少年とウマ娘たち - ススメミライヘ -   作:ヒビル未来派No.24

34 / 120
 前回のあらすじ:チーム・スピカとマックイーンは楽しくお花見をした! そして玲音はまた来年もみんなでやりたいと思うのだった。

・UA55,000・56,000・57,000・58,000を突破しました。ありがとうございます!

・1話と2話のUAが10,000以上突破していました。本当にありがとうございます。



勝負服に込められた別世界の残滓/マ子にも衣装

 スペの初めてのG1……そして三冠ウマ娘になるための初戦、皐月賞まで残り数日になった。

 

 スペは弥生賞から1ヶ月間、さらに成長した。

 

 今回特に多めに行ったのは走行フォームの徹底……鏡や動画など色んなものをフルに活用し、スペの走行フォームを固めた。

 

 その時はスズカも一緒も付きっ切りで指導してくれたこともあり、スペの走りは弥生賞の時とは見違えるくらいに良くなった。

 

 さらにしっかりと走り込んでいるのでスタミナやスピードも申し分ない……今のスペは最高の状態に仕上がっていると俺は思う。

 

 でもそれはライバルたちも同じだ。

 

 特に弥生賞では勝てたセイウンスカイ……この前先生に頼まれて偵察に行ったが、彼女もかなり状態はいい。

 

 特に坂路ダッシュの速さは弥生賞と比べるとかなり早くなっている……走るリズムが変わったような気がするが、まぁそれは気のせいだろう。

 

 そして忘れてはいけない娘がキングヘイローだ。

 

 彼女もおそらく皐月賞のために仕上げて来ているはず……実際この前刊行された日刊ウマ娘では「キングヘイロー調整は万全!」と書かれているレベルだ。

 

 それに弥生賞では4バ身差とはいえ3着に入ったのだ……その実力は偽物ではない。

 

   ・ ・ ・

 

「でぇわぁ、これで終わりますぅ……ごおおぉおれえぇえい」

 

「起立、気をつけ、礼」

 

『ありがとうございました』

 

 ふぅ……と息を一回ついて、俺は自分の席に再び座る。

 

 やっぱり数学って難しい……苦手な教科だから時間の進みも遅く感じる。

 

「よっしゃ! お昼だ!! 早く食いに行こうぜ谷崎!」

 

「どうした尊野、やけにテンション高いな……」

 

「尊野くん、この前激辛担担麺を頼んで食べきれなかったでしょ? あのリベンジに燃えているんだって……」

 

「あぁ……」

 

 道の言葉を聞いて、俺は最近トレセン学園の食堂に現れたランチメニュー、超激辛担担麺のことを思い出す。

 

 それはある辛いものが好きなウマ娘が「もっと辛い料理が欲しいデース!」と食堂の人たちに言ったことがきっかけと言われている。

 

 食堂の人たちは最初そのウマ娘に一番辛くしている麻婆豆腐では辛さが足りないか聞いてみた。

 

 するとそのウマ娘は全然足りない、後数十倍は辛くして欲しいと答えた。

 

 食堂の人たちは頭を抱え悩んだが……そこに1人、自ら名乗り上げた人がいた。

 

 その人は昔、超有名な中華料理店で働いていた元料理人であり、また同時に激辛の巨匠と言われるくらい激辛料理を作るのを得意としていた。

 

 そんな人が……十数年ぶりに本気を出したのだ。

 

 四川唐辛子、糸唐辛子、山椒をたっぷりと使い、時間が経てば経つほど麺が特性スープを吸いこの世とは思えない辛さになる。だからと言って早く食べようとすると唐辛子と山椒のダブルコンボで口の中が大火事状態になってしまう。

 

 しかしそこで水を飲んでしまうと舌が洗われてしまい、次の一口が数倍辛くなるという罠もある。

 

 そして尊野はまさにそれをしてしまい、食べ切る前に再起不能(リタイア)になった。

 

 ついでに「そんなに辛いのか〜?」とふざけ半分でスープを飲んでしまった俺と道も地獄を見た。

 

 なんか1人の老人と1人の若い女性がいるベル何とかルームって言う空間に飛ばされて、そこでタロット占いをしてもらう夢を見るレベルだった。

 

「あれをまた食べるのか……あいつは永夢ゥ! なのか?」

 

「なんでそこだけ強調? まあでも、Mなんじゃないかな……」

 

「お前ら何コソコソ言っているんだ? さっさとイクゾー!」

 

 そう言って尊野は教室から出て行き、先に食堂に向かった……でももうあいつ1人でいいんじゃないかな。

 

 まあそういう訳にもいかないから、俺と道は尊野を追うように教室から出たが、俺は出た瞬間に足を止めてしまった。

 

 その理由は……柱に体を預け腕を組んでいるうちのトレーナーが居たからだ。

 

「おっ、やっと来たか」

 

「先生……どうしたんですか?」

 

「いやあ本当はメールでも良かったんだが、携帯のバッテリーが切れてな……だから口頭で伝えに来たんだ」

 

「……それで、用件はなんですか?」

 

 俺は道に先に行っててと言おうかと思ったが、道は少し離れたところでこっちを待っている。

 

 それだったら早く用件を聞いて、道を待たせないようにしよう。

 

 だが最近の先生の用件は結構重要な用件であることが多い。だから俺は少し体を強張らせる。

 

「実は……お前に今日行って欲しいところがあるんだ」

 

 そう言いながら先生はポケットから何か小さな紙を取り出し、それを俺に差し出す。

 

 俺は受け取ってその紙を見てみると『Good-by Weak Self 予約No.19950502 』と書かれていた。

 

「……あの、これは?」

 

「玲音、一つ問題だ。ウマ娘がGⅠレースに走るに至って、必要なものはなんだと思う?」

 

「えっ……?」

 

 俺は先生の問いの答えを考えてみる。ウマ娘に必要なもの……それはやっぱりスピード・パワー・スタミナ・やる気とかだろう。

 

 でも先生は”GⅠレース”でと指定している……じゃあそういう身体的なものではなく、もっと具体的なものなのだろうか。

 

 ……ダメだ、全然分からん。

 

「は〜い時間切れ〜……GⅠレースで必要なもの、それは勝負服だ」

 

「……勝負服?」

 

 ……そういえばスペやスズカ、チームのみんなが出ていたレースは基本体操服だったが……トレセン学園のHPに乗っている殿堂ウマ娘の一覧に載っているウマ娘はなんか独特な服を着ていたな……もしかしてあれのことか?

 

「GⅠレースでは勝負服を着ることが常識だ……そしてスペはまだそれを持っていない」

 

「じゃあその紙って……」

 

 俺は何となくだが、この紙がどんな紙で……そして先生が俺にさせたいことが何なのかが分かった。

 

 つまり、スペが着る勝負服の受け取りを俺に任せたいのだろう。

 

「頼めるか?」

 

「はい……!」

 

 俺は強く頷く、先生はそれを見て教員室の方へと戻って行った。

 

 そして俺は道と一緒に食堂に向かったのだった……辛さでキボウノハナー状態になっている痙攣した尊野がそこに居たのだった。

 

 あ〜、やっぱり今回もダメだったよ……。

 

   ・ ・ ・

 

「え〜っと、確かここら辺のはずなんだけど……」

 

 放課後、俺は先生に言われた通り勝負服を受け取るため、電車に乗って少し遠く(だいたい30分くらい)の町へとやってきた。

 

 この町は高級住宅街として有名であり、近くにはとても有名な大学が建っている。(まぁ、東京は有名な大学が多いが……)

 

 そんな高級住宅街にあるお店……一体どんなお店なんだろう。とても気品に溢れているのだろうか。

 

 そんなことを思いながら高級住宅街を歩く。結構高級住宅街って静かなんだなぁ。

 

 だけど時々前からやって来る車や停めてある車は外国の高級車だったり国産のハイグレードの車だったりと……いつもセダンや軽自動車しか見ていない俺からすると、ここは別世界だ。

 

「……あった」

 

 看板に書かれていたロゴと紙に印刷されているロゴを何度も確認して確信する。

 

 ここが『Good-by Weak Self』……青を基調とした落ち着きのある建物……ショーウィンドウにはマネキンが飾られており、そのマネキンは様々な勝負服を着ていた。

 

 フリルがあって可愛いものもあれば、マントみたいなものが付いていて勇ましそうなものもある。

 

「へ〜……勝負服って結構凝っているんだなぁ」

 

 気がつけば俺はショーウィンドウにへばり付いて食い入るように見ていた。

 

 だが、本来の目的も忘れてはいけない……俺はお店に繋がっている扉を開ける。

 

 カランカランっとドアベルの音が軽快に鳴り、前を見ると……そこにはウマ耳の生えた女性がカウンターに立っていた。

 

「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

「あの、勝負服の受け取りに来ました」

 

 そう言いながら俺はポケットに入れていた予約の紙を取り出して、カウンターにいる女性に渡す。

 

 女性はカウンターに置いてあったパソコンでその予約番号を入力する。

 

「スペシャルウィークさんの勝負服ですね、少々お待ちください」

 

 女性はそう言うと店内の奥に入っていた。

 

 ふと気になるものが視界の端に映ったので、俺はそっちの方に体を向けた。

 

 それは恐らく、このお店で勝負服を頼み……そしてレースに勝ったウマ娘の写真。

 

 その中で俺は……人差し指・中指・薬指の3本の指を空に向かって高々と掲げているウマ娘の写真に目を奪われた。

 

 そして写真の下には『〇〇・三冠達成』と書かれたプレートがあった。

 

 三冠……それはもうすぐ、スペが挑むものだ。

 

「……」

 

 俺は想像してしまった……スペが次の皐月賞を取り、続けて日本ダービー、そして菊花賞を優勝していく。

 

 勝つ度に空に向かって掲げる指が増えていき、最終的に3本になるという想像……いや未来を想い描く。

 

 正直に言えば、練習や調整は先生がやっているから、俺がスペの夢を手伝えることはあまりない。

 

 だからこそ、こういう小さなことでもスペの夢に関われることはとても嬉しい事だ。

 

「お待たせ致しました……こちらがスペシャルウィークさんの勝負服になります」

 

 写真を見ていると奥から女性が手にスペの勝負服を持って、店の奥から出てきた。

 

 折り畳まれ透明な袋で包装されているその勝負服は、白を基調にしアクセントとして濃い紫と薄い紫を使っている。見た瞬間としては可愛らしいと思った。

 

 だがそう思うのとは別に俺は一つの疑問が浮かんだ。

 

「……あの、少し良いですか?」

 

「何でしょうか?」

 

「……ウマ娘たちはこんな走りにくそうな服で、ちゃんと走れるんでしょうか……」

 

 自分は一応スポーツに精通している。だからこそ浮かび上がってきた疑問を……店員の女性に問いかけてみる。

 

 スポーツなどでは動きやすい素材・デザインのユニフォームを着るが、このウマ娘の勝負服はそういう走りに向いているような服じゃない。むしろ逆、ズボンではなくスカート……それにフリルも付いている。

 

 普通に見たら、これはとても走りずらい服だ……だがショーウィンドウに飾られている服に速さや空気抵抗を追求したような服はなかった。

 

 つまりこれくらいが勝負服としては普通なんだろう。

 

「……あなた、トレセン学園のトレーナー学科の生徒よね?」

 

「は……はい」

 

「教えて上げる……勝負服がどんなものかね」

 

 そう言うと女性はカウンターから出てきて、ショーウィンドウの方へと向かう。

 

 そして話し出す……勝負服のことを……。

 

「GⅠと言う晴れ舞台っていうのもあるけど……勝負服にはね、不思議な力が込められているのよ」

 

「不思議な……力?」

 

「あなたはウマ娘がどんなものか知っているかしら?」

 

「えっ? ……ときに数奇で、ときに輝かしい歴史を持つ別世界の名前と共に生まれ、その魂を受け継いで走る娘たちのこと……です」

 

 自分で言っときながら不思議に思った。

 

 別世界の名前と共に……っと言われているが、別世界なんてあるのか?

 

 その言葉が本当だったら一部の人はこの世界以外の世界を認識しているってことだが……あんまり深く考えてはいけないのかな……。

 

「そう、彼女たちは別世界の名前を受け継いで走っている……でもね、その別世界ではトレーナーとはまた違うパートナーが居たとされているの」

 

「パートナー?」

 

 ウマ娘は当たり前のことだが、1人で走っている訳ではない。チームのみんなで切磋琢磨し、そしてレース前にはトレーナーがその娘の調整を行う。

 

 だがトレーナー以外のパートナーとなると、どんな存在なんだろうか……全然想像できない。

 

「その別世界ではね、そのパートナーと一緒にレースに出て、二人三脚で勝利を目指すのが当たり前なの」

 

「……」

 

「勝負服にはね、そのパートナーの魂の残滓が込められていると言われているの……そして彼女たちの心の奥に眠っている別世界の自身の魂も共鳴し合い、いつも以上の力が発揮できる……それが勝負服よ」

 

 そう言いながら、女性はマネキンに着せている勝負服を撫でた。

 

 別世界のパートナーの魂の残滓……それがウマ娘たちにとって大きな力となる。

 

 勝負服というのがどれだけウマ娘にとって大切なものか分かり……そしてその受け取りを行うというのはとても重要なことだという事に今俺は気付いた。

 

 もしかして先生、これを分からせるために俺を受け取りに行かせたのか?

 

「良いことを教えて上げるけど、学生の見習いトレーナーがここに来ることなんて滅多にないのよ」

 

「そうなんですか?」

 

「勝負服の受け取りはトレーナーやそれを着る娘にとっても大切なこと……それを任されるなんて、あなたがお世話になっているチームのトレーナーさんはよほどあなたの事を信頼し、そして経験を積ませているわね」

 

「……」

 

「その勝負服、ちゃんと届けなさい」

 

「はい……ありがとうございます!」

 

「またのご来店お待ちしています」

 

   ・ ・ ・

 

 俺はスペの勝負服を持ってお店を後にし、トレセン学園へと戻った。

 

 俺は勝負服をトレーナーに渡し、いつもみたいに練習に混ざり、そして解散し……そして次の日、皐月賞がいよいよ明日に迫っていた。

 

「さあ明日はついに皐月賞だ」

 

「はい!」

 

「GⅠレースは最高峰のレース。だから普段とは違って、勝負服で走る事になる……特注だぞ、さぁ着てみろ?」

 

「わぁ……! わ、私のために? ありがとうございます!」

 

 練習が終わった後、先生はみんなを部室に集めスペに勝負服を渡した。

 

 それを見てウオッカとスカーレットは「いいな〜……」と羨ましそうな目を向けるのだった。

 

 さらにその場でスペに着替えてもらった。あっ、着替えの時はもちろん部室から出ましたよ? 先生はゴールドシップに「お前も出てけよ」と言われるまで全然出て行こうとしなかったが……。

 

「お〜いいね〜!」

 

「「いいな〜……」」

 

「似合ってるじゃねぇか!」

 

「マ子にも衣装だな」

 

 各々がスペの勝負服姿を見て感想を言う。

 

 俺も何か言おうとしたが、その前に気になった言葉が出てきたので、俺は先生に聞いてみる。

 

「あの、先生……『マ子にも衣装』ってどう言う意味ですか?」

 

「あっ、私もちょっと気になってました」

 

 どうやらスペもその言葉の意味について知りたかったらしい。

 

「知らないのか? ウマ娘の子供のように可愛らしいものに衣装を着せれば完璧だという意味だ。近いものなら「鬼に金棒」みたいなものだな」

 

「……確かに、その通りですね」

 

 マ子にも衣装の意味が分かったので、俺は体をスペの方に向け、素直な感想を言う。

 

「似合っているよ、スペ」

 

「あ、ありがとうございます! すごく嬉しいです! ……っ?」

 

 スペは感謝の気持ちを言った後、なぜだか手を後ろ回している。

 

 それになんか……ブチッという音が聞こえたような……まっ、気のせいか。

 

 そしていよいよスペの夢の最短ルート、三冠ウマ娘になるためのクラシック初戦が……幕を開ける!

 

 

 




・お店名はキングさんの母の名前+α、予約番号はスペの生年月日です。

・タウラス杯、オープンで出てAグループに進出できました。

・オークス楽しみですねぇ……。

・次回は皐月賞のお話です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。