『ーーー』
執事さんから深いため息がスピーカー越しに聞こえてくる。
そりゃダメに決まってただろ……そんな寸前になって願うとか。
それに……多少だったらお金はある。みんなのお腹を膨らます事ができるかどうかは分からないが……楽しんでもらうくらいにはーー。
『おーほっほ、いいでしょう……用意しておきましょう』
「えっ……?」
執事さんからえらく朗らかで柔らかい高飛車が聞こえたと思ったら……なんかすごい事を言った。
えっ……『用意しておきましょう』?
空耳じゃあ……ないよな?
『実は今夜予定されていた晩餐会が無くなってしまいまして……材料を多く余らせていたのです』
「そうなんですか?」
『ですから先程からずっとシェフ達が頭を抱えていましたが……どうやら解決しそうですな』
「……」
無理だと思っていたのに……なんて事だ。
そんな奇跡あるか? 晩餐会が中止になって、材料が余っているとか……。
『出来ましたら花見をするところまで配達致します。場所はどこでしますか?』
「……△△公園です」
『分かりました。要件は以上ですか?』
「はい……あの、執事さん!」
『何でしょうか?』
「ありがとうございます」
『いえ……では失礼します』
「はい、失礼します」
俺は通話終了ボタンをタップして電話を切る。
そして俺は自分自身のほっぺを握る。
「……いふぁい」
やっぱり……夢じゃない。
俺はそのことを再確認して……栗東寮の公衆電話に電話をかけた。
そして出てきたゴールドシップにこう言った。
お供の用意が出来たと……。
・超ご都合主義でございます。
・次回はお花見後編です。(同日に出せればいいなぁ……)